第百六十八話:獄長登場
マクニールが魔砲を構え、今まさに発射しようとした瞬間、突然発生した地震に俺達は全員膝をつく。
「レオッ、氷漬けのマリオンをっ!倒れて砕けたらマズいッ!」
「お、おうッ!」
「マクニール、僕も支えるッ!頼んだよ!」
「ぬゥ…、発射ァッ!」
激しい揺れに立ってさえいれず、氷像状態のマリオンの近くにいたレオに彼女が倒れてしまわぬ様、指示を出す。
その間にフォルクも地震によって照準が定まらずにいたマクニールの魔砲を支えに入り、彼の手を借りて漸く射撃体勢を取り直すと、砲口から火を噴かせていた。
マクニールの撃ち出した弾薬が氷塊巨人達に命中すると爆炎を巻き起こし、更にその周りに設置した弾薬に誘爆して爆発に次ぐ爆発が氷の破片を撒き散らす。
俺とアンリエッタが細かい破片を弾き、レオもまたその身を呈して破片からマリオンを守る。
強烈な爆発が止み、氷の破片の雨霰が止まると、黒煙が晴れ始めた。
「やっぱりダメか…!」
黒煙から現れたのは殆ど無傷の氷塊巨人達。あの爆発を以ってしても亀裂一つ入っていない。
「…いや、大丈夫ですわ。セオ様、あれを…!」
「…!」
アンリエッタが何かに気付き指をさす。
まだ黒煙がもうもうとしているが、よく見ると明らかな変化が見て取れた。
「まァ、結果オーライィ、ですなァ」
「ああ!」
氷塊巨人達が固めていた万年氷床の洞窟の壁面、それが崩れて通路の入り口に隙間がぽっかりと出来ていた。
氷塊巨人達は氷漬けとなったまま動いておらず、その横をすり抜けられそうだ。
「地震も止まった…」
「なんだ今の…」
「なんでもいいだろ、さっさと出ちまおう。マリオンは俺が担ぐ、セオは先行し…」
レオがマリオンを担ぎ、広間から出ようとした瞬間、俺達を不穏な影が通り過ぎる。
「あ…ああ…!」
「に…兄様、前ッ…!」
クリスとアンリエッタの二人が俺達を覆った影の正体に気付き慄いている。
一瞬上を向いていた俺達もその只ならぬ気配に気付き、クリス達が慄く存在に気付く。
「ありゃあ…、向こうにあった鎧か!」
「コイツが…」
「えェ、"獄長"ゥ…!」
「氷鎧巨人…!」
広間の奥にあった鎧は姿を消しており、奴は俺達を飛び越えると、入口を塞いでいた氷塊巨人を踏み砕いて俺達の前に立ちはだかっていた。
その鎧の巨人からは生気が感じられず、ただただ敵意だけを発しており、まるで雄叫びを上げるような動きを見せると、振り上げた腕を氷の床へと突っ込むと、まとわりつく雪と氷をばら撒きながらゆっくりと腕が引き抜かれ、その手にはこれまた巨大な氷の錘が握られていた。
氷鎧巨人は地面から引き抜いた錘を振り上げると、地面を打ち鳴らす。その衝撃は地面を揺らし、積もった雪を波打たせ、更にそれを追いかけるように雪の中から薄氷の棘が現れ、俺達を襲う。
「レオッ!マリオンをッ!」
「わかってらッ…!」
広間全体に広がりゆく薄氷の棘から逃れる術は無い。
レオにマリオンを庇う様にとだけ伝えると全員が身構え、被弾に備えていた。
「ぐっ…!」
「チッ…!」
「うぁっ!」
「あうっ…!」
「くっ…!」
「ぬゥ…」
威力こそ大したものではないが、全員が薄氷の棘に襲われ、傷を負う。
治癒魔術が使えればそれこそ問題は無いが、その為にはまずこの洞窟を脱する必要がある。
「氷鎧巨人を何とかしねェ事には出してもらえ無さそうだな…!」
「ならばァ、コイツを見舞うとしますかねェ」
重装備を身につけていたマクニールは先程の薄氷の棘によるダメージは殆ど無く、防御と並行して魔砲の射撃準備を整えていた。
「発射ァッ!」
マクニールは間髪入れずに魔砲を撃つと、弾薬は氷鎧巨人に直撃、巻き起こる爆炎に包み込まれていた。
「やったか!?」
「さァて…どうなりましたかなァ…?」
徐々に爆炎が晴れ、砲撃を受けた氷鎧巨人の姿が見え始める。
「…駄目か!」
「参りましたなァ…」
マクニールの砲撃は氷鎧巨人を覆う氷を剥がしただけに過ぎず、肝心の本体には傷一つつけられていない。
