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第百四十九話:聖盾の戦乙女 中編

 「まさかアンタがアタシの部下なんてね」

 「騎士団長の命である以上、従うまでですわ。改めてよろしくお願い致しますわ、マリオン隊長?」


 アンリエッタは兄エーミールとの決闘を制した後、正式にグリーングラス家の人間として迎え入れられると、早速父イドロシスの口添えで騎士団へと入団していた。

 その際、騎士団長トリスタン・ホワイトロックは過去に在籍していた件と旅の中での赤龍討伐などの経験を加味し、彼女を百人長に取り立てるとマリオン・カッパーフィールド率いる五百人隊の副官に任命した。

 マリオンとはエルダで別れて以来の再会であり、突然のアンリエッタの単独での帰郷に彼女は最初、ただただ驚くばかりだった。


 「ま、話は追い追い聞くとして…。何にしてもまた再会できた事を喜ぶべきかしらね」

 「ええ、私としても貴女と出会えた事は幸運と言えますわ。貴女であれば、私も今の私を変えられるきっかけが何かあるかも」

 「ま、訳ありなんでしょうけど…、アタシの隊の訓練はキツイわよ、付いてこれるかしら」

 「そのくらいはこなせなければ、副官は務まりませんわ」


 騎士団長の執務室で略式での着任式を済ませた後、二人は部屋の前の廊下で話をしていると、執務室の扉が開き、そこからトリスタンが顔を出す。


 「おやおや、二人とも仲がいいね。何、二人とも顔見知りかい?」

 

 突然話に首を突っ込んで来たトリスタンに対し、マリオンはあからさまに嫌そうなため息を吐く。


 「また盗み聞き? ホントいい趣味してるわね」

 「ちょっと、マリオンさん…」

 「ああいいよいいよ、アンリエッタ君」


 トリスタンに対して悪態をつくマリオンをアンリエッタは咎めようとするが、彼はアンリエッタの肩に手を置くと、宥めるようにそう言った。


 「立場は違うけれど彼女は僕からすれば悪友のようなものでね。じゃ、どうやらお邪魔みたいだからまた書類との格闘に専念するとしよう」


 トリスタンはそう言って執務室に顔を引っ込め、扉を閉める。


 「さて、と…じゃあ早速だけど、あと半刻後に訓練だから準備してきて。鎧は…」

 「今のものに騎士章をつけていればよろしいですわね?」

 「そうか、百人長だからある程度自由が利くんだったわね。じゃ半刻後に第二外壁で」

 「了解しましたわ、マリオン隊長。では後程」


 ーーー


 半刻が経ち、ブリュンヒルデの第二外壁。

 マリオンの率いる五百人隊の面々が集まっており、訓練を前にマリオンとアンリエッタを含む五人の百人長以外の騎士達は息を切らしていた。


 「さて…まーたソニアの隊を除いてみんな揃って息切らしてるわね。弛んでるんじゃないの?」

 「まぁいつもの光景ではあるな」

 「これでまだ序の口なんだからボクの隊員達には酷だよねー」

 「まぁまぁ、これも実戦で死なないようにする為ですし…」

 「隊長、お言葉ですが三四半刻では我々や隊長が直接鍛えたソニアさんの隊員はともかく、他の者ではまだ…」


 息を切らしている隊員達を前に各百人長達がマリオンを宥めている。


 「なーに言ってんのアンタ達、半刻前に準備してここに来るように言った人間が息も切らさずにここに来てるんだから、弛んでる以外に言いようがないでしょ! ま、丁度いいわ、アンタ達にも隊員達にも紹介しとかないとね」


 マリオンは百人長達を一喝すると、「注目」、と一言、外壁内の街全体にも届きそうな大声で号令をかける。


 「アンリエッタ」

 「はい」


 マリオンが名前を呼ぶと、アンリエッタは一言そう返して頷き一歩前に出る。


 「紹介するわ、今日から先日殉職したドレイス・マゼンタスカイ百人長に代わって百人長に着任することになったアンリエッタ・グリーングラス百人長よ!ドレイス隊の隊員達はアンリエッタ百人長の隊に編入、以前に百人長を務めてた経験はあるみたいだから、隊でのやり方は彼女に任せるわ」

