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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第十一章:再会と、脱獄と
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第百六十七話:全力VS真打

 氷塊巨人の上半身が雪を巻き上げながら地響きと共に倒れる。

 落ちてくる頭を避けて壁際に立つと、その側に小さな影が飛んできていた。

 小さな影はそのまま俺の真横の壁に激突すると、壁面の氷を砕いてから地面にずり落ちてくる。


 「つー…流石に舐めすぎたわね。…打撃で痛いなんて感じたのは久しぶりだわ」

 「マリオンさんッ!」


 吹っ飛んできたのはマリオンだった。

 大した怪我をしている様には見えないが、金色の前髪の生え際辺りから一筋の血を流しており、ゆっくりと立ち上がると鎧に付着した雪を払って俺を一瞬だけ睨む。


 「…じろじろ見ないで、少し油断しただけよ」

 「…ご無事そうで」


 マリオンは俺の返しに小さく頷くとすぐに走り出しレオとアンリのいる前線に戻る。

 氷塊巨人の攻めに対しては主にアンリが上手く防いではいるが、攻撃役であるレオとマリオンは軽快な動きを見せる氷塊巨人をなかなか捉えられず、その反撃を受けている形だ。

 俺達が相手をしていた手負いの氷塊巨人とはまるで動きが違い、五体満足の氷塊巨人の精鋭の実力を目の当たりにしていた。


 「迂闊に飛べねェな…」

 「アタシもアンタも、一回ずつ吹っ飛ばされてるからね…。巨人型の亜人種だからパワーがあるのは見ての通りだけど、スピードもある分厄介ね…!」

 「この巨体でこのスピードとは…恐れ入りますわね…」


 レオもマリオンも当てれば一撃必殺の攻撃力を持っているが、それもあくまで"当たれば"の話だ。

 二人とも決して動きが遅い訳ではないが相手は巨人、攻撃の範囲もリーチもまるで違い、僅かに上体を逸らすだけでも普通の人間からすれば大きく飛び退いた程の距離が開いてしまう。

