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Focus

「今日は――ユイの回でーす!」


 


ヒカリが元気よく宣言する。


 


視聴者数――149。


 


《きた》

《今日は何やるの》

《歌じゃないの?》


 


「今日はね、歌じゃない!」


 


ヒカリがニヤッと笑う。


 


「ユイのFPS回!」


 


《FPS?》

《急にジャンル変わったな》

《歌待機してたんだけど》


 


コメントの流れが、少しだけ鈍る。


 


ヒカリはそれに気づいている。


 


でも、あえて気にしない。


 


「ユイ、いける?」


 


「……うん」


 


ユイが小さくうなずく。


 


少しだけ緊張しているようにも見える。


 


 


ゲームが起動する。


 


視点が切り替わる。


 


 


銃声。


 


足音。


 


 


配信の空気が、一気に変わる。


 


 


《あ、普通にゲームか》

《狐どこいった》

《歌じゃないのか…》


 


 


視聴者数――136。


 


 


少しだけ、減る。


 


 


ヒカリはちらっと数字を見る。


 


でも、何も言わない。


 


 


「ユイ、見せちゃっていいよ」


 


 


軽く背中を押す。


 


 


ユイは、コントローラーを握り直した。


 


 


「……いく」


 


 


その瞬間。


 


 


動きが変わる。


 


 


無駄のない視線移動。


 


 


音を拾う。


 


 


角を曲がる。


 


 


敵。


 


 


一瞬。


 


 


撃つ。


 


 


倒れる。


 


 


 


《え》

《うま》

《今のなに》


 


 


コメントがざわつく。


 


 


もう一人。


 


 


さらに一人。


 


 


ほとんど迷いがない。


 


 


 


「……」


 


 


ヒカリは、少しだけ笑った。


 


 


(やっぱり、すごい)


 


 


 


《普通に強くね?》

《えぐ》

《これガチ勢じゃん》


 


 


視聴者数――128。


 


 


減っている。


 


 


でも。


 


 


コメントの質が、変わっていた。


 


 


 


「ユイ、やば」


 


 


ヒカリが素直に言う。


 


 


「今のめっちゃかっこいい」


 


 


「……そう?」


 


 


ユイは、少しだけ照れたように視線を逸らす。


 


 


 


ゲームは続く。


 


 


勝利。


 


 


画面に表示される結果。


 


 


 


《ナイス》

《強いな》

《普通に見れる》


 


 


 


視聴者数――121。


 


 


さらに、少し減る。


 


 


 


でも。


 


 


誰も離れないコメントが残る。


 


 


 


ヒカリは、そこで初めて口を開いた。


 


 


「ねえ」


 


 


少しだけ、真面目な声。


 


 


「減ったね」


 


 


ユイが、一瞬だけ固まる。


 


 


「……うん」


 


 


 


「でもさ」


 


 


ヒカリが、笑う。


 


 


「残ってる人、ちゃんと見てる人だよね」


 


 


 


《それはそう》

《面白い》

《普通にうまいし》


 


 


 


ユイは、そのコメントを見る。


 


 


 


胸の奥が、少しだけ温かくなる。


 


 


 


「……ヒカリ」


 


 


「なに?」


 


 


「ありがとう」


 


 


 


小さく、言う。


 


 


 


ヒカリは一瞬きょとんとして――


 


 


「え、なに急に」


 


 


笑った。


 


 


 


コハクは、そのやり取りを見ている。


 


 


静かに。


 


 


 


ユイが敵を倒す。


 


 


ヒカリが笑う。


 


 


 


その流れに合わせるように。


 


 


コハクの視線が、ぴたりと動いた。


 


 


 


 


配信は、まだ続いていく。


 


 


視聴者数――118。


 


 


 


数字は、減った。


 


 


でも。


 


 


 


何かは、確かに残っていた。


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