第百八十九話:お仕置きの時間
「クソッ、なんだコイツらっ!?」
「け、桁違いに強すぎるッ!」
「そりゃあそうだ。文字通り、格が違う」
「ぐわああっ!?」
「ぎゃああァーーッ!」
炎で薙ぎ払い、氷で凍て付かせ、水で打ち付け、雷で貫き、土で叩き割り、風で吹き飛ばす。
魔力を込めた騎士剣を振るい、取り囲む冒険者達を薙ぎ倒していく。
恐らくこの場にいる冒険者達はせいぜいC級からよくてA一級の冒険者達と言った所、俺達の相手ではない。
「うおっ!?」
「よく止めた。…けどそこまでだ、放電撃ッ!」
「あががががががっ!」
今俺の剣を止めた冒険者でA一級、って所か。
曲剣の柄と峰を両手で持ってどうにか剣を受けていたが魔術に対する備えは無く、がら空きの腹に激しい放電を受けると口から黒煙を吐き膝から倒れ込んでしまう。
「お前達に恨みがある訳じゃないけど、冒険者として、いや、人としての道を踏み外そうとした事は許される事じゃない。…覚悟して貰うぞ!」
「ひ、ひいぃっ!」
ーーー
「う、うわっ!?ま、魔物ッ!?」
「四肢獣種かっ!? で、でかいぞ…!」
「悪ィがどっちもハズレだ…。俺は獣人族、獅子人種様だッ、ウオオラァッ!」
レオを取り囲んでいた冒険者達は真魔光珠で変身した彼に怯えていた。
その体躯の差然り、凶悪な姿然り、強大な魔物と対峙した時の様な威圧感に気圧され動けずにいた所にレオの振り回す腕が彼らを襲う。
彼らは竜巻が直撃した小村の様に呆気なく吹き飛ぶと、痛みと恐怖で泡を吹いて失神していた。
「どうしたどうしたァ!? リアーネを捕まえるんじゃあなかったのかァ!?」
「そ、そんな事は…」
「今更遅ェンだよォッ!」
「「ギャアアァァァァッ!」」
指を鳴らしながら迫るレオに冒険者達は先程までの威勢を失い腰を低くして答えるが、もう遅いと断じ巨腕を振り抜く。
「た、助けてくれェー!」
「…締まらねェ真似してんじゃねェよッ、氷の吐息ッ!」
レオの攻撃を逃れた少数の冒険者は背を向け一目散に逃げようとするが、レオの冷たい吐息がそれを許しはしなかった。
勢いよく吐き出されたレオの吐息は青龍のそれと遜色無く、逃げ出す冒険者を呑み込むと氷像の様に凍りついていた。
ーーー
「…グオッ…!」
「次ッ!…そこですわッ!甘いッ!」
「がはっ…!」
冒険者達はアンリエッタを取り囲んでいるものの、彼女の鉄壁の防御に完全に阻まれていた。
「くっ、ダメだ。あの大楯と槍に全部防がれちまう!」
「この女も強い…、隙を見せりゃ槍でやられるぞ…!」
攻めあぐねた冒険者達はアンリエッタの槍が届かない位置から彼女の隙を伺うが、全方位を防ぐ彼女の防御の隙を見つける事は出来ずにいた。
「攻めてこないのならば…暴風槍ッ!」
「「ギャアアアァァァァッ!」」
槍は届かないと油断していた冒険者達にアンリエッタの魔導器である槍の先端から炸裂した爆風が襲いかかる。
「さぁ、どこからでもかかって頂いてもよろしくてよ? …来ないのであれば今の様に吹き飛ばすまでですわッ!あなた方を許す訳には参りません、最早懺悔すらも手遅れとお思いなさいッ!」
ーーー
「ごへぁッ!?」
「ぶごぉッ!?」
「弱い弱いッ!手加減して素手で相手してあげてんだから、少しは耐えなさいよッ!」
マリオンは自ら力自慢を謳っていそうな大柄な冒険者達を相手取り、武器を放り出して素手で殴り倒していた。
殴られた男達は受けた腕を折られ、顔が変形し、一撃の下に倒されている。
幾ら素手とは言え、彼女の打撃は超重量の槌の一撃と同じで、防御不能の強烈な一撃だ。
「この鉱山種の女…、やべェぞッ!?」
「…だったら、お前の武器ならどう…どわあっ!?」
