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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第十一章:再会と、脱獄と
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第百七十五話:出所祝い

 空間の歪みを通り抜けキャンプへ辿り着いたクリス達はそこで一日を過ごし、それからテラービブに移動する運びとなった。


 キャンプに着いてすぐに行われた重体になったセオドアの治療では、治癒魔術を扱えるクリスとマリオンが主立って行い、その補佐としてクローディアも手伝いに回っていた。

 セオドアの自然治癒能力が高過ぎる事もあり、全身に突き刺さっていた鉄片は既に癒着し始めていた。

 クローディアが闇魔術でセオドアの全身を麻痺させ、クリスとマリオンがその間に鉄片の除去と治癒を少しずつ進める。その行程は丸一日を要したが、どうにか無事に終わり、そのまま三人は疲れて眠りに落ちていた。


 他の五人についてはアリーシャとアンリエッタがキャンプに残って全員の身の回りの世話、レオとフォルク、マクニールの三人が食料と焚き木の調達にあたっており、結局五人も全て終えた後、夕方には眠ってしまっていた。


 翌日にはキャンプを撤去し、クローディアの転移魔術でテラービブのギルドへ直接移動すると、誰一人欠けずに戻ってきた事にギルドマスターであるゴードンは驚くばかりだった。

 それからすぐゴードンに宿を都合してもらい、漸く九人は数日ぶりに暖かいベッドで身体を休める事が出来た。


 ーーー


 「お前さんがパーティーリーダーのセオドアさんだな? 妹さんから話は聞いてるよ。…しっかし、ヘレ氷原から生きて帰った人間なんて初めて見たもんだ。まぁ色々積もる話もあるだろうし、俺もすぐにでも聞かせて欲しい所じゃあるが、まずはお前さんの冒険者登録だな」

 「ええ、この書類にサインと…、これが冒険者証ですね」


 翌日、俺は仲間達と改めてギルドを訪れると、魔導連邦における冒険者登録を行う為に、ゴードンから渡された書類に署名をし、クリスに預けていた荷物から返してもらっていた冒険者証とともに彼に渡す。

 彼はすぐに書類と冒険者証の確認を済ませると、いくつかの記入と押印を手慣れた様子で済ませてカウンターの中から出てテーブルの前にある椅子に腰掛けた。


 「これでアンタのこの魔導連邦での冒険者登録は終わりだ。さて…と、じゃあ早速報告を兼ねて、色々と聞かせて貰うとしようかね」


 ゴードンに促され俺達もテーブルに着くと、ヘレ氷原での三年間、そこで出会い、世話になったライアンという人物、そして看守の洞窟での出来事を報告する。


 「…先代の土の賢者の話といい、初めて聞く話だらけでどっから整理をつけたものかね…」

 「ええ、どうも話をしている限りヘレ氷原はまだ未開の地と言った所ですからね。三年間であの場所について話せる事は以上です」


 ゴードンは俺達からの報告を聞き終え、情報を書き込んだ書類を整えると、その書類を捲りながら改めて目を通していた。


 「…ふむ、だが生息する魔物の情報なんかは有り難い限りだ。それに氷鎧巨人(ヨトゥン)も討伐されたと言うなら今後は調査も進むだろうよ」

 「あァー…、それなんですがァ、ゴードン殿ォ。情報の公表はァ暫く待って頂きたいィ」


 情報を得て満足気なゴードンにマクニールが待ったをかける。


 「マクニールさん。そりゃまたどうしてだ?」

 「今話のあったヘレ氷原ですがァ、まだまだ危険の多い場所でしょォ? 無闇に公表すればァ血気に逸る未熟な冒険者達がァ突っ込み兼ねませんよねェ?」

 「…まぁな。たしかにギルドで等級の制限をかけてもバカな冒険者が忍び込んで死に行くなんてのはよくある話だ。ギルドとしてもちゃんと裏付けの調査をしてから立ち入りの許可を制限したい所じゃあるが…」


 マクニールの指摘にゴードンは顔をしかめていた。

 有望な冒険者でも力量を見誤り、屍となって帰ってくるというのはよくある話だが、それを避ける為にギルドも等級による立ち入りの制限を設ける等、色々と対策を設けている。

 ただしそれには到達し、帰還した冒険者の調査報告は必要不可欠であるものの、一冒険者の報告一つだけではなく、それを基にした第三者の冒険者達による裏付け調査も必要となる。

