タリアの黒馬
タリアが来たのは、二月の晴れた日だった。
「新しい馬、迎えました」
「そうですか」
「黒い牝馬。二歳です。まだ全然懐いていないけど、目が良かった」
「どんな目ですか」
タリアはコーヒーを一口飲んで、考えた。
「諦めていない目。若くて、怖いものもあるのに、逃げていない目」
「ノワールさんの目に似ていましたか」
「似ていなかった。全然違う。ノワールはもっと落ち着いた目をしてた。でも……良い目だと思った」
「名前は決めましたか」
「ルーシー、にしました。ノワールの娘みたいな感じで。血は繋がっていないけど」
カインは静かに聞いていた。
「ノワールのことは、まだ思い出しますか」
「毎日思い出す。でも前は重かったものが、最近は少し軽い。ルーシーと一緒にいると、ノワールのことを思い出しながら、ルーシーを見ている。それが自然になってきた」
「それは良いことですね」
「こういうもんなんですかね。失うことと、新しく出会うことが、一緒に来る」
「一緒には来ないかもしれませんが、新しいものが来たとき、失ったものが意味を持ち始めることはあると思います」
タリアはしばらく考えた。
「……ルーシーに、ノワールみたいになれとは思っていないんです。ルーシーはルーシーで、全然別の馬になっていい。でも、ノワールが教えてくれたことは、ルーシーに関わるときに使えると思って」
「受け取ったものを、次に渡す」
「そう。ミレイア様が言ってたこと、剣聖と弟子の話、そういうのと同じかな」
カインは少し目を細めた。
「お客様の話が、お客様の間でつながることがあるのですね」
「あなたが橋渡しになってるんですよ。直接話してはいないけど、ここに来ることで、なんかそういうものが伝わる気がする」
「私は何もしていませんが」
「ここにいることが、してることなんじゃないですか」
タリアはコーヒーを飲み干した。
「来月、ルーシーが少し馴れたら、王都の外に連れ出そうと思ってます。また話しに来ます」
「お待ちしています」
「ノワールの話も、もう少ししていいですか。若い頃の話」
「ぜひ」
「じゃあ次回に」
タリアは立ち上がって、外の光の中へ出ていった。




