Choice
「よーし、今日もやってくよー!」
ヒカリの声が、いつも通り軽やかに響く。
視聴者数――134。
《きた》
《歌待機》
《今日も歌?》
「うわ、いきなり歌待機されてる」
ヒカリが笑いながらコメントを読む。
「そんな毎回歌うわけじゃないからね?」
《でも聞きたい》
《昨日の良すぎた》
《歌枠でいいよ》
コメントの流れが、前とは少し違う。
“ヒカリの歌”を求める声が、明確に増えている。
「ねえユイ」
「……なに?」
「これさ、もう歌メインにした方がいいのかな」
軽く言ったつもりだった。
でも。
ユイは、少しだけ言葉を選ぶ。
「……どうだろう」
「歌は、強いと思うけど」
少しだけ、間。
「それだけになるのは、もったいない気もする」
ヒカリは、少しだけ目を細めた。
「だよね」
あっさりと、笑う。
「やっぱそう思う?」
「……うん」
《でも伸びるなら歌じゃね?》
《戦略としてはあり》
《他は弱いし》
一部のコメントが、少しだけ強くなる。
空気が、ほんの少しだけ変わる。
「……」
ユイが視線を落とす。
ヒカリは――
「じゃあさ!」
ぱっと声を上げた。
「全部やればよくない?」
《?》
《全部?》
「歌もやるし、雑談もやるし」
「この子もいるし」
コハクの頭を軽く撫でる。
「あと、ユイのやつもやろ」
「……私の?」
「FPS!」
ユイが、少しだけ目を見開く。
「ユイ、普通に上手いじゃん」
「……まあ、ちょっとだけ」
「ちょっとじゃないでしょ」
ヒカリが笑う。
「隠してるの知ってるよ?」
その言葉に、ユイの心臓が少し跳ねた。
「……別に隠してない」
小さく、答える。
《FPS!?》
《それは見たい》
《ギャップ枠きた》
コメントの空気が、一気に変わる。
「ほら、需要あるじゃん」
ヒカリが楽しそうに言う。
「だからさ」
少しだけ、真面目な声になる。
「うちは、“二人で強い配信”にしたい」
その言葉は、まっすぐだった。
ユイは、何も言わない。
ただ。
少しだけ、胸の奥が温かくなる。
《いいね》
《ユニット感ある》
《それでこそ》
視聴者数――152。
「よし、じゃあ今日は軽くやって」
ヒカリが笑う。
「次あたり、ユイの回やろっか!」
「……うん」
小さく、うなずく。
コハクは、そのやり取りをじっと見ていた。
ヒカリが笑う。
ユイが少しだけ照れる。
その流れに合わせるように。
コハクが、ほんの少しだけ同じタイミングで視線を動かした。
「……」
ユイは、それを見逃さない。
でも。
何も言わない。
配信は、続いていく。
次の流れが、決まったまま。




