第百九十六話:騎士の街、アヴァル
アヴァルの街に入って直ぐに気付いたのは門を抜けて真っ直ぐ伸びる大通りに漂う物々しい雰囲気だ。
これだけの大きな街ならば行き交う人でごった返していてもおかしくは無いが、街の人々は通りの端を歩き、通りの中央には子供すらも歩いていない。
せいぜい横断する為に通る人がたまにいるくらいで、それでも通りの先に気をつけながら足早に通り抜けている。
「おかしな街だな…、魔獣車も通っちゃいない」
魔獣車で道の真ん中を進んでいるのは俺達だけで街の人々も怪訝な顔つきで一瞥すると直ぐに目を逸らしていた。
「お、おいアンタ達…!」
「はい?」
そんな中、一人の老人が慌てて声をかけてくる。
ラングは魔獣車を停めて、老人の呼びかけに耳を傾けていた。
「ア、アンタ達、余所から来たのだろう? 悪い事は言わん、早く横道に入っておきなされ」
「と、言いますと?」
「もうすぐ騎士達が魔物の討伐に向かう為にこの通りを通っていくらしい。行進の邪魔をすれば幾ら旅人でも何をされるか…」
老人の話す事情は見えてこないが、凡そ大名行列と言った所か。この街では騎士は絶対的な存在なのだろう。
そして話をしている途中で通りの先から勇ましいラッパの音が響いてくる。
「ひぃっ、と、ともかくワシは伝えたからなっ!悪い事は言わんから急いで通りから出ておきなされっ!」
老人はラッパの音を聞くと、慄き逃げる様にして通りから離れていく。
「なんなんでしょうね…」
「さぁ…、ただ面倒事は避けたいですし言われた通りから…」
ラングは老人の様子に首を傾げていたが、とりあえず老人に言われた通り、彼に通りから離れる様に伝えようとした瞬間、通りの奥から整列した騎士達が行進してくるのが見えてくる。
当然、騎士達も此方に気付いたらしく、二人の騎士が俺達の元へと走ってきた。
「止まれっ!貴様等、我々が行進すると知っていて通りの真ん中を進んでいるのかっ!」
確かに大名行列の中を横切るのは彼らにとって無礼極まりない行為だが、此方もまだ街に到着したばかりで事情もわからないでは注意のしようも無い。
一応は場を丸く収めたいが為に、俺は代表して彼らに答える事にした。
「申し訳ありません。我々も街に来たばかりで事情も知りませんでしたので…。すぐに離れますのでご容赦願います」
「問答無用ッ!」
騎士達は此方の言葉に聞く耳持たず、いきなり腰の剣に手をかけると、斬りかかってくる。
確かに大名行列を横切った者は事情を知らない外国人でも斬られはしたが…。
「生麦事件じゃあるまいしっ!」
「おのれ、手向かうかっ!」
「斬り捨てろっ!」
いきなり斬りかかってきた騎士達の攻撃を躱すと、それにすら激昂している様子だ。
此方も無抵抗でいるわけにもいかない、俺も剣を抜き、彼らに抵抗する。
「悪いけど、先に手を出してきたのはそっちだからなっ!」
「ええい、殺してしまえっ!」
「そう簡単に殺されてたまるかっ!」
「ぬおっ…!」
「ぐっ!」
騎士達の剣を騎士剣で受け流し、隙を突いて柄で殴り、鎧の上から蹴り飛ばして間合いを切る。
だがそれでも彼らの怒りはさらに増すばかりだ。
「き、貴ッ様ァァッ!」
「我ら騎士の鎧を足蹴に…、許しておけぬッ!」
「知るかっ!少し…大人しくしてろッ、放電撃ッ!」
「ぬわーーっ!」
「あばばばばっ!」
理不尽に仕掛けてきて攻撃をやめようとしない騎士達に俺もいい加減、頭に来ると左手から電撃を浴びせ彼らを黙らせる。
流石に死んではいない筈だが、金属の鎧は電撃をよく通し、二人の騎士は直ぐに気絶してしまっていた。
「不味いな…魔獣車もあっちゃ逃げ様が無い」
「あわわ…騎士達になんて事を…」
「逃げろっ!巻き添えだけは御免だ!」
周りの人達は俺が騎士達を倒してしまうのを見ると蜘蛛の子を散らした様に逃げてしまう。
そして懸念通りに騎士達の行進も目の前まで近づいてきていた。
「行進止め!」
行進の先頭を務める旗を掲げた高位の騎士が疾走馬を止めると、後続の騎士達に号令をかける。
