丸窓の灯り
十月の終わりの夜、閉店後にカインは一人でいた。
椅子を上げて、床を拭いて、カップを洗った。
最後のランプを消す前に、カインは丸窓の前に立った。
路地の向こうに、秋の夜が広がっていた。
この丸窓を最初につけたのは、開店の準備をしているときだった。
小さな窓にするか、もう少し大きくするか、迷った。
結局、小さな丸窓にした。
小さい方が、外からの光が柔らかく見える気がした。
開店してから、何人がこの窓の光を見て、扉を開けたかはわからない。
アレンは路地を歩いていて、光を見た。ミレイアは偶然見つけた。ゼファーは迷い込んで看板を見た。シ
ルヴィアは仕事帰りに引き寄せられた。ラシードは路地を歩いていた。カエルは光が見えた。ケントはセラに教えてもらった。
最初は誰も、何がここにあるかを知らなかった。
ただ、小さな丸窓の光が見えた。
それだけで、扉を開けた。
カインはしばらく、窓の外を見た。
今夜も、どこかに、一人で路地を歩いている人間がいる。
疲れていても、悩んでいても、一人で夜の王都を歩いている人間が。
その人がこの路地を通りかかったとき、光が見えればいい。
見えたとき、扉を開ける気になればいい。
開けて、中に入って、コーヒーを一杯飲んでいけばいい。
カインは最後のランプを消した。
丸窓の灯りが消えた。
路地が暗くなった。
鍵をかけて、外に出た。
空を見上げると、星が出ていた。
明日、また店を開ける。
豆を挽く。コーヒーを淹れる。
ベルが鳴る。
誰かが来る。
その誰かの話を、聞く。
帰るときの顔を、見る。
それが続く。
路地を歩き始めた。
歩きながら、今日来た人たちの顔を思い出した。
全員、少しずつ、それぞれの途中にいた。
答えが出た人もいれば、まだ出ていない人もいた。
出なくても、ここに来た。
それで十分だった。
住処に着いた。
窓から夜の王都を見た。
どこかに、今夜ここに来た人たちがいる。
そして明日、また誰かが来る。
知らない誰かかもしれない。
見慣れた誰かかもしれない。
どちらでも、扉は開いている。




