ケントの答え
九月のある朝、ケントが来た。
いつもより早い時間だった。開店直後だった。
「今日、騎士団の受付に行きます」
「戻ることにしたのですか」
「試験だけ受けてみようと思って。受かるかどうかわからないし、受かっても戻るかどうかはまだわからない。でも、試験を受けることはできると思った」
カインはコーヒーを淹れながら聞いた。
「何が、そう思わせましたか」
「先週、アレン様の本を読みました。本屋で見かけて」
「そうですか」
「英雄でも、ずっと怖かったことが書いてあった。仲間が傷つくことが怖かった、自分が力不足だと思い続けたことが書いてあった。それを読んで、俺だけじゃないんだと思った」
「そうですね」
「怖いまま、戻ることはできますか」
「できると思います」
「怖くなくなってから戻るべきではないですか」
「怖くなくなることは、ないかもしれません。ただ、怖いまま動けることが、強さだと思います」
ケントはコーヒーを受け取った。
「試験の前に、ここに来ようと思っていました。来て正解だった気がします」
「そうですか」
「ここに来ると、頭の中が静かになる。静かな状態で試験に臨みたかった」
コーヒーを飲んだ。
「美味しい」
「ありがとうございます」
「結果がどうであれ、また来ます。報告しに」
「お待ちしています」
「落ちたら、落ち込みに来ます。受かったら、緊張しに来ます」
「どちらでも、お待ちしています」
ケントは立ち上がった。
今日の服は、いつもより整えられていた。
「行ってきます」
「はい」
扉が閉まった。
カインは窓越しに、路地を歩くケントの後ろ姿を見た。
背筋が伸びていた。
最初に来たときの、肩を落とした後ろ姿とは、全然違っていた。