一糸乱れず足を止めた騎士達はこの広い大通りの先を埋める程まで連なっており、数百人は下らないだろう。
「整列、道を開けろっ!」
整列した騎士達が中央を開けて左右に割れると跪き、その間を抜けて奥から一人の青年が疾走馬に乗ったまま前に出てきて号令をかけていた騎士の横に並ぶ。
「ジスカル、何があったか」
「は、この者らが我らが騎士を」
「事実か」
「俺らがじゃなくて俺がやった。それが事実だ」
騎士らしき青年がジスカルという壮年の騎士に訊ねると、ジスカルは俺達がやったものと答えた為、俺はそれを訂正する。
「黙るが良い。此処に在わす御方を何と心得るか」
「さぁね、少なくともいきなり斬りかかってきたのはおたくの騎士様だ。こっちも丁寧に謝った筈だけど聞く耳持たないで斬りかかってきたからのしただけだぞ。別に殺しちゃいないし文句を言われる筋合いもない」
「…おのれ黙って聞いておれば…!」
「ジスカル、少し黙っておれ。貴殿、SS−級の冒険者だな?」
「何と…!」
青年騎士は俺達の身に着けている冒険者証に気付くと疾走馬を止め、苛立つジスカルを黙らせる。
「…やっとまともに話せそうなのが出てきたな。ああ、その通り、別にアンタ達の行進を邪魔するつもりじゃないし、丁度道を開けようとしたけど間に合わなかった、それだけだ。ほんの少し時間をくれれば直ぐに消えるさ」
「…ぬぐぐ、貴様ァッ!ここに在わす御方はッ…!」
「…ジスカル!」
「…、…は」
この青年も地位のある人間の様だ。
青年が一喝すると、ジスカルと言う高慢な騎士も押し黙り控えている。
「名ぐらい余から名乗る。余はアゼル・"ヴィント"・アーサー・アヴァル」
「なるほど、アーサー領の王、風の賢者って訳か」
騎士を束ねる男、ジスカルを一喝し黙らせた青年はこのアーサー王領を治める人物、その人だった。
「わかったのなら平伏すがよい!貴様、王を何だと…」
「平伏すも何も、こっちは一介の冒険者。国民や他国の重臣でも何でもないし。郷に入っては郷に従えとは言っても、上から目線で物を言われてはいわかりましたってペコペコするつもりはないさ。ましてや事情もわからないままに斬りかかられて素直に黙って斬られる方がどうかしてる。少なくともジスカルさん、アンタみたいなただ騎士だの何だのとか宣って周りを見下してる様な人間相手なら尚更だ」
ジスカルにそう言い切ると、彼は歯軋りの音を鳴らして怒り心頭と言った様子だ。
「控えておれ、ジスカル。余はこれから街の外にある軍隊禿鷹の巣を駆逐しに行く所なのだ。魔獣車が動かせぬのであれば騎士達に誘導させよう」
「そうさせてもらえると助かる。…アゼル王、軍隊禿鷹の巣って…街から出てしばらく街道を行った先にある窪地の所か?」
「ふ、アゼルでよい。貴殿が言った通り余と貴殿の間には主従の関係は無い。故に畏まる必要も無い。さて、いかにも、街道を行く商人の通報でな。…魔獣車の状態を見る限り貴殿らも襲われたのだろう、SS−級の冒険者であれば追い払う事など訳は無かろうが、民にとっては十分な脅威となる、捨て置く訳にはいかん」
アヴァルが話す軍隊禿鷹は俺達がリーダーを仕留め壊滅に追い込んだ群れの事らしい。
しかし王自ら討伐に赴くとは珍しい事だ。
「…だったら多分もう戻っては来ない筈だ。襲われたのは確かだけどその時に群れのリーダーを仕留めて群れもバラバラに逃げていった。巣も卵を残したままもぬけの殻、もう安全な筈だ。なんなら魔獣車の中に奴らの巣から持ち帰った卵が大量に入ってる、それが証拠だ」
「ほう…? ジスカル、騎士に検めさせよ」
「はっ、仰せのままに。魔獣車の中を検めよ!」
騎士達はジスカルの命令のままにラングの魔獣車の中を調べ始めると、すぐに床一面に並べられた軍隊禿鷹の卵を目にして彼らに報告していた。
「かなりの数ですが、間違いありません、全て軍隊禿鷹の卵です」
「ぬうう…」
「そうか、ご苦労。下がってよいぞ」
「はっ!」
報告を終えた騎士を下げると、アゼルは少し目線を落とし、考え込む様な素振りを見せてから再び俺に視線を合わせる。
