第百八十五話:偽りなき誓い
食堂を出た所で待っていたのはユリアの命令で席を外していたベアトリクスとナタリアの側近コンビだった。
「…ベアトリクス、ナタリア!アンリとマリオンがどっちに行ったのか知らないか!?」
「ええ、お二人でしたら屋上かと思われます」
「ホールの上階から兵士達のものとは違う聞き覚えの無い声が聞こえてきている。この上は陛下の寝室と玉座の間、それに我々を含む重臣達の私室以外は無い。上から聞こえている以上、間違いは無いだろう」
「わかった、助かる!」
「アンリエッタ殿ですが、随分思い詰めた顔をしておりました。マリオン殿が後を追われていましたが急いだ方がよろしいかと思われます」
「ありがとう!ひと通り話は終わったから二人も食堂に戻っててくれっ!」
長い廊下を走り抜け、吹き抜けになっている広いホールに飛び出す。
真上を見上げると長い階段が外の光が差し込んできている扉へと続いているのが見えていた。
「馬鹿正直に階段を上がってる場合じゃないな…、空歩法ッ!とぁっ!」
手摺からホールへ飛び出して何度も魔力を帯びた足で空中を蹴り、上階を目指す。
巡回している兵士達が何事かと騒ぎ始めていたが、今は構っていられない。
三階を超えて更に屋上への扉に近付くと、そこからマリオンの声が聞こえてきていた
「ちょっとアンリッ!そんな所に出てどうするつもり!? 戻ってきなさい!」
マリオンの声はとても穏やかな声では無く、その声からも非常事態である事は容易に想像できる。
飛び上がる速度を上げ、俺は声の聞こえてくる屋上の扉へと急いだ。
「セオも別にアンタを騙そうなんて考えて無いわ!そのくらいずっと一緒にいたアンタもわかってる筈でしょ!」
「…当然わかってますわ」
「だったら…!」
「ですがセオ様だとお慕いしていた方はカムイ様、セオドア様はまた別の人物で…」
「それは違う、アンリ」
アンリエッタとマリオンがやり取りしている途中に屋上への扉にたどり着いた俺は二人の前に姿を現し、アンリエッタの見解に意を唱える。
「確かに今までこの世界で表だって動いていたのはこの火継坂神威の魂だ」
「"だけど、カムイ君はこの世界にやってきて、君に出会ってからも不誠実な行為はしてきていない筈だ"」
「今のはセオドア様の方の言葉ですわね…。ならばカムイ様、これまで貴方はセオドア様の事を隠し、共に旅をしてきた私達に自らの宿命を話そうとしなかったのでしょうか!それこそが我々仲間を信じようとしなかったという不誠実ではなくて?」
アンリエッタの指摘は尤もと言える。
混乱を恐れて、今回ユリアに指摘されるまで俺自身の事や俺自身が抱える宿命について話さなかったのは皆を信頼し切れなかった俺の落ち度だ。
「…ああ、確かに俺は皆を自分の手前勝手な宿命に意思を問わずに付き合わせる訳にはいかないと思ってた、今日ユリアに指摘されるその時までは。そもそも、さっきセオドアに話されるまで俺自身もどうするべきかもわかっていなかったし、そんな曖昧な状態で話す訳にもいかなかった」
「"僕自身も聖龍神様から聞かされた話を元に独自で解釈しただけだからね、未だに確信が持てている訳じゃない。本来なら聖龍神様と黒龍神様としっかり擦り合わせてから始めて話すべきだった事だ。だから僕自身、今までカムイ君にも皆に話す様にと言えなかったんだ。この事については僕の責任だ、アンリは勿論、皆には済まないと思ってる"」
俺とセオドアが二人でアンリエッタに対して本心からの謝罪をする。
