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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第十二章:うねり廻る魔導連邦
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第百八十話:湖上都市ローム

 関所を抜けてカエサル王領内に入るとそこはすり鉢状になった地であり、すり鉢状になった地の中心にはこの国の象徴とされる巨大な湖、そしてその上にあるロームの街が見える。

 ロームの街の中には高い位置に建てられた大きな宮殿が街全体を見下ろしており、そこには水の賢者と呼ばれるこの領内を統べる女王ユリアがいるのだろう。


 真っ直ぐにロームの街へと続く街道を進む事数日、いくつかの村を経由して俺達はロームの街がある巨大湖の前にたどり着いた。

 道中の村々でもフォルクの話していた通り、女性上位の文化が形成されており、店や宿の主人は漏れなく女性で、男性がそれを支えている様が見て取れており、各村を守る兵士達もやはり女性ばかりだった。


 ロームの街へと続く巨大な跳ね橋を抜け、街中に入ると、まさに水上都市と呼ばれる美しい街並みが目に飛び込んでくる。


 「綺麗な街だな。張り巡らされた水路が主な移動経路って所か」

 「ああ、街中はかなり入り組んでるから迷いやすいだろうね。水路を使って区画分けがされてるから、船で動いた方が迷いにくいかも。とは言え陸路を進んでも宮殿のある区画以外は一通り歩いて回れる筈だ」


 地面は石造りの足場で出来ており、その上に所狭しと家々や店が立ち並ぶ。

 水路上では沢山の小舟が行き交い、そのどれもが馬とも竜とも言えぬ鱗に覆われ鬣を生やした魔獣に引かれている。

 

 「あれは水馬(ケルピー)だね。この湖に住む魔物だ。大半が魔獣化されててこの街の人々の暮らしの一部になってるんだ」

 「へえ…。とりあえずはまずは宿を探しましょう。散策はそれからね」

 「ああ、しかしまぁ、これだけ建物が密集してるとイマイチどこに何があるか分かんねぇな…」

 「そういうものはこの街の人に聞くのが一番ですわ。せっかくですし、我々も船で移動致しましょう」


 クローディアとアンリエッタの提案通り、船を使い宿を探す事に決めた俺達は近くにある船着場を訪ねる。

 船着場では日に焼けた褐色の健康的な肌をした少女が元気よく俺達を出迎えてくれた。


 「いらっしゃい!冒険者さんかい? ボートは一隻銅貨二枚、一日乗り放題だよ!九人なら二隻だね、銅貨四枚だね、借りて行くかい?」

 「宿を探しているのですけれど、どう行けば宜しいのか教えて頂けますか?」

 「この中央水路を進んでいけばすぐだよ!詳しくはこの子達に聞いてみるといいさ。みんな出ておいで!」


 アンリエッタに尋ねられた少女は威勢のいい声で答えると、水路を向いて口笛を吹く。すると、水面から何匹もの水馬達が頭を出し、俺達を驚かせた。


 「ヴォッ!ヴォッ!」

 「よしよしいい子いい子!この子達は人の言葉を理解できるし街の水路全体を把握してるからね、この子達に行きたい場所を言えば案内してくれるよ!」

 「まぁ、賢い子達ですのね。じゃあ二隻お願いしますわ」

 「はいよ、毎度あり!じゃあボートをこの子達にセットするからちょっと待ってておくれよ!」


 暫く待っている間に女王の住む宮殿が見えていた為、見上げていると、どうやらこの街の水路を流れている水は宮殿の辺りから流れてきている事に気付く。


 「凄いだろう? あの宮殿から湖の水を汲み上げて街全体に行き渡らせてるんだ。湖自体が天然の堀になってるし、跳ね橋を上げれば魔物は勿論、人だってそう攻めちゃ来れない。街が水路以外迷路みたいになってるのも守りの為なのさ。アタシはまだ十七だけど、婆ちゃんの話じゃその大昔、この街が出来てから一度もこの街も、あの宮殿も攻められた事が無いんだってさ!…さ、準備できたよ!」


 船着場の少女がこの街の話をしている間にボートの準備が出来た様だ。

 どうも魔獣車と同様、御者が水馬に乗って舟を引くような形らしい。

 俺とフォルクがそれぞれの舟を引く水馬に跨り、あとのみんなが舟へと乗り込む。


 「じゃ、いってらっしゃい!ロームの街を楽しんで行くといいよ!」

 「ああ、ありがとう!…お前も宜しくな」

 「ヴォー」

 「うわわっ!」


 船着場の少女に手を振り、水馬に挨拶しながら頭を撫でると、水馬が鳴き声を上げて俺の顔を舐め上げてくる。


 「うふふ。セオ様、その子に随分と気に入られましたわね」

 「ペッペッ!全くだ…」

 「痛たッ!ちょっと…噛まないでっ!」

 「アハハ、逆にフォルクは嫌われたみたいね」

 「参ったな…、これでも魔族、魔物には好かれやすい筈なんだけどね…」

 「ヴォヴォッ!