よく見ると、騎士達の中に一瞬見えない様に剣に手を掛けた者がいたが、すぐにジスカルがそれを止めさせていた。
恥をかかされたと怒ったのかも知れないが、流石に王の前で特に落ち度を追求できない状況となった為、ジスカルも恥の上塗りとならない様に彼らを止めさせたのだろう。
「かなりの数と言っていたが…、それ程の群れだったのか?」
「ああ、相当な規模の群れだった。おかげで少しばかり手を焼いたけど…、ギルドが動いてないのに騎士が動くという事態になってるのが不思議なくらいだ。恐らくしばらく放置された結果、あそこまでの規模になったんだろうな」
「聞いてはいたがそれ程か…まず国を治める者として貴殿に感謝せねばなるまい」
「たまたま通りがかりに襲われて自衛の為に倒しただけだ、感謝される程の事じゃないさ。…だけどあの規模の群れ、ギルドがもっと早くに動いていればとっくの昔に解決してた筈だ。この街にギルドは無い、なんて言わないよな?」
「無論だ。ギルドには我々の手の届かない場所の問題を解決してもらっているが…、対応出来るだけの冒険者がいなかったのだろうな」
果たして本当にそうなのだろうか。
少なくとも地理的な話を言えばこのアヴァルの街は大陸の南に広がるデモンガルドにも続く中継地でもある為に商人もだが冒険者達の出入りも当然多い。
特に冒険者はデモンガルド南端の迷宮の街ラビリアを目指す場合は大半が東側に広がる琥珀の大砂海を避ける為、魔都ネロウには立ち寄らず、アヴァルを経由して一気に西側を迂回して行くルートを通る。その場合、このアヴァルの街がラビリア行きの中継地となるのだ。
報告を受け依頼として公開された時点で引き受けられる程の実力を持つ冒険者がいなかったとしても、いずれかのタイミングで誰かが引き受けた筈で腕利きの冒険者が全くいない、という事は少しばかり考えにくい。
「さて、先に解決されたのであれば余が出る意味も無くなってしまったな、引き返さざるを得まい。…ジスカル、騎士達を撤収させよ」
「は、直ぐに」
「さて、貴殿の名を聞くのを忘れていた。差し支えなければ名を聞かせては貰えないだろうか」
「セオドア・ホワイトロック、旅の冒険者だ」
「セオドア…か。此度の件、貴殿には改めて感謝すると同時に騎士に手を挙げた事については余は何も見なかった事としよう。…貴殿とはまた別の場所でゆっくりと話したいものだ」
アゼルはマントを翻し疾走馬を反転させると、城へと引き返す騎士達を追って去っていった。
「あれが風の賢者…か」
「セオドアさん、話は聞いてましたが…」
「…まぁとりあえずはお咎め無しで済みましたかね」
「ええ、騎士に攻撃した時はどうなるかと思いましたよ。…とりあえず長居は無用です、まずはギルドへ向かいましょう」
「了解しました」
騎士達が去ってからは大通りは元通り、人々の往来でごった返していく。
俺達はラング達と一緒にまず街のギルドを目指した。
「さてウォルスさん、これが今回の護衛の報酬です」
「ああ、じゃあこれでお別れになるかね」
「ええ、群襲鳥にやられた荷物の補充もありますから私はしばらくこの街に留まりますので」
「そうか、セオドアさんのお陰で被害は抑えられたが…俺達が不甲斐なかったせいで迷惑かけたな」
「いえ、私も一時はウォルスさん達を疑いましたからね、言いっこ無しとしましょう」
ラングはウォルス達と握手をして別れると、魔獣車を駆りギルドから去っていく。
積荷はいくつかやられてしまったが彼は軍隊禿鷹の卵を売れば十分取り返せると笑っていた。
「さて…セオドアさん達はどうするんだ?」
「俺達は何日か滞在したら今度は北に向かってアレクサンドル領を目指すつもりです」
「じゃあセオドアさん達ともお別れですね。私達はこの街から南、デモンガルドを目指すので」
「じゃあラビリアですか?」
「ううん、流石にラビリアは私達じゃ力不足ね。元々別の依頼でデモンガルドに向かう途中だったのよ」
