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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第十一章:再会と、脱獄と
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第百七十三話:鉄壁の鉄片

 マリオンは目を見開き、驚いていた。

 痛恨のミス、彼女の振り下ろした槌は空を切っており、トドメを刺し損ねていた。

 勿論、射程外だった訳ではない。彼女は完全に槌の届く距離まで氷鎧巨人(ヨトゥン)改め、鉄の群衆(アイアンスウォーム)の核である魔石に迫っており、間違い無く捉えられる筈だった。


 「冷たっ…」


 槌を振り下ろした後に一瞬感じた手に触れる氷の様な冷たさ。

 彼女が目線を下ろすとそこには凍り付いた自分の手が視界に映っていた。


 「なっ…いつの間に…!」


 彼女が突っ込んでいったのは魔石が放とうとしていた魔術を阻止する為だったが、無防備な状態を晒していた魔石を破壊する事に目的を変更した。

 魔石は部屋全体に影響する程の強力な魔術を発動するつもりだったのだろう。だが魔石は自身に危機が迫った事でその準備を中断し、彼女が槌を振りかぶって迫ってくる瞬間、初級の氷魔術を放ち、彼女の手首を凍らせていたのだ。

 彼女の槌が届かなかったのは、手首が凍らされた事によって、手首のしなり分の伸びが出なかった為だった。

 一旦の目的である魔術の発動の阻止は叶ったが、絶好の機会を逃した彼女はその悔しさに顔を歪めていた。


 「アタシとした事が…!」

 「魔術そのものは止められたんだ、十分だッ!」


 悔しがるマリオンの横を通り過ぎながらレオはそう声をかけ、入れ替わる様に魔石へと近付く。

 そして大きく振り上げた拳を魔石に向けて突き出す。

 しかし、既に鉄片を集めていた魔石は球状に自身を鉄片で覆い、防備を固めており、強力なレオの一撃を受け止めてしまっていた。


 「…やっぱダメか…!」

 「まだだッ!属性斬エレメンタルスラッシュッ・雷刃(サンダーエッジ)ッ!」


 鉄片の群れを無理矢理振り切り、騎士剣の刀身から伸ばした電撃の刃が魔石を覆う鉄片の塊を掠める。

 鉄の塊である魔石の鎧に引き寄せられた電撃が球体の中で激しく火花を散らしており、それに応じて球体が徐々に収縮していく。

 更にそれによる影響か、全員を襲っていた鉄片も動きを止めて地面に落ちていた。


 「効いてるみたいだね…!」

 「ええェ…、成る程、鉄の鎧であれば雷がァ、そういう事ですなァ」


 火花を散らしながら収縮していく鉄片の塊の表面から破片がぼろぼろと溢れていく。

 電撃はどうやら内側にある魔石にもダメージとして通っているのだろう。


 「…このまま倒し切れンのか?」

 「いや、流石に魔素の塊みたいな相手だからな。鎧には効果抜群でも本体の魔石にはイマイチだ。このままなら俺の魔素が先に尽きる。…それに、順応し始めてるのか抵抗しだしてる」


 元々、魔生物種は魔素を糧にしている魔物であり、そもそも魔術やそれに準ずるものに対する耐性は非常に高い。

 この魔物にしてもそうだ。氷鎧巨人改め、鉄の群衆は魔石を核とした魔生物種である為に、やはり魔術に対する高い耐性を備えているようだ。

 剣から放った電撃を浴びせ続けてはいるが、最初にダメージが通った様に見えたのは恐らく驚いたとかそんな理由なのだろう。その証左として、先程溢れ落ちた鉄片が再び動きだし、魔石を覆う鉄屑の鎧に戻りつつある。


