第百二十八話:魂を狩る者
特に買い物をする気も無くぶらぶらと船を歩いている内、いつの間にか船内の奥にある人気の無い飲食店へと入っていた。
「ご注文は?」
「…えっ、ああ…じゃあ紅茶を」
店主に注文を聞かれ我に帰って紅茶を頼み、何故自分がここにいるのかと首を傾げていた。
「よう、どうだいこの海上市場は?」
唐突に話かけられ驚いて振り向くと、そこにはこの海上市場を取り仕切る魔族で山羊頭種の男、アシュレイの姿があった。
この店に入った時の記憶も無ければ、店主に注文を告げた時にアシュレイが店に入った瞬間の記憶も無い。
「いつの間に…?」
「ンなこたどうでもいい。で、どうだい、俺の海上市場は?」
アシュレイは俺の質問に答えるつもりは無く、先に尋ねてきた質問を重ねてきた。
「どうって…、活気があっていいんじゃ無いですか?」
「…あ? お前、今適当に答えたろ? もう一回だけ聞いてやる、今度は本音で答えな。この海上市場、お前はどう思ってる?」
アシュレイの質問に適当に答えるとそれを見透かした彼はやや不機嫌そうな態度になると三度、質問を繰り返した。
「…何でこんな所で市場を?」
正直、鬱陶しく感じたものの、出された紅茶を飲みながら質問の返答として素直に疑問を投げかけるとアシュレイは小さく溜息をついた。
「…、何でこんな所で市場をだって? そりゃあ儲けられるからさ」
「…だとすれば陸の上でもいいのでは?」
普通に考えれば利用客の多くなる陸上で市場を開く方が絶対的な販売量は見込める筈だ。
しかしアシュレイは儲けられると断言し、更に俺の反論に人差し指を立てて左右に揺らしながら舌を鳴らしていた。
「まあ考えてることはわかってる。陸の上のが人は多い。だが商人は俺たちだけじゃねえ、当然起こるのは商売敵同士の潰し合いだ。負けるつもりはさらさらねぇが、そうなりゃお互い得はしねえ、そうだろう? だから俺は商売の舞台を海に移した。海の上じゃ商売敵もいねえ、元々補給の利かねえ海上なら需要もある。他の大陸と大魔大陸間の移動は時間がかかるからな、多少陸の市場より高く売っても寄港して補給じゃ時間もかかって船旅を長引かせるよりはマシと考える船長も少なくねぇから買い手もつく。この船での俺の商会の商売の相手はこの船の商人達だ。俺達は商売の場を提供する、商人達は売り上げの一部を払う。ただ物を売るだけが商人じゃあねぇのさ」
アシュレイは現在進行形で上手くいっている事業の話に酔っているのか、さして興味の無い話をべらべらと話す。
「…で、そんな船団を率いる商会を営んでいる商人さんが俺のようなどこの馬ともわからない様な一介の冒険者に何の用ですかね」
「勿論、ただ世間話や自慢話をしようって訳じゃねぇ。唐突じゃあるがどうだい、この船の用心棒として働くつもりはねぇか?」
どうやらアシュレイの目的は俺達のスカウトと言った所か。
「すみませんが、お断りします。俺達はまだ旅の途中ですので」
「いいねぇ、即ピシャリ、か。益々商会に引き込みたくなった。…んん、今日の所は引き上げるとするが…、まぁ気が変わったらいつでも言いな、席は開けておく」
有無を言わさぬ俺の即答に対してアシュレイが怪しげな笑みを浮かべながら席を立つと、その瞬間、異変は起こった。
〈ヤバいヤバい!〉
〈逃げ場なんて無い!応戦しろ!〉
〈ダメだ!すり抜けちまうよ!〉
市場が開催されている甲板の上では大騒ぎになっている様だ。甲板の上では魔族語の叫び声や怒声が飛び交っている。
「…また来やがったな」
アシュレイは騒ぎの声を聞くと船室の天井の先を睨み歯を見せる。
「海賊ですか?」
「いいや、もっと面倒な奴らだ、戦えるんだろ? 魔術の心得か、あるいは魔素を操る心得はあるか?」