 未開の地の情報が対策を設ける前に出回れば、冒険者達はいち早くその場所の調査に乗り出さんと、挙って現地に向かってしまうだろう。そうなれば力量を見誤り、不幸に見舞われる冒険者が続出する事になる。


 「ええェ、ですからァ、私がァ一手にそれを引き受けェ、信頼できる冒険者筋に頼んで調査を行いましょォ。あなたもォギルドマスターならばァ、私の擁する冒険者団の事もォ存じ上げている筈だァ。私もォ冒険者の端くれですしィ、実際に看守の洞窟に立ち入って帰還したァ、…それだけでもォ、信頼して頂けるとはァ思いますがァ、…ねェ?」

 「…うーむ、本来なら…ギルドの認める実績のある冒険者に頼むのが公平じゃあるが…」

 「危険と言う話が先行している以上ォ、公表さえェしなければァ、高位の冒険者もォ近寄らない洞窟ですよねェ? 我々に任せて頂ければァそう言ったリスクもォ避けられるとォ、思いますがァ…。あァ、勿論ン、仮に万が一調査に向かった冒険者に何かがあったとしてもォ、全て私が責任を負いますともォ。ギルドとしても美味い話ではあるとォ、思いますがァ…どうですかなァ?」


 マクニールはあれこれと言葉を重ね、好条件を提示しながらゴードンと単独調査の権利を得る為の交渉をしている。それ程までにマクニールの目にはヘレ氷原と言う場所が魅力的に映っているのだろう。強欲と言うべきか、商魂逞しいと言うべきか。


 「…わかった、ティムナトにも拠点を構えてるのも考えればマクニールさん、アンタの所に調査を任せるのが一番適当だろう。ただし、本来なら調査依頼を公表して冒険者を募って、それから信頼できる冒険者に依頼するってのが正規のやり方だ。これは所謂裏取引、こっちから費用も援助も一切出せない、それで構わないんであればこの一件、アンタの所に任せるとしよう」

 「…交渉成立ゥ、ですなァ。構いませんともォ、何なら契約書もォ交わしておきましょうかねェ?」

 「ああ、だが報酬一切無しの俺個人との契約だ。それでいいな?」

 「ええェ、勿論ン。専門的に未開地の調査機会を得られるのならばァ、見返りや援助を求める方がァ筋違いでしょォ」

 「…アンタ、本当に商売上手だな。そこまで言われちゃあギルドマスターとしても、元冒険者としても渋れん所だよ、ったく…」


 交渉を終えたマクニールとゴードンは早速二枚の羊皮紙に手書きで同じ契約内容の記された契約書を作ると、お互いの手形で割印として完成した契約書を懐へとしまい込んだ。

 本来契約書の作成はお互いに話し合いながらああでもない、こうでもないと折衝を経る為に時間がかかるものだが、お互いに作り慣れている事と、そもそもマクニールがゴードンの提示する制約事項に対して大筋で合意していた事もあってスムーズに完成をみていた。


 「さて、お前さん達も見ていたが…この契約の件は他言無用で頼むよ。ヘレ氷原や看守の洞窟から戻って来た事を話すのは構わんが、ギルドで精査中だから正式な情報・依頼については公表待ちって事で話を通しておいてくれ。お前さん達が行った事についても全面的に事故と言う事で通すつもりだ。…まぁ実際にそうだしな」

 「わかりました。ゴードンさんもクリス達がお世話になった様で、本当に助かりました。今度は冒険者としてお世話になります」


 礼を述べて俺達はギルドを後にしようとすると、ゴードンは「ちょっと待て」と、俺達を呼び止める。


 「そう言やあ、お前さん達。…本当に氷鎧巨人を倒しちまったんだよな?」

 「ええ、先程話した通りですけど…」


 そう受け答えるとカウンターの中へと戻り、何かを取り出していた。

 そしてそれは直ぐにカウンターの前で待つ俺達の前に並べられる。


 「これは…」

 「まぁこっちについちゃ特例と言えば特例ではあるな。お前さん達の功績は三つ。先ずは何と言っても氷鎧巨人の討伐、これは無視できない。二つ目に未踏の地であるヘレ氷原の調査報告の件だ。これは迷宮攻略の実績に勝るとも劣らない。そして看守の洞窟からの生還か。氷鎧巨人が群れで棲息しているあの洞窟から生きて帰った、それだけでも実力の証左に他ならん。お前さん達ならこれを身につけるだけの資格は十分だろうよ」


