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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第十一章:再会と、脱獄と
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第百七十七話:結実の夜

 センゾウが故郷ワダツミを離れた理由、それは仇討ちだった。


 「拙者が追っているのはカネミツと言う男、奴は我が師の仇であり、また…拙者の兄弟子に御座る」

 「セオ、確か…カネミツって」

 「ああ、ドルマニアンで出会った。サヴィオラの用心棒をしてた奴だけど…、同じ名前の別人とかじゃないよな…」

 「ワダツミから出るものなどそう多くは御座らん。恐らくセオドア殿が出逢ったその者こそが拙者が追うカネミツであろう」


 だとすれば今目の前にいるセンゾウに比べ、カネミツはかなり格下だと言う事か。当時出会い、斬り結んだ際は当時の俺からして同等か僅かに格上と言う印象であり、今の俺からすれば実力の差は歴然だ。


 「センゾウさん、カネミツはそれ程強い剣士なんですか? 当時出会ったカネミツがそうならそれ程強いと印象は無いんですが…」

 「無論、我が師に正面から挑み、斬り捨てた男に御座る。弱く見えたと言うのであれば、それは本当の実力を隠していたのであろう。…正直な所、拙者も今の実力で奴を討てるかと言えば万に一つあるか…」

 「…そう考えると、あの時無理に戦わなかったのは正解だったね。本当にそうなら三人まとめて斬り捨てられてた所だよ」

 「…ああ、本当にゾッとしない話だ。…斬り結べてたなんてとんだ勘違いだった」


 フォルクは当時を思い出しながら溜息を吐いている。無理もない話だ、俺自身もあの時カネミツが本気を出していたらと思うと背筋が凍りつく。


 「斬るに値すると思う程に強い者にしか本気を出さぬ男でな、生来無闇な殺生は好まぬ男に御座る。当時、師が斬られた直後、拙者も訳も分からぬままにあの男に斬りかかったが軽く遇らわれてな。気が付けば小突かれて気を失っておった」

 「で、センゾウ。あなた、カネミツとは仲悪かったの?」

 「そんな事は無い。拙者とカネミツは親こそ違えど同じ師の下で剣を学んだ間柄、実の弟の様に可愛がってもらったもので御座る。未だに師、ゲンゴロウを斬った事が信じられぬ。故にせめてその理由を聞き出すまでは…死んでも死に切れぬ…!」


 クローディアの問いに答えたセンゾウはグラスの酒を飲み干しテーブルに置くと、その手を強く握って震わせている。

 それだけ彼は師であるゲンゴロウを斬ったカネミツとの再会を切望しているのが分かった。


 「憎んでいる訳では無いが…、弟弟子として師を斬ったその落とし前だけは付けねばならぬ」

 「憎んでいるんじゃないならそこまで拘る必要も無いんじゃないの?」


 クローディアの発言を聞いたセンゾウが強くテーブルを叩く。

 その音に、そしてセンゾウが返した鋭い眼光に、酒場全体が一瞬、凍り付いた様に静まり返った。


 「…すまぬ。…だが、そう言う訳には御座らんよ。拙者にとって、師ゲンゴロウは父と言うべき人物に御座る。幾ら兄とは言え、父を殺した男を訳も聞かずに許せる者など拙者は知らぬ」

 「…いいえ、確かにその通りよ。変な事言ってごめんなさい」

 「…場が少し白けてしまったな。本来ならばセオドア殿達が再会出来た事、氷鎧巨人(ヨトゥン)なる魔物を討ち果たし、冒険者として昇格できた事を祝う宴の筈であろう。さあさ、皆、今宵は存分に飲み明かそうではないか!」


