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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第九章:波乱続きの航路
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第百二十五話:船上の決戦

 ブルックらの露払いによって甲板の中央では俺達と指揮者半魚人(サハギンリーダー)との決戦が始まろうとしていた。

 お互い睨み合いが続く中、最初に動き出したのは指揮者半魚人だった。


 「ギジャッ!」


 短い鳴き声をあげて指揮者半魚人は大きく跳躍すると身体を水平にして空中を高速で泳ぎ始める。

 足の周りを漂う水はどうやら空中で泳げるようにする為のものの様で、足の鰭が宙に浮かぶ水を掻く度に指揮者半魚人は空中を泳ぐ推進力を得ているらしいり

 上空に逃げられた事でレオは空を見上げ、上空を泳ぎ回る指揮者半魚人を目で追う事しか出来なかった。


 「チッ、上に逃げられちゃ手も足も出ねぇ…!」

 「だったら私の出番ですっ!"火矢(ファイアボルト)複射(マルチプル)"ッ!」


 クリスの手から上空へ向けて無数の火矢が広範囲に渡って放たれる。

 しかしそれを見ていた指揮者半魚人は空中で止まって右腕を一掻きすると水のカーテンを生み出し、嘲笑うかのように火矢をかき消した。


 「やっぱり水に対して火じゃ効果は薄そうだね。だったらこれならどうかな…"衝撃射(インパクトショット)"ッ!」


 クリスの火矢を防ぐ為に動きを止めた指揮者半魚人に間髪入れずにフォルクが強烈な一矢を放つ。

 指揮者半魚人は直様フォルクの放った矢に対して水の盾を張るが、矢が盾に直撃するとその表面に波紋が生じ、大きな破裂音と共に盾が弾けた。

 しかし矢の勢いも同時に殺されており、フォルクの攻撃は指揮者半魚人の水の盾を相殺するだけに留まってしまう。

 更に一瞬弾け飛んだと思われていた水の盾は直ぐに撒き散らした水を再び集め、元の姿を形成し始めていた。


 「焼け石に水、と言った所ね」

 「…いや、弾け飛んだってことは或いは…」

 「考えンのはいいが奴が来るぞッ!」


 フォルクの攻撃を防いだ水の盾が一瞬弾け飛んだ所を見た俺は何か対処法がないかを考えていたが、レオの一言で我に返る。

 上空の指揮者半魚人は更に高くへと浮上しており、身を翻すと頭を下げて急降下を始めていた。


 「突っ込んで来る気か!いい度胸だッ!」

 「…待てレオッ!何か様子がおかしいっ!」


 レオが迎撃の為身構える中、指揮者半魚人は頭から突っ込んで来ながら大きな口を開ける。

 一瞬噛み付きに来るのかと考えたが、指揮者半魚人の姿をよく見ると胸と腹を大きく膨らませており、また不揃いな凶悪な牙も先程レオに噛み付こうとしていた時に比べると剥き出しにはなっていない。