 

 マリオンは凡その紹介を済ませるとアンリエッタへ自己紹介をする様に顎で促す。

 そしてアンリエッタもそれに頷くと騎士達の前へと歩みだした。


 「皆さま初めまして。私はアンリエッタ・グリーングラス、本日より殉職なされた先任のドレイス百人長に成り代わり指揮を執らせて頂くことと相成りましたわ。十年程前に百人長を務めていた事もありますが、ポッと出の私が突然隊長としてやってきた事に不満もありましょう。ですから、私も皆様から認めていただける様、努力に努める所存ですので何卒宜しくお願い致しますわ」


 自己紹介を終え、アンリエッタは静かに一礼すると、他の四人の隊長達と握手を交わす。

 とは言え、その四人も決して友好的、という訳ではない。


 「某はザイル・ヴァンキッシュ、グリーングラスの家の者とは言え、ドレイスの代わりが務まるか見極めさせてもらう」

 「ボクはアイリス・ヴィラージュ、まずはこの訓練から背中を任せてもいいか判断させてもらうよ」

 「私はルドルフ・ザガート…。右に同じ…、ドレイスさんの隊、任せられるものか…示してみろ…」

 「私はソニア・グレイクラウドと申します。アンリエッタさんもマリオン隊長の副官とのこと、その手腕と実力の程、お見せ頂きます」


 ザイルは顔や手が黒い毛皮で覆われた大柄な豹人種、アイリスは小柄な小人種(ハーフリング)の可愛らしい女性、ルドルフは瘦せぎす強面の人族の男性で口元までを覆う特殊な形状の鎧を身につけており、四人の中の筆頭であるソニアは金糸の様な美しい髪をぴっちりと後ろで纏めてアップにした生真面目を絵に描いたような人族の女性騎士だ。

 彼女達はマリオンの直属の部下達で上からの命令故に、最低限受け入れてはいるが、アンリエッタが突然横並びで入ってきた事には懐疑的で、とりわけソニアについて少しばかり睨みつけてくる様な視線を送ってきている。


 「さて、顔合わせも済んだ事だし…まずは何時も通り外壁五周からいこうかしらね」


 王都ブリュンヒルデの外周をぐるりと囲む第二外壁、城塞都市であるこの街を象徴する広く長い外壁は騎士達の訓練に使われる事も少なくない。

 しかし走り込みに使うにあたっては外周全体を使うのはマリオンの隊、とりわけ現在のソニアが指揮する百人隊程度のものであり、他の隊では使っても一周だけ、半周などその程度、理由は単純、長すぎる為だ。

 時間がかかりすぎる上に実戦訓練の前に騎士達が疲れ果ててしまうと言う事であまり使われていなかったが、マリオンはそれに対して真っ向から反発、彼女の隊では訓練の大半がこれを占めていた。


