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通話は、切れていない。
静かなまま。
お互い、何も言わない時間が続く。
「……唯」
ヒカリが、呼ぶ。
少しだけ、間。
「覚えてる?」
同じ言葉。
さっきより、少しだけやわらかい。
唯は、答えない。
でも、切らない。
ヒカリが、続ける。
「最初のとき」
「同じマッチだったやつ」
少しだけ、笑う。
「私、めっちゃ下手でさ」
「ずっとやられてた」
小さく息を吐く。
「でも、最後までいた」
そのときのことを。
思い出すみたいに。
「終わったあと」
「声かけてくれたでしょ」
唯の呼吸が、少しだけ変わる。
「……一人なの?って」
ヒカリが、少しだけ笑う。
「今考えるとさ」
「結構すごいよね」
「知らないやつに」
少しだけ、間。
「でも、あれでさ」
「私、やめなかったんだよね」
静かに言う。
押しつけない。
ただ、事実として。
「別にさ」
「なんかしてくれたわけじゃないじゃん」
「ずっと励ましてくれたとかじゃないし」
「めっちゃ話してくれたわけでもないし」
少しだけ、笑う。
「でも」
言葉を選ぶ。
「ずっと、いたじゃん」
小さく。
「同じ時間に」
「同じとこに」
唯は、何も言わない。
でも。
聞いている。
「それだけでさ」
「続けられたんだよ」
ヒカリの声は、変わらない。
いつも通り。
でも。
少しだけ、深い。
「だから」
一瞬、止まる。
それから。
「今も同じ」
はっきり言う。
「インキャとか」
「どうでもいい」
「周りがなんて言っても」
少しだけ、声が強くなる。
「私の隣にいるのは」
間。
「ユイだから」
静かに言い切る。
通話の向こう。
何も聞こえない。
でも。
切れていない。
ヒカリは、待つ。
急かさない。
少しだけ。
時間が流れる。
それから。
「……ヒカリ」
小さな声。
唯の声。
少しだけ、揺れている。
「……ごめん」
ヒカリが、すぐに言う。
「謝らなくていい」
「なんも悪くない」
短く。
はっきり。
唯は、何も言わない。
でも。
さっきより、呼吸が落ち着いている。
「……戻る」
小さく言う。
「いい?」
ヒカリが、少しだけ笑う。
「いいよ」
「待ってる」
その一言で。
距離が、戻る。
完全じゃなくても。
ちゃんと、繋がる。
通話が、静かに終わる。
次に繋がるみたいに。