 ゴードンが取り出したのは聖銀の地金に魔導連邦を象徴する六芒星の魔法陣を模した彫刻が施され、その中央に蒼い宝石が埋め込まれた徽章だ。そして討伐報酬として大量の白金貨や金貨が詰め込まれた革袋。

 徽章はSS−級の冒険者だと言う実力を示す冒険者証であり、それが八つ並べられていた。


 「私の分はありません。セオドア様、クリスティン様、それに皆さんの分になります」

 「…アリーシャ、どう言う事?」

 「あー…それについてはまずは俺から説明しとこう。アリーシャさんはだな…、いわゆる引退ってヤツだ。一年前だったか、今日まで黙っておくように言われてたんだが、その時に廃業するってェ申し出があってな、正式に受理は済んでて既に冒険者としての登録は抹消されてんだ」

 「はい。ですので、現在は一般人、と言う事になります」


 ゴードンの説明に重ねてアリーシャはスカートの両端を摘み上げるとそう言いながら深く頭を下げる。


 「冒険者を廃業したってのはわかったけど、何でまた?」

 「はい、正直に申し上げますと私自身、自身の能力に限界を感じておりまして。既に齢も三十を越える身故に戦闘をこなす体力も落ち始めております。それに引き換え、皆様はこの三年間で一回りもふた回りも強くなられました。最早戦闘に於いて私の出る幕など御座いませんし、仮に肩を並べて戦闘に臨んだ所で私の力ではもう足手まといとなりましょう。ならば私はそれを補佐する立場に戻ろうと、そう考えた次第で御座います」


 アリーシャの眼差しには強い意志が込められており、俺達の誰一人として彼女の言葉に対して意見する事はできなかった。


 「…わかった。パーティーからは外れる事になるけど、今後は俺達を陰から支えて貰いたい。アリーシャ、改めてメイドとして雇わせて欲しい。宜しく頼む」

 「はい勿論、喜んで。今後とも宜しく御願い致します」

 「アリーシャ、改めて宜しくね」

 「はい、クリスティン様も、宜しく御願い致します」


 俺とクリスは二人でアリーシャの手を握ると、彼女もまた笑顔でそれに応えていた。


 「うっし、そうと決まりゃ三年ぶりの全員集合だ!新しく迎えた奴もいる事だしよ、ここはパーっと宴にでもしようじゃねェか!」

 「ああ、それがいい」

 「レオにしては気の利いた言うじゃない、私も賛成だわ」

 「そう言う事であればァ折角ですのでェ、私もォご一緒させてもらいましょうかねェ」

 「あらアンタ、さっきの件はいいの? 早くティムナトに帰って冒険者団に調査に向かわせなきゃいけないんじゃない?」

 「マリオンさんン、そゥ釣れない事を言わないで下さいよォ」


 三年の時を経て漸く全員が揃い、またそれ以上前から久し振りに顔を合わせる事となり、全員が再会を祝いたいと思っていた様だ。


 「じゃあゴードンさん、また!」

 「おう、楽しんできな!」


 新しい冒険者証と報酬を受け取り、俺達はギルドを後にする。

 そして直ぐ近くにあるテラービブ最大の酒場、ピェーチカへと繰り出した。

 再会祝い、否、出所祝いと言った方がいいか。三年間閉じ込められたヘレ氷原からの帰還と合流を祝う為に。

 

