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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第七章:灼熱の火山、業火の赤龍
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第七十四話:蜻蛉返り

 ドルムで取った宿はサルディアの宿と異なり、エルダの街の宿と同様、通常の宿だった。

 現在、アリーシャをエフゲニーの下に預けている関係上、拠点をドルムに置く方が得策と考え、その宿で三部屋を十五日程の間、借り上げる形を取った。

 最低限必要な荷物以外を宿に預け、食事を済ませたところでこの先十日間の方針について宿の食堂で話合う。


 「さて、まずは入手先がわかってる二つから済ませようと思ってる」

 「でもこの二つはこちらの方でも入手できますわ。こちらで待ってもいいのでは?」


 アンリはドルムで待つ方が良いだろうと提案するが、俺はそれに反対した。


 「いや、確かにドルムの方が大きい街かも知れないけどあっちは港町だ。他の大陸からの船が龍の胆を運んでくる可能性も充分にあるし、発見できればそこで押さえてしまいたい。それに、大きい街ではあるけどドルムだけで情報を集めるのには無理があると思う」

 「なるほどね。素材の確保と情報収集、両方の街で同時に並行しようって寸法だね」


 フォルクが俺の考えを要点を押さえて簡潔に説明する。


 「早い話がドルム組は無音蜂(サイレントビー)の毒嚢の収集、サルディア組は千年樹の実の入手、共通するのは龍の胆の情報収集、蜻蛉返りね」


 クローディアは二本の指を立て、フォルクの説明を補足するように各組の役割を指折り数えて行く。


 「じゃあどう分けるか…俺はサヴィオラの件もあるし、サルディアの方に行こうと思う」

 「無音蜂に気付けるのは僕だけだし、僕はこっちかな。セオ、クリスを借りていいかい?」


 クリスはフォルクに名指しでドルム組への同行を求められ、きょとんとした顔をしている。兄である俺がサルディア組へ行く事を話した為、クリスもそれに同行するつもりだったのだろう。


 「クリス、お前はフォルクさんと一緒だ。しっかり頼む」

 「じゃあ私もドルム組にして貰うわ。こっちで生活してた事もあるし、案内役は必要でしょ? それに…私もまた別の形になるけどサヴィオラの件もあるしね」


 クローディアも元々こちらで生活していた事もあるらしく、フォルク達の案内役を買って出る。

 その後に続いた言葉はやはり助けた人達の件が尾を引いているのだろう。苦笑いを交えながら彼女はぽつりと呟いていた。


 「そういえばそちらに前衛がいないけどアンリはそっちで?」


 フォルク達は魔術師二人に弓闘士一人と後衛ばかりの組み合わせだ。クローディアの実力の程は未知数だがサヴィオラと肩を並べていた点を考慮すればクリス程ではないにしろ充分な戦力と言えるだろうが、全員が後衛という点を鑑みてアンリをフォルク達に同行させる提案をしてみた。


 「いや、こっちで戦闘があるとすれば無音蜂の確保の時だけだし大丈夫だよ。むしろ密林を通らなきゃいけないから不測の戦闘が起こるとすればセオ達の方だろうし、ミハイルとソフィーがいるからそっちに同行したほうがいいんじゃないかな」


 フォルクは戦闘が起こりうる場面や、こちらの戦力をしっかりと把握した上でアンリのこちらへの同行を薦め返す。

 よくよく考えれば自明の理だ。あちらは全員後衛であっても充分な戦力だ。最悪、フォルクも短剣を握ってこちらにミハイルとソフィーの二人が付いてくるとして、場合によっては二人を守りながら戦うとなるとこちらにアンリが来る方が俺としても動きやすい。

 アンリも俺と行動と聞いて小さく拳を作っていた。


 「わかりました。じゃあドルム側はフォルクさん、お願いします。こっちは三、四日程情報を掻き集めてくる予定です。お金も半分程宿に預けてあるので必要なら使ってください」

 「了解。こっちも何か情報があったらギルドを通して伝えるよ。そっちも何かあったらそれで伝えて欲しい」


 人数の割り振りと連絡手段が決まり、食後の紅茶を飲んでいると、クローディアがある提案をしてきた。


 「さて、と…セオ、あなたたちは直ぐにサルディアに発つんでしょ?」

 「はい。このままサルディアに行って出来れば今日の内に千年樹の実を手に入れてこようと」

 「だったら乗合魔獣車を使わない?ここから徒歩でサルディアに向かっても半日以上かかるし、走って向かったとしても向こうに着いた頃には疲れちゃうわ。それに魔獣車を引いてる苔水牛(モスバッファロー)も強い魔獣だから弱い魔物も寄り付かないし、無駄な戦闘も避けられるのよ」


