Voice
「よーし!今日もやってくよー!」
ヒカリの明るい声が響く。
視聴者数――55。
《きた》
《コハクいる?》
《歌とかやらんの?》
「え、いきなり歌?」
ヒカリがコメントを見て笑う。
「そんな振られ方ある?」
「……ヒカリ、歌うの?」
ユイが少しだけ意外そうに聞く。
「んー、たまにね」
軽く答える。
「でもちゃんと配信でやるのは、初かも」
《聞きたい》
《やって》
《コハクも聞いてる》
ヒカリがちらっとコハクを見る。
コハクは、じっとヒカリを見ている。
その視線に、少しだけ笑って。
「……じゃあ、ちょっとだけね」
軽く息を吸う。
一瞬だけ、空気が変わる。
そして。
歌い始めた。
コメントが、止まる。
音は、電脳世界のもののはずなのに。
どこか、生っぽい。
感情が、そのまま乗っているみたいに。
《え》
《うま》
《普通にうまい》
《これレベル高くね?》
数秒遅れて、コメントが一気に流れる。
視聴者数――62。
ヒカリは、気にせず歌い続ける。
ただ、楽しそうに。
コハクは、その場に座ったまま。
静かに、聞いていた。
ほんの少しだけ。
口を動かす。
まるで。
一緒に歌おうとしているみたいに。
「――はい、終わり!」
ヒカリがぱっと笑う。
コメントが爆発する。
《うまい》
《ギャップやば》
《これもっとやったほうがいい》
《狐よりこっちじゃね?》
「ちょっと!それはどういう意味!」
ヒカリがツッコむ。
でも、楽しそうだ。
「ユイ、どうだった?」
「……すごい、よかった」
素直に、そう言う。
「でしょー?」
得意げに笑うヒカリ。
視聴者数――70。
「ねえこれさ、切り抜きいけるんじゃない?」
「……いけると思う」
ユイがうなずく。
配信の空気が、変わっていた。
“狐がいる配信”じゃなくて。
“ちゃんと見られる配信”に。
「じゃあさ、今度ちゃんと歌枠やろっか!」
ヒカリが言う。
コメントがまた流れる。
《やって》
《絶対見る》
《予約》
コハクは、ヒカリを見る。
その視線は、変わらない。
ただ。
ほんの少しだけ。
歌っていたときのヒカリと、同じタイミングで。
目を細めていた。




