第百九十二話:踊るは暗影、香るは血煙
「参ったね、魔剣士や魔導士がいるとは聞いてたが…」
センゾウの忍術、俺達でいう魔剣術による攻撃による攻撃に驚かされたシュミットは懐から手甲を取り出し、その左手に装着する。
手甲の金属部分には魔石の様な物が埋め込まれており、魔導器の一つであることは直ぐにわかった。
「正直、魔導士相手に使いたかったんだがなっ!」
シュミットは手甲に手を沿わせると、センゾウに向けて走り出した。
センゾウもまた、シュミットが身に付けた手甲に警戒しつつも向かってくるシュミットに向かわんと地面を蹴る。
「先ずはその手甲を見極めよう!火遁・火蜂ッ!」
「…来るかッ!」
センゾウが左手で印を結び、短刀を突き出すと、刀身から火花が舞い散る。
舞い散る火花はシュミットを追うように勢いよく飛んでいくと、シュミットに触れる度に小規模の爆発を巻き起こす。
「…っと、危ねえ!そらっ!」
シュミットの手甲から先程の爆発を防いだと思われる煙が上がっているもののダメージを被った様子は無い。
シュミットはそのままセンゾウを目の前に捉えると体術による格闘を仕掛けてきていた。
「ぬっ…!躱されてはいない様だが…、そあァッ!」
シュミットの蹴りを手の甲で受け止めつつ、シュミットの様子を伺うセンゾウもただ様子を見ているだけでは無く反撃に出る。
至近距離での体術はほぼ互角、お互いに攻撃を受け止める音が辺りに響き渡っていた。
「はっ!おらっ!せあぁっ!」
「ふん!とおっ!やあっ!」
一進一退の格闘戦はお互いに退く事は無く、お互いの鋭い打撃が空を切り合っている。
そして動きがあったのはシュミットの方だった。
「はっ!」
「…そこだっ!」
センゾウの突き出した拳を往なしたシュミットは分け入る様に懐に潜り込むと、センゾウの身体を滑る様にすり抜け背後を取る。
「何っ!…だが、…!? 足をっ!」
センゾウはシュミット振り払おうとするが、その瞬間に胴に足を絡めてそれを許さない。
そして覆い被さる様にセンゾウに絡みついたシュミットはその手に凶刃を鈍く光らせていた。
「体術も俺が上手だったな。あばよっ!」
「ぐっ…うっ…!」
シュミットの凶刃が容赦なく背中に突き立てられると、センゾウは短い呻き声を上げる。
そしてシュミットは宙返りをしながら倒れ込むセンゾウの背中から離れて着地した。
「ふう…手間取っちまった。なかなか強かったぜ、お侍さんよ」
シュミットは倒れたセンゾウを一瞥し、背中を向けると、手に持つ短剣の血を舐めようとする。
しかし、そこでシュミットは違和感に気付いた。
「…ん?血の味がしねえ、匂いも…」
センゾウの背中を捉えた筈の短剣からは何も湿った感触は無く、乾いた金属の冷たい感触だけがシュミットの舌に返ってきていた。
明らかな手応えはあった筈だが、その短剣にはその証であるセンゾウの血液は付着していなかった。
「…隙ありッ!」
「なっ、ぐあっ…!」
倒れた筈のセンゾウに向き直った瞬間、闇の中から短刀が振り下ろされると、シュミットは咄嗟に身を翻すも、その右肩を捉えられてしまう。
右肩を押さえながらシュミットは大きく飛び退いてはいたが、まだ状況が理解出来ていない。
明らかに急所を捉え、倒れた筈の相手が無傷で短刀で斬りつけてきた、それは彼にとっては初めての経験だった。
「…ちっ、何かしやがったな…!」
「土遁・移身。忍術の本懐は攻撃に非ず、で御座るよ」
シュミットは倒れている自分が刺した筈のセンゾウの身体へ目を向けるが、それはよく見てみると土塊で出来た人形であり、センゾウ本人は全くの無傷のままだった。