「魔剣士ですから、自信はあります」
「上等、付いて来い!」
アシュレイと共に店を飛び出し、甲板への階段を駆け上がる。
甲板へと飛び出すと、そこには宙を舞いながら鎌を振り商人達を襲う黒衣を纏った得体の知れぬ魔物達が多数暴れていた。
アシュレイは驚き戸惑う商人の一人を捕まえると頰を叩いて正気を取り戻させる。
〈落ちつけ、状況は?〉
〈どうもこうもありませんよ会頭!突然アイツらが靄の中から現れたかと思ったらあの鎌で仲間達を斬りつけてきたんです!でも不思議と外傷は無いけどみんなその場で倒れて…即死してるんだ!〉
一時的に正気を取り戻した商人はアシュレイに状況の説明をしている内に再び取り乱し始め、語気を荒げていた。
〈落ち着けと言ってる。全員に伝えろ、船室に戻って魔砲の準備。逃げ足に自信がある奴は甲板に残ってアイツらを引きつけろ、魔術が使える奴はその場で応戦。あと、倒れた奴らはまだ死んじゃいない、一時的に仮死状態になってるだけだ。さっさと行けっ!〉
〈はっ、はいィっ!〉
アシュレイから解放された商人は直ぐに大声を上げて周りの逃げ惑う商人達へ言われた通りの内容を伝えていく。
アシュレイの指示を聞き取った商人達はすぐ様落ち着きを取り戻し始め、各々が指示通りに動き始めた。
こちらの船員達もアシュレイの指示に従って商船の船室へと避難わ始めている。
「あの不気味な奴らは一体何です?」
「"死霊"の一種、"魂の狩人"だ。死霊のご多分に漏れず、直接殴ったり斬りかかってもすり抜けるだけだ」
〈会頭、危ないッ!〉
現れた魔物の説明をしているアシュレイに魂の狩人が鎌を振り上げながら迫ってくるが、彼は全く動じる事無くけむくじゃらの細腕を魂の狩人へと向けた。
〈炎よ 我に仇なす敵を穿つ矢となれ "火矢"ッ!〉
アシュレイが掌から火矢を放つと、真っ直ぐに迫り来る魂の狩人の正中を捉え、火矢に貫かれた魂の狩人の身体にぽっかりと穴が空いていた。
アシュレイの火矢は詠唱型でありながらも威力は勿論、速度も精度も高く、その事からも高位の魔術士である事が窺える。
火矢が開けた風穴の周りに残った炎が魂の狩人の黒衣へと燃え移り、あっと言う間に燃え広がるとその身体から刈り取った魂を解き放ちながら黒煙と共に跡形もなく焼き消えてしまった。
解き放たれた魂は元の持ち主の身体へと吸い込まれていく。
『ううん…何が起こった…?』
『確か…鎌に斬られて…』
『…そうだ、魔物に襲われて…魔物!?』
アシュレイが仕留めた魂の狩人はどうやら俺達が乗っていた船の船員の魂を刈り取っていたらしい。
魂が戻り起き上がろうとする船員達に別の魂の狩人が襲い掛かろうとしていた。
『お前ら伏せろっ!』
『へっ!?』
靄に紛れて魂の狩人達が船員達に襲いかかるが、レオの声が聞こえると戸惑いながらも船員達は慌てて頭を下げ、身を屈める。
「"火炎放射"」
『どわっちゃちゃちゃ!?』
靄の奥から今度はクリスの声が聞こえると、身を屈めた船員達の頭上を掠めるように炎が放たれ、船員達に襲い掛かろうとする魂の狩人を焼き消した。
「クリス!」
「兄様、ご無事でしたか!?」
「ああ、そっちこそ大丈夫か?」
「俺とクリスは無事だが…、俺達以外はどうかわからねえ。しっかし参ったぜ、殴っても引っ掻いても擦り抜けられちまってまるで手応えがねえんだ」
魔術が扱える俺やクリスにとっては死霊の相手はさして問題ないが、魔術の心得の無いレオは攻撃が通らず手を焼いているらしい。
「死霊達は物理的な攻撃じゃ傷一つ負わせる事はできねぇが魔素の干渉に極端に弱い。瘴気から生まれた魔物と言われてて魔生物種と不死種の特性を同時に持っている稀有な魔物だ」