「チッ…悪ィがセオ、マリオンを担ぐのはナシだ!ウオオォォッ!」
「レオッ!?」
レオはマリオンを俺に預けると首から下げた真魔光珠を握り締め、魔素を送り始めていた。
レオはみるみる巨大化し始めると、これまでの獅子の姿と比べて爬虫類の様な特徴をも取り込んだ姿へと変わっていく。
以前の魔獣化の姿と比べると獅子と龍を混ぜ合わせた様な姿であり、多少残っていた獣人の面影は全く無く、正体を知らなければ魔物にしか見えなかっただろう。
強いて言うならば龍と獅子の歪魔獣と言った姿だ
「さっきの魔獣化状態と違いますわね…」
「ああ、これがレオの本気の魔獣化…というべきなのかな」
「…あれなら氷鎧巨人もなんとか押さえられますね」
反応を見るに、クリス達も初めて見る形態変化の様だ。
レオは変身し終えると同時に氷鎧巨人に組みつき壁へと押し込む。
そのまま壁沿いに氷鎧巨人の頭を押さえつけながら進み、瓦礫を散らしつつ氷鎧巨人が塞いでいた道を開けていた。
「セオッ、コイツは俺が抑えとく!今の内にここを出ろッ、急げッ!」
「…っ、わかった…!だがお前もすぐに脱出するんだ!」
「おうよ!俺もこんなのといつまでもサシでやり合うつもりはねェ!オオリャアッ!」
氷鎧巨人を壁際に押し込み、殴打を繰り返しながらレオが一瞬こちらに目をやる。
「セオドア殿ォ、マリオン殿は私が引き受けましょォ。出口への通路はァ、まァだ氷塊巨人が待ち構えている筈ゥ、蹴散らすのはお願いいたしますよォ?」
「わかりました、お願いします!」
マクニールが此方に目を向けるレオを一瞥しながら氷漬けのマリオンを引き受けると氷鎧巨人を抑えつけたレオが切り開いた退路へと俺達は一斉に駆け込む。
後方では魔獣化したレオと氷鎧巨人が地響きを立てていた。
「…早速出てきましたわっ!」
「雑魚に構ってる暇は無いッ!俺が道を開けるッ!」
レオも消耗した状態のまま氷鎧巨人を全力で抑えているのならば、こちらも全力で応えなければならない。
氷塊巨人の姿を認めると同時に超越の加護の力を解放すると、抜き身の騎士剣を構えてその刀身に魔力を纏わせる。
「ヴオオォォッ!」
「ガアアァァッ!」
「退けッ!道を開けろッ!」
纏わせた魔力を炎に換え、行く手を阻む氷塊巨人達を次々に焼き払う。
出し惜しむ事無く放つ炎で氷塊巨人達を薙ぎ倒し、出口へ続く坂道を駆け上がっていった。
「三叉路ッ…、正面の一番踏み固められた雪が多い道が正解かッ!」
「待ってセオッ、左右の道の陰ッ!」
「くっ…!」
三叉路にさしかかり、正面に待ち受ける氷塊巨人へ炎を放とうとした瞬間、フォルクが待ち伏せていた氷塊巨人の存在に気付き、俺に注意を呼びかける。
既に仕掛けていた攻撃を止められず、フォルクの言葉通りに待ち伏せしていた二体の氷塊巨人が左右から俺を挟み撃ちに殴りかかってきていた。
「死角は私達がッ!」
「引き受けますわッ!」
左右からの挟撃にクリスとアンリエッタが割って入ると、クリスは剣から、アンリエッタは槍から爆風を発して氷塊巨人の拳を跳ね除けた。
クリスはそのまま剣から放った炎で通路を焼き払い、フォルクがアンリエッタの後ろから光の矢を横殴りの雨の様に放ち通路を制圧する。
「少し急き過ぎですわ、どうにか間に合いましたが少し遅れてれば危なかった所ですわよ」
「兄様、逸る気持ちは解りますが先走り過ぎない様にお願いします」
「みんな…済まない」
「なァに、礼ならばマリオン殿に…。彼女の陣形指導あってのォ賜物ですからなァ」
「そういうこと。さぁ先を急ごう!もう出口は近い筈だ!」
ーーー
「…オッ…ルアアァァァァッ!」
「…!」
魔獣化したレオの巨大な爪が氷鎧巨人を攻め立てる。
その一撃は氷鎧巨人の巨体を揺るがし蹌踉めかせる程であり、決して力負けはしていない。
更にはスピードではレオに分があり、強力な氷錘による一撃もどうにか躱している。
「…!」
「うおっと!…流石にこの状態でもまともに喰らえばヤバいってのは間違いねェ、落ちついてやらねェとな…!」