 「…いらっしゃい、…と、嬢ちゃんか。今日は仲間も一緒か」

 「はい、漸く合流できまして。今日はその再会祝いです」


 無愛想な表情で皿やグラスを洗っていたマスターだが、クリスの顔を見て手を止めると、俺達の顔を一人一人見ていた。


 「アンタが嬢ちゃんの兄貴って訳かい」

 「はい、セオドアと言います。妹が良くしてもらっているようで…」

 「いいや、俺じゃねえよ。おいセンゾウ!クリスの嬢ちゃんが兄貴と仲間連れて来てんぞォ!」


 マスターはカウンターの奥にある扉に頭を突っ込むと怒鳴るような声を上げてセンゾウと言う人物の名を呼ぶ。

 しかし彼はその予想に反して二階のフロアの柵を乗り越えて静かに飛び降りてきた。


 「…ここに」

 「ったく、そっちにいたのか…。クリスの嬢ちゃん達をテーブルに案内しな」

 「む、心得た。しからば上に参ろう。今し方、二階の客席が空いた所だ」

 「ああ、マスター。今日一日店を使わせて欲しいんですけど、これで足りますか?」


 俺はセンゾウに客席へと案内される前にカウンターの上へ、先程ギルドで受け取ったばかりの報酬金の入った革袋を置く。


 「うん? こりゃあ貸し切りたいって事か?」

 「はい、と言っても僕達だけじゃなくて他のお客さんにも自由にお酒を楽しんで貰いたいんです」

 「…成る程な。…まぁそうだな…それでもこんだけ貰えりゃ十分だ」


 ギルドマスターは革袋の中から白金貨と金貨を数枚取り出すと、カウンターの上に並べる。


 「しかし丸一日、店貸し切って祝おうたァ、再会祝いにしちゃあ豪気過ぎる気がするが…」

 「ええ、少しばかり危険な所での冒険を終えて帰ってきた所なんですよ」

 「…そうかい、まぁ理由は何であれ、これだけ貰えりゃあ店を壊しさえしなけりゃ何も文句は無ェよ、ゆっくり楽しんでってくれ。…と、センゾウ。案内し終わったら店の女達を全員叩き起こして店に来るように

言っとけ。その後はお前も宴に参加して構わねェ、嬢ちゃんと積もる話もあるんだろう?」

 「む、かたじけのう御座る。ではクリスティン殿、兄君、そしてそのお仲間方、武器の類を此方へ。此方で御座る」


 センゾウに武器一切を預けると、そのまま彼に連れられて俺達は二階にある酒場全体が見渡せる屋内テラス席へと案内される。

 そして直ぐに全員分のグラスがテーブルに置かれると、俺達は銘々グラスを手に取った。


 「さてと、色々あるけど…とりあえずは三年ぶりの再会と、冒険から無事に帰還できた事を祝って…乾杯!」

 「「乾杯!」」


 グラスを打ち鳴らす甲高い音が店内に響き渡り、それに続いてグラスの酒を飲み干す喉の鳴る音が響く。

 日が高い内から始まった宴会は店全体を巻き込んで盛り上がり、後からやってきた冒険者や店の女達、近くを通りがかる人間や別の店から騒ぎを聞きつけた酔っ払いまでもが参加してちょっとした祭りの様になっていた。

 気がつけば店の前の大通りや路地裏にまでテーブルが用意され、参加する人間が料理や酒を持ち寄ってきて、寒空の下であるにもかかわらず大変な賑わいを見せている。

 宴に参加した人々は皆歌い、踊り、語っては飲んで、食って、そして潰れて幸せそうな顔をして入れ替わり立ち替わりに店内外を行き来している。

 途中からギルドからゴードンもやってきていたが、彼の話によると、一度衛兵達がやってきたそうで、彼からこの宴の事について口利きしてくれた様だ。

 おかげでこの騒ぎについて目を零してくれるとの事らしい。


 「…ふぅ、こんな宴会、ガルムの闘技大会の優勝祝い以来、いや、それ以上か…」


 騒ぎの中心にいた俺は少し風に当たる為に席を外してジョッキを片手に外へ出ると、突然センゾウがクリスを連れて上から飛び降りてきて、目の前に着地した。


 「お二人に話が御座る、少しよいか?」


 初めて出会ったばかりの俺には何の話かは見えてこないが、クリスとセンゾウの眼を見るにどうも真剣な話の様だ。

 俺はジョッキを中身を飲み干すと、小さく頷いて彼の後を追っていった。

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