エルナの報告
エルナが来たのは、縁談の相手と会った翌日だった。
「会いました」
席に着いて、紅茶を頼んだ。
「どうでしたか」
「……思っていたより、ずっと普通の人でした」
「普通、というのは」
「緊張していました。相手も。最初の十分間、二人ともうまく話せなかった」
「それは意外でしたか」
「意外でした。隣国の大公家の次男なので、もっと堂々としているかと思っていた。でも、緊張していた。それで、なんか、少し安心した」
カインは紅茶を持ってきた。
「話せましたか、最後には」
「話せました。孤児院のことを聞いてきた。詳しく。ただ聞くだけじゃなくて、自分の国にも似たような施設を作ろうとしていると言っていた」
「それは共通点ですね」
「そうです。話しながら、この人は本当に興味を持って聞いているんだと、わかりました。気を遣って聞いているのとは違う、本物の興味だった」
エルナは紅茶を飲んだ。
「それで、どう思いましたか」
「答えを出せていません。ただ、嫌ではなかった。それだけ、今日は言えます」
「それは大事なことだと思います」
「またいつか会うことになると思います。でも、今の私には、嫌ではなかった、というだけで十分な気がしています」
エルナはカップを両手で包んだ。
「カイン、わからないまま進むのは、怖いですか、と聞いたら、あなたはなんて答えますか」
カインは少し間を置いた。
「怖いと思います。でも、わからないものは、進まないとわからないままなので」
エルナはそれを聞いて、小さく笑った。
「ここも、入ってみないと、どんな場所かわからなかった」
「はい」
「では、また進んでみます。報告に来ます」
「お待ちしています。何度でも」
エルナは立ち上がった。
秋の光が路地に差していた。
縁談の話は、まだ続いていた。




