Silence
音が、少ない。
教室。
ざわざわしている。
でも。
自分の周りだけ、少し遠い。
唯は、席に座っている。
前を見る。
黒板。
文字。
声。
全部、ちゃんと届いている。
理解もできる。
でも。
そこに、自分はいない。
「……」
隣の席の会話が聞こえる。
「昨日のやつ見た?」
「見た見た」
「やばくない?」
笑っている。
楽しそうだと思う。
でも。
入れない。
入ろうとも、思わない。
思えない。
チャイムが鳴る。
休み時間。
周りが、動く。
立つ。
集まる。
話す。
笑う。
唯は、そのまま座っている。
何もしていないわけじゃない。
ただ。
動く理由が、ない。
スマホを見る。
通知は、ない。
当たり前だと思う。
でも。
少しだけ、画面を見続ける。
ふと。
思い出す。
昨日の配信。
ヒカリの声。
コハクの動き。
コメントの流れ。
あの空間。
自然に、息ができた。
誰かと、話せた。
無理をしなくても、そこにいられた。
「……」
小さく、息を吐く。
窓の外を見る。
空。
変わらない。
少しだけ、遠い。
唯は、目を閉じる。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
思う。
早く。
あっちに行きたい。
チャイムが鳴る。
また、授業が始まる。
声が、流れる。
時間が、進む。
でも。
唯の中では。
別の時間が、待っている。
放課後。
家に帰る。
扉を閉める。
静かになる。
それから。
すぐに。
デバイスに触れる。
一瞬の暗転。
次の瞬間。
色が戻る。
音が戻る。
「……」
言葉は出ない。
でも。
呼吸が、少し楽になる。
ヒカリの声が聞こえる。
「おかえり」
短い一言。
唯は。
少しだけ、遅れて。
「……ただいま」
そう、返した。