「…あの一瞬で入れ替わりやがったか、…やっぱり油断も隙もねえ…!」
シュミットは肩から血を流したまま、右手の短剣を握り直す。
センゾウに斬られた傷は深くはなかったらしい。痛みを推して左右の短剣を構えると、再び闇の中へ姿を眩ませた。
「血を流しておる今、貴殿の位置は手に取る様にわかる。姿を隠しても…、無駄に御座るよ」
センゾウの鼻はレオやフォルク程ではないにせよ、目の前に対峙する相手の流す血の臭いならば十分察知できる。
闇の中で動くシュミットの位置をセンゾウ正確に捉え、眼で追っていた。
そんな中、センゾウの頰に数滴の血が飛んでくるが、血が滴り落ちても拭わぬままにシュミットを睨み続ける。
その後もセンゾウはシュミットが飛ばしてくる血を浴びながら、仕掛けてくる機会をじっと待ち続けていた。
「はぁ…、はぁ…」
「血を流し続けておるが、早く仕掛けてきた方が良かったのでは御座らぬか?」
「はぁ…、はっ、冗談。気配だけで仕掛けを読んでくる様な奴に、こんな血の臭いプンプンさせて仕掛けたらそれこそ死ににいく様なもんだろ?…そらっ!」
シュミットは短剣こそしっかりと握っていたが、見た目よりも出血は多いらしい。
出血によって体力を失い、息遣いも少しばかり荒いでいる。
それでもシュミットは血を飛ばしてきており、眼に向かって飛んできた血をセンゾウは僅かに顔を動かして躱していた。
「さて、そろそろいいかね…、っと」
闇の中から布を引き裂く音が響き、強い力で布が擦れる音が聞こえてくる。
「漸く止血をしたようで御座るな。もっと早くにしておれば徒らに体力を失わずに済んだものを…」
「まぁな…でもこれで少しは臭いで追いにくくはなっただろ?」
「…」
センゾウは十分シュミットの血の臭いを嗅ぎ分けられていた。
シュミットの狙いが血を撒き散らす事による臭いの撹乱であれば思い違いであり、血を流し過ぎた事によって寧ろセンゾウは強い血の臭いを発しているシュミットをはっきりと認識できていた。
センゾウはシュミットがそう勘違いをしているならそのまま迎え討てばそれで終わり、そう考えて敢えて返事は返さないままでいる。
「…と、こんなトコかね…。まだ手にべったり付いてら…。ほらよオマケだっ!」
再び血を飛ばしてくるシュミットだったが、その後ろから強い血の臭いが迫ってくる。
闇に紛れたまま飛ばした血の後に続いて仕掛けてくるつもりだろう。
センゾウは顔にかかる血に瞬き一つせず、迫ってくる血の臭いに短刀を構えていた。
「…御免ッ!
「ハッハァッ!残念、狙い通りッ!」
「…何ッ!?」
シュミットがほくそ笑みながら声を上げる。
迫ってくる強い血の臭いに合わせ、短刀を振ったセンゾウの目には血の臭いの元から僅かに漏れてくる赤い光が映っていた。
赤い光を放ちながら飛んできた何かはセンゾウの目の前で弾けると、それを包んでいた血塗れの黒布が弾け飛び、その中から広がった凄じい爆炎がセンゾウの目の前を覆い塞いでいた。
「不覚ッ…!」
ーーー
大きな思い違いを犯したのはセンゾウの方だった。
シュミットが闇の中に姿を隠し、血を飛ばしていたのはミスリードを誘う為。
確かに彼が話した通りに血の臭い自体はセンゾウの周囲を包んではいたが、シュミットはセンゾウが血の臭いの強弱を嗅ぎ分けられるのは百も承知だった。
事実の中に嘘と言う猛毒を盛り、それをあたかも当然の様に話した事で血の臭いを嗅ぎ分けたセンゾウにその嘘を嗅ぎ分けさせなかった。
更に時間をかけて血を流していたのは衣服に十分な血の臭いを染み込ませる為だった。