 レオも、マリオンもまた、どうやら一撃必殺の攻撃を繰り出した所を躱されその反撃で吹き飛ばされてしまった様だ。


 「ヴォアッ!」

 「うおっと!?」

 「くっ…!」


 氷塊巨人の振り払う腕を二人が飛びのいて躱す。

 しかし氷塊巨人はそれも狙いの様で腕を振り抜いた瞬間、すぐに前進し距離を詰めてくる。

 飛び退いた二人はまだ地に足が着いておらず、今追撃を受ければ回避する手段はない。


 「そうはさせませんわっ!」


 二人の間に割って入ったアンリが大楯を構え、真っ直ぐに打ち込んでくる拳に備えている。

 アンリの大楯の宝珠に光が灯り、迫ってくる巨大な拳を受けようと楯が突き出されるが、一切の音も立たず、アンリ自身もまるで手応えを感じてはいなかった。


 「フェイント…!アンリッ危ないッ!」


 氷塊巨人はアンリエッタの大楯には殴りかからず、寸での所で拳を止めると、自らの楯の陰で正面が見えない側面から拳を振りぬこうと構えていた。


 「うおォッ!」

 「…キャッ!?」


 マリオンを追い走り出していた俺は側面からの拳に気付かずにいたアンリエッタの横から彼女を抱えて飛び込んでいた。

 横から振り抜かれた拳は頭上を掠めると風切り音を残す。


 「…大丈夫か、アンリ?」

 「セオ様…!申し訳ありません、助かりましたわ」

 「兄様ッ!上をッ!」


 拳の薙ぎ払いは躱したものの、氷塊巨人の追撃は続く。

 後方からクリスの声が聞こえ、上を見上げると高く上げられた氷塊巨人の足の裏が見えており、まだ立ち上がれていない俺達を踏み潰そうとしている。


 「そうはさせないッ!」


 フォルクの光の矢が氷塊巨人の足の裏に次々と射かけられる。

 一本一本の矢は大したダメージこそ与えてはいないが、足を叩きつけようとする氷塊巨人の動きが僅かに止まり、その間に俺達は立ち上がるとその場所から離れ始めていた。

 とは言え、まだ足を伸ばせば届く距離。止まっていた氷塊巨人の足もまた動き出し、逃げる俺達の頭上へと迫る。


 「くそッ、間に合えッ…!」


 再びアンリエッタと共に頭から飛び込むが、それでも氷塊巨人の足はそれに追いついてくる。

 だがそこへ二つの大小の陰が滑り込み、飛び込む俺達とすれ違った。


 「フォルクが止めた一瞬の隙のお陰で間に合ったな!」

 「力比べといこうじゃない…!」


 迫り来る巨大な足に、マリオンが槌を振りかぶり、レオが握り拳を作って待ち受ける。

 氷塊巨人は俺達ごと踏み潰すつもりなのかその様子にも躊躇う事なく、勢いそのままその足を降ろしてきていた。


 「ヴォオオガアァァァッ!」

 「ハアァァァァッ!」

 「オォルアアァァッ!」


 強力な踏みつけにマリオンの槌とレオの拳がぶつかり合うとその場で止まり、お互いに押し合いとなる。


 「ヴォオオォォッ…!」

 「こンのォッ…!」

 「負けるかッ、よオォッ…!」


 マリオンの槌が、レオの拳が、そして氷塊巨人の足がその場で止まったまま小刻みに震える。

 力同士のぶつかり合いは拮抗し、小刻みに震えながらその場でぴったりと止まっていた。

 文字通り二人が足止めをする中、氷塊巨人の足の下から抜け出すと、そこにはマクニールが魔砲に弾薬を装填する姿が目に飛び込んでくる。


 「力比べにィ水を差すのは心苦しい限りですがァ…優先すべきはァあの巨人を倒す事ォ、そしてこの洞窟からのォ脱出ゥ…。こんな場所でェ、まごついている場合じゃァありませんのでねェ…!」