 とても噛み付きに来る姿には見えず、迎撃態勢を取っていたレオを制止しようとしたが、レオは突っ込んで来る指揮者半魚人に対して跳躍を始めていた。


 「叩き落としてやらァッ!」


 飛び上がって蹴り落とそうとするレオに指揮者半魚人が開いた口を向けると、口腔から勢いよく水が噴射される。


 「…何ッ!? グアッ…!」


 指揮者半魚人の口腔から勢いよく放たれた水がレオの脇腹を切り裂く。その威力はただの水鉄砲と呼ぶには些か威力があり、最早鋭利な刃物と呼べる程だった。

 空中にいたレオは攻撃を受ける直前、直撃を避ける為に身体を捻ったものの、攻撃を受けた事で体勢を崩し、背中から甲板に叩きつけられてしまう。


 「クッソ…やりやがったな…!」


 切り裂かれた脇腹を押さえながらレオは立ち上がり忌々しそうに指揮者半魚人を見上げる。

 レオの視線を嘲笑う様に通り過ぎて行った指揮者半魚人は急浮上すると、再び身を翻してこちらを狙って急降下を始めた。


 「そう何度も上手く行くと思わない事ですわねッ!」


 急降下を始めた指揮者半魚人は再びレオを狙っていたが、そこにアンリがレオを庇う形で割って入る。

 再び指揮者半魚人は口から水を噴き出すと、アンリの大楯に防がれていた。


 「効きませんわッ!今度はこちらの番ですわよッ!」


 指揮者半魚人の放水を大楯で防ぎながら力を溜めていたアンリは右手に持った大槍を突っ込んで来る指揮者半魚人に向けて突き出す。

 しかし、槍の刺突は寸でで身体を捻った指揮者半魚人に躱されて空を切る。そして通り過ぎた指揮者半魚人は首を捻るとアンリの背中に向けて今度は大粒の水を吐きだした。


 「ぐっ…、でもこの程度ならっ…!」


 大粒の水弾はアンリの背中を直撃したが、分厚い赤龍の甲殻でできた全身鎧(フルプレート)を身につけたアンリには大して効果を為してはいない。

 威力はそれなりにあったのだろうがアンリは体勢を崩して片膝をついただけで済み、これと言ったダメージは無さそうだ。


 「セオッ、また来るッ!」

 「くそッ、まるで戦闘機かッ!"石散弾(ストーンショット)"ッ!」

 「僕もッ…"旋風射(スパイラルショット)"ッ!」


 フォルクの声で三度急降下を仕掛けてくる指揮者半魚人に対して咄嗟に練った魔力で石散弾を放つとそれに合わせてフォルクも旋風を纏わせた矢を放つ。

 こちらの攻撃を見た指揮者半魚人はやはり自らの前に水の盾を張ると石散弾を追い抜いたフォルクの放った矢と相殺して弾け飛んだ。

 すると、フォルクの矢に追従する様に飛んだ石散弾は大半を躱されたものの、数発が指揮者半魚人を掠め、命中した肩や胴体から僅かに青い血を滲ませていた。

 

 「…なるほど、そういう事かっ!皆、誰かと重ねる様に攻撃すればあの盾を打ち破れる!」

 「たださっきのクリスの火矢みたいに本当に効かないものもあるし、半端な攻撃じゃ弾き飛ばせない、ってところかな」


 厄介だった水の盾攻略の糸口を見つけた俺達は隊列を組み直し、二人以上で纏まって動き始める。

 遠距離への攻撃手段を持たないレオ、アリーシャ、アンリの三人についてはバックアップに回り、アンリは普段通り盾役として動いて貰い、レオとアリーシャについては撃墜後の詰めとしていつでも動ける準備を頼んでおいた。


 「クリス、一旦レオの治療を頼む。その間は俺とフォルクでアイツを攻撃する」

 「わかりました、兄様、お気をつけて!」

 「ああ、わかってる。フォルク、やろう!」

 「いつでもいけるよ!こっちで合わせるからセオは気にせず攻撃して!」


 既にフォルクは矢を番えて攻撃に備えており、俺の行動開始を待っている状態だ。

 ダメージを負った指揮者半魚人は既に体勢を立て直し、こちらの出方を伺っているのかこちらを睨んだまま空中を泳いでいる。

 

