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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第二章:兄妹の旅立ち
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第二章断章:兄妹のいなくなったホワイトロック家

 「アルフ、終わったの?」

 「ああ、少しヒヤリとしたが…まぁ、一丁上がりだ。…いや、二丁か」


 森の木立の中からセリーヌが現れる。手筈通りだ。

 アルフレッドの足元には自分の子供が横たわっていた。

 娘は口から血を吐き、息子は全身痣だらけ、さらに頭から流血だ。


 「少し、やり過ぎなんじゃない?」

 「んー、まぁな。ただこれくらいしなきゃならんくらい強くなってたからな」


 セリーヌはボロボロの自身の子供達の変わり果てた姿を見ながらも冷静だ。

 

 「まぁ…『流星のアルフレッド』が十二の子供相手にうっかり命まで奪ったりなんてことは無いと思っているけれどね」


 セリーヌは横たわる自身の子供達に歩み寄る。その両手には二つのバックパック、そして小脇に古ぼけた魔術書が抱えられていた。


 「用意は出来てるわ。ホント運ぶのに苦労したわよ」

 「ああ、悪いな。大変だったろ」


 セリーヌが二つのバックパックを置く。


 自分の子供を送り出すために夫婦は芝居を打った。この世界の武人にとって子供が親を越える事は親子共に名誉なことである。逆に武人として生きているのに親を越えられない子供は出来損ないと言われてしまうし、親の教育にも問題があるのではないかと後ろ指を指される事になり、親子揃って不名誉な事となるのだ。

 尤も、アルフレッドの強さを鑑みれば、この場合、息子は同情される方であろうが。

 アルフレッドはこの大陸でも一、二を争う実力者、自分の息子が自らを越えるには相当の苦労が強いられる。村での生活ではそれは絶対に叶わない願いなのだ。

 元々ホワイトロック家の家訓として「十二歳を迎えた子供は旅に出す」というものがある。

 それは親を越えて欲しい、そう願って決められたホワイトロック家の家訓だった。

 アルフレッドの場合は自主的に飛び出して独力で力を身に着けた。しかしアルフレッドは強くなりすぎた。

 彼の父もかつてはブリュンヒルデで名を馳せた剣士であり、騎士にはならなかったものの、騎士達の指南役を務める程であったと言う。

 だが彼が家に戻ると父の剣は全盛の頃を鑑みたとしても、騎士達よりは強いが自分には遠く及ばない実力しかない事が剣を交えるまでも無く分かってしまった。

 彼はそこで漸く自身が余りに強くなり過ぎた事に気付いたのである。

 家訓の真意に沿うならば、ただ送り出すだけではダメだ。村の自警団員で最も強い人間の一人程度で調子に乗られては困る。だからこそアルフレッドは二人を完膚なきまでに叩きのめした。


 「さて、まだ暫くは起きやしないだろうが、早いところ済ませてしまおう。セリーヌ、治療はいい。二人共治癒魔術は使えるようだから、自分で治せるだろ」

 「ええ、あんまり手心加えると別れ難くなりそうだし」


 アルフレッドがセオドアを担ぎ、横たわるクリスティンの隣に横たえさせる。


 一通りの準備が終わるとアルフレッドは腰から剣帯を外し、愛用の剣をセオドアのバックパックの横に置く。セリーヌも小脇に抱えた魔術書をクリスのバックパックの横に置いた。そして最後に二枚の手紙を添えておく。


 夫婦が子供達に寄り子供の耳元で囁く。


 「強くなれよ…俺をきっと驚かせるような強い剣士に」

 「しっかり…セオを支えてあげてね…そしてきっと帰ってくるのよ…」


 二人は眠っている息子と娘との最後の別れを一方的に進めた。

 

 「じゃあ、セリーヌは先に戻っててくれ。アリーシャが居るから問題はないと思うが、シグルドに何かあったら大変だ」

 「そうね。あなたは念の為見張ってるんでしょう?二人に見つからないようにね」


 二人は軽くキスをしてから森の中へと消えていった。


 ---


 セリーヌが屋敷に戻ると小さな男の子が出迎えに走ってくる。

 セオドアとクリスティンの弟、シグルドだ。シグルドも今年で三歳になる。セオドアやクリスティン程ではないが、言葉は既に話せるし、文字も多少は読めるようになっていた。

 

 「ただいま、シグ」

 「おかえりなさい、おかあさま。…?おとうさまとおにいさまとおねえさまは?」

 

