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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第七章:灼熱の火山、業火の赤龍
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第七十三話:蝕む猛毒

 「アリーシャ!アリーシャ!」


 アリーシャの耳元で声をかけるが返答は無く、微かに指先を震わせているのみだ。

 微かに聞こえる弱々しい吐息が彼女の衰弱具合を物語っている。

 そこで俺はある事を思いだした。

 俺達がサヴィオラを捕らえ、遺跡から戻ってきた時、アリーシャは肩口に傷を負っていた。その時は止血処置を既に済ませており、本人も「問題無い」と告げていた特に気にも留めなかった。


 「アリーシャ、服を破るぞ!」


 アリーシャの服の肩口を破くと彼女の包帯できつく締めてあり、血が滲んでいるのがわかる。

 彼女の包帯を外すと、深い傷が顔を出す。さらにその傷口の周囲からは痣のように茶色に変色した何かが滲み出しており、アリーシャの身体を蝕みつつあった。


 「兄様、私が!解毒(アンチドゥーテ)!」


 クリスが俺を押し退けて解毒魔術をアリーシャに施すがアリーシャの容態は変わらない。


 「…兄様、解毒魔術の効果が出ていません…どうしたら…」


 クリスに尋ねられるも俺にもどうすればいいのか全く見当もつかない。するとクローディアが俺の隣にしゃがみ込み、アリーシャの傷を凝視していた。


 「これは…死神蛇(デスコブラ)の毒ね。遅効性の猛毒で初期なら通常の解毒魔術でも治せたけれど、時間が経てば大魔術級の解毒魔術でもないと治せない程の猛毒よ。何にせよここで治せないなら、彼女、助からないわね。ここからだとサルディアじゃ時間がかかり過ぎるし、それに大きい街の方が治療を見込める可能性が高いわ。ドルムを目指しましょう」


 俺達に迷っている暇はない。全員が即座にドルムへ向かう決断に同意した。


 「すみません、皆さん。サルディアまで送ることができなくなり…」


 本来ならばサルディアまで送り届けるはずだった人々に詫びる。


 「気にしないでくれ。俺達だって冒険者だ。助けてもらっただけで充分だ。あとは自力で何とかできる。サヴィオラも魔術が使えないならこっちでギルドに身柄を引き渡しとく。さぁ早く行きな、手遅れになっちまうぞ」

 「おにいちゃん、ぜったいおねえちゃんをしなせちゃだめだよ!? ぜったいたすけてあげて!」

 「ああ、シアン、勿論アリーシャは絶対に死なせない。きっと助けてみせる。…皆さんすみません!俺達はドルムへ急ぎます、道中気をつけて!」


 サヴィオラの身柄を預け、助けた冒険者達の言葉に背を押され、俺達は密林の街道を再び反転し、ドルマニアン諸島最大の街、ドルムを目指して駆け出した。


 ーーー


 道中で遭遇した魔物を蹴散らしながら走り続ける事二刻半、既に俺達は密林を脱して岩場の街道に出ていた。視界は開けており、既にドルムの街が遠くに見えていた。


 「ハァ…ハァ…アリーシャ、もう少し、もう少しだ。頑張ってくれよ…」


 俺は少し乱れた息で呟くように漏らし、再び街道を走り始める。

 ミハイルは人々の救出にかなり所為もあってか、特に息を切らしていた為、現在はアンリエッタが背負っており、クローディアも今日までずっと拘束されていたというのに、俺達にしっかりと付いて来ている。クリスとソフィーもどうにかこうにか付いてこれていた。

 アリーシャはというと相変わらず弱々しい呼吸を続けており、今にも息を引き取りかねない。


 「セオ、まずはどうする!? アリーシャさん、かなり危ないよ!」

 「毒の治療が出来る医者を探しましょう!魔術での治療もクリスも回復系統の大魔術は習得していませんし、仮に治療出来る魔術の教書を発見できたとしてもすぐには習得できませんからこっちは望み薄です!」