 クローディアの提案は今の俺達にとってかなり魅力的な話だ。先を急ぐと言っても各々の足の速さや体力には限界がある。流石の俺も半日近くも走り続けば体力が持たないだろう。全員異論はなく、クローディアの提案に乗る事で決定する。

 食堂での話が終わり、紅茶を飲み干すと直ぐに俺達は乗合魔獣車の発着場へと赴いた。

 広いロータリー状の発着場には大小様々な魔獣車が並び、人の昇降や貨物の積み下ろしが絶えず行われており、このドルムの街がドルマニアン諸島の中心である事を認識させられる。


 「さって…路銀には困って無いでしょうけれどお金はかからない、それでいて速い方がいいわよね?」

 「え? あぁ、はい」


 クローディアの唐突な質問に脊髄反射的にそう答えると、クローディアは真っ直ぐに幌のついた魔獣車に荷物の積み下ろしを行なっている御者に話しかけに行っていた。


 「おじさん、この魔獣車はサルディア行きかしら?」

 「ああ、見ての通り、貿易用の鉄鉱石が積んであるからな。乗り心地は悪いが人も運ぶぜ?一人銅貨五枚でどうだ?」


 いかつい体躯の御者は蓄えた口髭の下から白い歯を輝かせ、立てた親指で自分の魔獣車を指差す。クローディアが貨物用の魔獣車を選んだらしい。


 「高いわね、四枚でどう? 七人で銀貨二枚と銅貨八枚で乗せてくれないかしら?」

 「うーむ…七人か…まぁまとめて乗ってくれんならわかった、一人銅貨四枚で手を打とう。が、七人だと少しばかり狭くなるが大丈夫か?」


 御者は少し思い悩み、クローディアの条件を承諾する。その上で荷台が狭くなる旨を伝えるが、クローディアも「構わないわ」と一言、荷物の積み込みが終わるのを待った。


 「あれ、そう言えばクローディアさん達も乗るんですか?」

 

 乗り込む人数が七人と聞いたソフィーが今更になって気付き、クローディアに尋ねた。


 「もう。こっち側に残る方の目的は何?」

 「えっ、それは龍の胆の情報を集めるのと…無音蜂の毒嚢…あっ!」


 ソフィーが漸くドルム組が一緒に魔獣車に乗り込む意味に気付くと、これ見よがしにミハイルは大きなため息をついた。


 「何よ、ミハイル。ちょっと察しが悪かっただけじゃない」


 ソフィーは少し膨れて不機嫌そうにミハイルに食ってかかるが、ミハイルは目を細めて聞いていないフリをしている。

 そうこうしている内に荷物の積み込みを終えた御者が魔獣車に乗り込む様、呼びにやって来た。


 「荷物の積み込みが終わったぞ。乗り込み次第出発するからとっとと乗ってくれ」


 汗を拭いながら後ろ手に親指で早く乗り込むように御者が促す。

 俺達は順次魔獣車に乗り込み、最後に乗り込むフォルクが御者に話し掛けていた。


 「そういえば、密林に入ったあたりで三人降ろして欲しいんだけど大丈夫かい? あ、もちろんお代を安くしろなんて言わないよ」

 「なんだ、あんたら冒険者さんかなんかか? まぁ別にそりゃ構わねえが…」

 「あ、三人のお代も含めて全部俺が出すんでお願いします」


 そう言って俺は七人分の運賃をフォルクを介して御者に渡す。荷物はそれ程多くは無く、狭くなると聞いていたがそれ程余裕が無いわけでは無かった。積まれた木箱に腰をかけても少しは余裕がある程で、寧ろ座席付きとすら思える程だ。


 「全員乗り込んだな、じゃあ早速出るが、少し飛ばすから振り落とされない様に注意してくれよ」


 御者は座っている俺達にそう言って手綱を取り苔水牛を走らせる。

 進み始めた魔獣車は少しずつ速度を速めて行く。

 アリーシャを運びながら降ってきた崖沿いの左右に曲がる坂道を登り、岩場の道を進む。

 直線路に入り、幌車の中から後ろを見ると流れていく速度がどんどん上がって行く。


 「ちょちょっっとと、ここれれははははややすすぎぎじゃじゃ…!」


 速度が上がるに連れ、魔獣車の揺れが急に激しくなる。ソフィーが何かを訴えているようだが全く何を言っているのかわからない。

 街道は石畳で舗装されているものの、かつていた世界の車と違い、今乗っている貨物用の魔獣車には衝撃を和らげる機構などはない。その為、速度が上がった魔獣車はその衝撃を和らげること無くダイレクトに揺れていた。

