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第六十話:不意討ち

 朝日が昇り始めた海で海賊に遭遇した俺達は今まさに海賊達との一戦を交えんとしていた。

 クリスの大魔術による先制攻撃によって海賊達は出鼻を挫かれたが怯む事無く続々と従えている大型の鳥種の魔物に掴まり続々と海賊船から飛び立ち始めていた。


 「こりゃまたわんさかときたね…。みんな、まだ空中の敵だけ狙うんだ!降りてきたのはみんなが倒してくれる!攻撃開始!」


 弓使いと魔導師達がフォルクハルトの号令で飛来してくる海賊達に対して矢継ぎ早に攻撃を仕掛ける。

 しかし鳥種の魔物に掴まって大量に飛来してくる海賊達の数もこちらの手数以上に数が多く、落とせているのはその半分程度だ。


 「思ったよりみんな腕がいいね。僕も負けてられないな!」


 フォルクハルトは背中の長弓を手に矢を引き絞る。彼が番えた矢の鏃には緑の光、風の魔力が宿っていた。


 「旋風射(スパイラルショット)!」


 フォルクハルトが魔力を込めた矢を放つ。放たれた矢は激しい旋風を纏い、飛来する海賊達の隙間を通り抜けながら旋風に巻き込んでゆく。

 旋風に巻き込まれた海賊達は強風に煽られて鳥種の魔物から手を放したり、魔物自体がバランスを崩し魔物ごと海へと落ちて行く。さらに矢は最後に鳥種の魔物に命中する。矢は魔物の胴体に深く刺さり、一撃で致命傷となったらしく、掴まっていた海賊ごと海へと落ちていった。


 「これはいいね。セオ、悪いけど真似させてもらったよ!」


 フォルクハルトの今の射撃は俺の属性斬エレメンタルスラッシュを弓矢用に独自でアレンジしたものらしい。ただその一発は魔物ごと大量の敵を一発のもとに撃墜した。フォルクハルトの応用力の高さは本物と言って間違いないだろう。

 一方、上空では最初に飛び出し、落とされていった大量の海賊達の生き残りがついに船の上空に到達していた。


 「兄様、皆さん!海賊達が来ます!」


 クリスの声に反応し上空を見上げると魔物の脚から手を離し、船に飛び降りてくる。その手には斧が握られており、俺に向けて振り下ろさんとしていた。

 俺は飛び降りてくる海賊に対し、迎撃する為に騎士剣を握って身構える。そこに割って入ってきたのは船長のラルゴだった。


 「わりぃが途中乗船は遭難者だけしか受入れられねえな!」

 