 「だったら、私、一人だけ心当たりがあるからそっちを当たってみるわ!変わり者でがめつい闇医者だけれど腕は確かよ!」

 「わかりました、クローディアさんお願いします!」

 「セオ様、私達はアリーシャさんを休ませる宿の手配に回りましょう!」


 高速で走りながらの会話の為、全員が叫ぶような大声で話す。

 魔物や岩を避け、飛び越えながら止まること無く街道を駆け抜けるとドルムの街がみるみる近づいていった。

 街の前の街道は左右に振れる下り坂となっているが、悠長に降っている時間はない。


 「止まってる暇は無い!行こう!」


 俺達四人は崖に飛びだし、砂煙をあげながら真っ直ぐに崖の斜面を滑り降りて行き、街への最短ルートを辿っていく。


 「あと少しだ!」


 最後の直線路に降り、駆け出そうと地面を蹴った瞬間、俺の目の前に魔獣車が迫っていた。


 「セオ様、危ないですわ!」

 「うわっ!」


 咄嗟に踏み出す方向を変えて衝突は免れたものの、魔獣車を引いていた苔水牛(モスバッファロー)が驚き、御者を振り落としてしまった。


 「あいたた…何やねん、いきなり飛び出しよってからに…ワレ、なんぼ急いでんねんか知らんねんけど、どう落とし前つけんねん!」


 御者の男は起き上がるなり、俺の胸ぐらを掴んでがなり立てる。男は子供程の身長だが、見た目は髪も髭も伸ばした老人で大きな鼻を見るに小人種(ハーフリング)だとわかる。


 「すいません!連れが毒に侵されてまして、急いでたんです!」

 「あん?毒…?」


 男は毒と聞いてフォルクが担いでいるアリーシャを凝視する。


 「エフゲニー、久しぶりね。セオ、さっきの心当たりの闇医者だけど、この男よ」

 「んー…? 何や、誰や思うたらクローディア嬢ちゃんやんか。久しぶりやなぁ、コイツら嬢ちゃんの友達(タレ)かいな」


 クローディアとエフゲニーは見る限り旧い友人と言った所か。


 「急患なんだけれど大丈夫かしら? 死神蛇の毒よ」

 「せやなぁ…これから薬の仕入れにサルディアまで行くつもりよってに…これ(・・)でどないや?」


 エフゲニーは四本の指を立ててこちらに突きつける。


 「白金貨四枚ですか?」

 「アホか!聖銀貨四枚や!どないや、お前はん見たいな子供に(はろ)えるんか?」


 ドヤ顔で聖銀貨四枚を要求するエフゲニーに対して眉間にしわを寄せていると、クローディアが間に入る。


 「ちょっと高すぎるんじゃないの? 昔のよしみでもう少しまけてくれたっていいじゃない」

 「あかんあかん、これで精一杯や、ビタ一文まからんで」


 クローディアが価格交渉に出るがエフゲニーはそれをあっさりと断る。

 アリーシャの命には変えられない。俺は荷物から財布を出し、聖銀貨四枚を取り出してエフゲニーの差し出した手に置いた。


 「は? …ホンマかいな…? ちょ…ちょい待て!嘘やろ!? こないな子供が何で聖銀貨四枚も!?」


 驚いていたのはエフゲニーだけではない。クローディアも目を皿のように見開いて、さらりと聖銀貨を渡す俺に驚いていた。


 「な、何にしてもこれで引き受けてくれるのよね?」


 クローディアは我に帰り、エフゲニーに詰め寄る。するとエフゲニーは即座に地面に額をこすりつけ土下座の体勢を取る。


 「スマン!ホンマに払えるとは本当に思わんかってん。…聖銀貨一枚や、それで手ェ打ちましょ」


 エフゲニーは頭を上げ、先程渡した聖銀貨四枚の内、三枚をこちらに返し、振り下ろされた苔水牛に乗りこむ。


 「ほんならまずは落ち着いて治療出来る場所に急ぐで!魔獣車に乗り込んでや!」


 エフゲニーは親指を立てて自身の魔獣車に乗り込むように促した。俺達は促されるまま、彼の魔獣車に乗り込むと、苔水牛は一吠えした後、その巨体に見合わぬ速度でドルムの街の大通りを駆け出した。

 ドルムの街は非常に複雑で大通りを進んでいたかと思えば、狭い裏路地に入り混み、曲がりくねった迷路のような路地を駆け抜けて行く。

 エフゲニーは器用にも家屋に魔獣車をぶつけること無く、魔獣車を引く苔水牛を操っていた。

 魔獣車を走らせて四半刻程経つと、漸く苔水牛が脚を止める。


 「着いたで、はよそっちの患者を中に運びや」


 エフゲニーが案内したのは石造りのやや小汚い長屋だ。中に入ると、服やゴミが散乱しており、足の踏み場は無く、とても医者の住む家には思えなかった。


 「汚うて悪いけども、男やもめやってな、我慢してもらうで。ワイは準備するさかい、先に患者を奥のベッドに運んどいてや」


 エフゲニーはそう言ってすぐに別室に消えて行く。

 言われるまま、俺とフォルクはアリーシャを奥の部屋のベッドに運び、そこに横たわらせる。


 少しばかり待つとエフゲニーが綺麗な白衣に袖を通してやってくる。相変わらず髪と髭は乱れたままだがそこは彼の医者としてのこだわりなのだろうか。


 「したら、具合を診終わったら行くさかい、隣の部屋で待ってな?」


 俺達はエフゲニーにアリーシャを任せ、部屋を出ると、既に女性陣が部屋の片付けを行なっていた。


 「とりあえずはここでエフゲニーの診察が終わるまでここで待つわよ」

 「男やもめと言っていただけはありますわね…下着まで放置されてますわ…」

 「すごい散らかり様だわ…それに変な匂いも…」

 「兄様、私達はこの部屋を掃除しますので、少しばかり外で待っててください」


 クリスにそう言われ、俺とフォルクは外に追い出される。ミハイルは疲れのせいか眠っており、未だに魔獣車の中で寝息を立てていた。


 「死神蛇の毒か…治るといいけれど…」

 