鈍重という言葉ををそのまま形に表したような存在である氷鎧巨人。氷と金属で出来た強固な鎧は重く、冷たく、そして何より堅い。
魔獣化によって大幅に強化された腕力も爪も氷鎧巨人の鎧には全くと言っていい程、効果を為していなかった。
「…!」
「おっと!…隙ありィッ!」
氷鎧巨人が力任せに振る氷錘を躱し、レオは懐に潜り込むと、巨腕を振り上げて腹から頭にかけて目一杯の力を振るい、鋭い爪による一撃を見舞っていた。
「クソッ…硬ってェなァ…!」
レオの爪が氷鎧巨人の鎧が纏う氷を剥がし、雪の結晶のように輝きながら散っていく。
しかし、相も変わらず鎧本体には傷一つ付いておらず、氷鎧巨人もまた小さく蹌踉めくばかりだった。
「…チッ、鎧の所為で大した傷も与えられやしねェか…、魔素の残もそう多くはねェし…ぼちぼち逃げる準備を考えとかねぇと…」
ーーー
「ふっ!せぁっ!…意地でも逃がさないつもりですわね!」
「くっ…!はぁぁっ!だったら…意地でも通るだけですっ!」
「てやぁっ!…っと、一人で格好つけて…!」
「はっ!セオッ、次を右だッ!後はまっすぐ進めば出口ッ…喰らえッ!」
出口に近付けば近付く程に氷塊巨人達はその数を増して行く手を阻む。
息を切らしながら、傷だらけになりながら、氷漬けになったマリオンを守りつつ真っ直ぐに出口を目指していた。
しかし気になっていたのはレオの事だ、既に氷鎧巨人から逃れていればいいのだが…。
「フッ…フッ…フゥ…セオドアァ…殿ォ!」
「マクニールさん!」
「…実はァレオさんからァ、口止めェ…されてましたがァ…!あの魔獣化ァ、魔素の限界までェ…元に戻れないんですよォ!」
「な…何だってェ!?」
マクニールから聞かされた事実に驚くのも束の間、相も変わらず氷塊巨人達が俺達を洞窟から逃すまいと大挙してやってくる。
「…クソッ、これじゃあ落ち付いて話も聞けやしない…!はぁっ!」
「兄様、あそこッ!っつァッ!向こうを…見てくださいッ!」
「光…!セオ、出口だッ!」
クリスが指差す先、通路を塞ぐ氷塊巨人達の間から眩しい光が漏れ出してきていた。
まだまだその途中に控えている氷塊巨人達の数は多いが、漸くそのゴールが見えた事で俺達の武器を握る手に力が入る。
「マクニールさん、話は後で!一気に突破します!おおおぉッ!」
「みんなッ、セオに続こう!」
魔力を纏った剣を振るい行く手を阻む氷塊巨人達を薙ぎ払う。
アンリが大楯で死角を守り、クリスが魔剣術で氷塊巨人達の鎧を剥ぎ、フォルクが凄弓で俺の討ち漏らしを射抜いていく。
勢いに任せて俺達は氷塊巨人の群れの中を突き進むと、遂に洞窟の出口を抜け出していた。
「よし、抜けたッ!」
「キャンプはあっちだ!急ごう!」
「ああ!マクニールさん交代しましょう、俺とフォルクで運びます!」
「フゥ…フゥ…、ではァお願い致しますぞォ…」
マクニールから氷像状態のマリオンを引き受け、フォルクと共に森の中を進む。どうやら追手は来ていない、あの洞窟が彼等の縄張り、そういう事だろう。
「セオ、みんな!こっちよ!準備は出来てるから落とさない様に気をつけて!」
「クローディア!」
キャンプで待っていたクローディアが俺達を出迎える。
彼女は極小の歪送門から此方の状況を把握しており、出迎えにきていた。
クローディアにテントの中へマリオンを運び込む様に伝えられ、俺とフォルクは慎重にマリオンを中へ運び込むと、中ではアリーシャが既に準備を終えて待っていた。
「セオドア様、お久し振りでございます」
「ああ、色々話したい事はあるけど今はマリオンとレオだ。二人を助けないと!」
「ええ、準備は整えております。クリスティン様もお手伝いを」
「わかったわ」
アリーシャとクリスにマリオンを任せ、テントを出ると、マクニールとアンリエッタは再び洞窟に入る為の準備を進めていた。
マクニールは俺がテントから出てくるのを認めると、大きな鞄の中から小粒の無色魔石を取り出し、投げ渡してくる。