大男達の一人がマリオンの放り投げていた槌斧を奪い持ち上げようとしたが、その重量も通常の武器とは桁違いだった。
槌斧を力任せに持ち上げようとした大男はその重量を支えきれず、体勢を崩して槌斧の下敷きとなってしまう。
「あら大丈夫? 悪いけどその槌斧はアタシ専用の特注品でね」
「おごごご…、お? …ぶべらっ!?」
「全部豪金属で出来た槌斧でね、普通の人間じゃ勿論、悪鬼種でも両手でやっと持ち上がる程のシロモノよ?」
マリオンは片手で軽々とその超重量の槌斧を拾い上げると、その下敷きになっていた男を蹴り飛ばす。
鈍い音と共に地面を滑っていく男は家の壁に激突し、そのまま気を失ってしまっていた。
「さて、次は誰かしら? それとも、この槌斧で暴れ回った方がいいかしらね?」
最も小柄な体躯とは裏腹に、最大級の打撃力を備えるマリオンの前に大男達は誰一人として動けずにいた。
ーーー
「くっ、何処に消えたッ!」
「弓闘士なら接近戦に持ち込めばと思ったが…、ぐあッ!?」
「…そこかっ!? …いな…うあぁッ!?」
「誰を捕まえるって?」
普段、余裕を湛えたフォルクの和やかな顔はこの時ばかりは氷の様に冷たい無表情だった。
「ひいっ!?」
フォルクの構えた弓に番られた矢は殺気に満ちており、研ぎ澄まされた鏃が鈍く光る。
その殺気に当てられた冒険者の一人が背を向けて逃げ始めると、鏃の先端はそちらに向き、フォルクの手を離れる。
「あああぁぁぁァァッ!足が…足がァァッ!」
強い殺気を帯びた矢は冒険者の左足首を貫くと、その足ごと磔にしてしまい、その場に転倒させていた。
「今のが少し上を狙っていたらどうなっていたかな?」
「俺の足が…!俺の…!…アアァァッ!」
フォルクの問いに答えぬまま足を磔にされてのたうつ冒険者の左手が磔にされてしまう。
無言のまま放たれた矢は正確に冒険者の左手を貫き、周りの冒険者は声も出せずにいた。
この時、他の冒険者達は誰しもが目の前で見せしめにされている冒険者を見て逃げる事は出来ないと脳裏に過ぎらせており、抵抗する事も出来ないのだとはっきりと理解していた。
「はっ、奴は…ふあっ…!?」
「今君達の命は僕が握ってるものと理解してほしいな」
冒険者達の中に消えたフォルクが突然現れ、男の首筋に逆手に持った短剣をあてがう。
冷たく鋭い刃は男の首の皮膚を薄く裂くと、そこから一筋の赤い液体が垂れ落ちていた。
「…僕も大抵の事は笑って許すよ。傭兵時代は友人や仲間達にも沢山死者が出たからね、そういうものだと割り切っていたし、苦しまずに死ねたならまだいい方だったと思うよ。でもね、奴隷はそれさえ許されない生き地獄さ。君達は彼女をそうしようとしていた、勿論そんな事はさせないけど、君達が彼女に強いろうとした生き地獄、僕が少しだけ味わわせてあげるよ」
この時、フォルクの表情はこれまで仲間達にも一度も見せた事の無い冷たい表情を見せていた。
普段は常に笑顔を絶やさない彼だが、今の彼の表情は氷の様に冷たい冷酷な無表情だ。
ここにいるのはセオドアの仲間であるフォルクハルトでは無く、この場に限っては数多の命を撃ち貫いてきた歴戦の傭兵フォルクハルトの姿があった。
ーーー
「私の相手、貴方達に務まるかしらね?」
「な、舐めやがって…!」
「や、やってやる…!やってやるぞっ…!」
クローディアは剣を手にした男達に囲まれているが、不敵な笑みを浮かべたまま彼らを挑発していた。
「こ、これだけの人数だ!降参するなら今の内だっ…!」
「どうぞご自由に。以前なら本当にしてたかもしれないけどね。でも今の私なら貴方達なんて相手にもならないわ」
「チクショウ、う、うわあああぁっ!」
