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Silence

教室は、うるさい。


 


笑い声。


 


机を叩く音。


 


誰かの話し声。


 


 


唯は、窓際の席で、ただ座っていた。


 


 


スマホを見ているふりをしている。


 


 


実際には、何も見ていない。


 


 


画面は、さっきから変わっていない。


 


 


 


「ねえ、昨日のやつ見た?」


 


 


少し離れたところから、声がする。


 


 


「見た見た、あの狐のやつでしょ?」


 


 


「そうそれ、ちょっとバズってたやつ」


 


 


唯の指が、わずかに止まる。


 


 


 


「なんかさ、普通に歌うまくなかった?」


 


 


「でもあれ作ってるでしょ、あの動物」


 


 


「まあ、そういうのもあるよね〜」


 


 


 


笑い声。


 


 


軽い言葉。


 


 


 


唯は、何も言わない。


 


 


 


言えない。


 


 


 


それが、自分だとは。


 


 


 


 


「……」


 


 


スマホを、少しだけ握る。


 


 


 


画面には。


 


 


昨日投稿した動画。


 


 


再生数が、少しずつ増えている。


 


 


 


でも。


 


 


ここでは、何も変わらない。


 


 


 


「唯ー、次体育だよ」


 


 


クラスメイトが声をかける。


 


 


 


「……うん」


 


 


小さく返事をする。


 


 


 


立ち上がる。


 


 


 


足が、少し重い。


 


 


 


 


体育館。


 


 


 


ボールが弾む音。


 


 


笛の音。


 


 


 


「チーム分けねー」


 


 


先生の声。


 


 


 


唯は、少しだけ後ろに下がる。


 


 


 


誰かが指名する。


 


 


 


名前が呼ばれていく。


 


 


 


最後の方。


 


 


 


「……じゃあ、唯で」


 


 


 


仕方なく、という声。


 


 


 


「……よろしく」


 


 


 


誰も、特に反応しない。


 


 


 


 


試合が始まる。


 


 


 


ボールが来る。


 


 


 


一瞬。


 


 


 


反応が遅れる。


 


 


 


「ちょ、ちゃんとやってよ」


 


 


 


小さな声。


 


 


 


責めるほどでもない。


 


 


でも、優しくもない。


 


 


 


「……ごめん」


 


 


 


それだけ言って、視線を落とす。


 


 


 


 


試合が終わる。


 


 


 


特に何もない。


 


 


 


何も残らない。


 


 


 


 


帰り道。


 


 


 


夕方の空。


 


 


 


唯は、スマホを開く。


 


 


 


通知。


 


 


 


《この動画好き》

《ユイうまくね?》

《もっと見たい》


 


 


 


指が、止まる。


 


 


 


 


(……なんで)


 


 


 


小さく、思う。


 


 


 


 


(こっちの方が、ちゃんとしてるのに)


 


 


 


現実の方が。


 


 


 


“本物”のはずなのに。


 


 


 


 


それでも。


 


 


 


画面の向こうの言葉の方が。


 


 


 


少しだけ、あたたかい。


 


 


 


 


ログインする。


 


 


 


電脳世界。


 


 


 


いつもの場所。


 


 


 


「ユイ!」


 


 


 


ヒカリが、すぐに気づいて手を振る。


 


 


 


「今日さ、ショートちょっと伸びてたよ!」


 


 


 


その声を聞いた瞬間。


 


 


 


唯の表情が、少しだけ緩む。


 


 


 


 


「……うん」


 


 


 


その一言で。


 


 


 


世界が、切り替わる。


 


 


 


 


コハクが、こちらを見る。


 


 


 


ヒカリが笑う。


 


 


 


 


ユイは、小さく息を吐いた。


 


 


 


 


(……こっちでいい)


 


 


 


そう思った。


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