シュミットは黒装束の袖に絞れる程大量の自身の血を吸わせており、自身が纏った血の匂いと最早強弱の判別はつかない程だ。
彼は十分に衣服に血の匂いを染み込ませると、闇に紛れて見えない事を利用して、止血をしている様に見せかけつつ、血塗れの黒装束の袖で懐から取り出した赤色魔石を包み込んでいた。
そして最後にセンゾウの眼に向かって血を飛ばし、目潰しを演出しながら、血塗れの袖で包んだ赤色魔石を魔力結晶で起動し、センゾウへと投げつけていた。
センゾウは赤色魔石に巻きつけられた血塗れの袖から放たれる匂いをシュミットが万策尽きて玉砕覚悟で迫ってきたものと勘違いし短刀を合わせたが、そこにあったのはシュミットの腕ではなく、血塗れの袖に包まれた起爆寸前の赤色魔石だった、という事だった。
ーーー
「ぐっああっ…!」
センゾウは咄嗟に背中に垂らした羽織を爆風に向けていたが一歩及ばず、その爆炎で吹き飛ばされてしまう。
爆風によって受ける筈の火傷こそ回避したが、至近距離で発生した爆炎はセンゾウの皮膚を裂き、いくつかの骨を砕く。
致命傷こそ避けたが、そのダメージは十分に深刻なものだった。
「げほっ…、ごほぉっ…!」
「仕留めるにゃあ至らなかったが、まぁ十分だ…はぁ…。アンタ、俺と同じ土俵に立つたあ言ったが…、肝心なトコロで色気出しちまったなあ?」
吹き飛ばされた先で血反吐を吐くセンゾウを見下しながら、シュミットは言う。
「暗殺者ってなあ、いつも一瞬の隙を付いて一撃で仕留めるって訳じゃないのさ…はぁ…。相手が格上がどうかくらい分かるし…、そんな相手と正面切ってかち合ったならそんなチャンスはまず無いんだよ…。劣勢下ならそれで、動きで、言葉で、油断させといて、相手をじわじわと削いで、んで、最後に勝てばいい…。アンタは肝心なトコロで色気付いて、俺をあの一太刀で仕留めようとした、そうじゃなけりゃあそこでアンタは躱そうとしてた筈だ…ふー…」
お互いにダメージの色が濃い。
シュミットは大量に流した血で衰弱し始めており、センゾウは爆風をほぼ直撃した事で大きな傷を負った。
シュミットにとってこの芝居は大きな賭けだった。
もしセンゾウに躱されていたならば、血を流しただけの大きな徒労に終わり、このままセンゾウに斬り捨てられていただろう。
シュミットは重い身体を引きずりながら弱ったセンゾウに短剣を向けていた。
「まんまと…乗せられていた…ごほっ、そう言う事で御座ったか…」
「さて…、はぁ…ダメージはアンタのが大きいらしい…。終わりにさせてもらう…!」
シュミットは短剣を振りかぶり、弱ったセンゾウにとどめを刺しにかかる。
だが、センゾウは悪あがきをするかの様に身体を大きく振っていた。
「無駄な足掻きだ…!」
「そうとも…限らぬ…!」
「…うあっ…!」
センゾウは大きく身体を振りながら、爆風による火傷を防いだ羽織を広げ、シュミットに被せようとした。
シュミットはそれを払い除けようとするが、力の抜けた彼はそれを完全に振り払うことが出来ずに右手の短剣に羽織を絡ませてしまう。
「この服っ…天雫蝶のッ…!」
シュミットは振り払えないのならと、右手の短剣で羽織を引き裂いてやろうとしたが、強靭な天雫蝶の布で織られた羽織を引き裂く事は敵わずに右手を羽織で包み込まれて封じられてしまう。
「これで右手は封じられた…。その短剣はもう使えぬ…!」
センゾウは身体を起こし、爆風に吹き飛ばされながらも握り続けていた短刀を左手に持ち替え構えていた。
そしてそれを突き出すと、シュミットは羽織に包まれて得物ごと手を封じられた右腕を貫かれながらも盾とし、急所への直撃を避ける。