 「これじゃ埒があかないわね…、完全に防御の体勢に入ってるなら攻めるか逃げるかどっちかでしょ?」

 「俺ァマリオンの意見に賛成だ。もっと言や、コイツを放って出口の瓦礫を排除ってのはできねェ、なら攻める以外の選択肢ってなァ無ェだろ?」

 「道理ではあるね。あの魔物がこのまま仕掛けてこないであの状態のままでいるとは考えにくいし、セオの判断に任せはするけど僕もマリオンやレオの意見には賛成だ」


 マリオンにレオ、フォルクに関してはここで攻め切って倒したいと言う考えで、俺からしてもそれが理想だ。

 ここで倒し切れればこの部屋における憂いは無く、部屋からの脱出と地上までの道中に専念できる。

 そして他の三人を伺う限りでは、その判断は俺に委ねると言った所か。


 「よし、アンリはマクニールとクリス、フォルクを守って離れててくれ。マリオン、レオ、俺の三人に加えて後ろからフォルクが攻撃する形でいこう。マクニールとクリスはいつでも霊薬(ポーション)を投げられる準備をしててくれ」

 「「了解!」」


 全員が配置につき、俺の攻撃開始の合図を待つ。

 その間に鉄の群衆は鎧を構築してしまったが、敵の手の内が全て分かっていない以上、迂闊には攻められない。

 それにあの鉄屑の鎧は不完全な状態でも魔獣形態のレオの攻撃を受け止めており、下手な攻撃ではビクともしない事は分かっている。

 攻撃の始点は俺とマリオン、レオとフォルクはその後詰めでそれでも足りないならば俺とマリオンがそのまま二人の攻撃に参加すれば良い。

 三人をほぼ待機状態にしているのも万が一の為の保険だ。


 「よし…。マリオン、準備はいいな?」

 「いつでもいけるわ。あとは思い通りにいくかどうかね」

 「ああ。さぁ、行こう!」


 鉄屑の球体は不気味なまでに沈黙を守っているが、こちらも出来得る限りの攻撃の準備が整った。

 最初に攻撃を仕掛けるのは俺だ。言ってしまえば後に続くマリオンやレオ、フォルクの為のお膳立ての役割になる。

 最初から躓く訳にはいかない。俺は超越の加護の力を発動し、騎士剣に込められるだけの魔素を送り込んでいた。


 「行くぞ…!属性斬撃(エレメンタルスレイ)…・豪雷槌(トールハンマー)ッ!」


 電撃を帯びた騎士剣を大きく振りかぶり、渾身の力を込めて鉄屑の球体へと叩き付けると、剣が球体に触れると同時に激しい落雷が球体を貫く。

 鎧へ通じた電撃が魔石にも伝わると、密集した鉄片が僅かに緩んでいた。


 「ここねッ!ハアアァッ!」


 鎧が緩んだ瞬間を狙い、身体を限界まで捻ったマリオンが手に持った槌で打ち付けると、緩んだ鉄片の塊の一部が弾け、飛んでいった鉄片が壁面に突き刺さっていく。

 そしてそれにより、密集した鉄片の鎧に僅かな隙間が生じていた。

 魔石はその隙間を閉じようと、周りの鉄片を移動させていくが、レオがその阻止に入り、隙間の中に爪先をねじ込む。


 「させるかよッ…!」


 外からの衝撃には頗る強い鉄片の鎧だが、内からかかる力にはやや弱いらしい。

 レオは力任せに鎧の内側に食い込ませた爪でその鎧を一気にこじ開けてしまった。


 「よし、これで射線が通る!…レオ、伏せてッ!」

 「へッ、…やっちまえ!」


 後方のフォルクが矢を放つ寸前、レオが仰向けに倒れ込み、彼の射線を確保する。

 放たれた矢は真っ白な光の軌跡を描きながらレオの真上を通過すると、修復しつつある鉄片の鎧の隙間をすり抜けて内部の魔石へと飛び込んでいった。

 光の矢が鎧の内側へ食い込むと、鉄片の鎧に大きく揺れ、反対側から突き抜けていく。

 そして前後に穴の空いた球体はそのまま力無く地面に墜落すると、穴から溢れさせていた光をゆっくりと失わせていく。


 「…よっしゃァ!」

 「流石は半長耳種(ハーフエルフ)狙撃手(スナイパー)って所かしらね」


 目の前で鉄の群衆が撃墜された瞬間を見ていた二人は、握り拳を作って勝ち誇る様に表情を綻ばせているが、俺はまだ終わっていない気がしてならなかった。