「随分魔素を使ってるでしょうゥ? まだまだこれからァレオさんを救出に向かうのですからァ、今の内に補給をと思いましてねェ」
「…ああ、助かる!」
「…ついでに食事も済ませておくといいわ。アリーシャが用意してくれてる。これからレオの救出に向かうんでしょう?」
マクニールから渡された無色魔石から魔素を取り込んでいるとクローディアが食事を持ってやってくる。
時刻は既に夕刻を迎えようとしており、朝から何も食べていない腹が空腹を訴え鳴り始めていた。
「腹拵えも戦いの内だよ、セオ。あの分だとマリオンの治療自体すぐに終わりそうだ。…マリオンの治療が済めばレオの救出、まだまだハードな一日は続く、食事は摂れる時に摂っておいた方がいい」
「…ああ、そうする」
フォルクの話に頷いて、焚き火にかけられた鍋からスープを皿に取り、口に入れる。
周辺から採取した薬草などが入っているのか、傷が癒され、冷えた身体が温まっていく。
「…ところでマクニールさん、さっきのレオの話ですけど」
「ええェ、わかっておりますともォ。…まずみなさん、レオさんの見た目が変わっているのはお気付きかと思いますがァ…」
マクニールはレオの姿が大きく変わった事について説明を始める。
彼の話によると三年間の間、レオはマクニールと行動を共にしていたらしく、それについては俺以外は全員把握しているところだ。
そしてここからが本題、レオはマクニールと二人で白蛇の大顎という白蛇山脈の一角で修行を兼ねて青龍の討伐に向かった途中、青龍の巣で発見した黄金の青龍の卵を口にしたという。
黄金の龍の卵は口にした者に力を与えるという話らしいが、レオの場合は容姿にも影響を与えた様で、体毛は全体的に白くなり、体格はより大きくなった。
また、とりわけ真魔光珠の力を使って変身すると龍の特徴が現れる様になったらしい。
「…そしてェ、皆さんがご存知の人獣型、人型、獣型、そして魔獣型に加えてェ、そうですなァ…獣龍型とでも言いましょうかァ、新しい姿を身につけた、とォ言うわけですなァ」
マクニールは魔砲の整備、装填を済ませながら説明を続け、俺達も氷鎧巨人や氷塊巨人から受けた傷の治療をしながらその説明を聞いていた。
「で、その獣龍型というのが魔素が尽きるまでは元には戻れない姿、って訳だな」
「ええェ、その通りィ。何度か試していましたがァ、その事が判りィ、強力な力を得られる代わりにィそういった致命的な欠陥が見つかった以上ゥ、彼もォ使わない様にしていたのですがァ…」
「氷鎧巨人を目の当たりにして、みんなを逃がす為に、止む無く、そういう事でしょ?」
「龍の力が働く事で魔獣化程燃費は悪くない様ですがァ…、果たしてどこまで持つかァ…。いくら獣龍化したレオさんでもォ、一人で倒しきれる相手ではァ…」
マクニールは一通り説明を終えると両手で頭を抱えてしまう。
本来ならば先に話すべき事だったのだろうが、レオに口止めされていた手前、話せずにいたということか。
「あの巨体じゃ通路には入れない…、耐えていてくれればいいけど…」
「一応無色魔石はァ持たせておりますがァ…」
「それでも魔素切れで元の姿に戻った瞬間は動けませんわ」
「それに…魔素を回復したにせよ出口を押さえられたら退路が無いね…」
考えれば考えるほどレオが上手く逃げ果せる望みは薄れる一方だ。
考えられるとすれば魔素を回復し耐えている、その方が幾らか現実的だろう。
「…どうするつもりだい、セオ」
「勿論助けに行くさ。…でも少なくともマリオン無しじゃ戦うにしろ逃げるにしろリスクが大き過ぎる」
「あの姿のレオさんですら攻撃が効いていなかった様子でしたから…」
「効くとすればァ…マリオン殿のォ槌、そういう訳ですなァ」
現状、マリオンがいなければあの氷鎧巨人に対抗できる手は無いだろう。このまま行ったところで為す術無く全滅するのがオチだ。
あの鎧を破損させる事さえ出来れば攻略の糸口は出来る、もし通じなければ──
「…ハッ…ハッ…待たせたわね…!」
「マリオンさん!まだ治療がっ!」
