王女と新しい縁談
エルナが来たのは、八月の初めだった。
「また縁談が来ました」
席に着くなり言った。
「今度は断れないかもしれない」
カインは紅茶を準備しながら聞いた。
「前回と違う理由がありますか」
「相手が……悪い人ではなさそうなんです。会ったことはないけど、話を聞く限り。父が言うには、私のことをちゃんと調べてから申し込んできたと」
「調べた、というのは」
「孤児院の活動のことを知っていて、それを評価していると。王族の役割だけでなく、個人として動いている人間に興味があると言っているそうです」
カインは紅茶を持ってきた。
「それは、前回の縁談とは性質が違いますね」
「違います。前回は政治的な話でした。今回は……なんか、私という人間を見ようとしている気がして」
エルナは紅茶を飲んだ。
「怖いですか、今回は」
「怖いです。前回は断れた。でも今回は、断る理由が見つかりにくい」
「会ってみるつもりですか」
「来月、一度だけ会うことになりました。ここで考えてから来た」
「どんなことを考えていましたか」
「会ってみて、嫌だったら断れるかどうか。嫌ではなかったとき、どうするか」
カインは静かに聞いた。
「嫌ではなかったとき、どうしたいですか」
エルナはしばらく考えた。
「……わかりません。でも、わからないまま会うことはできると思っています」
「それで十分だと思います」
「会った後、また来てもいいですか」
「もちろんです」
「結果を報告します」
「お待ちしています」
エルナは紅茶を飲み終えた。
「カイン、一つだけ聞いていいですか」
「どうぞ」
「あなたは、誰かと一緒にいたいと思うことはありますか」
カインは少し間を置いた。
「……考えることは、あります」
「考えるだけですか」
「今は、考えるだけです」
エルナはそれを聞いて、静かに頷いた。
「そうですか。じゃあ、私も今は、考えるだけでいいのかもしれません」
「それで十分だと思います」
エルナは立ち上がった。
来月の話が、どうなるかはまだわからなかった。
でも、ここに帰ってくる場所があることは、わかっていた。