クローディアの挑発に乗った男達は自分達より格上だとわかりながらも逆上し、その剣を突き出したまま突き進んでくる。
「あふ、あァン!そうよ…もっと突いてきなさい?」
「へ? あ…当たった? バ、バカめ!避け損なったぞっ!殺せ、殺せッ!」
男達の突き出した剣はクローディアの全身をいとも容易く貫いていた。
だが、彼女は艶やかな表情を浮かべたままに更に挑発を重ねると、男達はクローディアを貫いた剣で滅多刺しにし始めた。
「…なーんてね、ふふ…影分身。残念だけどそっちは偽物よ」
本物のクローディアは既に冒険者達の囲みを抜け出しており、彼らを嘲笑う。
クローディアが魔術で生み出した偽物は傷痕から闇を噴き出すと彼らの視界を奪って消えてしまう。
「さぁて、あなた達はどんなものが見えるかしらね? 魅惑幻想!」
消え去ったクローディアの分身に集まっていた冒険者を覆ったのは妖しい紫色の霧だ。
霧に包まれた冒険者達は皆一様に虚ろな目で虚空を見上げていた。
「なんだ…?…なんだ…ここ…?」
「何も…無い…?」
「ヒッ、今のはッ!?」
「さ…雌淫魔ッ!?か…囲まれたッ!?」
彼らを包んだのは幻惑を見せる霧。無防備にその霧を吸い込んだ冒険者達に見えていたのは何もない空間と彼らを取り囲む無数の雌淫魔達だった。
「ひいっ、やめっ…!」
「剥かれ…ああぁっ!」
「やめろっ…!うあっ、搾り取られ…うああぁぁっ!」
幻惑の中で冒険者達は無数の雌淫魔達になす術も無く丸裸にされると、柔らかな肉に包まれる。
現実ではただその場に倒れ込み、押し寄せる快楽に身を悶えさせながら恍惚の表情と共に悲鳴とも嬌声とも取れる声を上げていた。
「ふふ、何を見ているのかは知らないけれど随分と気持ち良さそうじゃない? 自分が慰み者にされる気分はどうかしらね?」
ーーー
「大渦潮ッ!」
「うわわわわっ…!」
「くっこの女、さっきから上級魔術を無詠唱で…」
「これだけやればその内魔素切れを起こす筈だ…、そこまで耐えれば…」
クリスは次々と迫ってくる冒険者達に上級魔術を連発して寄せ付けずにいた。
冒険者達はクリスの無尽蔵とも言える程の魔素総量の事は当然知らず、クリスの魔素切れを待つ者もいた。
("なかなか出てこないわね、どうするクリス?")
(別にこっちから攻めてもいいけど…。あんまり本気でやると村が吹き飛ぶわね。別にこのままでも魔素切れなんて起こさないけど…やってみようかな)
メルティナもクリスの視界を通して周囲を見ていたが、警戒してなかなか攻めてこない冒険者達に痺れを切らしていた。
クリスも自身から攻めてみようかと一瞬考えたが、そうしては村はひとたまりもない。多少の被害は仕方ないとしても、無闇にその被害を広げるのは本意ではなかった。
そこでクリスは一計を案じ、立て続けに放っていた魔術を止めると、その場でうずくまる様に膝をついた。
「来たッ!魔素欠乏だッ!」
「ハッ、無計画に撃ちまくってるからだ!覚悟して貰うぜお嬢ちゃん!」
争いが始まってから魔術を撃ち続けていたのもあって、クリスの魔素欠乏の演技に冒険者達は何の疑いもせずに躍り掛かってくる。
クリスは横目に彼らを見ると、膝をついたままその両手に魔力を練り始めていた。
「案の定乗ってきたわね…!」
「なっ、魔素欠乏に陥ったフリを…!」
「その辺の魔導士と一緒にしないで!この程度で魔素欠乏になる程、私の魔素総量は少なくないわ!はああぁ…大暴風!」
「うおおおっ!?」
クリスが魔力を解き放つと、彼女を中心に凄まじい旋風が巻き起こる。
地面から舐め上げる様に吹き荒れる風が冒険者達の足を掬い、更には攫い上げてその奔流の中へと呑み込んでいった。
「ああああああああぁぁあぁ!!」
「ダメだ!自由に動け…ぐほぉッ!?」