「まぁアタシもアンリを追いかけて話を聞きそびれてるけど、少なくとも二人の言葉に嘘は無いと思ってるわ。…ねぇアンリ、カムイもセオも別にアンタやアタシ達に隠し事をしてたつもりじゃなくて、話すべきタイミングを図ってたんじゃない? それは今の話を聞いてアンタもわかってる筈でしょ? それに、カムイも今まで確信の持てない話は今までしてこなかった、帰らずの迷宮の酸魔導人形討伐の時だってあんな作戦、普通誰も思いつかないわ」
マリオンが過去の事例を挙げつつ、俺の弁護をしてくれる。
それに対してアンリエッタは言葉を失い、俯いたままただ立ち尽くしていた。
「…マリオン、アンリを引き止めてくれて助かった」
「ふー…ま、仲間として、元上司としてほっとく訳にはいかないからね。ほら、アンリの手を取ってあげるのはアンタの仕事よ、行ってやんなさい」
「ああ。さぁアンリ、これから皆にも、アンリとも話さなきゃいけない。一緒に戻ろう」
「あ…」
マリオンに送り出され、俺はアンリエッタの手を取ろうと、手を伸ばしながら近づいていく。
「ああ…私、なんて言葉を──…キャアッ!?」
アンリエッタが俯いた顔を上げてふと一歩下がった瞬間だった。
彼女は石造りの床の切れ目に踵を引っ掛けてしまい体勢を崩すと、手摺から身を乗り出してしまい、宮殿の屋上から転落してしまう。
「アンリィッ!」
俺は屋上から転落したアンリエッタを追って、手摺から飛び出した。
屋上から滑り落ち、頭から落ちていくアンリエッタに追いつく為に魔力を纏わせた足で空中を懸命に蹴る。
空中を蹴る度に速度を増しながらどうにか彼女へ追いつくと、彼女の手を取ろうと限界まで手を伸ばすが、彼女は俺を疑ってしまった事を恥じているのか手を取る事を拒み首を振っていた。
「私…僅かでもセオ様を…カムイ様を疑ってしまいましたわ。これはそんな私への罰、この手は取れません…」
「うるさいッ!」
だが俺はそれを断じ、彼女を腕を掴んで強引に手繰り寄せ、背中と頭に手を回し強く抱きしめる。
「アンリ、今回は今まで俺が何も話さなかったのが原因だ。これからはもう何も隠し事はしないと誓う。だから俺を信頼してくれ」
「セオ…様…」
猛スピードで落ちながら、俺はアンリエッタに誓いを立てる。
すると、アンリエッタもまた返事を返す様に俺の背へと手を回していた。
「もう二度とこんな思いはさせない。アンリがそうやって手を離さないでいられる様にするし、俺もどんな事があってもこの手を離さない!カムイは元の世界での俺、今ここにいるのはセオドアとしての俺だ!この世界に俺の魂が止まる限り、俺はお前を愛し続けるっ!」
「…はいっ!」
彼女に誓いの言葉を立てている間にも地面はみるみる迫ってくる。
勢いが付き過ぎて、もう空歩法でも勢いを殺せない程の速度と高さまできていた。
「アンリ、しっかり掴まっててくれ!手を離すんじゃないぞ!」
「先程約束されたばかり、勿論ですわ!」
アンリエッタがしっかりと俺に掴まったのを確認して彼女の背中から片手を離すと、その手に練れるだけの魔力を練る。
「アンリ、振り落とされるなよ…!」
「ええ!」
「行くぞっ、暴風ッ!」
地面に激突する寸前に手を伸ばし、その手に練った魔力を爆発させると放たれた爆風が石畳の地面を抉り、その反動で俺達の身体が浮く。
微調整する暇も無かった為に少しばかり威力過剰だったようで浮き過ぎてしまったが、勢いそのものは完全に殺せた様だ。
空歩法の力を纏う足で何度か空気を蹴り、ゆっくりと、無事に地面に着地する。
「セオー、アンリー!無事ー!?」
着地すると同時に屋上から身を乗り出したマリオンの声が聞こえてくる。
それに対して手を振ると、彼女も安心したのか、乗り出していた身体を引っ込めていた。
「さて…一旦皆の所に戻らないと…」
「セオ様、あれを…」
「ん?」
なんとか無事に着地出来、皆のいる食堂へ戻ろうとすると、宮殿から兵士達が続々とやってくる。
