ゼファーの第二巻
木曜の朝、ゼファーが来た。
厚い原稿の束を持っていた。
「第二巻、完成しました」
「おめでとうございます」
「来週、出版局に持っていきます。今日は最後の確認をここでします」
しかし今日は、すぐにペンを持たなかった。コーヒーを飲みながら、窓の外を見ていた。
「どうしましたか」
「ファリドが、来年、単独での長期フィールドワークに出たいと言っています。三ヶ月ほど」
「それは良いことですね」
「良いことです。あの子の成長として、それが必要なことは、わかっています。でも、三ヶ月、研究室が静かになります」
「以前は、静かな研究室が好きでしたね」
「以前は、そうでした。今は少し、静かすぎると困るかもしれません」
「ファリド様に、そう伝えましたか」
「伝えていません。あの子の成長を邪魔したくないので」
カインはおかわりを持ってきた。
「邪魔にはならないと思います。先生が自分をいないと少し困ると思っていると知ることは、力になります」
ゼファーは少し間を置いた。
「……帰ったら、話してみます」
「難しければ、ほんの少しだけでも」
「ほんの少し、ですね」
「はい」
ゼファーは原稿を広げた。今日は確認よりも、話しに来た日だったようだった。
「来週、第二巻を持ってきます。棚に置いてください」
「お待ちしています。アレン様の本の隣に」
「あの人と並ぶのか。まあ、悪くない」
ゼファーは少し口元を動かした。
笑った、とはっきり言えた。最初の頃と比べると、ずいぶん変わっていた。