 彼女の直属の部下である四人の百人隊長やソニアの隊員達は眉ひとつ動かす事はないが、それ以外の隊員達は"またか"と落胆している様子だった。


 「さーて、どこまでついてこれるかなー?」

 「さぁな、彼女自身は兎も角、隊員達に脱落者を出さないか、某はそちらの方が気になるが…」

 「ドレイスさんを失った隊を彼女がどれだけまとめられるか…」

 「まずは見極めさせていただきましょう」


 四人の隊長は各自の隊に戻り、早速外壁を走り出すと、アンリエッタも自身の隊を引き連れ最後尾をついて行く形で走り出した。


 三周を終えたあたりでソニア隊を除く他の隊では力尽きる隊員が現れ始める。

 この訓練は隊員達の行軍訓練と基礎体力の向上訓練であると共に、各隊長が落伍者を出さない様にする為の指揮の訓練でもあった。


 「皆、まだ道半ばではあるが堪えよ!我々もソニア隊と同様、精鋭と呼ばれる隊とならねばならぬ!」

 「みんなー、しんどいかも知れないけど頑張ろう!ソニアの隊もボクも、他の隊長達も、これをやって強くなってきたから、みんなもきっと強くなれる筈だよー!」

 「そうやって倒れて何になる…。…まぁこの程度で根を上げる様では遅かれ早かれ、隊を抜ける事になるだろうがな…。悔しかったら立ち上がってみせろ…!」


 各々の隊員達を鼓舞し、力尽きた隊員達を立ち上がらせる。

 ザイルは彼らのプライドに訴え、アイリスは応援を、ルドルフは反骨心を煽る形で隊を鼓舞する。

 当然、元のドレイスの隊、アンリエッタが従える隊にも落伍者が出ようとしていたが、彼女は敢えて何もせずにいた。


 「おい、隊長…!ハァ…アンタは何もしねぇのか!? 後ろで遅れ始めてる奴がいるぞ、どうにかしねぇのか!?」

 「…ええ、何も。何かしたところで何か変わるとでも?」


 アンリエッタに声をかけてきたのはドレイスの副官である五十人長の男で、後ろを見向きもせずに黙々と走り続けるアンリエッタに見兼ねて声をかけてきた。


 「おいおい…、アンタそれでも百人隊長かよ…。ドレイス隊長はもっと…」

 「ええ、私はそのドレイス隊長と言う方を存じてはおりませんから。貴方方がそう言っている内は何も言っても聞いて貰えると思っていませんわ。貴方、確か私の副官でしたわね、お名前をお聞かせ頂いても?」

 「…ミストラル、ミストラル・ヴァンテージだ」


 ミストラルが名乗るとアンリエッタは漸く向き直る。

 オールバックの髪が特徴で騎士団の鎧を着崩しやや粗暴さが垣間見える彼がアンリエッタの下士官、ミストラル・ヴァンテージだ。

 対するミストラルも向き直ったアンリエッタを怪訝な表情で見返していた。


 「ミストラルさん、私は先任のドレイスさんの代わりとして百人隊の長として任命されましたが私はドレイスさんではありません、先ずはそれを理解して頂きますわ」

 「それはわかるけどよ隊長、…俺を含めてまだ今日突然上司になったアンタを信用できはしねぇ。正直ドレイス隊長と同じくソニア隊の隊員の誰かからここに引き上げられると思ってたからな」

 「だったら逆に尋ねさせて頂きますが、どうすれば私を信頼して頂けるのでしょう。私としては早い話が私の実力を示すのが一番だと思っていますわ。今のお話を聞く限り、ソニアさんの隊とそれ以外の隊、お世辞にも同じマリオンさんの隊とは思えない程に実力に開きがありすぎる。そうである以上、先ずは私が他の隊の隊長、或いはマリオンさんと同格である事を示すべきかと」


 そう言い切ったアンリエッタにミストラルは目を見開いて驚いていた。

 百人隊や五百人隊を率いる隊長達はそれだけの実力を兼ね備えている。

 ミストラルにはかつて百人隊を率いていたとは言え、それを辞してグリーングラス家を出奔してから十年程も離れていたアンリエッタにマリオンを始め、彼女が手塩にかけて鍛えてきた百人隊長達と同列であるとは考えていなかった。


 「隊長の強さが隊の格だとお考えならば私の実力をお見せする必要があるでしょう?違いますか?」

 「他の隊長ならまだしも、アンタがマリオン隊長やソニア隊長と同格なんてとてもまだ信じられねぇよ」

 「そうですか、まぁマリオンさんについてはわかりませんが、他の百人隊の隊長の方々には私、負けはしないと思いますわ」


 アンリエッタはミストラルにそう告げると、ぼろぼろになって睨んでいる隊員達の方に顔を向けた。


 「皆さんは私の事を快く思ってはいないでしょう。何故ならばまだ私も皆さんの事を、皆さんも私の事をよく知ってはいない。これから私はマリオン隊長と並び走ります。私の実力を目にしたいと思うならば、そのまま走り続けてその目に刻みなさいまし。そうでなければそのままそこで這いつくばって頂いて結構ですわ!」