「今の音は一体…、…!石畳が抉れ…何があったんですか!?」
「あ…これは…」
どうやらさっき放った暴風の音を聞きつけて、兵士達が集まってきたらしい。
宮殿の内外から集まってきた兵士達に囲まれ、俺はその説明をせざるを得なくなってしまった。
「あー…正直に話すとうっかり宮殿の屋上から足を滑らしまして…」
「こんな大穴を開けて…!陛下のご友人とは伺っておりますが、少し詳しく話を聞かせてもらいますよ!さぁ付いてきてください!」
「ちょっ、待ってくれ!ユリアと…陛下も交えて話さなきゃなら…」
「弁解は後で聞きます!お二人共こちらへ!」
宮殿の庭に大穴を開けた事で俺とアンリエッタは大勢の兵士達に囲まれ、食堂ではなく独房へと連行される。
ユリアの友人だと言う立場の為に拘束まではされなかったが、この状況で抵抗すればそれこそ本当の犯罪者になってしまう。
「…なぁ、アンリからも説明してくれないか?」
「理由はどうあれ、やってしまったのは事実ですわ。正直に話せば直ぐに解放されるかと、今は素直に従いましょう」
「…はぁ…、参ったな…」
ーーー
俺とアンリは独房に入れられた後、それぞれに尋問されていた。
尋問が終わってからはまた独房へ戻され、暫くして夜を迎えると、マリオンとレオが面会にやってきた。
「飛び出したアンリを追っかけていったと思ってたら…、何してんだお前ら…」
「ったく、アタシまで尋問されたわよ。もう少し何とかならなかったの?」
二人は面会に来たと言うよりは文句を言いに来たと言う方がしっくりくる。
ただアンリの言う通り、俺達がやらかした事である以上、反論の余地も無く、何一つ言い返せずに独房の中でその文句をただ黙って聞いていた。
「まぁユリアは笑いながら明日には出られる様にしておくって言ってたけどよ。ちなみに俺達は客室に泊めて貰えるらしい。お前らはこっちで頭を冷やしてろってさ」
「アンタ達が開けた穴についてはクリスが塞いだわ。とりあえず明日、アンタ達が出てから全員で話を共有するつもりみたい」
「…わかった。明日セオドアとメルティナも交えてしっかり話を纏めよう。…今日は疲れた、俺はもう寝るとするよ…」
扉越しに二人に返事を返すと、俺は独房の粗末なベッドに横たわり背中を向けた。
「アンリ、もう大丈夫ね?」
「ええお陰様で。皆さんには迷惑をお掛けしましたわ」
「俺達は一通り話は聞いたけどよ、まだまだ全部
理解してる訳じゃねェからな。明日はセオとメルティナ、それに…カムイからも改めて話をしてもらう。ま、どうするかはそれから決めようぜ…つっても、三人の出した答えに返事するだけだけどな。…じゃ、俺達も戻って寝るとするか」
レオとマリオンが面会を切り上げて客室へと戻っていった。
二人の足音が聞こえなくなると、壁の向こうからアンリエッタの声が聞こえてくる。
「セオ様、…いえ、カムイ様…」
「何だ? 謝るのはナシだからな。さっきも言ったけど、元々俺が何も話さなかったのが事の発端だ。俺が謝る必要はあるとしてもアンリが謝る必要なんて一欠片もない」
「…。…そうではなくて、今まで私達と接していたのは…」
「"カムイ君さ。この身体は確かに僕の身体だけど、この世に生を受けてからの殆どは彼に任せてる。見える世界は共有してるけどね"」
俺の意思とは別にセオドアがアンリエッタの質問に答える。
ただ、セオドアの返答は一言だけ多かった。
「…あ、その…、ではセオドア様、あの夜の事も…?」
「セオ…、お前まさか…。…どうなんだ?」
「"はは、まぁこう言えばそう返ってくるだろうね。でも安心して欲しい、流石に二人の情事を覗く様な真似はしてないよ。そもそも暗くて最初からよく見えていないしね。流石に耳までは塞げないからそこは容赦して欲しいけど"」