 当然ながらその揺れは積荷の木箱を介して中に乗っている俺達の尻にも伝わってきていた。

 クローディアやフォルクはある程度乗り慣れているのか涼しい顔で揺れに耐えているが、俺を含めた他の五人は激しい揺れに耐えるのに精一杯だった。


 激しい揺れに耐える事、約一刻程、普通に走るよりも速い時間で既に魔獣車は密林の街道に入っていた。

 程なくして、魔獣車は少しずつ速度を落とし、街道の脇道に入って魔獣車を引く苔水牛が足を止める。

 

 「密林で三人降りるって話だったろ? この辺りでいいか?」

 「ええ、おじさんありがとう」

 「思ったより早く着いたね、ほらクリス、降りるよ?」


 フォルクに降りてくるように促されるが、クリスはこの揺れに順応しきれず目を回している。

 フォルクは少し苦笑いと鼻からため息をこぼし、クリスを抱えて魔獣車から降ろした。


 「じゃあ、そっちも頑張って」

 「はい、必ずアリーシャを救いましょう」


 俺とフォルクは小さく手を振り合い、お互いを送り出す。

 加速を始めた魔獣車から見えるフォルク達は十秒を待たず、あっという間にその姿は薄暗い密林に消えていった。

 フォルク達と別れ、アンリはサルディア到着からの動きについて尋ねてくる。揺れで声が聞こえにくいというのもあるが、アンリは俺の直ぐ隣、耳元に顔を近づけていた。

 ミハイルとソフィーはまだ揺れに慣れ切れず、アンリと俺の会話など聞いておらず、魔獣車の走った後に今朝食べた朝食をぶちまけぬ様に必死に堪えているので精一杯の様だ。かく言う俺も、多少は慣れたが衝撃を受け続けている尻が痛い。


 「セオ様、到着した後はいかが動きましょうか。やはりまずは千年樹の実から確保に?」

 「あ…ああ、先に確保できるものは早めにしておきたい。龍の胆の情報を急ぐあまりに確保し損ねるなんて事はしたくないしな」


 アンリの唇が耳元で艶やかに揺れる。アトラシアからここまで、暫く大人しくしていた為、油断していた俺はアンリの行動に動揺していた。

 アンリは普段は言葉使いも含め、物腰の柔らかい淑女然るべしと言った女性だが、その実、かなり積極的な女性だ。

 普段から牽制しているクリスがこの場にいない事もあってか彼女の距離感はより近い。この機に乗じて積極的なアプローチを仕掛けてきている。


 (彼女は君を好いてるんだろう?受け入れてあげればいいじゃないか。別に君も彼女を嫌ってるわけじゃないだろうに)

 (うるさい、こんな時ばっかり出てくんな)


 普段は傍観を決め込んでいるセオドアが珍しく語り掛けてくるが、俺はセオドアを無碍に遇らう。


 (はいはい。でもあまり肩肘張りすぎて空回りしない様にね。…しかし残念だねぇ、ちょっと男女の恋愛というのを間近で見てみたかったものだけれど、それももう暫く先になりそうかな。魂の器の成長に繋がるとも思ったんだけれどね)

 (そんな打算的な恋愛なんて俺もアンリも御免被る。確かにアンリの事は悪いとは思っちゃいないけどまだそんな風には考えてないし、第一、今はアリーシャのが優先だ)

 (やれやれ、まぁそう思える日が来るのを気長に待ってるよ。あ、それと聖龍神様が話していたけれど、『大きな鼓動が近づくのを感じる、念の為警戒しておけ』だってさ。確かに伝えたよ)


 セオドアはそう言い残して、また意識の奥底へと消えていく。

 思い出してみればセオドアは常に俺の内から俺の見た事、感じた事を共有している。仮にアンリと×××するような事になったとすれば、それも全て俺の内側から覗き込まれる事になるのだ。そう考えるとなかなかに気持ちの悪い話だ。


 「ん? ってかそういう大事な事を先に言えよ…」

 「セオ様、どうかされました?」

 「えっ? あぁ、いや、さっきエフゲニーに龍の胆の情報の事で個人的に聞いた事思い出したんだけど、よく考えたら大した話じゃなかったなって、ついツッコんだだけだ。気にしないで大丈夫、ハハハ…」


 つい口をついてツッコミを呟いたのにアンリが反応し、慌てて何も無いと取り繕う。その様子を見ながらアンリは首を傾げていた。


 サルディアへ向けて密林の街道を駆ける魔獣車は更に速度を増していたが、しかし、アンリはもとより、俺も揺れに慣れ、揺られながら談笑を交えている。

 魔獣車の駆けた後に二つの名残が遺されていた事を知ったのはサルディアの街に到着してからの事だった。

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