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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第九章:波乱続きの航路
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第百三十一話:船長抜きの航海

 黄泉の使者(ヘルサーヴァント)達との戦闘を終え、俺達の乗る船の船員もアシュレイ達の率いる商人達も事後処理に追われていた。

 魂を狩られてしまった者に関してはどうにか全員意識を取り戻したものの、魔術による攻撃を受けて重軽傷を負った者は少なからず存在している。

 特に此方の船に関しては船長のブルックが船員達を護る為とはいえ、黄泉の使者の氷魔術を一身に受け、全身氷漬けにされてしまう事態となっていた。

 俺達は戦闘を終えた後、直ぐに船内へ移動しブルックの容態の確認へ向かった。


 『ブルック船長は?』

 『わからねぇ…、今は副船長達がついてて冷水で氷を溶かしてるらしいが…』


 船員に尋ねると、現在はゼネルが付きっ切りで看護に当たっているらしい。

 運び込まれた船室へ案内を頼むと、整備された入浴設備のある浴室がある船室、娼館として利用されている船室へと案内された。


 『ゼネル副船長、ブルック船長の容態は…?」

 『…』


 ゼネルはとりあえず全身を包む氷を剥がした状態のブルックの前でへたり込んだまま首を振る。


 『…目立った外傷は無いのですが…、心臓が動いていないのですケロ…』


 冷え切ったブルックの身体を摩りながら、ゼネルがそう伝える。

 浴室には他の船員や商人、船医もブルックの救命に当たっていたらしいが、どうすればいいかも分からず頭を抱えている。


 『…ゼネル副船長、心臓マッサージはしていますか?』


 俺がそう尋ねると横にいた船医を含めて、その場の全員が目を丸くする。


 「…クリス、手伝えっ!」

 「は、はいっ!」


 どうやらこの世界は医学に関する知識についてはかなり遅れているらしい。

 実際に実行に移せるかは別として、元の世界では当たり前の蘇生行動ですら、この世界には周知されていないらしい。


 『クリス、ブルック船長の上着を脱がせる、手伝ってくれ。皆さんはブルック船長をベッドへ移動させる準備を!』

 『わ、わかりました!』

 『…セオドア様の指示通りにっ!急いでベッドを開けるケロッ!』


 ゼネルは自ら率先して浴室を出ると、船員達を率いてベッドの準備を始める。

 クリスとブルックの上着のボタンを外しながら俺は深呼吸をする。

 程なくしてブルックの胸を曝け出すと胸部に両手を当ててテンポ良く圧迫を始める。

 五、六十回程圧迫を実施し、俺はブルックの顎を引いて大きく息を吸い込むとブルックの口に目一杯息を吹き込んだ。

 そのまま心音を確認するがまだ鼓動は聴こえて来ない。


 『セオドアさん、ベッドの準備できやしたッ!』

 『わかりましたっ、早速移動させましょうっ!』


 全員でブルックの巨体を抱え上げ、ベッドへと移動させると直ぐに心臓マッサージを再開する。

 その間に濡れたブルックの身体を拭き上げてもらい、乾いた状態にしてもらう。


 「まずいな…」


 ブルックが氷漬けにされてから体感で十分強、元の世界の人間であればそろそろ蘇生が難しい危険な時間帯だ。

 そこで横で見ていたフォルクがある事に気付く。


 「心音…? セオ、かなり小刻みにだけどブルック船長の心臓は動いてるみたいだっ!」

 「本当かっ!? …よく見れば僅かに呼吸もある…、行けるか…?」