 「よし行くぞっ、"炸裂岩(ブラストロック)"ッ!」

 「じゃあこの辺りかな…"衝撃射"ッ!」


 両手から巨岩を生み出して炸裂させ、広範囲に渡る岩石の礫を上空にいる指揮者半魚人に向けて放つ。

 幾ら水の盾を持っているとは言え、必ずしもそれで防御をするとは限らない為、回避が困難かつ威力のある魔術を選んでいた。

 俺の放った炸裂岩を見て回避出来ないと判断した指揮者半魚人は水の盾を再び張り、岩石の礫に耐える。

 岩石の礫は十分な威力があったのか指揮者半魚人の水の盾は弾け飛び、その後に追従するフォルクの放った強烈な矢が肩を捉えていた。


 「ギジャァッ!?」


 フォルクの矢を受け、指揮者半魚人は大きく体勢を崩す。

 そして俺の隣ではレオの治療を済ませたクリスが右手に魔力を練って追撃の準備を始めていた。


 「お待たせしました!私達も仕掛けますっ、"氷結晶(ダイヤモンドダスト)"ッ!」


 クリスの周りを氷塊が舞い、頭大の塊まで大きくなると同時に指揮者半魚人へと飛んでいく。

 すると俺達は指揮者半魚人の水の盾の致命的な弱点に気付く事になった。

 指揮者半魚人はフォルクの攻撃を受けて体勢を崩したものの水の盾は既に復活しており、クリスの放つ氷塊を防ぐ為に再び展開されていた。

 氷塊を防いだ水の盾は低温の氷塊を受け止めた事で盾自身が氷結すると、その後に飛んできた二射、三射を受け止めた事で粉々に砕け散る。

 そこから更に続く氷塊は悉く指揮者半魚人を捉えると、指揮者半魚人の身体を徐々に凍て付かせていた。


 「動きが鈍ったわね、喰らいなさいッ、"三重毒(トライヴェノム)ッ!」


 氷結して砕け散った水の盾は復活する素ぶりも無く、寒さで動きを鈍らせ回避も取れずにいた指揮者半魚人はクローディアが追撃として放った猛毒の塊をもろに浴びる。


 「ギギ…、ギッ…!?」


 指揮者半魚人は体勢を立て直す為に足をバタつかせるが、足に纏っていた水はクリスの放った氷塊を受けて凍りつき、更にクローディアから受けた毒によって弱っていた為に体勢を立て直すどころか、逆に体勢を崩して甲板へと墜落し始める。


 「…堕ちてくるのならば我々の出番ですね」

 「氷の盾が無い今ならッ!」

 「さっきの借り、倍にして返してやらァッ!」


 指揮者半魚人が堕ちてくるのを見て三人は距離を詰める。

 甲板へと叩きつけられ、三人が近づいてくるのを見た指揮者半魚人は、起き上がりながら息を吸い始めると胸板を大きく膨らませる。その際に胸板の下にある鰓のような器官から灰色のガスが漏れ出ていた。


 「気をつけるゲロッ!"石化の吐息(ペトロブレス)"が来るゲロッ!絶対に当たっちゃダメゲロッ!』


 俺達の戦闘の模様を見ながら周囲の半魚人(サハギン)達を抑え込むブルックが注意を促すと、アンリが前に飛び出して大楯を構える。


 「お二人共、私の後ろにッ!」


 アンリの掛け声に合わせてレオとアリーシャが背後に着いた瞬間、指揮者半魚人の口から勢いよく灰色の吐息が噴射され、アンリの大楯の前で激しく跳ね返る。

 ガスの噴射が止まり、周囲に立ち込めていたガスが晴れると三人は指揮者半魚人を見失っていた。

 アンリ自身は無事だったが、石化ガスを防いだ盾はその表面が石膏の様に白く覆われており、滞留するガスは甲板の表面をも固めて行く。


 「危なかったですわ…まともに受けていたら…、指揮者半魚人は何処へッ!?」

 「アンリ、上だッ!」


 石化ガスを噴射した指揮者半魚人はガスによって此方が姿を見失っている隙に海へ逃れようと大きく跳躍していた。


 「逃がしませんわッ!ガスは私が、後はお二人にお任せしますわ!

 「レオ様、私が行きますッ!」

 「チッ、直々に借りを返せねェのはシャクだが逃すわけにゃいかねェしな…、俺の手に乗れッ!」

 「わかりましたッ!」


 アンリが大槍に魔素を注いで爆風で滞留していたガスを吹き飛ばす。

 逃げ出していた指揮者半魚人を見てアリーシャが追おうとするが、届かないと見たレオはアリーシャに呼びかけながら後ろを振り返り胸の前で手を組んでいた。

 呼び掛けに応じてアリーシャは跳躍し、レオが組んでいた手に足を掛ける。


 「行くぞッ!海まで落ちンじゃねェぞッ!」

 「必ず仕留めますッ!」

 「…ラァッ!」


 組んだ手にアリーシャが足を掛けると、レオは勢いよく後ろへアリーシャを打ち上げる。

 自身の脚力とレオの力で勢いよく射ち出されたアリーシャは直ぐに逃げ出していた指揮者半魚人に追い付くと両手の剣を振りかぶった。


 「逃しはしませんッ!」

 「ギジャァッ…!?」


 振りかぶったふた振りの剣をアリーシャが振り抜くと、指揮者半魚人の胴と首をすり抜ける様に白刃が疾り抜け、そして右手に持っていた剣を投げると甲板へと突き刺した。

 胴と首を断たれ指揮者半魚人は絶命すると同時にそのままアリーシャと共に甲板の外へと投げ出される。


 「ギシャッ!?」

 「ギシャッ、ギシャッ!」

 「…ギシャシャーッ!」


 指揮者半魚人が敗れた事を理解したのか、指揮者半魚人のバラバラになった身体が海面に落ち、水が跳ねた音が響くと同時に半魚人達は鳴き声を上げ次々に海へと飛び込み始める。


