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第三十六話:討伐作戦再び

夜が明けて時刻は陽の二刻。カルマン村の自警団と俺達冒険者は村中央の広場へと集まっていた。


「今回の討伐作戦について説明を行う!」


壇上で声を張り上げるのは俺の父、アルフレッド。この自警団を束ねる長だ。


「今年の討伐作戦は例年と異なりエルダの街から派遣された冒険者を交えての作戦だ。遊撃に関しては彼らに一任する。我々は各門の守備、及び村内の警戒だ。危険は少ないとは言え各自、警戒は怠るな!」


父の説明中あくびばかりしていたのは例の冒険者、マリオンだ。相変わらず態度が悪い。


「冒険者各位、この村周辺の森林の魔物は諸君らにとっては大した事の無い相手だが、三年前に出現した巨躯蜥蜴(ギガントバジリスコ)の事もある。一人で不可能な相手が出現した場合は無理をしない様に。以上だ。武運を祈る。解散!」


俺達は三手に別れ村の三つの門から出現することになっていた。組み分けは俺とアンリエッタが東門、マリオンとジャックが北門、そしてクリスとアリシアが西門だ。

作戦開始の合図と共に各自散開し、遊撃を開始する。


「じゃあアリシアさん、先に行きますね」


そう俺が言うとアリシアは「お気をつけて」と一言だけ呟き送り出してくれた。


---


(セオドアサイド)


 この森は俺とクリスにとっては勝手知ったる我が家の様なものだ。魔物が棲み着きやすい場所は大体把握している。

 森の南西に進路を取ると、早速現れたのは森林狼(フォレストウルフ)の群れ、数はざっと二十程か。群れのリーダーと思しき個体が大きな遠吠えを上げて手下の狼を嗾けてくる。

俺が狙うはリーダーの個体。森林狼はそれに気づいていたのかそれを阻止せんと次々と飛び掛かってくるがそこが俺の狙いだった。

 森林狼は賢い。群れの手下が大量にやられればすぐにリーダーは逃げていく、逆にリーダーがやられれば手下は蜘蛛の子を散らすかの様に逃げてしまう。

 しかし手下はリーダーが倒れるか逃げるまではリーダーを守る様に戦うのだ。つまりリーダーを狙えば放っておいても向こうから勝手に向かってくるのだ。

 次々と牙を剥く森林狼を斬り捨てながら、群れの長との距離が近づいていく。七割程を斬り伏せた辺りで群れの長が踵を返し逃げようとするが逃しはしない。

 今回新たに新調したばかりの短剣を胸から抜きリーダー目掛けて投げつける。

 投げた短剣は真っ直ぐに飛び、群れの長の首を捉えていた。その一瞬の間に残りの手下達も俺に斬り伏せられていた。

作戦開始早々、半刻足らずで討伐数二十三、まずは上々の滑り出しだ。


 俺が討伐証となる森林狼の左耳を削いでいるとやや北西の方向から幾つかの倒木の音が響いてきた。


 森林狼の群れを撃破した場所からそのまま真っ直ぐに暫く東進する。そこはかつて巨躯蜥蜴と対峙し、また父アルフレッドにぐうの音も出ない程に叩きのめされた場所だ。

 ビンゴ、この場所は毎年のように豚鬼と小鬼が集落を形成する場所だ。そこにいる小鬼と豚鬼の規模は他の集落を凌駕する。

 ざっと見るだけでも豚鬼が十以上、小鬼は三十は下らない。俺はその中に進んで身を投じる。物量だけで言えば圧倒的な差だが相手は当に烏合の衆、勝算はある。

 当然、魔物達は突然現れた外敵に慌てふためく。

 俺は集落に飛び込むと、ローブの下に挿してある真新しい剣と短剣の両方を握って暴れまわっていた。

 彼らは恐れること無くとにかく突っ込むだけの脳しかなく、逃げるという選択肢はまずない。せいぜい、豚鬼が小鬼に「行け」と命令する程度だ。

 俺は襲い掛かってくる小鬼を片っ端から斬り捨てる。これは討伐戦ではない。もはや虐殺、あるいは蹂躙だ。

 右手の直剣を振るえば小鬼の首が飛び、左手の短剣を振るえば小鬼の青い鮮血が舞い散る。やがて小鬼が全滅し、残った豚鬼が力任せに棍棒を振り回して殴り掛かってくるが、それらを掻い潜りながら次々と豚鬼の首を落としていく。前世の時間で言うならば五分とかからぬ間の出来事だった。

 作戦開始から僅か一刻足らず、討伐結果は豚鬼十一体、小鬼三十四体、森林狼二十三体。九ヶ月前ならこの半分も行っていなかっただろう。

 

 「っと…、まだまだ!」


 俺は次の狩場へと駆け出した。


---


(クリスティンサイド)


兄様や私にとって、この森は修行の場であり、遊び場でもあった。アンリエッタさんには悪いが今回は置いて行かせてもらう。あの小うるさい女には力を見せつけた上で制裁を与えなければ。