 魔石の放つ光は失われたものの、魔石を覆う鉄片はまだ球体を保ったままで、フォルクの貫いた穴から破片が溢れているわけでもない。

 俺も構えこそ解いてはいるが、地面に転がったままの鉄屑の塊から目を離せずにいた。


 「さて、と…瓦礫を片付けねェとな…」

 「アタシとアンタがいればなんとかなるでしょ。問題はその帰りよ」


 レオとマリオンが球体から背を向けた瞬間だった。

 球体に空いた穴から薄っすらと青白い光が漏れ出すと、地面に転がっていた鉄片の鎧が収縮し、震え始める。


 「…!レオ、マリオンッ!まだだッ!まだ終わっちゃいない!」

 「…何ですって!?」

 「…ンだとッ!?」

 「皆ッ、防御をッ…!」


 全員に防御の命令を出したと同時に球体を作る鉄片が弾け飛ぶ。

 弾けた鉄片は近くにいた俺達三人のみならず、後方の四人を巻き込み、部屋全体に散らばって全員を負傷させていた。


 「…く…。…皆、無事かッ!?」

 「…ああ、浅い傷とは言えねェけどな…!」

 「…死んだフリなんて真似、こんな魔物がしてくるとは思わなかったわ…!油断してたわね…!」

 「こちらは皆軽傷ですわ!」

 「軽傷…ではあるけど右手をやられたよ。…これ以上は正確には狙えそうに無いね」

 「私も大した怪我はありません!」


 後衛はフォルクが右手に鉄片を受けて弓をしっかり握れなくなっている以外は大きな被害は無い。

 しかし前衛は鉄の群衆の動きにいち早く気付いた俺は防御が間に合い、大した傷を負うことは無かったものの、虚を突かれたレオとマリオンは防御が間に合わずに決して軽いとは言い難い傷を負っていた。


 「むゥ…これは参りましたなァ…!」

 「これは…!」


 背後からマクニールの絞り出す様な声が聞こえ、俺は目線だけをそちらに送る。

 すると、そこにはズタズタに引き裂かれた鞄があり、その周りには落ちたり鉄片に当たって割れた瓶や破れた魔導書(スクロール)が散乱していた。

 これで回復などの支援は受けられない。だが、よく見ると目の前に浮かんでいる魔石は覆っている兜も割れ、覗かせている部分には大きな亀裂が入っており、放っている光も薄ぼんやりとしている。

 此方も相手も、お互いに追い詰められた状態だ。


 「…これでどうだッ!」


 懐から取り出した鎧通し(スティレット)を投げ付けると、周囲を浮かぶ鉄片に軌道を逸らされたものの、その本体を僅かに掠めていた。

 魔石に入った亀裂もそれによってさらに大きくなるが、まだ光は失われていない。


 「だったら直接ッ…!」

 「セオッ、危ねェッ!」

 「ぐえッ…!?」


 目の前で揺蕩う魔石に騎士剣で斬りかかるが、魔石の動きに気付いたレオが俺の襟首を掴んでそれを止める。

 すると、目の前を掠めて先程弾き飛ばした鉄片が戻り、これまでにない程の凄じい勢いで周囲を高速回転し始めていた。

 あのままレオが止めなければ騎士剣が届く前に俺が鉄片によって挽肉にされていた所だ。


 「これじゃ近付けねェな…」

 「右手がこれじゃあ、狙うものも狙えないや」

 「これでは魔剣術から放つ攻撃も防がれてしまいますね」


 目の前で鉄片飛び交う竜巻の中から魔石が俺達を見下ろす様に浮かんでいるが、俺達に現在この竜巻を越えて魔石に攻撃する手段が無い。

 フォルクは右手を負傷し、正確に狙う事は出来ないし、俺やクリスの魔剣術、アンリの魔導器による攻撃も魔石を取り巻く竜巻の前では通じはしないだろう。

 当然ながら接近しての攻撃は以ての外。俺達は完全に決め手を欠いており、魔石と睨み合いを続ける他無い。


 「攻める事も出来ず…、逃げる事も能わず、ね…」

 「そう言えばマクニールさんの魔砲はどうなんですか?」

 「ふむゥ…、先程鞄をやられたのでェ、装填していた赤色魔石弾が残ってますがァ…。紅色魔石弾でしたらァ或いはァ…行けたかも知れませんがねェ。流石に赤色魔石弾ではァ、威力不足でしょォ。それにあの竜巻ではァ正確に狙えるかどうかァ…」


