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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第十二章:うねり廻る魔導連邦
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第百八十四話:明かされる存在

 「ちょっとメル!? 駄目よ、あなたの事は秘密…」

 「"大丈夫、ローム家ならあたしの事は知ってる筈。あなたがシャロンの子孫ね? クリスの体を借りてるから姿は見せられないけどはじめまして、あたしが黒龍神、メルティナよ。しっかし見れば見る程あの子そっくり…、服と髪型こそ違うけど顔も体格もまるで生き写しみたいね!"」


 突然現れたメルティナに食堂が騒然とする。

 実際の所を言えば、メルティナが現れた事に驚いていると言うよりは、クリスがやたらと高いテンションかつ砕けた口調で話している事に驚いていると言うべきだが、ユリアだけは皆とは異なる点で驚いていた。


 「…!! 初代の名を…!ベアトリクス、ナタリア、侍従達を連れて外しておれ!この事は他言無用、混乱を招き兼ねん、よいか!」

 「は、はっ!」


 メルティナの登場は即ちこの世界における神が現れた事と同義だ。本人や俺達はいざ知らず、一介の侍従達が話を聞いてしまえば混乱してしまう。

 ただ現れただけならせいぜい妄想の類だと笑い話のタネ止まりで済むだろうが、下手に話を聞かせれば噂では済まなくなる。

 ユリアは王としてはまだ若いが聡明な女王だ。直ぐに判断を下し、側近の二人に周囲の侍従達と共に食堂から外す様に命じる。

 二人もユリアの驚き様を見てただならぬ事態である事は察したのだろう、やや混乱しながらもユリアの命に従い、呆然としている侍従達を連れて速やかに部屋を去った。


 「"さて、と。人払いも済んだわね。そろそろ話に移りましょっか"」

 「まさか…いや、初代の名を知るのはこの国に生まれた者でも妾を含めごく少数、ならば疑いようも無かろうて」

 「まぁ俺から話すよりは間違い無く説得力はあるか…。とりあえず俺の話は後回しにするとして…メル、一旦任せた」

 「"はいはーい、任せといてカムイくん!"」


 メルティナがうっかりカムイの名前を口にすると仲間達の中で動揺が走る。


 「ちょっと待て、カムイって誰だ? セオじゃねぇのか?」

 「もう何が何やらですわ…」

 「アタシも頭がこんがらがってきたわ…」

 「私は少し話が見えてきたけど…、ただ詳細についてしっかり聞かせてもらいたいわね」

 「ああ、もし本人ならこの弓の元の持ち主、僕のご先祖様の話についても聞きたい所だ」

 「まさかクリスティン様に黒龍神様の魂が宿られているとは…。ではセオドア様も…?」

 「よもや二人にこれ程の御方の魂が宿っていようとは、わからぬものだな…」

 「…とりあえず俺の話は後回しだ。後からちゃんと話すから、先ずはメルにシャルの事も纏めて話して貰う。みんな、落ち着いて聞いてくれ」

 「皆さんの混乱は尤もですが、大事な話です。どうかお願いします」


 予想通り、話をする前から仲間達も混乱している。まぁ当然といえば当然なんだが…。

 俺とクリスそれぞれに聖龍神と黒龍神の二人が同居しているだけでも驚く所だが、俺もまたセオドア・ホワイトロックの中にいるもう一人の存在であり、皆がセオドアだと思っていた人格が全くの別人、火継坂神威だったのだから、皆も混乱を極めている。

 俺とクリスの出生に立ち会っていた筈のアリーシャですら、まさかこんな大物が現れるとは夢にも思わなかったらしい。


 食卓を囲み混乱し続けている皆だが、メルティナはシャルディンの事と自身の事について全員に一通り話をする。

 エーテルスクエアの成り立ちについて、この世界の輪廻について、自分達が何故創造神としてでは無く、聖龍神と黒龍神として別々に転生したかについて、何故俺とクリスの兄妹の中に彼らが宿ったのかについて、そして今の状態ではその輪廻を実行出来ず、いずれこの世界が崩壊の一途を辿る事について、彼女は全てを包み隠さずに話していた。