「気ィ付けろォ!飛ばされたのは俺たちだけじゃないぞォ!」
「じ、地面が…!」
クリスが生み出した旋風は冒険者達のみならず、岩石や瓦礫をも巻き上げ、更には地殻すらも引き剥がしていた。
風に掻き回され、更に共に吹き飛ばされた岩石があらゆる方向から飛来し、冒険者達を襲う。
「あぐっ…!ぐおっ…!」
「わわわわ…避け…がはぁっ!」
「こんな魔導士が…おわぁっ!」
「…そろそろ止めた方が良さそうね」
クリスが手を握ると同時に吹き荒れていた旋風が止まり、巻き上げられた冒険者達や岩石が辺りに降り注ぐ。
冒険者達は次々に気を失ったまま受け身も取れずに墜落しており、それを見ていた冒険者達も抵抗する気力を失っていた。
ーーー
「はっ…、はっ…、何だあいつら…!」
「知らないわよ!あんなバケモノ染みた連中が付いてるなんて聞いてないっ!」
「あんなのに巻き込まれるのはゴメンだ!付き合ってらんねェよ!」
他の冒険者達の惨状を見て逃げ出した冒険者達もいた。彼らはこの騒動に巻き込まれない様、村の出口を目指して必死に走っていた。
「よし、追いかけてはきてないな…。もうすぐ出口だ…!」
「待て、ありゃなんだ!」
「冒険者ッ!? 先回りされてたのッ!?」
逃げてきた冒険者達が村の出口に辿り着くと、先に逃げてきたとされる別の冒険者達が全員地面に伏せて呻き声を上げていた。
そしてその中には桜吹雪を描いた刺繍が目立つ羽織をたなびかせる剣士が一人、紫煙を燻らせ座っている。
「また来たか…」
センゾウは紫煙と共に深い溜息をつきながらゆっくりと立ち上がり、腰に挿した刀を抜く。
「俺達はこの通り、手を引いたんだ!見逃してくれ!」
「そもそも最初から乗るつもりなんて無かったんだ!確かに破格の報酬だ、俺達はどういうもんか興味本位でいただけなんだよ!」
「ここに来た者達も、皆口々そう同じ事を言っておったよ。だが、あわよくばおこぼれに預かろうと、邪な考えを持っておったからこそいたので御座ろう。ならば同罪に御座るよ」
「言っても無駄よ、逃す気はなさそう!こうなったら…炎よ、全てを吹き飛ばす爆炎となりて呑み込むがいい!爆炎ッ!」
「気の強い女子に御座る…。しからば、フゥンッ!」
女魔導士が爆炎の魔術を放つ瞬間、センゾウは魔力を込めた刀で大きく振り払う。
すると、直接センゾウを狙った爆炎の魔術は振り払われた刀の先端で炸裂し、轟音だけを響かせていた。
「魔術を剣で弾くなんて冗談でしょッ!?」
「無駄に御座る。クリスティン殿程の鬼術の使い手ならばともかく、この程度では拙者には通じぬよ」
「くっ、魔剣士か!よりによって…」
「おいどうすんだ!? このままじゃやられちまう!」
「…命までは取らぬよ。ただし、少々痛い目には遭ってもらうだけに御座る。…さぁ覚悟致せ!」
センゾウは振り払った刀を返すと、逃げてきた冒険者達へと歩き始めており、彼らはその威圧感に気圧されて少しずつ後退りを始めていた。
「女子を痛めつける趣味は御座らぬが、手心を加える訳には参らぬのでな、許せ」
「へ、へへ、こりゃ参ったな。勝てる相手じゃねェや」
「おい、痛い目なんか逢いたかねぇぞ!」
「ちょ、ちょっと待って!本当に反省してるから!お願い!見逃して頂戴!」
女魔導士が命乞いするように跪いてセンゾウに見逃すように訴えるが、センゾウは首を小さく横に振り訴えを退ける。
「ならぬ。ことこの一件、女子とて見逃す訳には行かぬ」
「…じゃあもう頼まねえよッ!」
「ぬっ、煙幕か」
冒険者の一人はいつの間にか手の中に煙幕を隠し持っており、地面に叩きつけると同時に煙が広がってセンゾウごと白煙の中に姿を消した。
「さっすが!」