 アンリエッタがそう隊員達に檄を飛ばすと、隊員達は眼の色を変えて怒りを露わにして口々に無理だと怒声を上げる。


 「ではミストラルさん、少しの間、隊をお願いしますわ。諦める様な者がいるのならば切り捨てて結構、私を信じようと思って頂けないのであれば私も信じる事は出来ませんので、それでは」

 「えっ、ああっ!? ちょっ、おいっ!待てよっ!」


 一気に前列の隊を追い抜いて走り去ったアンリエッタの背中を見送りながらミストラルは呆然とする。


 「ミストラルさん、新しい隊長、あんな事言ってましたけど本気ですかね…」

 「…知るか、俺に聞くなよ。とりあえず今は気合い入れて走れ。一応隊長命令だ、脱落者は切り捨てろって言われてる以上、お前も脱落したら置いてくからな」

 「…はあ」


 ーーー


 「…マリオンさん」


 総勢約五百人の隊員達を置いて先頭を悠然と走るマリオンの背後から声がかかる。

 

 「やっときたわね。まぁ予想通りと言うか…隊はどうしてきたの?」

 「副官のミストラルさんでしたかしら、彼に任せてきましたわ」

 「そ。で、やっぱりまだ馴染んできやしないでしょ? あの子ら、ドレイスにしっかり仕込まれてたからね」


 雑談をしながら二人は走ってはいるが、その速度は速く、二人を除いた他の隊員はついて来れずにその差はどんどん離れていく。


 「ええ、ですから私の力を先ず示す方が手っ取り早いと思いまして」

 「まぁ妥当な判断ね。実力さえはっきりさせておけばよっぽどじゃない限り下は勝手に着いてくるモンだし。…で、アタシと競走しようって結論に至ったワケね?」

 「ご名答、ですわ。騎士団で鍛えた貴女とセオ様と旅を続けていた私とどちらが強くなっていたのか試すいい機会でしょう?」

 「…フフッ」


 アンリエッタの発言にマリオンは不敵に笑う。

 彼女には今の騎士団に自分と同等かそれ以上に強いと考えられる人物など騎士団長であるトリスタンと兵長を務めるオスカル以外はほぼいないと言う自負があった。

 そこにアンリエッタがやってきた事は彼女にとっても喜ばしい事で、近しい実力を持った人間が近しい立場にいる事は自身の向上において良い刺激を与える材料になるだろう、そう考えていたからだ。


 「いいわ、付き合ったげる。久々に訓練が楽しくなりそうだしね!」

 「ふふ、そう言って頂けると思っておりましたわ!」


 二人は更に速度を上げると、後続の騎士達を置いてぐんぐんと突き放していく。

 当の本人達が追い抜いては追い越されを繰り返している中、百人隊の隊長達を始め、マリオンの率いる五百人隊の隊員達は一様に外壁を爆走する様を見て唖然としていた。


 「何だあの女は…」

 「マリオン隊長と張り合ってるなんてすごいねー」

 「しかもあの鎧で… ソニアめ、喧嘩を売る相手を間違えた様だな…」

 「そんな…、私達は隊長の厳しい訓練を乗り越えて来たのに…」


 他の四人の隊長達はアンリエッタの実力を低く見ていた。

 と言うのも、彼らは皆アンリエッタの事をグリーングラス家の厳しい教育や訓練を投げ出し、家を飛び出した放蕩娘程度にしか見ておらず、冒険者上がりとは名ばかりで親や兄の権力を利用して労せず百人隊の隊長に就いた実力の伴わない人物だと考えていた。


