Name
「よーし!今日は大事なことやるよー!」
ヒカリが、いつもより少しだけ張り切った声を出す。
視聴者数――41。
《なにやるの》
《企画?》
《きた》
「この子の名前、決めまーす!」
狐をひょいっと持ち上げる。
《きた》
《待ってた》
《名前まだだったのか》
「そうなの!ずっと“この子”って呼んでたからさ!」
ヒカリが笑う。
狐はおとなしく抱えられたまま、じっと画面の向こうを見ている。
「ということで!コメントで案ください!」
《シロ》
《ユキ》
《キツネだからコン》
《ルナ》
《ミミ》
《バグでいいだろ》
「バグはやめて!」
ヒカリが即ツッコむ。
コメントが一気に流れる。
《ノア》
《ヒナ》
《ココ》
《ゼロ》
《エラー》
「エラーもやめて!」
「……なんでそういうのばっかり」
ユイが小さく呟く。
視聴者数――47。
少しずつ、増えていく。
「ねえユイ、どれがいいと思う?」
「え、私?」
急に振られて、ユイは少しだけ戸惑う。
狐を見る。
小さな体。
でも、その瞳はやけに落ち着いていて。
「……優しい名前がいい、かも」
ぽつりと、言う。
「優しい名前ね」
ヒカリが考え込む。
そのとき。
狐が、ゆっくりとヒカリの方を見る。
そして。
ヒカリが口を開くのと、ほぼ同時に――
「じゃあ、“コハク”とかどう?」
ぴたり、と空気が止まる。
コメントが一瞬遅れて流れる。
《いいじゃん》
《かわいい》
《似合う》
《コハクいいな》
「お、いいじゃん!」
ヒカリが笑う。
「ユイ、どう?」
「……うん、いいと思う」
ユイは、うなずく。
でも。
ほんの一瞬だけ、引っかかった。
今の。
“同時”だった。
ヒカリが言う前に、決まっていたみたいに。
「よし!じゃあ決定!」
ヒカリが狐を持ち上げる。
「今日からこの子は――コハクです!」
狐――コハクは、静かに目を細めた。
まるで、その名前を知っていたみたいに。
《コハクきた》
《かわいい》
《定着したな》
《推せる》
視聴者数――52。
「コハク、よろしくね!」
ヒカリが笑う。
コハクは、その表情をじっと見て――
ほんの少しだけ、同じように目を細めた。
「……」
ユイは、何も言わない。
ただ、コハクを見つめる。
“偶然”にしては、できすぎている。
でも。
それを言葉にすることは、できなかった。
配信は、まだ続いていく。