 マクニールが語気を強めながら、弾薬の装填を終えた魔砲の砲口をマリオンとレオを相手に力比べに興じる氷塊巨人へと向ける。

 轟音と共にマクニールの魔砲が火を噴くと、それに気付いた氷塊巨人は体を逸らし直撃を避けていた。


 「仕留められるとはァ思っちゃァいませんともォ、避けられたのはァ意外でしたがァ…体勢さえェ崩れたのならァ成果としては充分ン〜…」


 満足気な表情で背を向け、新たな弾を装填し始めるマクニール。

 彼の狙い自体は魔砲の弾を命中させる事ではなかった。


 「…水を差されたのは癪だけれどッ…!」

 「…四の五のッ、言ってられねェからなッ…オオルァッ!」


 マクニールの魔砲を躱した事で氷塊巨人は体勢を崩し、マリオンとレオとの力の均衡が崩れる。

 二人の力が氷塊巨人の足を押し返すと、体勢を崩した氷塊巨人は片足で全身を支え、大きく蹌踉めいていた。


 「来いッ!セオッ、アンリッ!」

 「ああ!」

 「行きましょう!」


 レオはマリオンと共に氷塊巨人の足を押し返すと、振り返った瞬間に視界に入った俺とアンリに追撃を仕掛ける様に迫る。

 中腰の姿勢になり、両手を前に出しているレオから俺とアンリエッタはすぐにどうすべきかを察し、レオに向かって走り出していた。


 「オオ…!」

 「ハッ!」

 「…ッシ!行くぞッ!」


 勢いをつけてレオの両手にそれぞれ足を掛けると、彼は俺達の足を押し上げて後ろへ打ち上げる。

 氷塊巨人の頭より上まで高々と打ち上げられ上空から見下ろす。するとクリスが立ち直ったばかりの氷塊巨人の懐に潜り込んで剣を構えているのに気が付いた。


 「クリス!」


 クリスに声を掛けると無言のまま頷いている。どうやら俺達に合わせるつもりの様だ。


 「…アンリ、その槍で俺を叩き落とせるか?」

 「ええっ!?…出来なくはありませんが…」

 「氷塊巨人はクリスに気付いてない。狙われるのは俺達、アンリは防ぐ手があるけど俺は空中じゃ超越の加護を使っても避けられない」

 「…わかりましたわ」


 飛来して来る俺達に気付いた氷塊巨人は腕を振りかぶり俺達を撃墜する気でいる。

 対して俺は剣を振りかぶり、アンリは槍の穂先を下向きに、俺の背中に当てがっていた。


 「アンリ、頼んだ。それと、気をつけろよ」

 「はい…行きますわよ…!」


 振り上げた剣には予め魔力を纏わせており、魔力をによって鋭さを増した刀身が外から差し込む光を反射させていた。


 「暴風(ブラスト)(スピア)ッ!」

 「うぁッ…、オォ…属性斬エレメンタルスラッシュ金剛刃(ダイアモンドメッサー)ッ!」


 アンリの暴風槍から放たれた爆風による推進力を得て、魔力によって強化された騎士剣が氷塊巨人の真上から一直線、縦一文字に氷塊の鎧を徹り抜ける。


 「ヴォッ…オォッ!」


 顎を引かれ頭こそ割れなかったが、顔に深い傷を負わせ、また氷の鎧が真っ二つに割れる。その中からは青い血が激しく吹き出しており、かなりの深手を負わせた筈だ。

 しかし、氷塊巨人はまだ倒れず、空中に残っていたアンリエッタを睨み返すと振りかぶった拳で薙ぎ払おうと構えていた。


 「アンリッ!」

 「ヴォオオオォォガァッ!」

 「ふ…、頭に血が上ったならば勝負は終わりですわッ!聖女の楯(アイギスシールド)ッ!」

 

 振り抜かれた筈の拳が大きく跳ね飛ばされる。

 本来ならばアンリエッタを吹き飛ばしていた筈の一撃は彼女の楯に受け止められ、そのまま吹き飛ばすどころかそっくりそのまま跳ね返されており、周りにいた全員が聞こえる程の鈍い音を響かせて腕を逆の方向へと折れ曲げさせていた。


 「クリス、行けるか?」

 「ええ、勿論」

 「よし…俺の剣の腹に乗れッ」


 着地の衝撃で足を痺れさせていた俺は目の前で鞘に収めた剣に手を掛けたクリスに声を掛ける。

 彼女は小さく頷き短く返すと、小さく跳躍して、握り変えた俺の騎士剣の腹に足を置く。


 「せえやッ!」

 「…雷ノ二…震霆ッ!」


 クリスは飛び上がり真上に向けて腰の長剣を抜き一閃、剣から放たれた電撃を先程俺が鎧を割り、与えた傷の上に這わせる。


 「ヴォヴォヴォガガッガッガガッ…!」

 

 電撃に身体を痙攣させる氷塊巨人の腹の辺りでクリスは振り抜いた銀の剣を返すと、まだ電気を纏ったまま火花を散らす刃を傷口に通して自重で真っ直ぐに再び俺の与えた傷をなぞる。

 高さこそ腹の辺りからだが強力な電撃によって動きを止め、そこから兜割りに移る二段階攻撃。力の無さを有り余る魔力で補うのは実にクリスらしい魔剣術だ。


 「ヴォ…!」


 深手を負い、腕を折られ、更に二度の強力な電撃を受けた氷塊巨人が膝をつく。

 氷塊巨人は氷の天井を見上げ、ゆっくり力尽きる様に前のめりに倒れ始めていた。


 「やったか…」


 これだけの傷だ、もはや立ち上がる事は無いだろう、──そう思っていた瞬間だった。


 折れていない左腕、その拳を地面につけて堪えた氷塊巨人が再び立ち上がる。

 そして身体を震わせると肌に痛みが走る。


 「なっ…クリスッ!みんな防御をッ!」


 何をしようとしているのかは皆目見当がつかないが、不穏な気配を感じ、降りてきたクリスをかばう様に上から覆い被さりながら、全員に警告を促す。

 その直後に広間一帯を巻き込む冷気が手負いの氷塊巨人の身体から放出された。

 強すぎる程の冷気によって空気が白く輝く。

 視界を奪われる程の強い冷気が放たれおり、肌が痛みを覚えたのはその為だ。

 強力な冷気は視界のみならず、意識すらも奪い去ろうとしていた。


 ーーー


 冷気の放出が止まり、薄らいでいた意識が戻る。

 凍てついた空気はまだ残ってはいるが、どうやら助かったらしい。


 「──…、ハッ…!…みんな、無事か…?」

 「…俺は大丈夫だ」

 「…私も無事ですわ」


 すぐ側にいたアンリエッタもレオも冷気を耐え切り、直ぐに返事を返す。


 「…兄様が庇ってくれましたので私も無事です」

 「…ふゥ…、私もォ無事ですぞォ」


 クリスもマクニールもどうやら無事の様だ。ただクリスは寒さに身体を震わせている。

 