 フォルクは俺と同じ様に水馬を撫でようとした手を噛み付かれてしまったらしい。

 血が出たりという程ではないが、彼は噛み跡の出来た手を引き、痛みを払う様に手を振っていた。


 「じゃあ早速…、宿屋の集まってる所まで頼んだぞっ!」

 「ヴォッ♪ヴォッ♪」

 「ふーっ、ふーっ…、セオの後を付いて行って、頼んだよ…」

 「ヴォー…」


 俺が命令すると、水馬は嬉しそうに景気のいい鳴き声を上げて水路を進み始め、反対にフォルクが命令すると、水馬は面倒くさそうな鳴き声を返し、渋々俺達の乗る舟を追っていく。

 対照的な反応を見せる二頭の水馬に俺達は苦笑いしながら水路を遡って行った。


 中央水路と言うこの街に張り巡らされた水路で最も大きな水路を少しばかり進んでいると、水路の至る所に浮かぶ船上の屋台から芳しい香りが流れてくる。

 すると、ある屋台の前で俺の乗る水馬が足を止めた。


 「さあいらっしゃいいらっしゃい!おっ、そこのお兄さん、見ない顔だね!冒険者さんかい? せっかくロームに来たんだ、名物呑魚鰐(ディープスローター)の串焼きを食べてかなきゃあ損だよっ!」


 水馬が足を止めた屋台から少し恰幅のいい中年の女性が顔を出すと、景気のいい大きな声で俺達に食欲をそそる芳しい香りを放つ串焼きを売り込んでくる。


 「へえ、美味そうだな…」

 「これは水馬達の大好物でね!お兄さん、色男だから十本で銅貨三枚のところを銅貨二枚、そしてさらに一本おまけするよ!どうだい、みんなで食べていかないかい?」

 「セオ、せっかくだし食ってみようぜ!」

 「そういえばもうお昼前で少しお腹も空いてきた所ですし、頂いてみませんか兄様?」


 朝からここまで歩き通しで、クリスの言う通り腹も減ってきた所だ。

 実際にこの呑魚鰐の串焼きから漂う芳しい香りを嗅ぐと、腹の虫も鳴っている。


 「じゃあ女将さん、みんなに一本ずつお願いします」

 「あいよ!すぐ焼き立てを用意するからちょっと待っててね!」


 屋台の女将はそう言うと、直ぐにまだ火を通していない串を取り出し火にかけていく。

 串に刺さった脂乗りのいい呑魚鰐の肉が火にかけられると焼けた脂の弾ける景気のいい音と、先程嗅いだものよりもさらに強い芳醇な香りが俺達の腹を直撃する。


 「はーい、お待ちどう様!熱いから気をつけるんだよ!」

 「わっちっちっ…はっ、はふっ…!」


 屋台の女将に受け取った串焼きを口に入れると、溶けるように柔らかい肉が脂と共に口の中に広がっていく。

 芳醇な肉の香りが鼻を通り抜け、甘みを孕んだ脂が舌を包み込み、また一口、また一口と食欲に溺れるような感覚さえ覚える程だ。


 「ヴォー…」

 「…?あはは悪い悪い!お前も欲しいんだよな!」

 「ヴォー♪」


 シンプルながらも非常に美味い肉を味わい恍惚としていたが、物欲しそうな目で俺を見つめる水馬の熱視線に気付き我に帰る。

 彼に謝りながら俺は手に持った串焼きを差し出すと首を伸ばし大口をあけて食らいつく。

 串を引き抜いてやると、そのまま何度か咀嚼した後に一飲みにしていた。


 「うめえ!やっぱこれだよ、こういう霜降った肉じゃねぇとな!」

 「ここしばらくは干し肉か良くて白狼(ホワイトウルフ)の堅い肉ばかりでしたからね…」

 「たまにはこういった肉も悪くありませんわね」

 「うむ、これはこちらの酒がよく合う」


 後ろを振り向くと仲間達も腹が減っていたのかすぐに呑魚鰐の串焼きをペロリと平らげてしまい、フォルクの舟の方でも皆がっつくように串焼きを食べていた。

 皆が串焼きを食べている間に行き交う舟に乗っている人々を眺めていると、どうにも着飾った女性達が多く、街自体にも連なった三角旗がいくつも水路の上を渡してある。


 「女将さん、今ロームの街はお祭りか何かやってるのか?」

 「ああそうさ。明日からこのカエサル王領の女王ユリア様の生誕二十五年を祝う祭りがあるってんで、みんな準備に追われてるんだよ。女王様はこういうお祭り事が大好きでね、祭りの時はロームの街全体を挙げて祝うのさ」