「ちっ、道理で…。魔術は使えねぇし…ん、魔素…?」
レオはアシュレイの説明を聞いてふと何かに気がつくとネックレスに手をかける。
真魔光珠のネックレストップを手に取ると、レオはその力を解放して姿を変える。
「よっしゃこれで行ってみっか!」
身体が引き締まり、痩身状態となったレオは爪を光らせ、はぐれた魂の狩人を発見すると脇目も振らずに魂の狩人に攻撃を仕掛けた。
「おぉりゃっ!」
レオは掛け声と共に、研ぎ澄まされた爪を魂の狩人へと突き立てる。
魂の狩人はレオが腕を突き入れた部分から揺らぎ始めると耐えきれなかったのか黒衣や鎌と一緒に霧散する様に消えていった。
「相変わらず手ごたえはねぇけどどうやら倒せた見てェだな?」
「だとすればアリーシャは戦えない、ちょっと探してくる!レオ、クリス、ここは任せた!」
俺は騎士剣を抜いた後、そう言ってこの場を二人に任せて次の船へと向かっていった。
ーーー
「船員や商人の方々を守る為に魔物を引き受けたのはいいとして…、数が多いですわね…」
アンリは一人でいた所に魂の狩人達と遭遇した為、一人で魂の狩人達を相手にしていた。
幸い、彼女の装備は魔導器の大槍に魔素に満ちた赤龍の全身鎧の為、魂の狩人達とはまともに戦えていた。
「オオォ…」
「ハッ!」
アンリは周囲に群がる魂の狩人に大槍を突き込んでは槍に魔素を注ぎ、小規模の爆風を発生させ魂の狩人を爆散している。
確実に一体ずつ処理はできているが、その度に新しい個体が追加されていた。
「どうも仲間を呼ばれていますわね。このままでは埒があきませんし、できれば纏めて吹き飛ばしてしまいたいのだけれど…」
そうは思っていてもアンリは魂の狩人達に囲まれており、その状況を脱せずにいる。
このままではジリ貧になるのが目に見えている為、少しずつアンリは焦り始めていた。
「オオォ…」
「鎌が杖に…!?」
魂の狩人達はアンリに対して鎌が有効では無いと判断したのか、手に持つ鎌を変形させ、杖の形に変え始める。
「という事は…、不味いですわね、早く突破しなければっ!」
「…オオォオ…オオォ…」
アンリを取り囲む魂の狩人達は唸り声を上げながら一斉に杖を掲げ、その先端に魔素を集中させる。
杖の先端からは黒い光と水色の光が疎らに放たれており、練り上げられている魔力が氷属性と闇属性のものである事が判断できる。
「闇属性は兎も角、氷属性は… ハアアァッ!」
アンリの全身鎧は赤龍の甲殻や鱗を利用したもので、龍種の防具である為に魔術に対する耐性は高く、特に炎属性については完全に防いでしまうが反面、氷属性に関しては全くと言っていい程に耐性が無い。
その為、氷属性の魔術に対しては鎧としての機能が全く働かないのだ。
アンリは一気に前進し、魂の狩人との距離を詰めて氷属性の魔術を放とうとしている個体を優先して倒して行くが、当然ながら背後にも魂の狩人達はおり、氷属性の魔術を放とうとしている。
「くっ、前は倒したものの後ろが間に合いませんわね…!」
背後にいた魂の狩人の詠唱が終わろうとした瞬間、後ろを振り返ったアンリはせめて少しでも被害を減らす為、盾を構えて身構えていた。
しかし氷属性の魔術が放たれる筈が、代わりに数本の風を纏った矢が横を通り過ぎて行く。
通り過ぎた矢はアンリの背後で氷属性の魔術を放とうとする個体を巻き込んでは次々に霧散させていった。
「ごめんアンリ!こっちも少し手間取っちゃって!アンリが引きつけてくれたおかげでやっと倒しきれたよ、怪我はないかい?」
靄の奥からフォルクの声が聞こえる。
二人は乱戦を避ける為、お互いに離れた位置で戦っていたのだ。
大半はアンリが引き受けていたが、フォルクの方にもそれなりの数が襲いかかっており、漸く全滅させた彼はアンリの援護の為に合流しに戻ってきていた。
