Step
配信開始。
「こんばんは」
《こんばんは》
《きた》
《ダンス回!?》
コメントが、少しだけ早い。
昨日の流れを、引きずっている。
「今日はね」
ヒカリが、少しだけ笑う。
「ダンスやります」
《きた》
《まじで》
《楽しみ》
横で。
ユイが、少しだけ前に出る。
「……やる」
短い言葉。
ヒカリが、ちらっと見る。
「え、ほんとに?」
「……うん」
少しだけ間。
ヒカリが、軽く笑う。
「私、見てるだけでいい?」
《え》
《ヒカリもやって》
《一緒がいい》
コメントが流れる。
ユイが、短く言う。
「……一緒」
ヒカリが、少しだけ止まる。
それから。
笑う。
「……しょうがないなあ」
軽く答える。
音が流れる。
リズム。
テンポ。
ユイが、動く。
自然に。
無駄がない。
少しだけぎこちない部分もある。
でも。
しっかり形になっている。
《え、うま》
《思ったよりできてる》
《すごくない?》
コメントが流れる。
ヒカリが、少しだけ目を開く。
「え、うまくない?」
「……普通」
「普通じゃないでしょ」
少し笑う。
ヒカリも、動く。
合わせる。
でも。
少しだけ、ズレる。
「ちょっと待って」
思わず声が出る。
「難しくない?」
「……難しくはない」
「えー」
ヒカリが、少しだけ笑う。
もう一度。
やる。
ユイは、合わせる。
ヒカリは、少し遅れる。
《ヒカリかわいい》
《ぎこちないw》
《でもいい》
コメントが、優しい。
ヒカリが、少しだけ息を吐く。
「思ったよりできない……」
「……練習すれば」
ユイが、短く言う。
「そっか」
少しだけ笑う。
もう一回。
動く。
一歩。
二歩。
その瞬間。
ふっと。
ヒカリの体が、少しだけ揺れる。
「……あ」
そのまま。
近くの棚に、軽く倒れ込む。
一瞬、止まる。
《え》
《大丈夫?》
《今のなに》
コメントが流れる。
ヒカリは。
一拍遅れて、顔を上げる。
「……あはは」
少しだけ笑う。
「なにもないとこで転びかけた」
軽く言う。
《草》
《なにそれw》
《ドジすぎる》
空気が、すぐに戻る。
笑いに変わる。
ヒカリも、笑う。
「ちょっと休憩」
軽く言って。
そのまま、座る。
ほんの少しだけ。
息を整える。
誰にも気づかれないくらいに。
ユイが、少しだけ見る。
何も言わない。
でも。
一瞬だけ、視線を残す。
コハクが、近くに寄る。
静かに。
ヒカリのそばに。
ヒカリは、すぐに立ち上がる。
「もう一回いくよ」
いつも通りの声。
何もなかったみたいに。
配信は、続く。
視聴者数。
**620 → 710 → 820**
伸びている。
フォロワーも、増えている。
《この回好き》
《ダンスいい》
《またやってほしい》
コメントが流れる。
ヒカリが、少しだけ笑う。
「……楽しいね」
「……うん」
ユイも、短く答える。
二人の距離は、近いまま。
でも。
ヒカリの中に、ほんの少しだけ残る。
さっきの感覚。
体の違和感。
何も言わないまま。
配信は、終わっていった。