 「へえ…。カエサル王領女王ユリア、水の賢者って話だったか…」

 「そうそう、あんた達、冒険者なんだろう? もし腕に自信があるなら女王様の余興に参加してみたらどうだい? もしうまくやればご褒美が頂けるかも知れないよ」

 「余興?」

 「こういうお祭りの時は毎回決まって女王様が余興をするんだよ。参加できるのは男だけ、大抵は力試しみたいなもんだ。どんな風にやるのかは女王様次第だけれどそうさね…、まぁ力自慢だとか武器を振り回すくらいしか能のないそういう男はやめといた方がいいね」


 屋台の女将が教えてくれた女王の余興、その凡その話を聞いて仲間達の視線が俺に集まる。


 「…まぁ気が向いたら、な? …と、それだったら早いとこ宿を取っとかないと、祭りだったら混雑してそうだ。ありがとう女将さん!」

 「はいよ、また来てねぇ!」


 女将に見送られながら屋台を後にして程なく、水馬達は広い中央水路の端の岸に舟をつける。

 そのまま進めば、巨大な水門が口を開いており、その前には衛兵が立って誘導をしていた。


 「水門エレベーター、間も無く閉門します!中層へ移動の方はお急ぎください!また、水馬等、魔獣で引かれていない舟については利用できませんのでご注意下さい!」


 衛兵の声に反応して、身なりのいい人々が水馬に引かれた舟で次々に水門エレベーターの中へと吸い込まれていく。

 粗方エレベーターへの入場が済むと、水門の前に立つ衛兵達が頷き合い、安全確認を行った後、彼女達は水門の前にある一対のレバーを動かす。すると、水門前の水路を塞ぐようにして金属製の柵が現れてきた。


 「閉門、閉門ー!」


 水門の上、中層側にも同様に衛兵達がいるのだろう、衛兵達が閉門の準備が完了した事を大声を上げて上方へと合図を送ると、巨大な水門エレベーターの門扉がゆっくりと閉じられていく。

 門扉が完全に閉じられると程なくして水門エレベーターの中から大量の水が流れ込んでいる音が聞こえてきた。


 「成る程、完全に密閉した水門の中に水を流し込んで水位を上げて、上の層への行き来ができるようになってるのか」

 「で、その水はあの宮殿で汲み上げられて、街全体に行き渡らされてるという寸法ですわね」

 「よく考えられてんだな…。さて、とりあえず早いトコ今日の宿を探そうぜ。せっかく面白い街でしかも祭りがあるってんならとっとと決めて遊び回るのが一番だ、だろ?」

 「レオにしては気の利いた事言うじゃない。アタシも賛成ね、祭りが始まる前の昼でもこの賑わいなら今日の夜からはもっと賑わう筈、折角大きな街に滞在するんだから羽伸ばして楽しまないとね」

 「じゃ、早速宿を探そう!」


 岸から上がり、階段を昇って街路に出ると、大きな酒場と併設された宿が目に入る。

 少し年季の入った石造りの宿屋に俺達は足を踏み入れた。


 「いらっしゃいませ。九名様でしょうか?」


 中に入ると少し欠けたりはしているが味のある大理石のタイルが敷き詰められたエントランスが俺達を出迎え、古びた木製のカウンターの中から生真面目そうな男性従業員が案内を受け付けてくる。


 「ええ、部屋空いてますか?」

 「そうですね…、生憎、一人部屋と二人部屋は既に満室でして…。素泊まり向けの大部屋でしたらご案内できますが」


 個室も無く、二人部屋も無い。これにはアンリエッタとクローディアが少し残念そうな表情を見せているが、クリスとフォルクは逆に安堵している。


 「他の宿も同じ様なモンなのか?」

 「ええ、女王陛下の生誕祝いの前夜ですので、他の宿とも大して変わらぬ状況かと思われます。空いているとすれば粗悪な安宿程度でしょう。大部屋で宜しければ今すぐにでもご案内できますが、いかが致しますか?」


 男性従業員はレオの容姿や粗野な物言いにも表情を変えず、事務的ではあるものの丁寧な口調で応対している。

 どこも変わらぬ状況であるならば少し値が張ってもいい部屋を使いたいものだ。それに祭りの前であれば部屋が空いているだけでも儲けものである。


 「わかりました、それでお願いします。あと食事はどうなりますか?」

 「夕食についてはお客様でお摂り頂く事となりますのでどうかご容赦を。朝食についてはそちらの酒場にて、明朝陽の零刻から三刻までのご案内となります。酒場に関しましては今日明日は終日営業としておりますので是非ご利用ください」