セオドアは俺とアンリエッタの行為を見ない様にはしていたらしいが、耳に入る音だけはどうしても鮮明に聞こえていた様だ。
「お前、正直だな…」
「"その点については原則君と同じだよ? ただ、隠したり嘘をついたところで一緒ならちゃんと話した方がいいのはさっきので証明済みだ、参考になったよ"」
「…アンリ、改めて言っておくけど、俺とセオは二人で一人、俺が見聞きしている事はセオドアも知ってる。俺とセオは二人でセオドア・ホワイトロックなんだ」
二人で一人、そうアンリエッタに返答するが、壁の向こうから返事は返ってこない。
その代わりに聞こえてきたのはアンリエッタのいる独房にもあると思われる同じ粗末なベッドが軋む音だった。
「…アンリ?」
「…あの時の声、まさか…聞かれて…」
軋むベッドの音と後悔しているかの様な暗いトーンで呟く声が壁の向こうから聞こえてくる。
壁に隔てられその様子は見えないが、彼女が恥ずかしさのあまり、身悶えている様子が手に取る様に目に浮かぶ。
「"えっとアンリ…?その…何と言うか…"」
流石にセオドアも彼女の様子に気付いたのか、かける言葉に困っているらしい。
だが、彼が発した言葉はとんでもない発言だった。
「"僕もカムイ君と同じくらい君に愛して貰えるように頑張るから…ね?"」
「…──!」
セオドアの突拍子もない言葉が飛び出した直後に壁の向こうから大きな音が響く。
「…セオ、暫くアンリと直接話すのはやめてくれ。その内俺ごと殴られそうだ」
「"えっ、ええっ!? そんなあ…"」
アンリエッタが愛していたのはセオドア・ホワイトロックを演じていた俺の人格だ。
いきなり別の人格が現れて、それをいきなり愛せなど出来はしないのは当たり前で、彼女が戸惑ってしまったのは無理もない話だろう。
セオドアは悪い奴ではないが、変に正直で一言が多い、 まるで俺の悪い部分がそのまま別の人格を持ってしまった様にも思えてくる。
そもそも俺が見聞きしている事も共有しているし、考えてみればセオドアは俺が育ててきたとも言えなくはない。
「"僕だってアンリの事を君と同じ様に愛してるんだけどなあ…"」
「いきなり出てきた奴にそんな事言われて手放しで喜ぶ人がいるわけないだろ…。ましてやアレまで見られてるって聞いたらなおさらだ」
「"うーん…、そういうもんなんだね。難しいな"」
「まぁそういう事だ。人は、特に女性って生き物は色々と難しいんだよ。悪いけど俺もそうとしか教えられない」
心の中でセオドアにそう言い聞かせ、そのまま俺達は粗末なベッドの中で眠りに就いた。
ーーー
「起きろ、起きてくれ、朝食の時間だ」
「…んん? …ああ、朝か…」
翌朝、独房の扉を叩く音に起こされる。
扉の鉄格子の向こうからこちらを覗いていたのはベアトリクスだ。奥から聞こえてくるのはナタリアの声で、彼女もアンリエッタを起こしに来たのだろう。
今朝を以って俺とアンリエッタは釈放という事らしい。
「手間をかけた」
「全くだ。だがセオドア殿とアンリエッタ殿に怪我が無かったのは幸いだ。聞けばアンリエッタ殿が屋上から足を滑らせて転落した時、危険を顧みずに自ら飛び降りたと。幾ら魔術にも長けているとは言え、そうそうできるものではない」
「…やめてくれ、むず痒い。ベアトリクスみたいな人に言われると尚更だ」
「褒めているんだよ。私もそんな男性と巡り逢いたいものだ、全く彼女が羨ましいよ」
独房の少し錆のきた鉄の扉が軋みながら重たい音と共に開けられる。
独房の外に出てひと伸びしていると先に出されたアンリエッタを伴ってナタリアがやってきていた。