 意識は戻らないが、ブルックはまだ生きている。とは言えまだまだ危険な状態には変わりない。

 俺は意を決してブルックの右胸の上と左脇に手を当てて魔力を練る。


 「兄様、何をっ!?」


 クリスは魔素の流れが見える為、俺が何をしようとしているかに気付く。──そう、雷属性の魔術だ。

 この世界では本来治癒魔術以外の魔術は攻撃や防御の為に使う魔術だが、それを蘇生に利用しようというのだからクリスも驚いていた。


 『みんな、離れてくれっ!』


 周囲にそう告げ、俺とブルックの周りから離れてもらう。──後は上手く行くかだ。


 「頼む、息を吹き返してくれよブルック船長…、"放電撃(エレキサンダー)"ッ!」


 魔力を練った双方の掌からブルックの体へ電撃を放つ。

 蘇生の為という事で多少加減はしてあるが、瞬間的に強い電撃がブルックの身体を駆け巡り、身体を大きく仰け反らせるとベッドを大きく軋ませていた。

 加えてブルックの身体に触れている為に俺自身も感電してしまうが、その一瞬を歯を食いしばって痛みに耐える。


 「…ぐうぅっ…!…船長はっ!?」


 一瞬千切れそうになる意識を繋ぎとめてブルックの心音を確認する。


 「…!心臓が、心臓が動いたっ!」

 「ゲッ…ゲホォッ…!」


 ブルックの心音は確実に鼓動を刻み始め、大きな咳と共に大きく息を吸って腹と胸を膨らませながら再び呼吸を始める。

 意識だけはまだ戻りそうにないが取り敢えずの山は越えたようだ。


 「ふぅ…良かった、できるかどうか怪しかったけど上手くいってホッとしたよ…」


 蘇生に成功し一旦、俺は気が抜けてしまい、尻餅を着くとそう呟いて大きく息を吐いた。

 

 『何から何まで…つい先日は半魚人(サハギン)の群れから船を、今回は船団と船長を救って頂き、感謝しても感謝しきれませんケロ…』


 ゼネルも船長の蘇生成功で安心したのか腰を抜かしていた。


 『まだ安心は出来ませんよ。心臓が止まっていたならもしかしたら後遺症が遺るかもしれません。後はブルック船長が意識を取り戻して異常が残っていないか、本来安心するのはそこからです』

 『いや、まずは命を繋ぎとめられただけでも船員の士気の低下は防げますケロ。その点だけでも船長が息を吹き返した事には大いに意味がありますケロ…』


 その後ブルックは船長室へと移され、暫くはゼネルが船長代行として船を任される事となる。

 商船団も片付けが終わり、夕刻になる頃には注文した不足分の商品が彩巨鳥(ガルーダ)タクシーによって空中から届けられ、全ての取り引きを終えて海上市場は終了する。

 アシュレイの話によると、今回襲撃を仕掛けて来た黄泉の使者達はここ最近この海域に現れては通り掛る船を襲っていたらしく、デモンガルド東岸の各街の冒険者ギルドにも討伐依頼を出していた様だが、海上と言う特殊な出現地域に加えて範囲は限定されていながらも無作為に移動しており、急襲を仕掛けては直ぐに去って行く様な習性を持っていた為に中々尻尾を掴めずにいたのが実情だったそうだ。

 周辺海域についても調査を重ね、黄泉の使者達の目撃情報の無い海域を選んでいたにも関わらず、今回不幸にも遭遇してしまったが、アシュレイはというと船団に加わっていた商人や此方の船の乗組員の数が多かったが為に奴らも欲をかき、その襲った船に俺達がいた事が最大の不幸だったと、不敵に笑っていた。

 彼はギルドへの報告は自分達でしておく、と告げた上で俺達に報酬を渡してくるが、俺達は請け負った仕事では無い、と報酬を受け取る事を躊躇うと依頼主であるアシュレイが"依頼主本人が討伐の場に立ち会っている以上、無報酬で返したとあっちゃ商人の名が廃る"と困った様に話す為、彼の顔を立てる為にも受け取る事にした。