 フォルクが不穏な言葉を呟く。


 「…そんなに酷い毒なんですか?」

 「…うん。大魔大陸の魔物の毒なんだけどつい数十年前までは進行すればまず治療法が無かった毒でね…」


 そう言ってフォルクは言葉を濁す。察するに彼の知人にもそれによって倒れた者がいるのだろう。

 暫く重い沈黙が続き、数分程経つとクリスが俺達に部屋に戻って来るように伝えにやってくる。

 部屋はある程度片付き、そこにはエフゲニーを含めた全員が待っていた。


 「待たせたな、とりあえず単刀直入に言わせてもらうで。現状は別の薬で落ち着かせたところやけど、正直な話、今ここにある薬であの毒は治療でけんねん。体をダマして延命しとるだけや。このままやったら直に死んでまう」


 俺はエフゲニーの診断を聞き、思わずエフゲニーの胸ぐらを掴んでしまった。


 「ちょお待て!待て待て、待てや!」

 「セオ様、落ち着いてください!」


 アンリエッタの制止で我に返り、掴んでいたエフゲニーの胸ぐらを離す。


 「ゲホッ、ゲホッ…そういきり立つなや、まだ説明が終わっとらんっちゅうねん…。まず本人の止血が早かったらしいな。おかげで毒の回りが遅なっとるわ。まぁ現状ワシの薬で毒の侵食抑えとるさかい、このままなら保って十日から二十日ってところやな、まぁそこは本人の体力次第や。その間ならまだ治療が間に合うさかい、命は助かるわ。それまでに薬が用意出来ればええねん。素材さえ揃えばすぐにでも作ったるわ」

 「その素材は?」

 「足りひんのは三つや。一つ目は千年樹の実。これはさっきサルディアの街に薬の仕入れに行く言うてたやろ? 届けに来てもろうても二〜三日中には届くはずやで、問題無いはずや。もし取りに行く言うにしても普通に市場で仕入れられるはずや。そんで二つ目が無音蜂(サイレントビー)の毒嚢、まぁ十から十五もあれば足りるやろ。これは密林で無音蜂の巣を見つければすぐ集まるから問題あらへん。問題は三つ目やんなぁ…うぅーむ…」


 エフゲニーが目を細めて眉間に皺を寄せる。


 「…三つ目は…龍の胆なんやが…」


 最後の素材の名を告げたエフゲニーは言葉を濁す。


 「…いかにもな素材ですね」

 「…まぁ名前の通り龍種の魔物から取れる胆ゆうのはわかるやろうけど…なかなか市場に出回らんっちゅう話なんや。仮に龍種の魔物がその辺おったとしても討伐はまさに命がけになるな。あんなら、その辺の魔物と比べもんにならん程おっかないからな。…まぁ運良く市場に出回ってくれば金で解決でけん訳やないけど…なぁ…」


 そう言ってエフゲニーはこちらにちらちらと目を向ける。


 「つまり、それをここに持ってこい、って話かしら」

 「とりあえず二つはなんとかなりそうですわね」

 「問題は龍の胆、だね」

 「ええ、手分けして探しましょう!」

 「アリーシャの体力がどこまで持つか…時間との勝負ですね…」

 「ああ、アリーシャを絶対に死なせやしない。絶対に助けるぞ!エフゲニーさん、アリーシャを任せても大丈夫ですか?」

 「嬢ちゃんの世話ならワシに任せとき。坊主(ボン)達は心配せんと、素材探しに行ったってや。銭は貰うとるよってに、患者の世話はワシの仕事やさかい、キッチリやらせて貰うで。そう簡単に死なせへんよ」

 

 全員でアリーシャの救出という目標を見定めて意気込む。

 エフゲニーも俺達の意気込みに賛同するようにアリーシャの世話を買って出た。


 俺達はまず一日の疲れを癒すため宿を取り、休息をとることにした。昨日の昼から続く救出作戦、途中で仮眠も取ったが、そこから休むこと無く救出作戦を終え、ドルムまで駆け抜けて来た。

 体力の底が見えないフォルクや救われてすぐのクローディアはともかくとして俺やクリス、アンリエッタも流石に疲労の色が見えてきており、ソフィーやミハイルに関してはまさに疲労困憊だ。

 アリーシャの容態は気になるがその為に倒れては意味が無い。明日からはアリーシャを死神蛇の毒から救う為の薬の素材探しで忙しくなる。それに備える為にも休める時に休まなければ。

 宿に到着して日が沈み、月も夜空に浮かび切らぬ内に、俺達は既に全員が電池が切れた様に寝静まっていた。

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