「これならアイツも見えやしない!」
「今の内にずらかるぞッ!」
煙幕に紛れて冒険者達は村の出口を目指す。
広範囲に広がった煙幕は出口にまで広がっており、彼らは鉢合わせにでもならなければ逃げ切れると確信して全力で走っていた。
「煙幕とはくだらぬ真似に御座る。豪風」
「うあっ!?」
「おおっ!?」
「きゃああっ!?」
センゾウの刀が振り抜いたと同時に突風が吹き荒び、煙幕も晴らす。それと同時に煙幕に紛れていた三人の冒険者も突風に煽られ転倒していた。
「やはり痛い目に遭わぬと分からぬ様で御座るな」
「ヒッ…」
「くそッ…」
「くっ…」
「覚悟…、桜花散華」
尻餅をついた三人の前でセンゾウは風に揺らめく様に消えると、その直後、彼らの目に映らない剣舞が襲いかかる。
その刃は三人の内の女魔導士にだけは峰を用いた打撃で浴びせられ、また顔も避けられていた。
だが、男二人には峰では無く刃が振るわれ、彼らの上げた血飛沫が散りゆく桜の様に舞い、周囲に降り注ぐ。
「急所は避けておるが、向こう数日は動く事もままなるまい。刃までは向けるつもりは無かったがそれでは仕置にならぬと思ったのでな、許せ」
センゾウは刀を鞘に納めると、再び地面に座り煙管を取り出して紫煙を燻らせていた。
ーーー
「このくらいで良さそうだな」
「セオドア様、リアーネ様はここに」
「アリーシャも大丈夫か?」
「はい、巻き込まれない様にはしておりましたので。何度か隙を見計らってリアーネ様を奪いに来る者もいましたが私の方で対処しておりました」
「リアーネ、怪我はないか?」
「ええ、それよりセオドア、あなた達強かったのね…」
リアーネはアリーシャが保護していたのもあって怪我ひとつ無く戻って来ていた。
大半の冒険者達は俺達が倒していたし、アリーシャ自身も現役を退いているとは言え、この程度の冒険者達に遅れを取る程腕は鈍っていない様だ。
ただリアーネはこれだけの冒険者を相手に圧倒していた俺達に少し怯えている様にも見えていた。
「セオ、こっちは終わったぜ。ったく、肩慣らしにもなりゃしねェよ」
「全くだわ。これだけいれば少しくらいマシなのもいそうだと思ってたけど…てんで期待ハズレね」
レオとマリオンはまだ暴れ足りないと言った様子か、不満げな表情で溜息をつきながら戻ってくる。
「派手に暴れまわりましたわね。セオ様もご無事そうで何よりですわ」
「リアーネさんも無事みたいですね。兄様、申し訳ありませんが数軒程、冒険者達と一緒に家も吹き飛ばしてしまいました」
「…仕方ないさ。住人達は先に逃げてたみたいだし、後で土魔術で頑丈な家に建て替えてあげよう」
クリスとアンリエッタもどうやら無事な様だ。
流石にクリスの魔術で村を巻き込まない様にするのは無理があったらしいが、俺も半壊にしたギルドを結局全壊にまでしてしまっていた以上、人の事は言えないだろう。
「セオー、こっちも終わったわよー!」
「センゾウは村から逃げようとしてた冒険者達にお仕置きしてたみたいだよ。とりあえずこれで全部かな」
フォルクとクローディアも二人で無事に戻ってきた。
皆が別れる寸前、フォルクの表情は険しいものになっていた様に見えたが、戻ってきた時には元の余裕を持った穏やかな表情に戻っていた。
「拙者で最後で御座るな。逃げようとしていた者は拙者の方で成敗しておいたで御座るよ」
センゾウも草履の音を鳴らしながら、煙管を片手に戻ってくる。
たなびく羽織の揺らめく桜吹雪がその風格を際立たせていた。
全員が集まり、リアーネを攫おうとしていた冒険者達が全滅した事を確認した。
騒ぎが収まり、避難していた村人達も恐る恐るその様子を見に戻ってきている。
