「Error」
「よーし!今日も配信はじめるよー!」
元気よく声を出して、私は配信をスタートさせた。
視聴者数は――5。
「お、今日ちょっと多くない?」
「……いつもこんな感じじゃない?」
隣で小さく笑うユイに、私はにっと笑い返す。
ここは電脳世界。
配信で得た“人気”が、そのまま現実の収益に変わる場所。
みんなが上を目指して、数字を競い合ってる。
――でも。
「やっぱ配信って楽しいよね」
「……うん」
「ユイとやるのが一番楽しい」
「……っ、そういうこと急に言わないで」
顔を赤くするユイに、思わず笑ってしまう。
コメントがゆるく流れる。
《こんちゃ》
《今日もきた》
《この空気すき》
「ありがとー!今日もゆるくやってくよー」
視聴者が多くなくてもいい。
今はまだ、それでいいと思ってる。
……でも。
「いつかさ、“女王”みたいになりたいよね」
ぽつりと、つぶやいた。
ランキングの頂点に立つ存在。
ゲームも、歌も、ダンスも、全部できて。
誰よりも輝いてる、あの人。
「……うん」
ユイも、小さくうなずく。
「追いつくんじゃなくてさ――追い越したい」
そう言うと、ユイは少し驚いた顔をしてから、ふっと笑った。
「ヒカリらしいね」
「でしょ?」
その瞬間だった。
画面が――揺れた。
「……あれ?」
ノイズのようなものが走って、景色が歪む。
コメント欄が一瞬止まる。
《え》
《今のなに?》
「ユイ、今の見えた?」
「うん……なんか、おかしい……」
ブツッ、と音がして。
配信画面が途切れた。
「え、ちょっと待って、これ――」
言いかけた瞬間。
視界が、真っ暗になる。
「……っ!?」
次の瞬間、私は――
現実世界に、戻されていた。
「は……?」
息が、うまく吸えない。
体は重くて、思うように動かない。
さっきまでの“自由”が、嘘みたいに消えている。
「……ユイ……?」
手を伸ばそうとしても、指先すら動かない。
――その頃。
電脳世界には、ユイだけが残されていた。
「ヒカリ……?」
返事は、ない。
音も、光も、どこかおかしい。
コメント欄も止まったまま。
静かすぎる世界。
「……なに、これ……」
そのとき。
視界の端に、何かが映った。
そこには――
小さな、白い狐がいた。
ぐったりと横たわり、今にも消えてしまいそうな姿。
「え……」
この世界に、生き物なんて存在しないはずなのに。
「……大丈夫?」
恐る恐る近づき、手を伸ばす。
狐は、かすかに目を開けた。
その瞳が――
まるで、誰かを探すように揺れる。
「……ヒカリ……?」
思わず、その名前を口にしていた。
狐は答えない。
けれど、その小さな体は力なくユイの方へ倒れ込む。
「ちょ、ちょっと……!」
慌てて抱き上げる。
軽い。
あまりにも、軽すぎる。
「……放っておけないよね」
そう呟いて、ユイはその狐を抱きしめた。