聞けばウォルス達がラングの護衛を引き受けたのは別の依頼での旅路のついでだったそうだ。
「お陰でラングさんだけじゃなくて私達も助かったわ、ありがとね」
「俺達も明日発つつもりでな、今日のうちに準備しとかねえといけねえもんで。セオドアさん本当助かりやした!」
「ええ、皆さんも気を付けて、またいつか」
「セオドアさん、それに皆さんも。このご恩はいずれ返させて頂きます。それでは」
ラング達に続いてウォルス達もまたギルドを後にし、俺達は彼らを見送ると再びギルドの中へと戻る。
俺はとりあえず確かめたい事があり、仲間達に宿の確保や必需品の補充を任せてギルドに残っていた。
「どうしたね? 何か受けたい仕事があるのかい?」
ギルドに張り出された依頼書を眺めているとギルドマスターの老人が話かけてくる。
「いえ…、ただ一つ聞きたいんですが軍隊禿鷹の討伐とかそういった依頼が出てませんでしたか?」
「…いんや、ここ暫くはそんな依頼は来てないねぇ。それがどうかしたのかい?」
ギルドマスターは一瞬言葉を詰まらせたが、直ぐに元の通りにゆっくりとした口調でそう言葉を返す。
俺はどうしてもギルドが軍隊禿鷹の討伐に乗り出さなかったのかが気になり残っていたが、依頼書は当然残っておらず、老人もそのような事実は無いと言う。
本来ギルドが解決する案件の筈で、あれだけの規模の群れになる前に解決できた筈、対応が遅れるものとは考えにくいし、況してや依頼そのものが無いと言うのは些か不自然だ。
「街から四刻程行った所で軍隊禿鷹の大規模な群れに襲われまして、勿論撃退したんですが依頼が出てなかったのかなって思いまして」
「そいつは残念だったなぁ。依頼が無かったんじゃあ金にならんからねぇ。…こっちも残っちゃおらんよ」
ギルドマスターの老人はそう返しながら一応は依頼書が残っていないかをカウンターの裏で確かめていたが、やはり依頼は無かった様だ。
「…じゃあ質問を変えます。ここ最近、出入りしている冒険者で軍隊禿鷹の事を話してたりは無かったですか?」
「…聞いたような、聞いてないような」
「なら、軍隊禿鷹はこの時期に産卵するんですか?」
「ああ、冬も明けたからねぇ。それに産卵を始めりゃ群れもそれを守る為に気性も荒くなるだろうよ」
のらりくらりとギルドマスターは俺の質問を躱していく。
最初に言葉を詰まらせたのは俺の気のせいだったのだろうか。
「ま、襲われたのは災難だったろうけど…、依頼が無かったのはこれまた災難だったねぇ」
「…ええ。そう言えばここに貼られている依頼書、大半が討伐依頼と卵の調達依頼ですね」
「ああ、まぁこの時期はさっき話した通り、鳥種の繁殖期でねぇ。卵の調達依頼はしょっちゅう来るし、気性の荒くなった魔物の討伐依頼も少なくないねぇ」
「へえ…」
下の方に貼られていた依頼書に視線を落としながら生返事を返していると、俺はある依頼書に目が止まる。そこに書かれているのは卵の調達依頼だ。
依頼の内容については軍隊禿鷹の卵の調達であり、そこまではいいとして、その詳細を見るとギルドマスターの話が矛盾している事に気付いた。
「この依頼書…」
「ああ、軍隊禿鷹の卵の調達かい? まぁ他の場所にも奴らの群れの巣はあるからねえ」
彼は別によくある話だと片付けようとしていたが、その依頼書を俺は掲示板から剥がすと彼の前に突き付けた。
「成る程、じゃあこの依頼書のここにあるのは?」
俺は依頼書に記載されている詳細部分を指差していた。
軍隊禿鷹の卵の調達依頼が書かれた依頼書の詳細部分にはおおよその巣の位置がいくつか記載されている。
その中でも特に詳細に書かれた場所は三つあり、一つはアヴァルの街から南西へ二日程の渓谷地帯、もう一つが同じく北北西方向へ一日半程の森林地帯で、最後に街からダビデ領方面へ街道沿いに約四半日とあり、加えて"大規模な営巣地につき注意"とまで書かれている。
ギルドマスターの前でその三つ目の場所を指でなぞると、彼はその答えに窮していた。