 センゾウは白けてしまった場を盛り上げようと立ち上がり、テーブルにあった酒瓶を手に取ると一気に飲み干した。


 「ああ、それにセンゾウさんもこれから一緒に旅する事になる。新たな仲間に乾杯!」


 俺も酒が注がれたジョッキを手に取り、高々と掲げて飲み干す。

 すると、仲間達も手に持つグラスやジョッキを突き上げて同じ様に一気に飲み干していた。


 「…セオ様ー!」

 「アンリ!? …クリスは?」

 「さっきまで伸びていましたが、今はもう目を覚ましてますわ」


 アンリエッタは階下のテーブルに突っ伏し、着衣や髪を乱れさせたまま、肩を震わせているクリスを一瞥する。


 「…余程負けた事が悔しかったのであろうな。セオドア殿、彼女らが決めた事ではあるが約束は約束、アンリエッタ殿に付き合ってやるがよかろう」

 「…わかった。アンリ、行こうか」

 「…はい!」


 アンリエッタとクリスは本気の殴り合いをしていたらしいが、流石に格闘に於いてはアンリエッタに一日の長があった様だ。

 一階へ降りると悔し涙を流しながら酒を次から次に口に入れているクリスの姿があり、話しかけようとしたが、横に付いていたレオが首を横に振っていた為に諦める事にした。

 情けをかけられた敗者がどれだけ惨めな気持ちになるか、そう考えるととても話しかけられたものではない。


 「出掛けんのか?」

 「ああ。クリスとアンリが勝手に決めた事ではあるけど、決着を付けた以上は俺もちゃんと応えないとな」

 「…ったく、主賓が抜けてどうするよってさっき言ったばかりなんだがな。…まぁいいや、こっちはこっちで盛り上げとくさ。行ってきな」


 レオはクリスの背中をさすってやりながら呆れた様に手を振り、俺達を送り出す。

 俺とアンリも手を振って返すと、二人で酒場を後にした。


 ーーー


 街に出ると、先程までは止んでいた雪がまたちらつき始めていた。

 しばらくは無言のまま街を散歩し、足を止めたのは港。

 既に夜も更けて、船乗り達もいなくなった港には寄せては返す潮騒の音と、雪の上に足跡を刻む音だけが響いている。


 「初めて出会った時から六年余、思えば随分遠くまで来ましたわね」

 「ああ、本当だったら三年前に着いて、…今頃はハルモネシスやデモンガルドに行ってたかもしれないけどな」

 

 しゃがみ込んで静かに波打つ水面を見つめながら話すアンリエッタに、俺は波止場に積もっている雪を踏み慣らしながらそう答える。

 帝烏賊(クラーケン)と戦い、漆黒の海竜(リヴァイアサン)に帝烏賊ごと海に引きずり込まれ、ヘレ氷原に流れ着き、そこでライアンに鍛えられた三年間を思い返していた。

 彼女も、また、仲間達もその三年間の間に各々で考え、強くなって俺を迎えに氷獄と呼ばれる看守の洞窟まで迎えに来た。

 そう考えると、この離別してしまった三年間は無駄な足踏みでは無かった筈だ。


 「この三年間、一日としてセオ様の身を案じなかった日はありませんでしたわ」

 「だったら済まない。俺はあの地で一日一日を生き長らえるのに必死だった。時には何日も死ぬかと思う時もあったくらいだ」

 「…釣れませんわね。そこは嘘でも仲間の事を忘れた事は無いと言ってくださいまし」

 「はは、冗談だよ。確かに死ぬかと思った事もあったけど、待っている皆の事を忘れた事はない。勿論アンリの事もそうだ。…ただ、自分で手紙に書いておきながら、本当に約束した三年で戻ってこれるか、それだけは不安だった。実際に皆の助けがあったからこそ、こうやってここに立ってられる」


