師走のカインとエミリ
師走の最後の週、エミリはSOLITAIREに花を持ってきた。
シルヴィアの花屋で買ってきた、赤い実のついた冬の枝だった。
「年末だから、少し飾りたくて」
「良いですね」
「カインさん、年末年始も営業するんですか」
「大晦日だけ休みます。元日は午後から開けます」
「元日から開けるんですか」
「年始から一人でいたい方もおられると思うので」
エミリは冬の枝を窓際に飾った。シルヴィアの花の隣に、赤い実が並んだ。
「なんか、少し賑やかになりましたね」
「ありがとうございます」
エミリは席に座って、今日の練習のコーヒーを淹れた。
最近は、教わるというより、自分で工夫することが増えていた。
「カインさん、今日は少し豆を多めにしてみたいんですが」
「どうぞ」
「濃くしたときの味を、ちゃんと知りたいから」
「理由を考えながら変えることは良いことです」
エミリはコーヒーを淹れた。いつもより少し濃い一杯が出来た。
カインが飲んだ。
「どうですか」
「苦みが増して、深みが出ています。このくらいの濃さが好きな方もいます。アレン様には向かないかもしれませんが、クレイン様には合うかもしれない」
「お客さんによって、好みが違うんですね」
「それを少しずつ覚えていくと、より良くなります」
エミリはノートに書き取った。
それから顔を上げて、言った。
「カインさん、来年も続けますか、この店」
「はい」
「良かった。私も来年も来ます」
「はい」
「来年は、もっとうまくなります」
「楽しみにしています」
エミリはコーヒーを飲んだ。
「カインさんは、来年どうなりたいですか」
カインは少し考えた。
「今年と同じように、ここにいたいです」
「それだけ?」
「それが一番大切なことだと思っています」
エミリは少し考えた。
「……それ、聞いたことあります。エルナ様が、どこかがあるから、いい、って言ってた話」
「そうです」
「カインさんも、ここがあるから、いい、って感じですか」
「はい」
「じゃあ私も、ここがあるから、いい、かもしれないです。来年も」
カインは静かに言った。
「それは、嬉しいです」
エミリは赤い実を眺めた。
赤い実と白い花が並んでいた。
師走のSOLITAIREは、いつもより少しだけ色があった。