 当然、それを聞いた仲間達も、ユリアも、直ぐに全てを信じる事は出来ないと言う顔をしている。

 だが、どうやら全員が何とか呑み込んだらしく、揃って頷き理解をしたようだ。


 「…つまり、とりあえずは何もしなけりゃあと百年の内に世界が滅びる、そういうこったな?」

 「この世界は何度も何度も輪廻を繰り返して今の時代を為しているって事ね…」

 「そしてその輪廻を司るのが聖龍神様と黒龍神様、御二方が融合した創造神様、というわけじゃな…」

 「あの宝珠から出てきた魂がまさか聖龍神様と黒龍神様だったとは…」

 「で、世界の崩壊を防ぐとして、セオ…じゃなくて異世界って所から呼び出してきたカムイの魂を元の世界に還す時に生じる残渣の魔素で満たすって事でしょ?」

 「でも今現在、聖龍神様は眠ったまま、しかも二人が融合し直す手立てもわからないんだよね?」

 「だがそうなれば、カムイ殿はこの世界からはいずれ元の世界へと帰らなくてはならぬ、という事になるな」

 

 全員が俺とクリス、シャルディンとメルティナ、そしてエーテルスクエアが待つ運命を知り、考え込んで議論する。

 そんな中、一人だけがそれを受け入れられない者がいた。

 アンリエッタだ。


 「信じられません、そんな話、信じたくありませんわ!」

 「アンリ…。…済まない、今まで隠していて。…だけど事実だ」

 「事実だとしても酷すぎますわ…!漸くセオ様と結ばれたとお思いしていたら…セオ様だとお慕いしていたのが異世界から来られたカムイ様で…そのカムイ様もいずれは居なくなってしまう御方だなんて…!もう私何を信じたら…!」


 騙す気は無かったとは言え、俺は彼女に全てを隠し、結果的には騙す形となってしまった。

 あの時、彼女の愛を受け入れ迎える為の言葉に偽りは無かったが、俺のこの世界での宿命を知らせずに彼女の愛を受け入れたのは誠実さに欠けるものであり、俺も浅慮だった。


 「アンリ、済まない。俺が考えが浅かった…」


 顔を覆って大粒の涙を流している彼女の手を取ろうとした瞬間、伸ばした手は力強く弾かれてしまう。


 「…アンリッ…!」

 「…っ、今は私に構わないでくださいましっ…!」

 「待てっ、待って話をっ…」


 アンリエッタは余程ショックだったのだろう。俺の手を強引に振り払うと、食堂を飛び出して走り去ってしまう。


 「…ま、無理もないわね。つい先日結ばれたばかりでこんな事聞かされて平気じゃいられないでしょ。私もフォルクがそんなだったら平気じゃいられないでしょうし」

 「何にしても一人にしておく訳にはいかないわね。セオが行っても今は逆効果だろうし、アタシが様子を見てくるわ」

 「済まないマリオン、だが行く前にもう一つだけ話しておく事がある。俺の中にいる同居人についてだ。…セオ、頼んだ」


 俺がセオドアについて話すと言うと、マリオンも足を止める。


 「"えっと、はじめまして、って言うのも少しおかしな話だけれど、僕がこの身体の本来の持ち主、セオドアだ。普段はカムイ君が表に出ているけれど、僕もみんなの事はカムイ君と僕の身体の眼を通して見てきているよ。仕方ないとは言え、アンリについては少し悪いことをしてしまったかな…"」

 「すまぬな。妾が至らぬ指摘をしたばかりに」

 「いや、いずれは話さなきゃならなかった事だし、今まで先送りにしてた俺の責任だ。…あとはどうやってアンリに話したもんか…」

 「とにかくアタシは行ってくるわね。セオと…カムイ、アンタは皆に説明を続けてて。で、後でアタシとアンリにも聞かせなさい、いいわね?」


 本当のセオドアの存在を知った所でマリオンは指を立てて俺達(・・)にそう告げ、アンリエッタを追って食堂を出る。

 彼女はベアトリクス、ナタリアの二人と少しやりとりをした後、靴音を鳴らしながらアンリエッタを探しに走って行った。


 「"さて、とりあえずは僕と、それからクリスの事について話そう。カムイ君、それにみんな、聖龍神様と僕はある仮説を立てた。それについて聞いて欲しい。まだざっくりとしたものではあるけど、これからの旅の指針にもなると思う"」

 「わかった。続けてくれ」

 「"まず僕の身体の中にはカムイ君と僕、そして聖龍神様、そしてクリスの身体にはクリスと、黒龍神様の魂が同居しているってのはこれまで話した通りだ。ここまではいいかい?"」