 「お、そりゃありがてェ」

 「レオ、また一晩中飲むつもりかい?」

 「ホント好きねぇ…」

 「ハッハ、まァな!ま、アリーシャには負けるけどよ!」

 「レオ様!」

 「アリーシャもたまにはゆっくり休んでてくれて構わないぞ、普段から世話を焼かせっぱなしだし、今日はこれで好きに羽を伸ばしてくれ」


 俺は財布からアリーシャに金貨を五枚ほど出して手渡す。


 「そんな…私の事などどうかお気になさらず」

 「いや、そういう訳にもいかないさ。雇い主となった今、たまには休暇も取らせないと。健全な福利厚生って奴さ」

 「フクリコウセイ…?…よくはわかりませんが、そう言われるのでしたら謹んで、有難く頂戴致します」

 「ああ、もしこれで足りなかったら俺にツケておいてくれ」

 「はい、ではその様に」


 アリーシャは俺が手渡した金貨を受け取ると、直ぐに自身の財布へとしまい込んだ。


 「宜しいでしょうか? それではお部屋へとご案内致します」

 「ええ、宜しくお願いします」


 受付の男性は部屋の鍵を取ると先導し、部屋へと案内を始める。

 俺達が案内された部屋は最上階の大部屋であり、広大かつ綺麗な寝室に加えて、三層に別れた街の下層を一望でき、更にはテーブルやベンチまで置かれたバルコニーまである。


 「はー…素泊まり向けと言ってもこれだけ気が利いた部屋もそうそう無ェぞ…。ガルムでセオ達が泊まった部屋もあの国の最高級の宿だが…、それ以上だな…」

 「恐れ入ります。何か御用が御座いましたら何なりとお申し付け下さい」

 「ええ、どうもありがとう。これ、取っておいて下さい」


 先程アリーシャに金貨を渡す時に俺は余分に五枚程の銀貨を取り出しており、男性が部屋を出ようとする直前にそれを握らせる。所謂チップという奴だ。


 「…有難う御座います。…それではごゆっくり」


 男性は銀貨を受け取ると深く頭を下げて部屋を後にした。


 「さて、と…。ここから先は明日の朝まで自由行動にしよう。ただし、街の外に出るのはナシだ」

 「じゃあ俺は早速酒場に行くとすっかな、たまにゃ昼から酒を煽るってのも悪くねェ」

 「ではレオ様、私もお付き合い致します」

 「拙者もそうするとしよう」

 「アタシも、人混みはあまり好きじゃないし同じ人混みなら飲んでた方がマシね」

 「フォルク、せっかくだから色々見て回らない?」

 「そうだね、せっかくいい天気だし散歩するのも良さそうかな」


 レオ達は昼から酒盛り、フォルクとクローディアは水の街でデートといったところか。


 「俺も…、せっかくこの街ならではの水門エレベーターなんかもあるし、水馬に乗って色々探索してみるかな」

 「私もご一緒致しますわ!」

 「…兄様」

 「ん? どうしたクリス?」


 クリスが目線を伏せたまま俺の服の袖をつまんで呼びかけてくる。


 「…私も行きます」

 「ん、構わないけども」

 「あら、クリス。アリーシャさんと一緒に酒場に行っていてもよくってよ?」

 「いえ!兄様とアンリさんが間違いを起こさない様、私もついていきます!」

 「おいおい、間違いってクリス…。アンリ、クリスも連れて行っていいよな? せっかくの散策だ、二人よりも三人で行った方が楽しいだろうし」

 「ええ、もちろんですわ。ふふ、それにクリス、間違いなんて起こりませんわ」


 アンリエッタにクリスも付いて行く事に同意を求めると、彼女は快諾してくれた。

 アンリエッタと付き合いだして彼女とクリスの仲はやや難しい間柄だが、どうやらアンリエッタの方から歩み寄ってくれるらしい。


 「…チッ…」


 誰が鳴らしたのかはわからないが微かに舌打ちの様な音が聞こえた気がするが、今のところ、二人の様子はそんな風には見えない。


 「…ま、いいか。じゃあ早速行ってくる。レオ、部屋の鍵は預かっておいてくれ」

 「おう、俺は酒場にいるから部屋に戻る時ゃ言ってくれ」

 「じゃあクローディア、僕達もいこうか」


 俺達は宿で別れると、それぞれ祭りで賑わう街の中へと消えていった。

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