将軍と少年カイ
クレインが来たのは、一月の終わりの昼過ぎだった。
今日は特別な顔をしていた。少し、照れているような。
「カイが、初めて型の組み合わせを通しでやれた」
「おめでとうございます」
「おめでとうは私ではなく、あの子に言うものだが……まあ、嬉しかった」
コーヒーを飲みながら、クレインは続けた。
「あの子は足が悪い。だから、素早い動きはできない。最初は、それをどう教えればいいか、私もわからなかった」
「どうされましたか」
「他の子と同じことを教えるのをやめました。カイに合った型を、一緒に考えた」
「カイさんと一緒に」
「あの子に、どう動けば楽かを聞きながら、型を作っていった。騎士団ではそんなことは考えなかった。誰もが同じ訓練をするものだったから」
「それは、カイさんがいなければ気づかなかったことですね」
「そうだ。足の悪い者が最初から排除される世界で、私は三十年過ごしてきた」
カインは静かに聞いていた。
「それが正しいとは思っていたが……カイを見ていると、その前提が揺らぐ気がする」
「揺らぐことは、良いことだと思います」
「齢五十を過ぎて、前提が揺らぐのは少し遅い気もするが」
「遅くないと思います。ドルトン老司祭は七十を過ぎてから、弟子に信仰の問いを受けて揺らいだとおっしゃっていました」
クレインは少し目を細めた。
「あなたは、いろんな人の話を覚えているんですね」
「お客様の話は、大切なことだと思っているので」
「外には出さないが、中には全部あるということか」
「はい」
クレインはコーヒーを飲んだ。
「カイが今日、私に言った。型を教えてくれてありがとう、と。十歳の子供が言うには、少し大人びた言い方だった」
「感じる子なのですね」
「孤児院で育ったから、早く大人になるのかもしれない。でも……あの子の目は、まだちゃんと子供の目だった」
「それは良かったですね」
「ああ」クレインは静かに言った。「あの子の目が、子供のままでいられるように。少し、力になりたいと思っている」
カインはカップを下げながら言った。
「それが、今のクレイン様の仕事ですね」
「騎士でも将軍でもない仕事だが」
「だからこそ、今のあなたにしかできない仕事だと思います」
クレインはしばらく黙ってから、静かに言った。
「……そうかもしれないな」
立ち上がりながら、少し表情が変わっていた。
柔らかくなっていた。
最初にここに来たときの、鎧を着た将軍の顔とは、全然違う顔だった。