 セオドアが全員に理解できているかを尋ねると、全員が揃って頷く。


 「"じゃあ続けよう。これまで、世界の輪廻を実行するにあたり、数百年に一度くらいの頻度で創造神様の魂をこの世に転生させていた。創造神様は聖龍神様と黒龍神様の二人が融合した存在で聖龍神様は創造を、黒龍神様は破壊を司っている。僕達エーテルスクエアにいる生き物は生まれる時に聖龍神様の力で魂を創造され、死んだ時にその魂を黒龍神様によって破壊され、循環を繰り返している。少しややこしい話だからこの話は置いておくとして、それにはこの世界に充満しているみんなが魔素と呼んでいるものが媒介になってるんだ"」


 セオドアの説明に皆が注目を向けて聞いているが、さすがにいきなりの説明ではレオやアリーシャ、センゾウが首を傾げてしまっており、どうにも上手く伝わっていない。しかし、そこで立ち上がったのがフォルクだ。


 「…要約すると、僕達が生まれた時に世界の魔素が消費され、死んだ時に分解されて還元される。ただその循環の過程で少しずつ消耗されて最後には無くなってしまってその循環も出来なくなる、それがつまり世界の崩壊と、…そんな認識でいいのかな?」

 「"そうだね、理解が早くて助かるよ、フォルク。ただ厳密に言えばこの世界に存在するあらゆる物も魔素が宿っていて、その維持にも魔素は消費されてるんだ"」


 セオドアの話すこの世界の循環サイクルをフォルクが噛み砕いて説明してくれた事で、首を傾げていた仲間達もなんとなくではあるかもしれないが理解を示していた。


 「"ここからが本題、長くなるから心して聞いて欲しい。創造神様の魂は本来なら竜人族の神官たちによってそのまま召喚され、転生されるんだけど、当然ながら当時の肉体は既に朽ちて無くなってしまってる。じゃあどうするかなんだけど、代わりの肉体を用意するんだ。それも丈夫な、強い肉体をね。それでもいきなり肉体に創造神様の魂を入れた所で肉体の方が耐えれないし、創造神様の魂にも負担がかかってしまう。だから創造神様の魂の導き手として、別に他の魂を呼び出して創造神様の魂と結びつけ、その肉体に入れて創造神様の魂は表層には出さずにもう一つの魂が肉体を操り、創造神様を導かせるんだ。そして今代で呼び出されたのがカムイ君、というわけだ"」

 「…っても、今回はその創造神も、何故か二人が分離しちまってセオとクリス、別々の身体に入れられちまったんだろ? 別々でも創造神としての力はそのまま使えんのかよ?」


 セオドアの説明にレオがすぐ様疑問を投げかけた。

 一瞬、全員がレオを一瞥し、その返答を返すセオドアに再び視線が集まると、彼は一度頷いてから説明を再開する。


 「"当然不可能だ。創造と破壊の循環工程は二人がいなくても働いているのは間違いない。けれど、世界の輪廻は二人が融合し、創造神様にならなければできない事だ。なぜ二人がバラバラにされてしまったのかは二人にもわからない。何度も行われてきた輪廻でも今回の事例は初めての事で、異常事態だという事は当然すぐにわかったらしいけど聖龍神様も転生したばかりで詳しく何が起こったのかも掴みかねていたらしい"」

 「…成る程。創造神様が御二方に分離された経緯までは分かりかねますが、恐らくあの宝珠に封じられていたのが御二方の魂と言う事でしょう。そしてその宝珠がホワイトロック家の屋敷に持ち込まれたのがセオドア様とクリスティン様が出生なされたあの夜。持ち込んできたのは竜人族の神官であるガスター様、彼は何者かに追われていた様でホワイトロック家に逃げ込む様に訪れられ、その時には多くの傷を負われていた…、だとすればあの宝珠に関わる事で追われていたのでしょう」

 「"そういう事か…、だったら合点がいく。ガスターは竜人族の神官達を裏切って転生の儀式を妨害、その際に創造神様は聖龍神様と黒龍神様に分離されたんだろう。そして魂が封じられた宝珠を持ち出し逃げてきて、たどり着いたのがホワイトロック家。幸いにもその時ホワイトロック家は僕とクリスが生まれたばかりで、更に僕達はアトラシア最強の剣士、アルフレッド・ホワイトロックの双子の子供。運がいい事に、僕達は聖龍神様と黒龍神様の魂を受け入れられる程の器だったって事なんだろうね。或いは、ガスターもそれが分かってホワイトロック家に逃げ込んで来たのかもし知れないな…"」


 アリーシャはセオドアとクリスの出生に立ち会っていた事もあり、その時の事を彼に話すと、彼もまた抜け落ちていたパズルのピースが漸く埋まったとでも言うように、一人推理を展開していく。


