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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第二章:兄妹の旅立ち
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第二十二話:達成報告

 朝だ。昨日は宿の酒場でジャックに酒を飲まされる運びになった。

 三年前に飲まされた時は、翌日に激しい頭痛を感じていたが、今回はそうでもない。

 量は飲んでいないし体の成長によるものもあるだろう。ただ癖になるのは不味い。今回はアクシデントの様なものだ。飲むとしても祝いの時だけに留めておこう。


 ベッドから体を起こすと見覚えのあるローブと下着が床に脱ぎ捨てられていた。はて、クリスはすぐ横でまだ眠っている。


 …見てしまった。元の世界の自分とは赤の他人だが、この世界では俺の妹であるその裸体を。


 膨らみかけの双丘に少しだけ顔を出し始めた茂みを。

 取り敢えずは部屋の浴場に行って顔を洗い、歯を磨き終える。

 部屋にそのまま居ても意識をしてしまう為、俺は先に宿の食堂へ移動し、食事を済ませることにした。

 クリスが起きて、俺が部屋におらず心配せずに済むよう、先に食堂へ行っている旨を書き置きで残しておく。


 昨日の夜と違い、朝の食堂は人がまばらだ。とりあえず席につき、朝食を用意してもらう。

 今日の朝食は黒パンにチーズ、そしてハムにポタージュだ。俺は更に銅貨を一枚払い、紅茶を追加で頼んだ。

 食事が済む頃にクリスが食堂へやってくる。

 クリスは顔を赤くして俺と目を合わさないようにしていた。目覚めて自分の痴態に気付いたようだ。

 かくいう俺もとてもじゃないがクリスを直視できなかった。

 入れ違うように俺は食堂を後にして部屋に一度戻る。

 外出の準備を済ませて、クリスの帰りを待つ。

 程なくしてクリスが食堂から帰ってきた。


 「…あの…兄様、…見ましたか?」


 俺は返答に悩んだ。「見ていない」と嘘をつくべきか、それとも素直に「見た」と答えるか。

 いや、嘘をつくのは悪手だろう。即答をしていない時点で「見た」のは自明だ。


 「…ああ、見た」


 クリスは赤面し顔を伏せる。

 俺自身もどう声をかければいいのか解らなかった。妹とは言え、二次性徴の始まった複雑な年頃だ。

 兄に自らの生まれたままの姿を見せたという事実が彼女を赤面させているのだ。


 「…忘れて…ください…」

 「…うん」


 クリスは忘れろと言うが、正直無理な話だ。この世界に転生して、母親以外で始めて見た女性の体だ。俺自身この体は齢にして十二だが、前世の分を足せば二十八になる。俺も健全な男子だ。性欲の一つや二つくらいはある。妹に欲情するかと言えば嘘になるが、それを実行に移すのはこの世界でもご法度だ。さすがにそれくらいの分別はある。


 暫く沈黙が続いた。俺もクリスも微動だにしない。


 (き…気まずい…)


 部屋の中に暗い雰囲気が漂っている。何とかせねば。


 「と…とりあえず、ギルドに行こうか…冒険者登録も済ませないといけないし」

 「そ、そうですね、じゃあ…用意します」

 

 俺は既に外出の準備を済ませているので一旦部屋を出る。その間に受付に行こう。部屋を変更してもらわなければ俺の理性がいつ持たなくなるか分かったものではない。


 受付に行き、部屋の変更を申し出る。ダブルではなくツインの部屋を取ることにした。

 シングルの部屋を別々にとってもよかったが、宿の従業員が巡回はしているとは言え、宿に泊まる経験が少ない俺達が個人個人で荷物を管理するとなると不安が残るため、敢えてツインの部屋を選んだ。

 それと一週間程の宿泊費を先んじて払っておく。しばらくこのエルダの街は拠点となる。ギルドの紹介もあり、一泊あたり夕食と朝食の二食付きで銀貨一枚と銅貨三枚の所を銀貨一枚にしてもらえた。

 

 部屋に戻るとクリスがいない。ベッドの上にクリスの荷物もない。

 突然俺は尿意を催した。この宿は各部屋に便所がある。ビジネスホテルの様に浴場にそれはある。

 そして浴場の扉を開くとそこにはクリスがいた。驚きの表情だった。そしてクリスは今まさに下着を着ようとしている所だった。二度目の遭遇である。

 俺は静かに扉を閉めようとした…-が、手遅れだった。

 叫び声と共にクリスの手から電撃が放たれた。


 「…お客様、起きて下さいお客様」


 宿の従業員の声で意識を取り戻す。どうやらクリスの叫び声を聞きつけて飛んできたらしい。

 クリスは部屋の隅で顔を伏せて小さくなっていた。


 ---


 「今度から浴場に行く時はノックで確認します。済みませんでした」

 「…次からは…気をつけて下さい…私も…もう十二です…胸も少しですが膨らみ始めてますので…」


 (意識するな…意識するな…)


 自分にそう言い聞かせながら俺は土下座の姿勢を守り続ける。

 

 ---

 

 外出の準備も済んだので部屋を出る。荷物を少し部屋に置き、現在持っているのは、昨日討伐し、冷凍保存した棘土竜の肉とその皮、それと武器と財布だけだ。


 宿を後にして、ギルドに直行する。ギルドマスターが手をひらひらと振り、笑顔を見せる。


 「来たわねぇ。もう殆ど用意は終わってるわよー」


 ギルドマスターがカウンター内側から書類と冒険者ギルドに所属している事を示す徽章を二つずつ、そして昨日預けておいた討伐証となる棘土竜の鼻を取リ出し、カウンターの上に置く。

