本の読者、二人目
十一月の初め、アレンの本を持った客が、また来た。
今度は四十代の男性だった。本屋の紙袋を下げていた。まだ読みかけらしく、しおりが半分ほどのところに挟まっていた。
「お一人様専用、ということは」
「一人の方専用です。お入りください」
男は奥の席に座った。コーヒーを頼んで、本を開いた。
しばらく読んでいた。
カインはカウンターで仕事をしながら、男の様子を見ていた。
一時間ほどして、男が本を閉じた。
しばらくぼんやりとしていた。
それからカインに言った。
「この本に出てくるカフェ、ここですか」
「どうでしょう。本の中の店と同じかどうかはわかりませんが」
「丸窓がある、と書いてあった。見たら、ありました」
「そうですか」
「路地の角にある、とも書いてあった。そうでした」
男はコーヒーを一口飲んだ。
「この本を読んで、来ようと思いました」
「そうですか」
「主人公が、ここで初めて泣いた場面があって。英雄が、誰にも見られない場所で泣いた。それを読んで、自分にも、そういう場所があったらと思った」
カインは黙って聞いた。
「私は会社を経営しています。百人以上が私のもとで働いています。泣けない立場です。でも本を読んで、泣けない人間にも泣ける場所が必要だと、思ったんです」
「そうですね」
「ここは、そういう場所ですか」
「仕切りがあるので、他の方には見えません」
男はそれを聞いて、少し安堵した顔をした。
「コーヒー、もう一杯いいですか」
「もちろんです」
おかわりが来た。男は飲みながら、窓の外を見た。
帰り際、男は言った。
「また来てもいいですか」
「お一人様であれば、いつでも」
「お一人様専用というのは、最初は変わっていると思いましたが、今はわかる気がします」
「そうですか」
「一人でいることと、一人でなくていいことが、同時にある場所ですね」
カインは少し間を置いた。
「良い言い方だと思います」
男は扉を出た。
その夜、アレンが来た。
「また本の読者が来ましたよ」とカインが言った。
アレンはコーヒーを飲みながら、少し複雑な顔をした。
「怖いな、まだ」
「でも、来てくれています」
「そうだな」
「本が、必要な人を連れてきています」
アレンはそれを聞いて、しばらく黙った。
「……それなら、書いて良かった」
「はい」