 俺の返答を聞いてアンリエッタは黙ってしまい、俺もまた黙ると、再び潮騒の音が辺りを支配する。

 ほんの数秒、その沈黙が長い時間続いている様に錯覚する。そして先に口を開いたのはアンリエッタからだ。


 「…セオ様。三年間の間、私達がどうしていたか、まだしっかりと話していませんでしたわね」

 「…ああ、そう言えばクリスとアリーシャの話ぐらいかな。センゾウに稽古をつけて貰って、魔剣術を身につけたって言ってたっけな…」

 「差し出がましい真似かも知れませんが、私からお話し致しましょうか?」

 「…ああ、頼む」


 それから約一刻の間、アンリエッタから三年間の間の皆の動向を話して貰う。

 詳細は本人達から聞いて欲しいと言う話であり、各々の大まかな動きを掻い摘んで話してくれた。

 レオの容姿が大きく変わった事については理由を聞けば不思議な話ではあるが、彼と再会して話してみればやはり彼は彼のままだ。

 クリスも魔剣術を身につけて接近戦にも対応出来るようになり、少し逞しくなった様に感じているが、やはりまだ兄離れは出来ていない様子だ。

 マリオンとは皆以上に久しぶりの再会だが、あの豪放磊落だとかそういった性格はそのままに、ヒルデガルダの騎士団で培われたリーダーシップを身につけて帰ってきた。

 アンリエッタについても実家に帰り、騎士団で鍛えていたそうだ。その時に家族と色々とあったらしいが、二番目の兄以外とは和解した様で家宝の盾を譲り受けてきたらしい。

 一度は無理矢理騎士団を抜けたそうだが、今回は騎士団長を務めるトリスタンと言う叔父のおかげで現在は休職中と言う扱いになっている様だ。

 彼女の話によると、俺の叔父はまだこの国におり、魔導学校を視察しに行っていると言う事らしい。

 親父からは何も聞かされてはいないが、そういう事であれば挨拶くらいはしておいた方がいいだろう。

 最も驚いた事と言えば、フォルクとクローディアの件で、聞けば恋人の関係にまで発展したと言う話だ。

 少々下世話な話もあったが、それがきっかけでクローディアも大きく成長したと言う事で、仲間として頼もしくなったと同時にめでたい話だ。

 

 一通り、全員が三年間の間どうしていたかを聞いた所で、俺とアンリエッタは雪を払って波止場に腰掛け、海を見つめていた。


 「…みんな大変だったんだな」

 「それを言えばセオ様こそ、ヘレ氷原で大変な目に遭ったのでしょう?」

 「そうだな…。そもそもライアンさんに出会わなければ、打ち上げられた海岸でそのまま野垂れ死んでたかも知れない。それに仮に生きてたとしてもみんなに手紙も送れなかっただろうし、あそこの魔物にやられてた可能性だって大いにあった」

 「でも、こうして私達は無事に再会できましたわ。実際にいるかどうかはわかりませんが、今回ばかりは神様の思し召しに感謝するしかありませんわね」

 「…ああ、俺には土壇場で助けてくれる神様がついてるからな。今は眠ってるけど…、これからは神様に頼らなくても何とかできるようにしないと」

 「ふふ、冗談に聞こえませんわね」

 「信じるかどうかは皆次第さ。アンリは信じるか?」

 「ええ、セオ様の話す事なら何でも」


 アンリエッタならシャルディンや、火継坂神威としての俺の事、本来の体の持ち主であるセオドアの事を話しても本気で信じてしまうだろう。だが、まだそういう事を話すべきか悩むところだ。

 然るべき時が来たら、クリスの中にいるメルティナの事も含めて全て話そう。そう、俺は心に決めた。


 「セオ様」

 「うん? なんだ、アンリ」

 「あの話、覚えていらっしゃいますか?」

 「あの話…、ガルムの宿での話だよな…」

 