 徽章は金にギルドのレリーフが施されており、その中央に小さな緑の石が埋め込まれている。


 「この書類を書いて貰ったら冒険者登録は完了ね」


 すぐに俺とクリスは書類に羽ペンを走らせ、記入の済んだ書類をギルドマスターに渡す。

 書類を受け取ったギルドマスターは渡した書類をまじまじと見ている。不備でもあっただろうか。


 「…ホワイトロック?…貴方達もしかして『流星のアルフレッド』の親戚かしらー…?」

 「その二つ名は知りませんがアルフレッドは僕達の父です」

 

 クリスもコクコクと頷く。

 その前に先日のバレンティンの事といい、どうやら俺達の父親は結構な有名人のようだ。それもそうだ。十二歳で家を飛び出し、王都の騎士団に入団、俺達が生まれたのが二十一の時だから少なくとも二十の時までには騎士団を辞めているだろう。

 そのことを鑑みれば、入団からたった八年間の間で騎士団の兵長格まで昇格している。

 この国の騎士団は入団から三年の間は訓練兵だ。つまり実質五年間で部下を持つような位置にまでつけている。十分なスピード出世だ。

 

 「あら、彼ったら自分の子供には話してなかったのねぇ。少なくともこの国の騎士や剣士で知らない人間はいない程の人よぉ。ある日突然騎士団に流星のように現れて、次々に戦果を上げて、また流星のように辞めて行ったのよねぇ」


 恐らく辞めたのは母の妊娠が原因だろう。


 「話が長くなっちゃったわねぇ。どうも酒場に入り浸ってる連中がソワソワしだしてるし、面倒なら早くカダモンさんの所に報告に行っちゃうといいわぁ」


 後ろを振り向くと、昨日の夜のようにスカウト目的の冒険者達がまるで飢えた狼のような目つきで此方を凝視していた。


 「…わかりました。では報告に行ってきますね」

 「そうねぇ。また後で来るかしらぁ?」


 俺は「いえ。」と一言答える。酒場の方から舌打ちが聞こえたような気がした。


 「へぇ…『流星のアルフレッド』の子供、ねぇ」


 よく聞こえなかったが誰かが声を漏らしていたのが聞こえたような気がする。


 ---


 ギルドを後にした俺達は青果市場のカダモンの元へ依頼達成の報告に向かった。


 今日は番頭だけでなくカダモンも市場内をうろついているようだ。

 向こうも此方に気付いたらしくフラフラと市場の商品を大雑把に確認をしながら近づいてくる。


 「よう、坊主生きてたか!」

 「縁起でもないこと言わないで下さい」


 相変わらずこの男は軽い。俺はカダモンに釘を刺しておく。


 「はっはっは、スマンスマン。で、今日は何の用だ?もしかしてもう達成報告か?ズルはしてねぇよな?」

 「棘土竜の鼻なんて使い道も無いのに売る人なんていますかね?この依頼の発注に合わせて売ってくれるような人がいて在庫抱えてる冒険者がいればこっちとしてはすごい楽ですけど」


 俺がこの軽い男のゆるい問いかけに冗談を交えながら返すとカダモンは大笑いしていた。


 「ブッハハハハハ!そりゃそうか!悪い悪い!じゃあ討伐証を数えようか…って多くないかコレ…?」


 カダモンは大笑いしながら俺が差し出した討伐証の棘土竜の鼻を受け取る。その数を見てカダモンの顔から若干血の気が引いたのが見て取れた。


 「ひぃふぅみぃ…ざっと二十八、だな。ええと―…」

 

 カダモンが棘土竜の鼻の数を数える。精算額を暗算しようとしていたが、面倒になったようで算盤を店のカウンターから取り出して計算を再開する。


 「んーと、金貨三枚と銀貨一枚、銅貨が六枚か…手持ちは…細かいのがねぇな。坊主、あいつら殲滅してくれたんだろ?」


 カダモンの手持ちではどうやら銅貨が足りなかったようだ。殲滅について確認してきたので俺は素直に殲滅したと答えた。

 

 「そーかそーか、殲滅までしてくれたのか、じゃあかなり骨だったろ。色つけてやる、取っときな!」


 そう言ってカダモンは四枚の金貨を此方に渡してくれた。


 「カダモンさん、よろしいんですか?銀貨八枚と銅貨四枚分ほど多くなりますけど」

 

 クリスがカダモンに確認する。


 「いいってことよ!あのルートが安全に移動できるようになったなら、釣りまで出て返ってくるってもんさ」


 軽く多少口の悪い男だがこのカダモンと言う男、太っ腹だ。彼はきっと将来大店になるだろう。


 「わかりました。じゃあこれはそのまま受け取っておきます。ありがとうございました」

 「なぁに、礼を言うのはこっちの方だ。ありがとよ、坊主ども!」

 

 こうして俺達の初めての冒険者としての仕事が終了した。

 これにて「-転生奇譚- リンカネーションストーリー」本編第二章完結になります。

 気がつけば早いもので、文書回を除いてもう10万文字になろうかとしております。


 次回更新は本業の関係上、明後日6/24になるかと思いますが断章と文書回の投稿を予定しています。本編第三章はその翌日か翌々日になるかと思いますのでしばらくお待ちください。


 アクセス解析見ていたら気がつけばユニーク500越えていました!毎度読んで頂いている方、たまたま読んで頂いた方、励みになっております。まだまだ粗の目立つ拙作ですが今後共、「-転生奇譚- リンカネーションストーリー」を宜しくお願い致します。

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