 「ふむ、グリーングラスの血統か、はたまた冒険者として本当に修羅場を潜り抜けてきたと言う事か…」

 「どっちにしても本物かもしれないってコトかなー」

 「もう少し…様子を見て見るべき…なのだろうか…」

 「…ブリュンヒルデ騎士団の精鋭マリオン隊の名に賭けて、訓練一つにしても遅れは取れません!」


 デッドヒートを繰り広げる二人を見て他の隊も火が点いたのか、先程まで倒れかかっていた隊員達も顔を上げ、速度を上げる。

 だが、それでも二人との差は広がるばかりだ。


 「ったく…、勝手に任された俺の身にもなれっての…。オラお前らァ!まだ認めたワケじゃねぇがよ、ここで意地見せねぇと死んだドレイス隊長にもあの新隊長にも笑われちまうよなァ!? へばってる場合じゃねぇ、気合い入れろォッ!あの新隊長にドレイス隊の意地と根性見せてやろうじゃねェかッ!」

 「「オオッ!」」


 一時的に隊を任されたミストラルもまた、二人の走りを見て感化されていた。

 アンリエッタが新しい隊長として着任して最初の訓練、その一番最初の走り込みだけではあるが、彼らにもブリュンヒルデの騎士団の一員として、出戻ったばかりの新隊長に笑われるのは彼らのプライドが許さない。

 実力は少なくとも自分達より上であろう事はわかっていても、だからと言ってアンリエッタにあれだけの啖呵を切られた手前、ギブアップをする事は自ら負けを認める様なものである。


 「へぇ…あの子らへばり始めてたのに急に火が点いたわね」

 「あら、後ろを見ているなんて余裕ですわね」

 「当然よ。さてラスト一周、そろそろ本気出していくわよ!」

 「それでこそ、ですわ!」


 第二外壁の正門屋上を通り過ぎて更に速度を上げる二人は既に後続の先頭を走るソニア隊と半周の差をつけよとしており、最後尾にいるミストラルが引き継いだアンリエッタの隊も間もなく四半周で追いつくと言う場所まで来ている。