 ーーー


 『じゃあ取引はこれで終いだ。ブルックが目ぇ覚ましたらよろしく言っといてくれや』

 『ええ、アシュレイ殿も色々とお世話になりましたケロ。またご迷惑をおかけするやも知れませんが今後とも良くして頂けると幸いですケロ』


 ブルックがまだ意識を取り戻さない為、ゼネルが船長代行としてアシュレイとの挨拶を交わす。

 お互いに手を握り今後も付き合いを続ける約束を取り付けると、アシュレイは山羊頭の白く長い顎髭を摩り始めた。


 『ま、一番感謝しなきゃならんのはアイツらだがな』

 『ええ、お互いにとっての恩人ですケロ。必ず無事に目的地まで送り届けねば』


 アシュレイは"頼んだぜ"とゼネルの肩を叩くと今度は俺の前へとやってくる。


 「よお、セオドアつったか。そういやキチンと自己紹介しちゃいなかったな。俺はアシュレイ・バナーマン、デモンガルド一円の商人達を取り仕切るバナーマン商会の会頭だ。今回の件、お前にゃ大きな借りができちまったな」

 「いえ、借りだなんて…。えっと俺はセオドア・ホワイトロックって言います。西アトラシアの片田舎から出てきた冒険者でして、仲間達と世界を旅している途中です。縁あってガルマリア皇家の援助で船を出してもらいました」


 アシュレイに自己紹介を返すと彼は顎髭に手を当てて見上げる。何かに気がついたかの様な仕草だ。


 「ん? セオドア…ホワイトロック…? どこかで聞いたな…」

 「どこかでお会いしましたっけ?」


 少なくとも俺はアシュレイとの面識は無いが彼には何か思い当たる節があるのだろうか。

 しばらく考えると彼は思い出したのか手を叩いて口を開く。


 「そうだ、思い出したぜ。成金のフォンブライトの奴と商売の話をしてた時にちらっと口走ってたんだよ、ドルマニアンで面白い冒険者を見つけたってな」

 「フォンブライト…? ああ、マクニールさんですか?」

 「ああ。胡散臭い奴だがなかなかどうして観る目はある奴だ、お前さんに目を掛けたのも頷ける。それに魔石商のベルゲン爺さんだったか、あの爺さんも名前こそ出さなかったが幼い双子の冒険者がどうとか言ってたが…、それもお前さん達の事を話してたんじゃねぇかね」


 流石にデモンガルド一円を束ねる豪商だけあって、商談にあがった御茶請け話ですら記憶に留めていたらしい。俺達の出会った商人達との面識もある様だ。

 その事を考えれば、魔物の襲撃を受けた事そのものは不運だが、結果的に彼等に名を売り込めたのは俺達にとって幸運と言う他無いだろう。


 「まぁそんな訳でだ、お前さん達にゃ借りも出来た。デモンガルドでもし困った事がありゃ俺を訪ねろ、大抵の事なら力になれる筈だ。尤も、他の大店からも話題に上がる様な奴だ、いずれはこっちから協力させてもらう事になったんだろうけどな」

 「はは、じゃあその時はきっと頼らせてもらいます。それではまた」

 「おう、じゃあまたデモンガルドに来た時ゃ宜しくな、歓迎するぜ。あ、あとそうだ、今回は諦めるけどよ、用心棒の件、考えといてくれや。お前さん程の腕ならいつでも大歓迎だ」