「気を付けてアンリ、生き残りの攻撃が来るよ!」
「心得ていますわ!さぁかかってらっしゃいまし!」
生き残っていた魂の狩人の魔術が次々にアンリに対して放たれる。
黄金色の麻痺毒の風が吹き荒び、無数の赤黒い毒の塊がアンリを襲うが、彼女は亀の様に手足を縮め、大楯を構えて完全な防御の体勢を取って攻撃に備えていた。
「アンリ!無事かい!?」
フォルクがアンリに呼びかけるものの彼女は押し黙ったまま動かない。
アンリはぴくりとも動かず、彼女が身に付けている鎧や盾を毒の塊が流れ落ちて行く。
毒の塊の最後の一雫が床に落ちると、全く動く気配の無かった彼女は顔を上げた。
「…流石は赤龍の鎧ですわね、この程度の魔術じゃびくともしませんわ。さあ反撃ですわ!フォルク、蹴散らしますわよ!」
「…ああ!」
アンリの無事を確認し胸を撫で下ろしたフォルクは直ぐに弓を構え、魔力を乗せた矢を矢継ぎ早に放ち、次々と魂の狩人達を仕留めて行く。
しかし彼は何も考えずに矢を放つのではなく、左右に広がった群れを撃ち抜いていた。
「これで邪魔は入りませんわね。倍返しにして差し上げますわ、吹き飛びなさいましっ!せぇやァッ!」
フォルクの射撃によって離れた位置にいた魂の狩人が全滅すると、残っていたひと塊りになった群れにアンリの大槍が突き込まれ、その先端から最大規模の爆風が放たれる。
魔力の乗った爆風は固まっていた魂の狩人達を一斉に吹き飛ばし、跡形もなく霧散させる。その威力たるや、錨が降ろされ固定された船を大きく揺らす程の爆風だった。
ーーー
「"魂の狩人"…、私達じゃ相性が悪いわね…!」
「斬れども斬れども手応えがまるでありません。クローディア様の魔術では対抗できませんか?」
「ダメね。アイツら闇属性の塊みたいなモンだから闇魔術じゃ倒せないどころか吸収されるだけよ」
「それは参りましたね…」
アリーシャは魂の狩人達の鎌を躱しながら斬りかかっているものの、彼等は一瞬霧散すると直ぐに元に戻り反撃を仕掛けてくる。
「何か…何かないかしら…」
「この靄ではセオドア様やクリスティン様達との合流もままなりません。…くっ、我々だけでなんとかしませんと…!」
アリーシャは攻撃が出来ず、ただひたすらに攻撃を躱して魂の狩人達を引きつけ、クローディアは有効な攻撃が取れず、魂の狩人達を倒す方法を模索していた。
「クローディア様、背後に敵がっ!」
クローディアの背後に迫る魂の狩人にアリーシャが気付き、声を張り上げる。
「…嘘っ!…わわっ!」
アリーシャの報せを聞き、クローディアが背後の魂の狩人の方を振り向くと既に鎌を振りかざした魂の狩人が迫っていた。
クローディアが不意に後退りをすると彼女は足元にあった置き去りにされた市場の商品に躓いてしまうが、そのおかげで振り下ろされた鎌は彼女の眼前で空を切る。
「あたた…危なかったわ…。偶然コレに躓いたおかげで何とか…え、これって…!」
「クローディア様っ!次が来ます、避けてっ!」
「わっ、…危ないじゃないっ!」
クローディアは転がって追撃として振り下ろされた鎌を躱すと、先程躓いた商品を手にしていた。
「くっ、せめて何か攻撃手段があれば…!」
アリーシャは自身の剣を一瞥する。
彼女の剣は使い込まれ、研ぎ澄まされてはいるが魔力の乗っていないただの剣である。故に死霊の仲間である魂の狩人には一切の攻撃能力を備えていない。
加えて魔術の素養も持ち合わせていない為、魂の狩人達に対しては完全に無力だった。
「アリーシャ、これ使って!」
クローディアは先程躓いた商品をアリーシャに投げ渡す。