 正直答えにくい質問だ。セリーヌは答えやすいアルフレッドの事だけに絞って返答を返す。


 「お父様はお仕事で明日帰ってくるわ。だから今日はいい子にしてるのよ」


 「ふーん、そういえばおかあさま、さっきそとにもっていったかばんはどうしたのですか?」

 「お、お父様が忘れ物をしたのよ。それを届けに行っていたのよ」


 苦しい。今までアルフレッドが夜回りをする時に大きな荷物を持っていくことは一切無かった。ゆえにシグルドは首を傾け疑いの眼差しこちらに向けている。


 「シグルドお坊ちゃま。もうお休みの時間ですので、そのくらいで」


 台所からアリーシャが出て来る。助かった。

 アリーシャはシグルドを抱きかかえて子供部屋へ連れて行く。


 「さて…シグへの説明はどうしたものかしらね…」


 ホワイトロック夫妻はシグルドに兄と姉を旅に出すことを話していなかった。

 勿論、追々、説明はするつもりだったが今回の例はホワイトロック家では数少ないパターンの送り出し方だったため、シグルドに伝える事はできなかった。


 「今知るとぐずるからまだちょっと話せないわね…」


 程なくして、シグルドを寝かしつけたアリーシャが子供部屋から出てくる。


 「アリーシャ、何かいい方法は無いかしら」


 アリーシャは主語がなくても問いかけられた質問の内容をすぐに理解した。


 「そうですね…、王都の学校…と言うとシグルドお坊ちゃまは恐らく連れて行くようにせがむでしょうし…。シグルドお坊ちゃまはセオドア様とクリスティン様をお慕いしておりますので」


 アリーシャも顎に指をかけて考える。数秒考えて閃いたのか、すぐに口を開く。


 「連邦の魔法学校へ留学した、というのはどうでしょうか?あの学校は大陸を隔てた先の学校ですので、シグルドお坊ちゃまも諦められるかと思われます」


 アリーシャの案が一番無難そうだ。しばらくはこれで説明がつく。シグルドもあと9年後には旅に出すことになる。ある程度成長してから改めて説明をすればいいだろう。


 ---

 

 「さて、と」

 

 鬱蒼と茂った森の中、セオドアとクリスの位置から死角となる場所でアルフレッドは切り株に腰掛けた。


 「こいつらも強くなったもんだなぁ。まぁ俺にはまだまだ及ばんが」


 自分の子供達の寝顔を見ながら感慨深そうに呟く。

 本当ならば息子達の成長をもう少し見届けたかったが、それは甘やかしになる。

 磨けば光る原石だ。子供の才能を育てるのは親の義務だが、生憎、この村はそういった環境にはない。留まらせればその才能を腐らせる。アルフレッドはそれは子供にとっての不幸だろうと考えている。

 

 「『流星のアルフレッド』、越えて見せろよ。セオ」


 起き上がる息子と娘を見届けてアルフレッドは夕闇の森に消えていった。


 ---


 「おとうさま、おかあさま。おにいさまとおねえさまはまだかえってこないのでしょうか?」


 いままで六人で囲んでいた朝食にセオドアとクリスティンの姿がない。シグルドは不審がって父と母に問いかけた。

 アルフレッドは昨日、シグルドが眠った後に帰宅し、既にセリーヌとアリーシャと話し合ってセオドアとクリスティンが居なくなった理由についてのカバーストーリーをすり合わせておいた。


 「ああ、セオドアとクリスティンは昨日の昼にグリモルデ大魔大陸の魔導連邦へ立ったよ。父さんはその見送りに行ってたんだ」

 「ええ、二人共、魔導連邦の魔術学校に入学したいって言い出してね」

 

 アルフレッドとセリーヌは手筈通りに話を進める。


 「おにいさまとおねえさまは…ぼくにはなにもはなしてくれませんでした。なぜだまっていたんですか?」


 想定していない質問だが、アルフレッドは即座に答える。

 

 「二人ともシグルドに話したら決意が揺らぎそうだと言ってな、口止めされてたんだ」


 シグルドは黙って椅子にすわる。シグルドはセオドアやクリスティンとは違い、凡百の子供だ。

 魔術もまだ使えないし、まだ文字もしっかりとは読めない。それに剣術についてもセオドアの同じ頃と比べると二回りも三回りも下だ。シグルドは才のある兄姉に憧れていた。その兄姉が突然姿を晦ましたのだ。

 シグルドは今にも泣きそうな顔をしていた。


 「シグルド、お前もいつかは兄さんと姉さんの背中を追いかけることになる。その頃にはきっと兄さんと姉さんはもっと凄い兄さんと姉さんになっているだろう。その二人の背中を追いかけるためにも、今はこの村で勉強をしなさい」


 アルフレッドはそう言ってシグルドを諌めた。


 ---

 

 セオドアとクリスティンの旅立ちをシグルドに話して以降、シグルドは積極的に本を読むようになった。剣術の稽古もこれまで以上に精力的に取り組んでいる。

 

 (つよくならなきゃ…べんきょうしなきゃ…おにいさまとおねえさまにはおいつけない…!)


 カルマン村の一際大きな駐在騎士の屋敷、その庭の周囲には毎日木剣を打ち鳴らす音が景気良く響いていた。

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