「ベアトリクス、何を話されていたんですか?」
「何、アンリエッタ殿が羨ましいと話していただけさ。私はこの通り、ずっと剣に生き、気が付けば連邦最強の剣士だと持て囃されてしまうようになった。お陰で憧れられ、慕われる事はあっても愛していると口にしてくれる様な男は現れない」
ナタリアに話していた事を尋ねられると、ベアトリクスは肩を竦めながら自嘲気にそう返す。
最強の剣士だと言われてもベアトリクスとしてはそう嬉しくはないのだろう。彼女も一人の女性で、男性の様な話し方をしているが、本来は女性として生きたいという願望はあるのだろう。
実際普段から厳しい顔をしているが、よく見れば端正な顔立ちをしているし、スタイルもいい。格好と話し方さえ違えばかなりの美女であるのは間違いない。
「へえ、ベアトリクスでもそんな事を考えるのですね。この連邦最強の女剣士"女王の剣"、その異名を聞いただけでも大抵の男は震え上がって逃げてしまうと言うのに」
「…斬るぞ、ナタリア」
「まあ恐ろしい」
少し怒った様子で左手で宝剣の柄を掴んだベアトリクスにナタリアは戯けながらアンリエッタの陰に隠れてしまう。
ベアトリクスの普段の顔は四角四面の女王の側近、だがナタリアとは仲がいいが為に少し表情が綻んでいる。
その顔を外でも見せられれば言い寄ってくる男も少なくはないのだろうが、恐らくは彼女は不器用なのだろう。
直ぐに彼女は表情を戻すと俺達を連れて牢獄を出る。その際に看守である女性兵士に手を挙げていたが、女性兵士は畏敬の念からか背筋を伸ばし、強張った表情で敬礼を返していた。
ーーー
水場で顔を洗わせてもらい、昨日の昼に出たきりの食堂まで連れて来られ、ベアトリクスが扉を叩く。
「セオドア殿とアンリエッタ殿をお連れ致しました」
「入れ」
「はっ」
大きな扉が開くと食卓を挟んで正面の玉座にユリアが扇を仰ぎながら優雅に待ち受けている。
仲間達も同時に卓についており、一同に視線をこちらへと向けていた。
「セオドア、独房の居心地はどうだったかの」
「悪くはないな。ベッドは少し硬かったけどシーツも綺麗だったしよく眠れたさ。少なくとも穴を開けたくなる程不快な場所でもなかったさ」
ユリアのやや意地の悪い問いにジョークを交えながら返し、食堂内に笑いを誘う。
「石畳に穴を空けてしまったのは緊急に駆られてだ、悪いことをしたとは思っているが許して欲しい」
「無論じゃ。穴はクリスが塞いでくれたしの、其方を牢に入れたのはあくまで体裁の為じゃ、許せ」
俺とアンリエッタも食卓に着くと、ユリアが扇を閉じてそのたわわな胸に収める。
「さて、これで揃ったの。ベアトリクス、ナタリア、食事の後で其方等も交えて話す。今日は其方等も朝食を共にせよ」
「「はっ」」
ユリアが手を鳴らすと侍従達が迅速に朝食を食卓へと並べていく。
その内容は先日食べた宿の朝食とは比べ物にならない程で、下手な宿ならば夕食と見紛う程の豪華さだった。
数々のパンが並び、ハムやソーセージ、スープにサラダ、更にはデザートとしてフルーツまでが用意されており、起床から僅かに感じていた空腹感はあっと言う間に満たされていた。
朝食を終えると食卓の上は綺麗に片付けられ、新たに敷かれた純白のテーブルクロスが眩しく光る。
侍従達は片付けを終えた後、全員が食堂から離れ、食堂へ続く廊下に誰も通さない様にユリアに言いつけられており、ここに居るのはユリアと側近の二人、それと俺達だけだ。
「さて、腹も膨れた。早速話を纏めるとしようかの」
ユリアの一言からこの場にいる全員の表情が引き締まる。
これから始まるのは俺達の旅の方針を決める話だけではない。この世界の救済、それに向けて取る行動指針を決める為の話だ。




