Noise
「よーし!今日もやってくよー!」
ヒカリの声が、いつもより少しだけ弾んでいた。
視聴者数――32。
昨日より、明らかに増えている。
《きた》
《例の狐の人》
《今日もいる?》
「いるよー!ほら、この子!」
ヒカリが狐を抱き上げる。
狐はおとなしくその腕の中に収まっている。
《かわいい》
《思ったより普通だな》
《ほんとにあれ動くの?》
「えー?普通ってなにそれー」
ヒカリが笑う。
「ちゃんとすごいんだからね?」
そう言って、手を軽く振る。
狐が――ほんの少し遅れて、同じように前足を上げる。
《おお》
《今の》
《ラグあるの草》
「ラグって言うなー!」
ヒカリがツッコむと、コメントが少しだけ増える。
視聴者数――35。
ほんの少しの変化。
でも、それだけで空気が違う。
「ねえユイ、なんか人増えてるとさ」
「……うん」
「ちょっとだけ緊張するね」
「……今さら?」
ユイが小さく笑う。
ヒカリも笑い返す。
《前から見てるけど伸びたな》
《古参アピしとくわ》
《昨日からだけど》
「古参って言ってもらえるの早くない?」
ヒカリが楽しそうに言う。
でも。
《狐いないと普通だよな》
《結局ペット頼りか》
《まあそれも戦略か》
一瞬だけ、空気が変わる。
「……」
ユイが、わずかに視線を下げる。
ヒカリは――
「そりゃそうでしょ!」
あっけらかんと笑った。
「この子も含めて、うちの配信だもん」
その言葉に、コメントがまた流れる。
《それはそう》
《いいじゃん》
《かわいいは正義》
空気が、戻る。
ユイは、少しだけ安心したように息をついた。
「じゃあさ、今日は何する?」
「……雑談?」
「いいね!昨日の続きみたいな感じでいこ!」
ヒカリが軽く手を叩く。
狐が、その動きを見て――
同じように、少し遅れて前足を合わせた。
《また真似した》
《かわいい》
《賢いな》
ただの真似。
そう見える。
でも。
「……」
ユイは、ほんの一瞬だけ違和感を覚えた。
“遅れている”はずなのに。
どこか、最初から分かっているみたいな動き。
「ユイ?」
「え、あ……なんでもない」
首を振って、ごまかす。
狐は、変わらずヒカリを見ている。
その視線は、ぶれない。
配信は、続く。
視聴者数――38。
少しずつ、確実に。
“広がって”いた。