更に、シュミットもまた左手の刀破剣でセンゾウを刺そうとするが、センゾウも同様、爆風で裂傷を受けた右腕でそれを受けていた。
お互いもう右腕は使い物にはならない。
動く左腕にも、もう剣は握られてはおらず、お互いの右腕に深々と刺さったままだ。
だが、センゾウの右腕に刺さったシュミットの刀破剣は刃渡りが短く、左手で柄を掴むとそれを引き抜いて構える。
「無いよりはマシ…、で御座るな…。正直この手の得物は苦手に御座る…」
「へっ…、つっても扱えない訳じゃねえ…、はぁ…、そうだろ…?」
お互いの得物はセンゾウはシュミットの刀破剣、シュミットは左手に装着した手甲だ。
センゾウは苦手ではあるものの応用の効く短剣、シュミットは慣れた体術が武器となるが、失血の影響は大きく、体術のキレは最早望めない。
お互いにわかっているのは次の一撃を決めた方が勝負を制するという事だ。
「…参る…!」
「…行くぜっ…!」
先に仕掛けたのはシュミット、振り抜いた拳がセンゾウの頰を掠める。
だが躱した身体が軋み、センゾウは痛みによって身体に自由が利かず、反撃に出られずにいた。
「はっ…、いただきっ…!」
「…ぐっ、させぬっ…!」
シュミットが拳を返して引き続き攻撃に出るが、ほぼ密着状態であり、センゾウは軋む身体に鞭を打って身体を預ける様にぶつかる事でそれを阻止した。
ふらつきながらお互い間合いを切り、シュミットが三度先手を仕掛ける。
だが、センゾウは指先で印を切り、短剣を突き出した。
「…土遁・岩垂氷ッ…!」
刃渡りの短い短剣から発生した鍾乳石が槍の様にシュミットの心臓目掛けて伸び出す。
シュミットは失血によって足に力が入らず足を震わせながらどうにか動いているだけで碌に回避も出来ない状況ではあるが、白い歯を見せて笑うと、左手の手甲を伸びてくる鍾乳石へと突き出した。
「この瞬間を…待ってたぜえッ…!」
シュミットの手甲が鍾乳石に触れると、センゾウの手に持つ短剣が纏っていた鍾乳石は手甲の魔石に吸い込まれる様に一瞬で消え去ってしまう。
渾身の攻撃であるセンゾウの忍術は最後の最後で、シュミットが明かさなかった魔導器の手甲の前に破られてしまった。
更に手甲に埋め込まれた魔石が橙の光を放ち、シュミットは完全に射程外であるにも関わらず、その拳をセンゾウに向けて突き出してくる。
「まさか…!」
「…そのまさかだよ…!"土遁・岩垂氷"ッ、てなッ…!」
シュミットの手甲は相手の魔術を吸収・記憶し、更に解放するというものだった。
突き出された手甲から先程のセンゾウが放ったものと同様に鍾乳石が発生し、槍の様にセンゾウへと勢いよく伸びていく。
「ワダツミの魔術、破れたりッ…!」
センゾウの忍術を返し、シュミットは勝利を確信していた。
だが、シュミットは突き出した左腕に鋭い痛みを一瞬だけ感じると、目の前が突然暗くなる。
失血のせいかと、朦朧とし始めた意識の中で考えていたが、視線をセンゾウに向けると、手甲から伸びた鍾乳石は先端から砕け、その亀裂は手甲にまで及んでおり、果ては左腕を伸ばしていたその後ろから夥しい量の血が吹き出していた。
シュミットは訳も分からぬまま意識を絶やしていったが、最後に彼の眼に映ったのは刀破剣を持っていたセンゾウの姿ではなく、自身が投げ捨てた筈の刀を手にしたセンゾウの姿だった。
「…奥義・岩融…!」
ーーー
センゾウは忍術を返された瞬間、足元に何かが転がっていたのに気付いた。
足元に転がっていたのはシュミットによって手放す事となり、投げ捨てられていた自身の愛刀だった。