 ラルゴは片腕で飛び降りてきた海賊の喉笛を掴み、そのままゴミでも投げ捨てるかの様に海へ投げ捨てた。


 「おとといきやがれ!」


 ラルゴは投げ捨てた海賊にそう吐き捨てる。しかし、後から飛び降りてきた海賊達が着地と同時に手に持った長剣でラルゴに斬りかかる。


 「させませんわ!」

 「甘い!」


 ラルゴに斬りかかる海賊達はアンリエッタの大楯とエリウッドの鉄拳により吹き飛ばされ海へと叩き落とされる。だが海賊達は続々と船に飛び降りてくる。

 弓闘士や魔術師達はフォルクハルトとクリスを筆頭に絶えず攻撃を続けているが、それでもかなりの数が攻撃を掻い潜り、船に到達してきている。


 「これは持久戦になりそうですね」

 「望むところだ」

 「やってやろうじゃあねえか!」

 「船長さん、先程の様に気を抜かないで頂けますかしら、次はカバーに入れませんわよ」


 多数の海賊を前に俺達前衛の要となる人間は誰一人として気後れはしていない。寧ろ余裕すらも伺える。


 「ガキが調子に乗ってンじゃねぇェッ!」


 誰一人焦りを見せぬ俺達に怒り露わにした海賊が曲剣を振りかぶり俺目掛けて斬りかかるが、大きく踏み込んで振り下ろされる剣を潜り、海賊の胴を抜く。

 胴から上が飛んだ海賊の下半身が血を飛沫かせながら床に倒れ込む。

 俺は海賊を斬り捨てた際に頰についた返り血を拭い、騎士剣を振り抜いて残った血を落とす。


 「子供と思って舐めるなよ?」


 血を落とし、朝日を反射して鈍く輝く騎士剣の切っ先を海賊達に向ける。

 海賊達はその姿に怯むがすぐに得物を構えると少し上等な金品を身に付けたリーダー格らしき男が声を上げる。


 「こいつらを倒せェ!船を奪うぞォ!」

 「ウオオォォ!!」


 大勢の海賊達が雄叫びをあげながら押し寄せる。


 「来るぞ!」


 雪崩を打って襲いくる海賊達を船乗りや冒険者達が迎え討ち、甲板上には剣と剣、剣と盾がぶつかり合う金属音が響き合った。

 前衛の軸となっている俺達は海賊達の攻撃を受け止めて確信する。この程度ならば押し切られはしないと。

 次の瞬間、船に乗り込んできた海賊達は次々と斬り伏せられていた。俺達は勿論の事、他のB級冒険者達や船乗り達も海賊達を押している。


 「この程度、迷宮や手配書の魔物に比べりゃ屁でもねぇ!」

 「海の男を舐めんじゃねえ!」


 アンリエッタとアリーシャは冒険者や船乗りの戦いを海賊達の攻撃を捌きながら話している。此方に至っては余裕綽々といった様子だ。


 「数は多いですが烏合の集ですわね」

 「はい、ただ乱戦になります。背後を取られない様に気をつけましょう」


 船に乗り込んできた海賊達は次々と倒れており、後続の海賊達も後衛の遠隔攻撃に晒され、次々と海に落ちて行くが、それでもまだ増援の手が緩む事はない。


 「もたもたしてると取り囲まれちまうな」

 「ええ、ここまで多いとは思いませんでした」

 『だが、向こうとて、一介の連絡船にここまで抵抗されるとは思っておらんかっただろう』


 よく見れば船に乗り込んでくる海賊達の数がやや増えている。どうやら後衛の魔術師達に魔素欠乏を引き起こし戦線を離脱せざるを得ない者が現れ始めた様だ。


 「これから乗り込んでくる奴らがまだ増える!お互いに死角を守れ!無理はするな!」


 ラルゴは大声で甲板上の全ての冒険者と船乗り達に号令をかける。ここからは乱戦だ。


 「まず数を減らします!属性付与(エンチャント)風刃(ウィンドセイバー)…属性斬・風刃!解放(パージ)!」


 風の刃を纏った騎士剣を薙ぎ払うと、その軌跡から鋭いかまいたちが周囲に拡がる。


 「なんだこのガキ?そよ風でも起こしたか?」

 「ハハッ!剣だけは一丁前だが冒険者の真似事なら他所でやんな!」

 「ん、でもさっきこのガキ、仲間を斬っ…グハァッ!」


 何をされたのかすら気付かず、俺を馬鹿にしていた海賊達は時間差でかまいたちによる深い斬撃を受け、血飛沫をあげて次々と倒れていく。

 これによって船に乗り込んでいた海賊達の大半が倒れたが、やはりまた次の海賊達が乗り込んでくる。


 「チッ、キリがねえな!」


 ラルゴは面倒そうに呻きながらカトラスを手に海賊に斬りかかる。それを皮切りに俺達冒険者や船乗り達も乗り込んできた海賊達への攻撃をより一層激しくした。

 海賊達は圧倒的な物量で攻めてくるが一人一人の能力は魔物で言えばせいぜいC級、一部にB級程度の実力であり、俺達A級からS級の冒険者にとっては最早敵ではない。

 俺達はほぼ手傷を負う事無く戦っていたが他の冒険者達はそうも行かなかった。

 一対一では勝てるであろう海賊達と一対複数人という状況だ。時折軽傷では済まないような傷を負っていた。

 その度に俺やクリスが治癒魔術を施す為に動き、アンリエッタがそのカバーに動いていた。


 「よし、こっちは済んだ!」

 『セオドア、今度はこっちだ。出血が酷い』

 「クリス!あっちの船乗り達が傷を負ってる!」


 どうやら海賊達も少しずつ強い戦闘員を投入し始めているらしく、それに加えて疲労もあり、B級の冒険者達や船乗り達も苦戦し始めていた。


 「ラルゴさん!そろそろB級冒険者達と船員さん達も下がってもらいましょう!彼らじゃそろそろ厳しくなってきてます!」

 「了解だ坊主!今坊主の言った通りだ!後は俺達に任せて船に戻れ!残る奴らはそいつらの援護だ!」


 冒険者の傷を治癒魔術で治しながらラルゴに頼むと、すぐにラルゴがすぐに号令を飛ばす。

船乗り達や冒険者が戦っている海賊達を引き受け、船の中に戻すアシストに動き回る。


 「よし、血が止まった!すぐに船に戻って治療を!」

 「すみません、命拾いしました!」


 応急手当て程度ながら止血と多少の回復を行い、最後の冒険者を船に帰す。

 そんな中、増援が遂に終わりを迎える。

 残った海賊達の処理をしていると海賊達の死体から死んだふりをしていた海賊が襲いかかってくる。短剣を握り締め、俺に襲い掛かろうしたその瞬間、海賊の脳天に矢が直撃。そのまま絶命した。