まずは東の森の出口付近を目指して私は走った。しかしいつもと違う格好をしているせいか少し走りにくい。道中何度か長いローブの裾を踏み、転倒しそうになる。

私が目指したのはかつて小鬼の集落があった位置だ。巨木を大黒柱にして倒木などを積み上げられて作られた見窄らしい小屋の様な建物が今も残っているはずだ。


道中何度か小規模な小鬼と豚鬼の群れに遭遇したが、即座に雷の中級魔術で奴らの身を焦がし尽くす。

巣の場所に着いた頃には豚鬼が四、小鬼が十三を討伐。作戦開始半刻足らずでこれなら上々だ。しかも目前には小鬼の集落。小鬼の存在も確認した為、かなりの数が期待できそうだ。

遠くで倒木の音が響いてきたがまずは目の前の事からだ。

私は手に持つ杖に風属性の魔力を形成した。普段から杖を使っていない為か少々違和感を覚えたが特段問題は無いだろう。

目標は巨大な木を軸に作られた荒屋。


竜巻(サイクロン)!」


杖から魔力が迸る。魔力が風を形成し荒屋の中で炸裂する。解き放たれた竜巻は荒屋ごと小鬼を次々と巻き上げらていく。豚鬼がそのまま残っているがこれは威力を抑えた結果だ。

巻き上げられた小鬼や朽木が残った豚鬼に降り注ぐ。朽木は豚鬼達を時に押し潰し、また、時に巨大な槍の様に豚鬼の体を貫く。程なくして同時に巻き上げられた小鬼達も完全に墜落し、地面に叩きつけられ絶命していた。


「作戦開始から一刻ちょっと、豚鬼が九と小鬼が三十六。まぁまぁ、と言った所でしょうか」


 私は次の狩場へと駆け出す。


---


(マリオンサイド)


作戦開始早々、アタシは森の奥へと走りこんだ。どうせ出て来るのはランクEからDの雑魚ばかり。何やら『流星』が言ってた様な気はするけど、見つけた端からこの大鎚で叩き潰すだけだ。

そもそもこれまでずっとアタシは独りでやってきた。あんな子供に、あんなパーティーでやってきた人間に冒険者として並ばれた。アタシは納得が行かなかったんだ。個人個人でならこのアタシが、鉱山族(ドワーフ)であるアタシが人間に、況してや子供になんか負けるはずがない。

森の中を走っている途中に遭遇した小鬼と豚鬼合計三十体程の群れ、獲物だ。

見敵必殺、大鎚を振り回す。イメージは竜巻のように樹木を薙ぎ倒しながら馬鹿な魔物はアタシという竜巻に巻き込まれ、哀れな挽肉になった、─が、アタシはとんでもないミスに気付いてしまった。

竜巻の様な勢いで振り回された大鎚に巻き込まれた豚鬼や小鬼は原型を留めぬ肉片となった。つまり討伐の証である耳を落とせない。

たまたま残っていた豚鬼の耳が一枚。本来ならば二十体程の戦果があったはず。だが手元に残ったのは僅か一枚だけだ。

 そこから先は丁寧に一体ずつ、体を殴る。とはいってもこの周辺の魔物は最初の集団を除いて小規模な群れにすら遭遇しない。ちまちまと狩っていても遅れは取り戻せない。狩場を変えなければ。


 「作戦開始から一刻経ってるのに…冗談じゃないわ!巻き返さないと…!」


 がむしゃらに森の中を走る。木立の陰に小鬼や豚鬼を発見しては殴り倒す。だが殆どが単体だ。作戦開始から一刻、戦果は豚鬼四体、小鬼十一体。とてもじゃないがAランク冒険者の戦果としては物足りない状況だ。


 「せめて、せめて本来この森にいない種が出てくれれば…!」


 森の中を走り回るがやはり小鬼と豚鬼にたまに遭遇する程度、願いは届かない。

 何かがいる。少なくとも小鬼や豚鬼の姿ではないが人型の影だ。


 そこにいたのはジャックだった。


 「お、おう、マリオンじゃねぇか、そっちの調子はどうだ?」


 アタシの顔を見て目を丸くするジャックは少し声が裏返って月並みな言葉を発した。


 「アンタに教える義理はないわね。ていうかアンタと話してる暇なんてないのよ」


 ジャックの質問をぞんざいに返す。


 「そうか、まぁ頑張れ。一応言っとくがこの森はあいつらの庭みたいなモンらしいから、多分あいつら、既に結構倒してると思うぞ。さっき遠目にクリスの竜巻が見えたしな」


 アタシは今の今まで失念していた。あいつらは『流星』の子供。『流星』がこの村の自警団長であるならあいつらもここで活動していただろう。少なくとも地の利は完全にあいつらにある。

 ああ、またやってしまった。アタシはいつもこうだ。人種を相手にすると侮る癖がアタシにはある。かつての仕事のミスは大抵この癖が原因だ。今回もまたそうだ。人間の子供と思って侮って結構な啖呵を切った。

 依頼書の時点で気付くべきだった。少なくともアタシはあいつらがエルダの冒険者ギルドにやって来た時に名前を知っていたんだ。そして依頼書にあった『流星』の名前。『流星』の子供だ、余程の出来損ないじゃない限り弱いはずがない。しかもその上、相手のホームグラウンドで競うとなればアタシは俄然不利。

 でも、あれだけの啖呵を切っておいておめおめと「負けました」じゃ、格好がつかない。アタシにだってプライドってモンがある。負けたくない。負けたとしても意地は見せたい。


 「…やってやろうじゃない!」

 

 アタシのミスはアタシが尻拭いしなければ。Aランク冒険者の名にかけて。

 アタシは地面を蹴り、次の狩場へと急ぐ。

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