凍結状態からは回復したマリオンがテントから飛び出してく。しかしながら彼女の身体は凍傷によって弱り切ったままだ。
彼女は治療を続けようとするクリスを振り切って息も絶え絶えになりながら俺達の元へと駆けてきた。
「ハッ…ハッ…心配…ハッ…いらないわ…。治癒魔術ならアタシも…ハッ…扱える…!…アタシはアンタ達と違って中で魔素を使う事は無いわ…、クリス、アンタも自分の魔素を…温存しときなさい…」
マリオンはそう言ってクリスの治癒魔術による治療を断ると、俺達に聞こえない程の小さく掠れた声で治癒魔術の詠唱を始めていた。
治癒魔術が発動すると、淡い光がマリオンの身体を包み、火傷の様な凍傷の傷痕が塞がっていく。
だが治癒魔術で回復できるのは体力ではなく身体の傷だけだ。
「ハッ…ハッ…マクニール、アンタ、霊薬持ってたわね?」
「む、その手がありましたなァ。…少しお待ちをォ」
「移動しながらで…ハッ…構わないわ。セオ、クリスから一通り話は聞いてるわ、急ぐわよ…!」
体力を奪われ衰弱していながらも、マリオンは直ぐに出発する事を促す。
レオが一人残らざるを得ない原因を作ってしまった事に責任を感じているのか、彼女はそれを取り返す為に躍起になっている様にすら見える。
「マリオン、一度落ち着こう。レオが心配なのも解るし俺達も同じだ」
「相手はSS級を超える魔物、戦うにしても逃げるにしても一筋縄ではいきませんわ」
「そうだね、倒す必要が出たら全員の力を合わせないと厳しいと思うよ」
「まァまずはアリーシャ殿の作ったァスープでも口にしてはいかがですかなァ?」
「…!」
マクニールからスープを勧められたマリオンは一瞬何かいいたげにしていたが、スープを受け取ると言葉と一緒に飲み込んでしまう。
「…アンタ達、レオが一人残ってるのは解ってる筈よね?」
「勿論さ。だけど焦っても危険なだけだ。特にマリオン、一番危険なのは君だ」
「クローディアから聞いたよ。君の魔人の加護は魔術に対する抵抗力が著しく落ちる加護だそうだね」
「単体で下級魔術を使う相手であれば、躱せば事足りるのでしょうけれど…」
「氷塊巨人でさえェ、中級魔術相当の攻撃をォ、集団で放って来る訳でしてェ」
「次は氷漬けじゃ済まないわよ。何らかの対策は講じるべきだわ」
彼女の弱点を知った俺達は血気にはやらんとする彼女に対して口々にその点を突いて黙らせた。
「…マリオン、レオが残る原因を作ったのは自分だと責める前に、レオを助ける為にどうすればいいかを考えた方が建設的だとは思わないかしら?」
「…勿論急いだ方がいいのは確かですわ。でも急ぐのと焦るのとでは結果は変わってくるのではなくて?」
「それに、元々通路を塞がれてた以上、マリオンが氷漬けになってなかったとしてもああなってた可能性も十分に考えられたわけだしね」
「何でも自分一人でやってしまおうとする癖は相変わらずみたいですね」
「商売とォ言うのは人との繋がりィ、つまり仲間との信頼関係がァ、大事なァワケでェ…。その点にィおいてはマリオン殿ォ、冒険者にもォ当てはまる筈ですぞォ」
「マリオン様、一人で背負いこむのはおやめ下さい。我々の誰も、貴女一人の責任だとは考えておりませんよ」
「…アンタ達…!」
皆の言葉にマリオンは言葉を詰まらせる。
マリオンは戦闘能力のみならず、その自信に満ちた言動から仲間達を引っ張って行くリーダーシップを持ち指揮能力にも長ける。
反面、一人で大抵の事は出来てしまうが為に何でも一人で背負い込みがちな所があり、クリスの言う通りそういった点では以前と相変わらずの様だ。
「マリオン、俺達は"仲間"だ。誰一人として君を責めるつもりもないし、レオも見捨てる気はない。責任を取れなんて誰も言いはしないし、失望もしない。仲間として足並みを揃えて、きっとレオを救うんだ。その為に力を貸して欲しい。あの時と同じ様に、『お願い』だ」
俺はマリオンに手を差し出し、以前、彼女をパーティーに迎えた時と同様に『お願い』した。