 追い抜き追い越されを続け更に半周、ミストラル達に一周の差をつけるものの、二人はもうお互いの事しか見えておらず、一言も言葉をかける事無く風の様に抜き去っていった。

 最早二人は全力疾走と言っても過言ではない状態で、表情に余裕と言う言葉は無く、彼女達が走り去った後にはただ鎧が触れ合う金属の音だけが残る。


 そして更に半周、遂にソニア隊まで抜き去ると、間もなくゴールの第二外壁の正門屋上が見えてくる。


 「ハァ…ハァ…なかなか…やるじゃない…!」

 「はっ…はっ…マリオンさん、息が上がって…きてますわよ…!」


 正門屋上へと続く階段を二人は一段飛ばしに駆け上がるとそのまま同時に登り終え、体をつんのめらせて走り切り、膝をついて倒れこむ。

 流石の二人も全力疾走での第二外壁一周は堪えたのか、マリオンは転がって仰向けに、アンリエッタは石壁まで身体を這わせ、寄りかかって座り込む。


 「ハァ…ハァ…、鎧を着てなかったら…、ハァ…負けてた…かもね…」

 「身長分の…ハァ…ハンデ…ですわ…!ハァ…ハァ…」


 しばらく動く事無く息を整え、ミストラル達が通り過ぎた頃に二人はゆっくりと立ち上がると、お互いの顔を見合わせて握手を交わす。


 「ふぅっ…ま、このくらいはしてもらわないとね。…改めて、マリオン隊へようこそ、歓迎するわ、アンリ」

 「…ハァ…、ええ、こちらこそ。改めてよろしくお願いしますわ。マリオン・カッパーフィールド隊長」


 お互いに握手の後にハグを交わした後、他の隊が戻ってくるのを柔軟運動をしながら待つ。

 最後のミストラル達が到着するも、ついオーバーペースで走り続けてきた所為か、到着するなり彼らはバタバタと倒れこみ呼吸を荒げていた。


 「はいお疲れ様。小休止の後、今度は練兵場で格闘訓練及び実戦訓練ね。集合は半刻後よ。以上、解散!」


 「「…ハッ!」」


 隊員達はマリオンの伝達事項が話されているのを聴きながらフラフラと立ち上がり、姿勢を正して大きな声で返事を返す。

 そして彼女が伝達事項を伝えた後に外壁を飛び降りてその場を去るのを見届けた後、その伝達事項が大きな問題を孕んでいた事に気付いた。


 「…何が小休止だよ!」


 マリオンの言う練兵場は騎士寮の前にある。

 外壁に集まるように伝えたのは訓練の始まる三四半刻前で、彼らが準備を済ませて外壁に集まったのは集合時刻の僅か前であり、ここから練兵場までは彼らの場合、全速で移動してどうにか半刻かからない程の距離だった。


 「…急げっ!遅れたらまた外周だぞ!」

 「走れ走れ!寝てる場合じゃねぇ!」


 バタバタと慌てて走りだす騎士達を見送った後、アンリエッタを含めた五人の隊長達も一息ついた後、その後を追う。

 尤も、五人が練兵場に着いた時に漸くソニアの隊の兵士が到着する事になったのではあるが。


 ーーー


 格闘訓練を終え、実戦訓練が始まるとアンリエッタの前に四人の隊長達がマリオンに連れられて集まってくる。


 「これは皆様お揃いで、何か私に御用でも?」


 木製の模造槍と大楯を手に取ったアンリエッタは四人を前にとぼけた振りで声をかける。


 「…言うまでも無かろう」

 「我々と手合わせ願いたい…」

 「ボクはやめとこうって言ったんだけどねー」

 「親の七光りでも、ただの元冒険者でも無い事は分かりましたが、やはりその実力、この身をもって推し量らせていただきます。受けて頂けますよね?」


 アンリエッタに挑むべくやってきた四人に練兵場で訓練を続ける騎士達の視線が集まる。

 急遽、新たにやってきた新隊長の実力の程がどれだけのものか、それはこの場にいる騎士達全員の共通の興味の対象だった。


 「…アンリ、折角だから受けてやんなさいよ。そうすりゃこの子達も納得するでしょ?」

 

 呆れた表情でソニア達の挑戦を受けるようにマリオンが話す。

 マリオンからすれば結果は分かりきっているが、納得しようとしない四人が納得するのなら、と半ば諦めにも似た口調で彼女はそれを促していた。


 「…ええ、構いませんが…、何なら四人同時にお相手致しますがいかがでしょうか?」


 アンリエッタのこの発言に練兵場内にどよめきが広がる。

 それもその筈で、彼ら自身も別の五百人隊に属する百人隊の隊長達でもトップクラスの実力の持ち主であり、彼ら全員を相手取ろうとするアンリエッタの発言は一百人隊長の言葉としては過ぎた発言だったからだ。


 「アンタがそう言うんなら私は構わないけれど…。ま、アンタ達はアンタ達でここまで言われて黙ってはいられないわよね?」


 アンリエッタの発言を聞いてマリオンは少し興を唆ったのか、呆れた様な口調から一転、四人の隊長達を煽る。


 「ここで尻込む様ではマリオン隊の名折れ…!」

 「我らが力、見せてくれよう!」

 「はー…まぁみんなそう言ってるしね、付き合うしか無いよねぇ…」

 「マリオン隊長の副官として、舐められたままでは終われませんから…!」


 四人の隊長達は各々、自身の得手とする模造の武器を構えてアンリエッタを睨む。

 ザイルは鉤爪、アイリスは番いの短剣、ルドルフは弓を、そして四人の筆頭であるソニアは長剣を握り、アンリエッタへと向けていた。

 それを受けてアンリエッタは目を閉じたまま、左手の大楯と右手の大槍を構える。


 「現在のブリュンヒルデ騎士団の百人隊隊長の実力、お見せ頂きますわ!」


 両の眼を見開くと同時にアンリエッタはそう吐き捨てると、仕掛けてくる四人の隊長を迎え討つ為に左手の大楯を前に構えていた。

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