Hold
静かだった。
いつもの時間。
でも。
配信は、始まらない。
ヒカリは、座っている。
少しだけ、俯いて。
「……ごめん」
小さく言う。
「今日、やめとこ」
短い言葉。
軽く言ったつもり。
でも。
いつもより、少しだけ弱い。
ユイが、前に立つ。
「……なんで」
「さっきの」
ヒカリが、少しだけ笑う。
「ちょっと変だったし」
「転ぶし」
「ダンスもできないし」
軽く言う。
軽く。
でも。
少しだけ、自分を下げるみたいに。
「……別に」
ユイが、言う。
「問題ない」
「あるよ」
ヒカリが、すぐに返す。
「見てたでしょ」
「全然できてなかった」
「……」
ユイは、少しだけ黙る。
それから。
「ヒカリ」
名前を呼ぶ。
ヒカリが、顔を上げる。
「逃げてる」
一言。
ヒカリが、少しだけ止まる。
「……え」
「さっきのは」
「ただ、調子悪いだけ」
「でも」
「やめる理由にはならない」
静かに言う。
強くはない。
でも。
逃がさない言い方。
「……だって」
ヒカリが、少しだけ視線を落とす。
「見せられるレベルじゃないし」
「……関係ない」
「え」
「最初から、できてたわけじゃない」
「……」
「今も、途中」
「……うん」
「それでいい」
ユイの言葉は、短い。
でも。
ちゃんと、支えている。
「……でも」
ヒカリが、小さく言う。
「みんな、見てるし」
「……だから」
「ちゃんとやらなきゃって」
少しだけ。
本音が出る。
ユイが、一歩近づく。
「一人でやる必要ない」
一言。
ヒカリが、少しだけ目を開く。
「……一人じゃない」
ユイが、続ける。
「一緒にやる」
「できないなら」
「できるまで」
まっすぐ言う。
ヒカリは、少しだけ黙る。
その言葉を、受け取る。
「……練習」
「今?」
「今」
ユイが、短く答える。
ヒカリが、少しだけ笑う。
「スパルタだね」
「普通」
「普通じゃないよ」
少しだけ、空気が戻る。
ヒカリが、立ち上がる。
少しだけ、ゆっくり。
でも。
ちゃんと立つ。
「……やろっか」
小さく言う。
ユイが、頷く。
「……うん」
コハクが、二人の間に来る。
静かに。
いつも通り。
音はない。
配信もない。
でも。
二人は、動く。
ゆっくり。
合わせる。
少しずつ。
ズレながら。
それでも。
止まらない。
その時間は。
誰にも見えない。
でも。
確かに、積み重なっていた。