 「…セオ、僕は無事だけどマリオンがッ!」

 「…」


 フォルクも無事だったが彼が指を指した先、そこには先程の冷気によって全身を凍て付かせたマリオンが静かに佇んでいる。


 「マリオンッ!」

 「マリオンさんッ!」

 「…」


 全員で声を掛けるも返事は無く、マリオンは氷に覆われたまま沈黙を守っている。

 状態は一眼見れば解るが勝利を確信した矢先に起きた一瞬の出来事に全員が動揺してしまっていた。


 「みんなしっかりしてっ!」


 頭上から声が響く。

 その声に混乱していた俺達は我に帰らされ、正気を取り戻した。


 「彼女、魔人の加護を持ってたんでしょう?…だったらみんなよりダメージが大きいのは致し方ないわ」

 「どういう事だい、クローディア?」

 「魔人の加護は肉体を著しく強化する反面、魔術みたいな魔力に対する抵抗力を著しく失うの。それに彼女は鉱山種(ドワーフ)でしょう?魔族でも特に魔術に対する抵抗力が低い種族、今の氷塊巨人の最期の一撃が魔力によるものだとしたら、彼女がそうなるのも無理は無いって話。彼女の場合、同じ威力の魔術を受けたとすればその数倍のダメージを受ける事になるわ」


 フォルクの問いにクローディアが淡々と説明する。

 マリオンは魔人の加護の保有者、しかし彼女の加護は俺やクリスの持つ加護のようなメリットばかりの加護とは異なり、強力な力を持つ反面、大きな枷を伴うものだった。


 「どうしたらいい!?このままじゃマリオンが…!」

 「狼狽えてる場合じゃないでしょう? とにかく彼女を洞窟から連れ出して。あなたがパーティーのリーダーなんだからあなたが混乱すれば全員が混乱するわ。…しっかりなさい」

 「セオドア様、マリオン様を解凍する準備をしておきます。出来る限り早く脱出を」


 次元の歪みの向こうからかけられたクローディアの声に全員が落ち着きを取り戻す。


 「とにかくまずは脱出だね…。でもマリオンの力でも砕けなかった出口を塞いでる氷漬けの氷塊巨人達をどうするか…」

 「…魔剣術でどうにかなりませんかね?」

 「よし、やってみよう。クリス、手伝ってくれ」

 「はい!」


 二人で剣に魔力を纏わせ、氷漬けになった氷塊巨人に刃を向ける。


 「行くぞクリス!属性斬撃・…」

 「はい!焔ノ一…」

 「炎波(タイダルフレイム)ッ!」

 「烈火ァッ!」


 クリスと同時に剣から放った炎が氷漬けとなった三体の氷塊巨人を呑む。

 しかし、マリオンの打撃すら弾き返した氷の鎧は全くそれを受け付けておらず、炎が消えた後もなお、表面を薄っすらと湿らせているばかりだ。


 「…ダメかっ…!」

 「魔剣術ではどうしても全力が出せませんね…!魔術が使えたなら…!」


 持てる全ての力を以ってしても、氷塊巨人達の鎧は剥がせない。

 薄っすらと表面を溶かしている以上、何度もやればいつかは突破できるのだろうが、それではマリオンが手遅れになってしまう。

 レオの力でもせいぜいマリオンの力と互角程度、それでは弾かれてしまうのが関の山だ。

 どうしたものかと考えていると、マクニールが背中の荷物を置き、中身を探っている。


 「どれェ…私がやってみるとしましょォかァ」


 マクニールが荷物から取り出したものを両手に抱え名乗り出る。

 彼が両手で抱えていたのは魔砲の弾薬。それも彼が用意していたとっておきの弾薬だそうだ。


 「これをこうしてェ…、よしィ…皆さん少し下がって頂きますよォ…」


 マクニールは両手一杯に抱えていた特注の弾薬を氷塊巨人達の側に設置すると、その場所に魔砲の照準を合わせていた。

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