 「"まぁガスターの事は一旦置いておくとして、これから話すのはカムイ君と一緒に生まれ、彼の眼から見えるものと彼の考え、知識、感覚からと、聖龍神様の教えで学んだ事、その上で聖龍神様と二人で出したこれからの方針と仮説だ。まずはこれからの方針についてだけど、それは簡単にかつ大まかに言えば二つ、まず聖龍神様と黒龍神様の魂を再び一つに結びつけて創造神様に戻ってもらう事。そして、次にカムイ君の魂を創造神様によって元の世界へ還してもらう事だ。ただしその為にはいくつかしなければならない事もある。そしてここからは二つの手順を実行する為に必要な過程だ"」


 セオドアが二本の指を立てそう話すと、世界の救済に必要な過程についての考えを全員と共有し始める。


 「"まず聖龍神様と黒龍神様を結びつけ、創造神様に戻ってもらう事についてだけど、クリスの中にいる黒龍神様の魂を僕の身体に移し替える必要がある。カムイ君の魂と聖龍神様の魂は結びつきが強いけど僕と二人の魂の結びつきはそう強くは無いんだ。そしてそれはクリスと黒龍神様の間にも言える事だと思う。そうですね、黒龍神様?"」

 「"そのとーり!あたしの加護の力が本来の力を発揮したならクリスちゃんの魔力、こんなもんじゃないわ!…実際のところ、加護の力が利いてるのは五割くらいってトコね。それでもあれだけの魔力、普通の人族じゃまず届きはしないかなぁ? そこはクリスちゃんの努力と才能の結果だと思うけどねっ!"」

 「"…その点については今は置いておくとして、まだ僕の身体も、クリスの身体も聖龍神様と黒龍神様の器としてはまだまだ未熟だ。特に僕の身体は黒龍神様の魂を受け入れる必要がある以上、もっと強くならなきゃいけない。そしてもう一つ重要な件として聖龍神様も黒龍神様も絶対的に魔素が不足してる。二人の本来の魔素総量は膨大だ、そして黒龍神様の魂を僕の身体に移すにも、カムイ君の魂を元の世界に戻すにも、その引き金にするために大量の魔素を必要とするんだ。それを賄うにも僕の身体じゃ時間がかかり過ぎるし、そもそもそれまで僕の身体も持たないだろう。本来器になる人間は特異な体質の人間だ、幸い幾分か僕らの身体は強い方ではあるけど、それでも彼らには到底及ばない、器としての強度も、魔素を取り込む能力もね"」


 セオドアは少し間を置いて全員の顔を見る。

 事の壮大さや、その問題の深さ、正直な所を言えば、こんな話をいきなり聞かされても、理解が追いつかないのが当然で、多少なり聞かされている俺でも新しく知る事も多く、まだ整理がついていない。

 だが、事の深刻さは全員理解していたのか、此方を一点に見つめ、直面した事態への理解に努めようとしている事は此方にも伝わってきている。


 「…だとして、どうするの? セオの身体じゃ魔素を取り込むのが追いつかないなら別の身体にって、そういう訳にもいかないなら手の尽くし様がないわ」

 「"そう、自然に取り込んでいく魔素じゃ足りないなら別の所から持って来るしかない。幸いな話ではあるけど黒龍神様が膨大な魔素の塊をこの世界に遺してある。その一部を君達は一度、カムイ君は二度見ている筈だ。レオとセンゾウ、ここにいないマリオン以外はね"」

 「…?」

 「忘れたかい? だったら君達の手首を見てみるといい、思い出すと思うよ?」


 クリス、フォルク、クローディア、それにアリーシャの四人はセオドアの言葉通りに自身の手首を見る。

 そこには金銀の毛で紡がれたミサンガが静かに輝きを放っていた。


 「その毛は…獅子の王(レイ・デルソル)獅子の后デプスエス・デラルーナだな?」

 「"そう、彼らもまた黒龍神様が世界の楔として遺した魔物でね、四肢獣種の姿をしているけどこの世界における魔物の分類に当てはめるなら、彼らもまた歴とした魔生物種、そんな魔物が全部で九体存在しているんだ"」