商品が詰め込まれた革袋を受け取るとその中身を確認する。そこには赤い液体の入った瓶が大量に詰め込まれていた。
「これは…ポーション…? …成る程…!」
アリーシャは革袋からポーションの瓶を取り出すと真上に小高く放り上げ、次々と迫り来る魂の狩人達の猛攻を避ける。
「さぁ反撃開始といきましょう」
アリーシャは魂の狩人の攻撃を躱しながら小脇に抱えた革袋から再びポーションの瓶を取り出すと、攻撃を外してすり抜けていく魂の狩人の足元へ瓶を投げつける。
アリーシャの投げつけた瓶は床に当たって砕け散り、中身のポーションを撒き散らすとその飛沫が魂の狩人に浴びせられる。
「アアァア…オオォォ…」
撒き散らされたポーションを浴びた魂の狩人はあからさまに苦しむ仕草を取ると、風に煽られた煙のように姿を消す。
しかしまだまだ数の多い魂の狩人達は怯むことなくアリーシャに鎌を振り下ろしてきていた。
「わざわざ一点に集まってくれるのならこちらにとっては好都合…、ハッ!」
アリーシャが大きく跳躍すると、魂の狩人達の鎌は一斉に空を切る。
跳躍したアリーシャは先程放り上げたポーションを再び手に取ると、攻撃を外して一点に集まった魂の狩人の真上から叩きつけるように瓶を投げつけた。
瓶そのものは魂の狩人達の体をすり抜けてしまうが、すり抜けた先には床がある。
弾けた瓶から再びポーションが飛沫を上げて撒き散らされ、それを浴びた魂の狩人達は苦しんでいるのか消え入りそうな呻き声を上げ始めた。
「効いてるわね!」
「ただ数が多いせいか、仕留めきれてませんね」
「だったらもう一本、喰らいなさいっ!」
クローディアが呻き苦しむ魂の狩人達に追撃のポーションを投げ付ける。
放物線を描きながら、ポーションの瓶は群れた魂の狩人の足元で弾け再び飛沫を上げると今度こそ魂の狩人達は刈り取った魂を残して消えてゆく。
「よっし、これで全滅ね!」
「クローディア様が商人達の残していったポーションに躓いたおかげですね。怪我の功名というやつでしょうか」
二人は偶然とはいえ、致命的に相性の悪い魔物である魂の狩人の群れを撃退し、胸を撫で下ろしていた。
しかし、安心するのも束の間、元々靄がかかっている船上に今度は暗い帳が降りてくる。
靄と薄暗がりに包まれ、二人は辺りを見回していた。
「急に暗くなりましたね…」
「靄が濃くなったのかしら、これじゃ下手に動き回れないわねー…」
クローディアが暗がりの中、足元に気を付けながら歩いていると、その背後で何かが動いていた。
「クローディア様、危ないっ!」
「ーきゃっ!?」
クローディアの背後で動いたものに気付いたアリーシャは咄嗟にクローディアを突き飛ばした。
その瞬間、暗闇の中から白刃が現れ、アリーシャの背中を一閃すると、アリーシャは声もなくその場に倒れ込む。
「…痛たた…、…ッ!? アリーシャッ!」
突然突き飛ばされ尻餅をついたクローディアが起き上がると、そこには力無くその場に伏せたアリーシャの姿があった。
クローディアがアリーシャの身体を起こし呼びかけるも返事は無く、糸の切れた操り人形のように力を失っているが、特に目立った外傷は無い。
そしてアリーシャを抱き起こすクローディアの背後にもアリーシャを襲った魔の手が迫っていた。
「…そうは、させるかっ!」
クローディアに向けて振り下ろされた白刃を剣が受け止め、彼女は事なきを得る。
「"照明弾"ッ!」
暗闇の奥からクリスの声が聞こえ、その位置から光の球が放たれると、俺の真上に留まり強い光を放って周囲を照らし出した。
それと同時に周囲の靄が晴れると、そこには魂の狩人と同じくボロボロの黒衣を纏い大鎌とランタンを手にして黒翼をはためかせる骸骨が眼窩を赤く光らせて笑っていた。




