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配信が終わったあとも。
しばらく、誰も動かなかった。
レイとのコラボの空気が。
まだ、少しだけ残っている。
ヒカリが、視界の端を見る。
通知。
フォロー。
クリップ。
知らない名前。
まだ、増えている。
「……増えてる」
小さく言うと。
ユイが、隣で頷いた。
「増えてるね」
「ほんとに?」
「ほんとに」
ヒカリが、少し笑う。
嬉しい。
ちゃんと、嬉しい。
でも。
少しだけ、実感が遅い。
《登録した》
《さっきのコラボから来た》
《雰囲気好きだった》
《また見たい》
コメントの流れも、少しいつもと違う。
ヒカリは、ひとつひとつを目で追いながら。
ふっと息を吐いた。
「……すごいなあ」
「うん」
ユイの返事は短い。
でも。
今日は、その短さがいつもより冷たくない。
コハクが、二人の間に座る。
静かに。
何も言わず。
でも、最初からそこにいるみたいに自然に。
「ね」
ヒカリが、数字を見たまま言う。
「一万って、すごいね」
少しの間。
ユイが、画面を見たまま答える。
「すごい」
「だよね」
「今のままだと、遠い」
その言い方は、いつも通りだった。
現実を、そのまま置くみたいな声。
「……うん」
ヒカリも、否定しない。
コラボで増えた。
確かに増えた。
でも。
この一回で届く数字じゃないことも、分かる。
「同じことしてても、足りないかも」
ヒカリが、ぽつりと言う。
ユイが、少しだけ視線を向ける。
「新しいこと?」
「うん」
「なに」
「まだ分かんないけど」
ヒカリは、少しだけ笑う。
「でも、増やしたい」
「見てもらえるもの」
「私たちの、いいところ」
ユイは、少し黙る。
考えている。
たぶん、同じことを。
「歌」
短く、ユイが言う。
「え?」
「ヒカリの」
「うん」
「あと、FPS」
「うん」
「そこは、外さない方がいい」
ヒカリが、少しだけ笑う。
「そこは、だよね」
ヒカリが、少しだけ考える。
歌。
FPS。
コハク。
今の三つ。
たぶん、それが土台になる。
「ショート、増やす?」
ヒカリが言う。
「増やせるなら」
「毎日はきついかな」
「きつい」
「だよねえ……」
少し考えて。
また、言う。
「じゃあ、曜日決めるとか」
ユイが、少しだけ反応する。
「曜日」
「うん。来る日、分かりやすい方がいいかなって」
ユイが、少しだけ考える。
「待ちやすいかも」
「でしょ?」
ヒカリが、少しだけ前に出る。
「あとさ」
「ん」
「最初に、分かりやすくする」
「なにを」
「今日は歌メイン、とか」
「FPSメイン、とか」
「……ああ」
ユイが、小さく頷く。
「最初に分かる方がいい」
「だよね」
ヒカリが、少し笑う。
「混ざってるのも好きだけど」
「初めての人は、入りにくいかも」
「うん」
短いやり取り。
でも。
少しずつ、形になっていく。
コハクが、二人の間で耳を動かす。
話の流れを、なんとなく理解しているみたいに。
「じゃあ」
ヒカリが言う。
「次の配信、ちゃんと決めよ」
ユイが、視線を上げる。
「なに」
「歌、最初にやる」
「うん」
「そのあと、ユイのやつ」
「FPS」
「そう、それ」
「で、間にコハク」
名前を呼ばれて。
コハクが、少しだけ尻尾を揺らす。
「……自然に入る」
「だよね」
ヒカリが笑う。
「あと」
少しだけ間を置いて。
続ける。
「曜日、決める」
「曜日」
「うん。来てもらえるように」
ユイは、少しだけ考えて。
「固定するなら、いいかも」
「でしょ?」
ヒカリが、小さく頷く。
視界の端で、またフォロワーがひとつ増える。
ゆっくり。
でも、止まらない。
「……いけるかな」
小さく呟く。
ユイは、すぐには答えない。
少しだけ間を置いてから。
「やるしかない」
短く言う。
それで、十分だった。
ヒカリが、少しだけ笑う。
「うん」
その一言に。
迷いはなかった。
コハクが、二人を見る。
静かに。
変わらず。
でも。
ほんの少しだけ。
嬉しそうに見えた。