「俺達が軍隊禿鷹に襲われたのは丁度この場所、この依頼書にある通り、相当数の軍隊禿鷹が構成する群れで、完全に一致してます。ギルドマスターは依頼の管理が仕事の筈、日付も数日前でまさか忘れていたとは言わないでしょう。…いや、剥がすのを忘れていた。違いますか?」
「い、いや…これは…、まぁそう言う事もあるだろう…、ねぇ?」
ギルドマスターは左手を後ろにしたまま、右手の報告済みの依頼書の束を片付けながら返答を濁していた。
「失礼、左手の中を見せてください」
「あっ、これは…」
ギルドマスターが隠していた腕を取ると、握られたままの拳が出てくる。
彼の拳を開かせると、その中からぐしゃぐしゃに丸められた紙がカウンターの上に転がった。
握り込まれていた紙を取り広げてみると、それは軍隊禿鷹の巣の駆逐を依頼する依頼書だった。
場所は先程の依頼書が示していた場所と同じであり、備考部分の記入欄には"騎士団に委譲済み、依頼主には返金済み"と書き込まれた上で処理されていた。
「騎士団から…?」
「じ、事情は知らないけれど、依頼は既に騎士団に回されているからねぇ。ギ、ギルドじゃもう依頼として成り立ってないから金は払えないからねぇ!」
ギルドマスターは金は払わないとしどろもどろになっているが、問題はそこじゃない。騎士団に依頼を回したまではいいとしても、問題は何故それを隠していたのかだ。
俺は彼の胸ぐらを掴むとその事について問い質した。
「…そんなことはどうでもいい。何故それを聞いて隠していたのか、話してください」
「し、知らないよ!私は騎士にこの依頼を取り下げる様にと、それとこれを口外せずに依頼そのものが無かった様に話せって言われただけだからねえ!」
ギルドマスターはそう答えながら俺の腕を掴み返し振り解こうとするが、俺はしっかりと彼の胸ぐらを掴んだまま離さなかった。
「…誰から頼まれた?」
「さ、さあね!騎士団長さんの遣いとは聞いてるけどね!こ、これ以上は本当に何も知らないからねえ!話せる事は全て話したから、この手を離して欲しいんだけどねえ!」
「騎士団長…ジスカルの事で間違い無いな?」
「ああ!そう、ジスカル団長だよ!…ふう、ふう…」
俺は彼から依頼の委譲を話してきたのがジスカルだと聞き出すと、掴んでいた胸ぐらから手を離し解放した。
「…知りたい事はだいたいわかった。驚かして申し訳ない」
「…私が話した事は言いふらさないで欲しいねえ。それだけは約束して欲しいんだけどねえ」
「ああ、勿論だ。全部俺の胸の中にだけにしまっておくさ」
俺はギルドマスターにそうとだけ話してギルドを後にする。
「さて、騎士団が何を考えてるのかね…。ジスカルって奴が一番胡散臭いのは間違い無いとして…」
考え事をしながら街を歩いている内に気がつけば裏通りに着いていた。
当然人通りも無いに等しく、人の気配すらも殆ど無いが、街中に似つかわしくない気配が忍び寄ってくる。
「…ジスカルって騎士団長には何て言われたんだ?」
振り返る事無く殆ど誰もいない通りでそう訊ねると、軽鎧を着込み、長剣を携えた男達が前後から二人ずつ姿を現わした。
「我らが騎士団の事を嗅ぎまわっている様だな」
「成る程、わかりやすくていい。大方監視でも命じられたってとこか。自分達の事を明かしたって事は次の台詞は…」
「我らが騎士団に仇なすならば…」
「生かして返すわけにはいかない、だろ?」
男達が剣に抜き、その切っ先を俺に向けてくる。
ただ流石に彼らも騎士と言うだけあって直ぐには斬りかかっては来ずに俺が剣を抜くのを待っている様だ。
「へえ、そこはちゃんと騎士らしくしてるんだな」
「無論だ。抵抗しない相手を斬る訳にはいかん。逃がすつもりも無いがな」
「…ま、こっちも殺されるつもりも、捕まるつもりも無いしな。…相手になるとしようか」
俺は背中の騎士剣を抜き、彼らに抵抗する姿勢を見せつけると、それを見ていた彼らも手にした長剣を構え直す。
「この街の騎士の実力、見せてもらう。来い!」
「騎士団に仇なそうとした事、悔い改めるがいいッ!」