 「あんなのが九体も!?」

 「"そう、彼らは傲慢(プライド)を冠した魔物で番いで一体として考えて欲しい。カムイ君が海で見たのは嫉妬(エンヴィー)を冠した嵐の海竜ドラゴン・デトルメンタ。他の場所じゃ漆黒の海竜(リヴァイアサン)だとか、黒き嵐シュヴァルツァ・シュトゥルムといった名前で呼ばれている魔物だ。他の七体も追い追い話すとして、彼らは皆それぞれに人の罪の名を持ち、そしてそれぞれの属性を操る魔物の頂点に君臨している。元はと言えば黒龍神様の力で生まれた魔物達だ、彼らを討伐すればその膨大な魔素はまた二人の元に戻ってくる。今はまだ到底敵わないだろうけど、彼らを討ち破れる力を身につければ僕とクリスの器もそれだけ大きくなる筈だ。今は力を付け、その後に彼らを討つ──、これが僕達の当面の指針だ。突然でまだ理解に時間はかかると思うけど、みんなの力も借りなければあの九体の魔物は討ち破れない。聖龍神様と黒龍神様、それにカムイ君、そしてこの世界の為に、みんなに協力して欲しい。宜しく頼む!"」

 

 セオドアがそう話を締めくくり、この場の全員に深々と頭を下げると、一時の静寂が食堂全体を満たす。

 そんな中、沈黙を解いて静寂を破ったのはレオだった。


 「ざっくりと理解はしたけどよ、要はアレだ、詰まる所がもっと強くなってヤベェ魔物を倒せってこった。何も難しい話じゃねェし、そう考えりゃ単純明快だろ?」

 「ちょっとレオ、そんな簡単な話じゃないで…」

 「いやクローディア、レオの言う通りさ。セオの話を聞く限りじゃその続きはあるみたいだけど、話さないってことは逆に考えると今は色々考えるよりもただ強くなる事だけを考えてればいいって事だ。そうだね? セオ」

 「"ああ、是非そうして欲しい。実際その先の事については聖龍神様からもしっかりとは聞かされていなくてね。竜人族の神官たちなら何か知っているとは聞かされてはいるけど今は時期尚早だろう、先ずはそれだけの力を身に付けてからだ"」


 仲間達は目を見合わせて頷き合う。どうやら意見は皆一致したらしい。


 「ま、今迄見てきたんなら俺がどう言うかはわかってんだろ?」

 「僕もどれだけ力になれるかはわからないけど、力になるよ。この弓も、また世界の危機に役立てるんなら喜んでる筈だ」

 「正直あんな魔物と戦うのは怖いけど…、フォルクも一緒に行くんなら私もついてくわ」

 「拙者の故郷ワダツミは竜人族と浅からぬ因縁を持っておる。僭越ながらこのセンゾウ、世界の危機に、龍神の求めに応じ、助太刀致そうぞ!」

 「直接の助けにはなれませんが、私も可能な限りお力になりましょう。セオドア様とクリスティン様のお身体である以上、お二人が常に憂い無く戦える様、管理を手助けするのは侍従としての務めでもあります」

 「こうして一族が繁栄できておるのも創造神様にお仕えした初代シャロン様のお陰故。おいそれと国を離れる訳にも行かぬがこの立場故に出来る事もあろう、妾も陰ながら其方等の力となる事を約束するぞ」

 「"みんな…、それにユリアも、ありがとう、そして改めてよろしく頼む!"」

 

 この場にいる全員の協力を得られた所で、あとは飛び出していったアンリエッタとそれを追っていったマリオンだ。

 マリオンは兎も角として、一番の問題はアンリエッタ、いつか居なくなってしまう事を秘密にしていた事で彼女は今、俺の事を何も信用できなくなっているに違いない。

 説得に応じてくれるまで、ただひたすらに誠意を以って説明し続ける他、方法は無い筈だ。


 「セオ、説明が済んだなら一旦俺だけでここを離れたい」

 「"ああ、アンリについては君から話さないと駄目だろう。とは言え、僕にも責任の一端はあるし、必要だと思ったらいつでも代わってくれ"」

 「いや、ここは出来る限り俺から全て話す必要がある。そうじゃないと俺はアンリに許してもらえない、そんな気がするんだ」

 「"…わかった、僕からは必要とする話以外は一切口を挟まない。彼女の説得は任せたよ"」

 「じゃあみんな、行ってくる」


 皆は何も言わずに俺を見送ってくれた。

 アンリエッタもずっと一緒に居てくれた大切な仲間、その認識はここにいる全員が同じだ。

 俺の中でも彼女は掛け替えの無い大事な人であり、彼女無くして今の俺は無い。

 だからこそ、彼女の説得にセオドアの助けを借りてはいけない。そう胸に決めた俺は食堂の大きな扉に手を添え、ゆっくりと押し開いてゆく。

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