 「ごめん、今ので矢が切れちゃった。あまり白兵戦は得意じゃないから僕も一足先に船に戻ってみんなと一般のお客さん達の護衛に回るね!」


 そう言ってフォルクハルトは樽から短剣を取り出し、船室に入っていった。

 矢が切れれば弓闘士は戦力にはなりにくい。それに彼はかなりの数の海賊達を撃墜した。彼がいなければもっと多数の海賊と戦わねばならなかっただろう。

 

 船に乗り込んでいた海賊達を全て倒し、その後片付けをしていると海賊船から大きな声が聞こえてくる。


 「オイオイオイオイ、マジかよ!みんなやられちまってんじゃねえか!」

 「イヤイヤイヤイヤ、嘘でしょ?俺達なんかじゃ無理ですって!」


 海賊達の残党だろうか。どうやら船の上からこちらの様子を見て怖気付いているようだ。


 「わかりましたよ!行けばいいんでしょ行けば!」

 「わかりましたってば!死にたくねえよぉー!」


 二つの声の主は鳥の魔物の脚に掴まり、こちらの船に向かってくる。二人が船から飛び立った後、海賊船は錨を上げ、動き出す準備を始めている。


 「兄様、落としますか?」

 「いや、様子を見よう」


 クリスは右手に炎の魔力を宿し、撃墜する準備をしていたが、直前に聞こえた二人の声を聞くに戦意はほぼ無いと見た為クリスを制止した。戦わずに済むならそれが一番いい。

 二人の人影は魔物から手を離し船へと乗り込んでくる。降りてきたのは痩せぎすの背の低い男とやたらと太った巨漢。両者とも顔にはピエロのメイクを施しており、小男の方は着地に失敗して背中から甲板に落ちてしまい二人とも大騒ぎしている。


 「いってえええぇぇぇぇ!」

 「アニキ!アニキィィィィ!」


 俺達は大騒ぎする二人を前に、どうしたらいいのかわからず、ただただ眺めているだけだ。


 「ぜぇ…ぜぇ…いや、死ぬかと思ったマジで。つーか、俺苦手なんだよ大鴉(グレートクロウ)に掴まんのよ!」

 「そんなことよりアニキ、俺達囲まれてるぜ!実際問題死ぬぜ俺達!」


 太ったピエロにアニキと呼ばれる小さなピエロは目を皿の様に見開き俺達を眺める。彼らにとって最悪の状況を理解し、まさに絶句していた。

 ラルゴは肩に担いだカトラスを兄であるピエロの首に突きつける。


 「ちょちょちょちょーっと待った!?待ってくれ、いや待ってください、話せばわかる、いやマジで!」

 「助けてくれよぉ!俺達ゃただの道化師で戦いなんてからっきしなんだよぉ!許してくれよぉ!」


 海賊船からやってきたが戦意もなく果ては命乞いを始めた道化師達に呆れたのかラルゴは突きつけたカトラスを再び肩に担ぐ。


 「で、目的はなんだ?」

 「いや、俺達も行けと言われただけで戦えなんて言われてねぇしな?なぁニア?」

 「そうだ、そういや何も言われてねぇな!アインのアニキ!」


 そう言って互いを見つめ合うピエロ達。兄はアイン、弟はニアと言うらしい。


 「戦意は無い様ですし、ドルマニアン諸島に着いたら解放してもいいのでは?」

 「まぁある意味遭難者みてぇなモンだが…つっても海賊の仲間だしな…」

 「じゃあその代わり働いてもらうってのはどうでしょうか?」


 ラルゴは俺の案に少し頭を抱えるが、納得したようで渋い顔で二人の乗船を許可する。


 「うおお!ありがとよ坊主!」

 「お前のおかげで海のど真ん中に放り出されずに済んだ!恩に着るぜぇ!」


 二人のピエロの内、巨漢の弟ニアが歓喜の余り、俺に抱きついてくる。しかし、抱きついてくる寸前目に映ったのは歓喜の笑顔ではなく邪悪な微笑だった。

 嫌な予感が脳裏を過るが俺は巨大なニアに抱き着かれ身動きが取れない。まるで万力の様にがっちりと両腕を拘束する様に抱き着かれている。


 「…ありがとよ、簡単に騙されてくれてな」


 先程まで陽気な大声を出していたアインは打って変わって低くドスの効いた声で俺だけに聞こえるようにそう呟く。

 次の瞬間、背中を局所的に焼かれる様な鋭い痛みを覚える。

 背中に残る明らかな異物感、どうやら短剣を背中に突き立てられたらしい。

 声が出ない。足に力も入らず俺はニアから解放され膝から崩れ落ちた。精一杯の力で首を動かすと手を血に染めたアインが腹を抱えて笑っていた。


 「兄様ァーーーーッ!」


 意識が朦朧とし、何も考えられない。暖かい血溜まりの上で、遠のいて行くクリスの叫び声が聞こえた。

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