 俺達は海を見たまま、話を続けている。

 三年半程前、ガルムの宿の風呂を出た後、俺は彼女に対して確かに必ず答えを出すと言った。そして少しの間待っていて欲しいとも。

 最初の告白は六年前、その時ははぐらかす様な形で彼女の想いを躱していたが、当時はまだ俺も成人していなかった為に話をはぐらかし、三年半前は返答を保留した。

 三度目の正直、ここで返答を返さないのは彼女に対する不誠実だろう。

 店を出る前、外に誘われた時に彼女がこの事を尋ねてくることはわかっていた。

 その時既に、俺もその答えを用意していた。


 「…その答えを、…お聞かせ頂いても…?」

 「ああ、勿論」


 立ち上がって一息つき、目を閉じると、潮騒の音を背景に胸の鼓動が高鳴り始める。

 そして目を開いてアンリエッタの眼を真っ直ぐに見据え、息を吸い込んだ。


 「アンリエッタ。この先もずっと、この世界に魂が留まり続ける限り…、俺の隣にいて欲しい。俺もお前の隣を離れない!」


 アンリエッタの手を取って立ち上がらせ、三年半の長きに渡り、待たせ続けた答えを告げる。

 そして彼女は一筋の涙を滴らせ、柔らかく微笑むと、小さく頷いた。


 「…はい!」


 返事を返す彼女を抱き寄せ、唇を重ね、お互いの気持ちを通わせる。

 長く、強く、そして何よりも優しく、俺とアンリエッタはお互いの背中に手を回し、愛を交わしていた。


 ーーー


 「ったく、幾ら剣術をやり直したからって殴り合いじゃアンリのが分があるだろうに…」

 「…放っといてくらさい」

 「ほら、飲み過ぎんなよ」


 クリスはセオドア達が店を出た後、レオに酌をさせながら浴びる様に酒を次から次に飲んでいた。


 「まぁそれだけセオの事が好きだって事だろうからねぇ。いくらアンリでもそう簡単に渡したくなかった、そういう事だろう?」

 「そ、そういうわけじゃ…」


 気が付けばクリスの周りには仲間達が集まってきており、フォルクに話しかけられたクリスは顔を上げると、両手を突き出して遮ろうとする。


 「どこが違うってのよ…、エルダじゃあんだけべったりだったじゃない。前にね、迷宮から脱出する時に乗ってた船でアンリがどさくさに紛れてセオにくっ付いたのよ。クリスったら、凄い形相で睨んでてね」

 「ちょっ、マリオンさん!?」

 「クスクス…、本当ならいきなり魔術でも撃ち出してそうなものだけどね」

 「冗談じゃないわよ、あんな小舟の上でクリスが魔術を使ってたら一瞬で沈んでたわ!」


 マリオンが重ねてクリスをからかう様に以前、 帰らずの迷宮を攻略した後の話をすると、クローディアがそれを聞いて笑っていた。


 「…私は兄様を一人の男性として、心から愛しています。ですが、私と兄様は兄妹、どうあっても結ばれる事など、許される関係ではありません。ですから…」

 「クリスティン様が認める女性で無ければ、セオドア様と結ばれる事は許さない、と言う事ですね」

 「なァるほどォ…それであの様な喧嘩をォ」

 「はい。もし私がアンリエッタさんだったなら、私が妨害していたとしても無理矢理にでも兄様の手を引いて連れ出していました。わかってはいましたが、アンリエッタさんが兄様を今でも一途に想い続けているのか、それを確かめる為に…」

 

 クリスはアンリエッタと殴り合いの喧嘩をした理由を搾り出す様に話し、下唇を噛み締めている。

 すると、クローディアは深く溜め息をつき、クリスの顎を引いて自分の方に視線を向けさせた。


 「…だったらもうそんな表情をするのはやめなさい。アンリはクリスの期待通り、セオの事を思って譲らなかった、あとはセオがアンリの想いにどう応えるか、そうでしょ? さっきので認めたんだったら、今度はそれを笑顔で迎えてあげなきゃ」

 「…そうだね。アンリがセオの事を好きなのは本人も含めて、皆が知ってる事だ。漸くちゃんと結ばれたんなら皆でお祝いしなくちゃ。クリスもそれでいいだろう?」


 二人よりも一足早く結ばれたクローディアとフォルクが肩を寄せ合い、クリスに二人が結ばれた事を祝福するように訴える。

 

 「…そうですよね。多分私と同じか…、いいえ、それ以上に兄様を想ってくれている人ですから…」


 クリスは涙を拭うと乱れた服と髪を正すと、優しく笑顔を見せる。

 仲間達も周りの人々も、その笑顔を見て、小さく頷いていた。

 

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