冒険者達は皆大怪我を負っており、中には致命傷を負った者もいたがクリスとマリオンが直ぐに命に別状が無い程度に治療を進めていた。
中には恐怖で動けない者や、恍惚の表情のまま痙攣し続けている者もいたが、フォルクとクローディアは大丈夫だと笑っていた。
お仕置きの時間はお終い。後はリアーネを、クローディアの縮地門で水精の大水郷にあるエルフの里へと送り届けるだけだ。
「あとはリアーネをエルフの里まで届けるだけだね」
「ああ、もう邪魔は入らねェだろうしな」
「彼らも流石に懲りただろうし、もう二度と人攫いみたいな真似には手を出さないだろう」
「じゃ、あとは私の仕事ね」
クローディアが両手で魔力を魔力を練り始め、その魔力を解放する。
空間に歪みが生じ始め、その口が少しずつ開き始めた瞬間だった。
「くく…、いやあまさかあれだけの冒険者達を相手に圧倒するとは…」
「誰だッ!?」
闇の奥から声だけが聞こえてきた。
フォルクやレオも全く感知できなかった様で、辺りを見回している。
「…冒険者達の仲間かッ!?」
「くっ、くくっ。いやいや、彼らと同じに見られるのはやめてほしい…」
「姿を見せろッ!」
「ええ勿論」
俺達の目の前に黒ずくめに銀の仮面で顔を覆った男が姿を現わす。
その男は姿を見せる寸前まで、一切の気配を発しておらず、まるでクローディアの縮地門と同じ様に突然そこに現れた。
「流石にSS級冒険者に名を連ねるだけの事はある。彼らでは相手にならない筈だ」
「黒幕、って事か。相当に強そうだけど、俺達相手に無事に済むとでも?」
「くくく、流石に正面切って君達に挑んでも多勢に無勢、勝てるなどとは思っていないよ」
「リアーネを攫いに来たんじゃないのか?」
「最初はそう思っていたのだけどね、もう諦めたよ。依頼を受けてはいたが、どうやらそれも達成は不可能の様だし、その長耳種のお嬢さんは君達の好きにするといい」
男は不敵に笑いながらリアーネには見向きもせずに俺達をまじまじと見つめていた。
「…何が狙いだ?」
「狙い? いやいや、そんなものは無い。ただ挨拶をと思ってね」
「セオ、気を付けて。多分暗殺者ギルドの人間だ」
「くく、鋭いね。フォルクハルト君の言う通り、私は暗殺者ギルドの人間だ。名乗りが遅れてしまったね、私は暗殺者ギルド"黒曜の刃"の副団長ズィルヴァー、通り名で申し訳ない。今ここで君達と対峙するつもりは無いが、今回の件、我々も顔に泥を塗られた形になる。その礼はいずれ返させてもらうとしよう、今日はその事を伝えに来ただけさ」
「そっちにその気は無くてもこっちがあると言ったら?」
「ふふ、やめておこう。さっきも言ったが私は君達全員を相手に無事で帰れるとは思っていない。…だが、君達も無事では済まさないよ」
ズィルヴァーは先程と同様に謙遜する様に手を振るが、その言葉尻に一瞬だけ強烈な殺気を見せる。
俺達はその言葉と殺気が本物である事が分かると身構えていた。
「言った通り、ここで事を構えるのはお互いに利が無い。既にギルドにはこの事を伝えてあるから私を倒した所で君達はギルドに狙われ続けるのには変わりは無いんだ。ここは剣を納めて貰えると嬉しい」
「…いいだろう。こっちもまずはリアーネを里に帰すのが先だ。…ズィルヴァー、俺達を狙う理由はわかったけど、今後アンタ達が何度襲って来ようとも幾らでも退けてやる」
「くく、賢明な判断ができる人間で助かるよ。ではまたいずれ」
ズィルヴァーはそう言って漆黒のマントを翻すと気配ごとその姿を宵闇の中へと消していった。
一瞬彼が見せた殺気は強者のそれであり、全力で戦ったとしても一対一で敵うかも怪しい程に強いという事も確かで、気が付けば俺の額から冷や汗が顎へと滴っていた。




