ドグマとルーカスの夏
ドグマが来たのは、夏の盛りの夜だった。
珍しく、疲れた顔をしていた。
「どうしましたか」
「ルーカスが怪我をした」
「大きな怪我ですか」
「大きくはない。でも、俺の教え方が足りなかったと思っている」
コーヒーを頼んで、席に着いた。
「どんな怪我でしたか」
「重い荷物を持ち上げるとき、姿勢を間違えた。俺は教えた。でも、教え方が不十分だったと思う」
「ルーカスさんは今どうですか」
「一週間で戻れると言われた。本人は落ち込んでいなかった。俺の方が落ち込んでいる」
カインはコーヒーを持ってきた。
「教える側が落ち込むのは、教える側が責任を感じているからですね」
「そうだ。俺が教えていなければ、あの仕事をしていなかったかもしれない」
「でも、ルーカスさんが怪我のない仕事をしていたとしたら、今のルーカスさんはありましたか」
ドグマは少し考えた。
「……どういう意味か」
「この仕事を選んだのはルーカスさんです。怪我はその中で起きたことです。ドグマ様の責任と、ルーカスさんの選択は、別のことだと思います」
「でも、教え方が不十分だった」
「それは次に活かせますね」
ドグマはコーヒーを飲んだ。
「カイン、あなたは誰かに教えることで、失敗したことはあるか」
「エミリに教えることで、うまくいかなかったことは何度もあります」
「どうした」
「次に活かしました。それだけです」
「簡単に言う」
「簡単ではないですが、それしかできないので」
ドグマはしばらく黙った。
「ルーカスが戻ってきたら、もう一度、姿勢のことを教える。今度はもっと丁寧に」
「それが良いと思います」
「あの子は、怪我をしても俺のことを責めなかった。それが……少し、重かった」
「重い?」
「信頼されていると感じた。それが、責任として重かった」
カインは静かに言った。
「信頼されることの重さを感じられることは、良いことだと思います」
ドグマはコーヒーを飲み干した。
「来週、ルーカスが戻る。報告に来る」
「楽しみにしています」
大きな背中が扉を出た。
カインはカップを洗いながら、ドグマが使った「重かった」という言葉を思った。
信頼されることの重さ。
それを感じることができる人間が、人を育てられる。
ドグマはいつの間にか、そういう人間になっていた。