 マクニールも一応は魔砲を構えてはいるが、その額には汗が流れている。

 フォルクの光の矢とは異なり実弾である為、あの暴風では狙えないのだろう。加えて、その中には大量の鉄片が飛び交っており、魔石に当てるまでに触れてしまえば意味が無い。

 たった一発の砲弾をそんな確率の薄い博打には使えない。


 睨み合いが続く中、先に動き出したのは鉄の群衆だった。

 鉄の群衆を守る竜巻は徐々に大きくなると、鉄片が地面の万年氷床を削り、白い氷の粉を巻き上げながら徐々に此方へと迫ってくる。


 「…オイオイ、冗談じゃねェぞ!」

 「…このまま壁まで追い詰めて挽肉にしようって魂胆ね」

 「どうすればいい…、どうすれば…!」

 「くっ…!焔ノ一、烈火ッ!」


 クリスが破れかぶれに魔剣術で銀の剣から赤い炎を迸らせるが、やはり竜巻の前に防がれてしまう。

 

 「こうなったら狙えなくても…!」


 フォルクも血を流し震える腕で弓を構え、立て続けに光の矢を放つが、狙いが定まらず魔石には当たらない。

 数本は当たりそうな軌道を描く矢もあったが、それも鉄片に弾かれてしまい、掠めることもできずにいた。


 「…こうなったら中に飛び込んでみようかしら」

 「…やめとけマリオン。…オラッ!」


 竜巻に飛び込もうと考えるマリオンをレオが止める。

 そして足元に転がっていた砕けた万年氷床の塊を手に取って竜巻に投げ込むと、竜巻の中に入る直前であっと言う間に削られてしまい、白い氷の粒となって竜巻の上から吐き出され、俺達の上から降り注ぐ。


 「な? こうなるワケだ」

 「…流石に無謀だったわね。…でもどうする? このままじゃ遅かれ早かれ、壁に追い詰められて皆ああなるわよ?」


 髪に付着した降ってきた氷の粒を払い落とすと、彼女は小さくため息をついてそう言った。

 

 魔石を中心に竜巻はどんどんその勢いを増し、規模を大きくしていく。

 壁際まではまだ猶予はあるが、それも時間の問題。いずれは壁と竜巻に挟まれてゲームオーバーだ。


 「何とかならぬものですかねェ…」

 「魔石本体を仕留めれば或いは…」

 「…クリスさん、それができないから困っていましてよ…」


 全員が万策尽きたと言った所で、半ば諦めにも似た雰囲気だ。

 直接魔石を狙う方法も無く、退がって削り殺されるのを待つ状況だ。

 俺も何も打開策が浮かばず、真上を覆う氷の天井を仰ぐが、巻き上げられて落ちてきた氷の粒が目に入り、思わず目を抑えて怯んでしまう。


 「何してんだセオ?」

 「…いや、降ってきた氷の粒が目に入っただけだ」

 「…そうか、まァ確かにこれじゃあ目ェなんて開けてらンねェよな」


 レオは手を広げて降ってくる氷の粒に呆れた様に肩を竦める。

 

 「…!」

 「…また目に氷が入ったのか?」

 「…いや…。…待てよ…、迫ってくる竜巻…、その中にある魔石本体…、降ってくる氷の粒…」


 頭の中で何かが閃き、その事について俺は一人考え込む。

 魔石の周囲を漂っていた鉄片も今は竜巻の中にある。一見すると攻防一体の隙の無い攻撃ではあるが、逆に考えれば竜巻の壁を抜ければうって変わって完全に無防備な状態なのだ。


 「…これなら!皆聞いてくれ!…無傷とはいかないかも知れないけど…、もしかしたら奴を倒せるかもしれない!」


 頭の中で考えがまとまった俺は鉄の群衆、その核である魔石を破壊する作戦を伝える為に全員を集めていた。

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