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Name

通知は、まだ残っている。


 


視界の端。


 


小さく、でも確かにそこにある。


 


 


「……さっきの」


 


ヒカリが、少しだけ声を落とす。


 


 


「うん」


 


 


ユイは短く答える。


 


 


 


さっきのフォローとは違う表示。


 


 


開いていないままの“何か”。


 


 


 


コメントはまだ流れている。


 


 


《見ないの?》

《それDMじゃね》

《来てるって》

《はよ》


 


 


 


「そんな急かさなくても……」


 


ヒカリが苦笑する。


 


 


でも。


 


 


視線は、そこから外れていない。


 


 


 


少しだけ、間。


 


 


 


「……開くね」


 


 


 


ヒカリの指が、空中で止まる。


 


 


ほんの一瞬だけ。


 


 


 


それから、触れる。


 


 


 


表示が、静かに開いた。


 


 


 


【メッセージ】


 


 


短い文章。


 


 


余計な装飾はない。


 


 


 


『さっきの見た。面白いね』


 


 


 


それだけ。


 


 


 


「……え」


 


 


ヒカリが、思わず声を漏らす。


 


 


 


想像していたよりも、ずっと短い。


 


 


 


でも。


 


 


 


軽くはなかった。


 


 


 


 


ユイも、画面を見る。


 


 


 


「……シンプルだね」


 


 


 


「逆にこわいんだけど」


 


 


ヒカリが笑う。


 


 


でも、その声は少しだけ緊張している。


 


 


 


《きた》

《本人やん》

《強い》

《どうする?》


 


 


 


「どうするって……」


 


 


ヒカリが、小さく呟く。


 


 


 


返信。


 


 


 


それだけのことなのに。


 


 


 


少しだけ、距離を感じる。


 


 


 


「ユイなら、どうする?」


 


 


 


ヒカリが横を見る。


 


 


 


ユイは、少しだけ考えて。


 


 


 


「……普通でいいと思う」


 


 


 


「普通?」


 


 


 


「うん」


 


 


 


一拍。


 


 


 


「たぶん、向こうも普通に来てる」


 


 


 


 


ヒカリは、その言葉を聞いて。


 


 


 


もう一度、メッセージを見る。


 


 


 


『さっきの見た。面白いね』


 


 


 


確かに。


 


 


 


変に構えていない。


 


 


 


だから。


 


 


 


 


「……じゃあ」


 


 


 


ヒカリが、少しだけ笑う。


 


 


 


指が動く。


 


 


 


文字が、ゆっくりと浮かぶ。


 


 


 


『ありがとう』


 


 


 


 


一度、止まる。


 


 


 


それから。


 


 


 


もう一文。


 


 


 


『見てくれて嬉しい』


 


 


 


 


送信。


 


 


 


 


――一瞬。


 


 


 


間が、空く。


 


 


 


ほんの、わずかな時間。


 


 


 


でも。


 


 


 


それがやけに長く感じる。


 


 


 


 


《送った》

《はや》

《いいじゃん》

《来るか》


 


 


 


「……」


 


 


ヒカリは、何も言わない。


 


 


 


ただ、表示を見ている。


 


 


 


 


――ピロン。


 


 


 


 


すぐだった。


 


 


 


表示が、更新される。


 


 


 


 


『今、時間ある?』


 


 


 


 


「……え」


 


 


 


ヒカリの声が、少しだけ揺れる。


 


 


 


「はや……」


 


 


 


ユイが小さく言う。


 


 


 


 


短い文。


 


 


 


でも。


 


 


 


その意味は、軽くない。


 


 


 


 


コハクが、ヒカリを見る。


 


 


 


その視線は、いつも通りで。


 


 


 


でも。


 


 


 


ほんの少しだけ、近い。


 


 


 


 


「ねえ、ユイ」


 


 


 


ヒカリが、ゆっくりと呼ぶ。


 


 


 


「うん」


 


 


 


「これってさ」


 


 


 


一瞬、言葉を探して。


 


 


 


 


「……行くやつ?」


 


 


 


 


ユイは、少しだけ考える。


 


 


 


 


それから。


 


 


 


 


「……うん」


 


 


 


 


短く、答える。


 


 


 


 


コメントは、もう止まらない。


 


 


 


《行け》

《チャンス》

《始まったな》

《歴史の瞬間》


 


 


 


 


ヒカリは、小さく息を吸う。


 


 


 


 


そして。


 


 


 


 


笑う。


 


 


 


 


「……じゃあ、行こっか」


 


 


 


 


指が、もう一度動く。


 


 


 


 


この世界で。


 


 


 


“名前を知っている相手”に繋がるということ。


 


 


 


それは。


 


 


 


ただの会話じゃない。


 


 


 


 


少しだけ遠かった存在に。


 


 


 


自分たちから、触れにいくことだった。


 


 


 


 


ランキングの上で見たことのある名前。


 


 


 


話題の中で、何度も聞いた声。


 


 


 


 


その距離が、今。


 


 


 


ひとつだけ、縮まる。


 


 


 


 


まだ。


 


 


 


同じ場所に立っているわけじゃない。


 


 


 


 


それでも。


 


 


 


確かに繋がる。


 


 


 


 


――その“Name”へ。


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