爆炎に吹き飛ばされ、シュミットと攻防を繰り返しているうちに偶然にも捨てられた愛刀の元までやってきていたらしい。
センゾウはすぐに刀破剣を手放し、漸く手元に戻ってきた愛刀を手に取ると、手に馴染むのか心静かに目を瞑り身を捻ると、そのまま真っ直ぐに突き出していた。
これまでセンゾウはワダツミにいた頃を含め、鍛練の中で何千何万と剣を振るい、突いてきた。
極限状態の中、無心で突き出した愛刀の刺突は自身の心の臓目掛けて伸びてくる鍾乳石を貫き、硬い金属の手甲を穿ち、更にはシュミットが突き出していた腕、肩までをも一直線に貫き融していた。
「…奥義・岩融…!…ぬう…!」
シュミットが肩から血を噴き出して倒れるのを見届けた後、センゾウ自身にも体力の限界が訪れる。
センゾウは剣を地面に突き刺して跪くと、最後まで横槍を入れず、シュミットとの一騎打ちの行く末を見届けてくれた仲間達に対して自身の勝利を示すこと、そして死力を尽くして戦いに臨んだ相手に対する敬意とを込め、倒れてしまわぬよう気力を振り絞り、剣を持つ左手一本で身体を支えていた。
ーーー
「…終わったみたいだな、行くぜ」
レオが目を凝らして顰めていた顔を元に戻してセンゾウを迎えに行こうと促す。
レオに着いて行く形でセンゾウの元に辿り着くと、そこには疲れ果て、膝をついたままセンゾウが蹲っている。
「センゾウさん!」
「師匠!」
「はは…不恰好で済まぬ。予想以上に強い男で御座ったよ」
センゾウは俺達がやってきたのを見ると弱った姿を見せまいと笑ってみせる。
だがその怪我の状態を見るに、相当に無理をしている事は明白だ。
即座にマリオンはセンゾウの怪我の状態を確認し始めていた。
「骨が何本か…あとは見ての通り右腕の傷と…出血もかなりしてるわね…」
「…仕方ない、今日はここで野営するしかなさそうだ。レオ、フォルク、周囲の警戒を頼む。クリス、マリオンと一緒にセンゾウさんの手当てをしててくれ。皆は俺と野営の準備だ、すぐに取り掛かろう」
了解、と頷き、皆が慣れた動きで野営の準備に取り掛かる。
予定としてはこの日の内にダビデ領を出てアーサー領に到着する予定だったが、センゾウの負った傷は命に関わるものではない様だがそれでも決して浅くはない。
センゾウの傷は一日で十分に回復し切れるかはわからないが、何が起こるかもわからない旅で、況して俺達は黒曜の刃の暗殺者達に命を狙われている状況で、下手な動きは取るわけにはいかないだろう。
一日我慢して、センゾウの治療を急ぐのが先決だ。
「セオドア殿、剣を貸して頂いた事、まことかたじけのう御座る。済まぬが、あの男の右腕に刺さったまま故、回収をお頼み申す。直接お返し出来ず面目ない」
「いえ、お役に立ったならば何よりです。センゾウさんは今日はゆっくり休んでてください」
「…うむ、しからばその言葉に甘えさせてもらうとしよう」
センゾウはそのまま横になると、寝息を立て始めていた。
俺は亡骸となっていたシュミットの腕に刺さったままの短刀を引き抜くと、こびり付いた血を拭き取り、元の鞘に納める。
今後もこうやって黒曜の刃の刺客が俺達に差し向けられるのだろう。
ダビデ領の暗闇という地の利があったとは言え、センゾウですらこうやって苦戦する程の手練れだ。油断出来ない相手である事は言うまでもなく、今回は一人で来たが、今後も一人で来るとは限らない以上、俺達も彼らと戦うことを想定しなければならない。
俺はシュミットの満足気な死に顔を暫く見つめ、そう考えながら野営の準備に戻っていった。