 アシュレイは振り向いて船を結ぶ桟橋を渡りながら後ろ手に手を振って別れを告げる。

 彼が桟橋から自分の船団に降りると同時に桟橋となっていた木板が外され、お互いの船から出航の号令をかける声が響いた。


 『出航準備ケロ!』

 〈よーしお前ら、陸に戻るぞ!錨を上げろ!〉


 お互いの船から降ろされた錨が上がると、片やデモンガルドへ、片やルミネシアへ向けて船は再び出航する。

 俺達の船旅は現在の所、半分を迎えるあたりだ。

 ルミネシアに到着するまでにもう一山、何か波乱が待ち受けているのではないか、そんな予感がしていた。


 ーーー


 『さて、現在の状況を整理しますケロ。船長はまだ意識が戻りませんので…、今回は代理として私から話させていただきますケロ』


 ベッドで眠る様に意識を失ったままのブルックを横目に見ながら船長室の机の正面に立つゼネルが全体に伝える。

 俺達はゼネルに呼ばれ船長室へと招かれていた。

 なんでも船長のブルックが倒れた事もあり、多少の航海計画に変更が生じた為、説明をしておきたいとの事らしい。

 海図が広げられた長机を挟む形で船員の一部と俺達は座ったままゼネルの航海計画の説明を聞いている形だ。


 『まず一悶着はありましたケロ、先程の海上市場での補給が終わった事でとりあえずの目的地までの食料等の心配は無くなったものかと思われますケロ』


 船長室の机の後ろ、黒板に描かれた肉の絵の上から横線が引かれる。


 『ではここからもう補給無しで直接ルミネシアの港を目指す予定ですかね』

 『ええ、あくまで予定ではありますが航海計画上はその通りですケロ。所要日数に関して言えば滞りなく進めばと言う前提で約四十日強、あるいはやや早く到着する予定となっておりますケロケロ』


 ゼネルはそう話しながら、この船を示す駒を掴むと大陸沿いから大きく進路を膨らませて目的地であるルミネシア魔導連邦東岸の港街へと走らせていた。

 その様子を見ていたクリスは首を傾げ、ゼネルに質問を投げかける。

 

 『真っ直ぐ北上…では無いんですね。そうすれば大きく所用日数が減ると思うのですが、何が理由が?』

 『いい質問ですケロ。実を言うと本来ならばここからそのまま北上、最短で目的地を目指して所用日数も三十日強と言う予定でしたケロ。しかし先程の海上市場で商人達から周辺海域の様子を聞けば、現在ルミネシアとデモンガルドを結ぶ航路に多くの魔物達が縄張りを展開しているとの事ですケロ、故に速さより安全を確保する形で今回はこの様な航路を取らせていただいた次第ですケロ、何卒ご了承の程よろしくお願いしますケロ』


 航海術や海上での情報について縁遠い俺達は航海計画の事に関しては彼等に頼る他ない。

 ゼネルは設定した航海計画について理解を得られる様に俺達に深々と頭をさげてくるが、当然俺達には否定する是非もなく、俺は仲間達と目を見合わせると頷き合う。


 『ええ、それで構いません。急ぐ旅でもありませんし無理はしない方が賢明でしょう。ただでさえ海上と言う特殊な場所ですし俺達も十分に力を発揮できるわけじゃありません。目に見えている危険ならば避けるに越した事は無いでしょう』


 俺がゼネルにそう答えると同席していた船員達も含め、ほっと胸を撫で下ろしていた。

 しかし俺は"ですが"、と前置きして彼に尋ねる。

 

 『航海計画の件については俺達は皆さんに任せる他ありません。ただ同じ船に乗る者としてお願いがあります。当然海上では何が起こるかわからない、それに加えて俺達は海の事について知識も無い。だからと言ってそういった危険まで皆さんに全て任せるつもりもありません。降りかかる危険は皆さんと共に乗り越える準備はあります。ですので、今後起こり得る問題があるのならば俺達にも共有していただきたい、今の俺達は皆さんと一連托生の関係なんですから』


 全員が俺の言葉を静聴していた。

 話を聞いて俺の眼を見た後、船員達はゼネルに視線を集める。


 『…わかりましたケロ。無駄に不安を煽るのもどうかと思って話題に挙げなかったのですケロ、ここから先の航路についてまだいくつかの問題や懸念事項が残っておりますのでこれから全てお話し致しますケロ』


 ゼネルは意を決してそう告げ、大小様々な色付けされた石を掴むと海図の上に広げ、船の航路周辺に配置を始めた。

 これから本当の意味での航海計画の説明が行われようとしていた。

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