 『船長ッ、半魚人達が逃げていきますケロッ!』

 『深追い厳禁ゲロ。指揮官がやられた以上、半魚人どもに戦意は無いゲロ』


 ブルックの言うように、まだ動ける半魚人達は蜘蛛の子を散らす様に次々に海へと飛び込んで行く。


 「アリーシャ!アリーシャッ!」


 指揮者半魚人と共に海へと投げ出されたアリーシャを引き上げなければと、俺は最後にアリーシャが剣を投げた辺りへと駆け出していた。


 「セオドア様、私は無事です!」


 アリーシャの声に気が付き甲板の手摺りを見ると、そこには手がかかっていた。

 アリーシャは甲板から投げ出されてしまう事を予見し、指揮者半魚人を斬った後、右手の剣を手放して手摺りに掴まっていたのだ。


 「よかった、今引き上げる!」


 俺とクリスはアリーシャの腕を掴み、甲板へと引き上げる。

 そして安心するのもつかの間、息のあった半魚人達が全て海へと逃げたと同時に大きく船が揺れる。


 「今度は何だ!?」

 『状況を報告するゲロッ!』

 『や、奴ら、体当たりで船体に穴を開ける気です!』


 甲板の手摺りから身を乗り出し海を見ると、逃げ出した半魚人達が背鰭を海面から出して船の周囲を取り囲み、次々に体当たりを仕掛けている。

 

 『このままじゃ船底に穴を開けられて船を沈められてしまうゲロ…』

 『海中は奴らの庭、あまり気は進まないですケロが…我々が行くしかありませんケロ…』


 幾ら彼らが水中での戦いに慣れているとは言え相手は半魚人、彼ら以上に水中に順応した種族であり数もいる、苦戦は必至だ。

 だが、俺とクリスは直ぐに立ち上がっていた。


 『いえ、ブルック船長達が行く必要はありません』

 『ここは兄様と私にお任せ下さい』

 『相手は海中の半魚人ゲロ、人族のセオドアさん達じゃあ…』

 『いや、わざわざ海中になんて行きませんよ。まぁ見ててください』


 ブルックにそう話しながらクリスと顔を見合わせ、俺達は互いに頷く。


 「クリス、やるぞっ!」

 「乱戦でなければ一網打尽にできますっ!」


 俺達は互いに手を合わせて同じ魔術を放つ。


 「海中の相手ならこれでッ!」

 「纏めて仕留めますッ!」

 「「"豪雷乱槍(サンダーストーム)ッ!!」」


 二人で同時に魔術を放つと船の上空に巨大な黒雲が呼び寄せられ、船の周囲には無数の雷の槍が降り注ぎ、海面付近の半魚人達を瞬く間に次々に感電させて行く。

 船の進んだ軌跡を見返すと海を伝った電撃に焼かれた半魚人達が無数に浮かびあがっている。


 『見ろ!半魚人どもがどんどん死んでってるぞ!』

 『半魚人ども、ざまあみやがれ!』

 『魔術ってすげえな…、俺も使えねえかな…』

 『諦めなさい。アタシ達獣人族は魔術の適正を持ってる人間なんてほんの一握りしかいないし、使えたとしてもあんな大規模なのは無理よ』


 船員達は次々と半魚人達を屠る上級魔術の威力に大騒ぎしている。

 彼らは生まれも育ちもガルムス大陸故にこのような高位の魔術を目の当たりにした事は無いようだ。

 

 『とりあえずは何とかなったゲロ。セオドアさん達のお陰で船員達にも大きな被害は無かった様ゲロ』

 『ほらほらお前達、魔術に見惚れるのはいいケロ仕事を忘れちゃいけないケロ。半分は甲板の片付け、もう半分は船内の巡回ケロ』

 

 ゼネルが手を叩くと船員達は我に返り、ゼネルが言った様に動き始める。

 半魚人達との戦闘で当然負傷した者は少なからず存在し、中には比較的大きな傷を負った者もいるが流石は獣人族だけあって人族ならばすぐにでも治療が必要な傷でも彼らにとっては何事も無かった様に振舞っている。

 クリスは治療をすると船員達に声を掛けて回っていたが、彼らは口を揃えて仕事が終わったら頼む、と返すばかりだった。


 「皆さん大丈夫なんでしょうか…」

 「心配するこたねェさ。俺達獣人族は他の種族と違って身体が頑丈に出来てる。ちょっとやそっとの傷なんて屁でもねェ」


 レオは心配そうに彼らを見つめるクリスの肩に手を置く。


 「よし、だったら彼らに早く治療を受けて貰うためにも俺達も手伝うとしようか」

 「だね。じゃあ僕は船内の巡回に回ろうかな」

 「私もそうするわ。クリスもこっちの方がいいんじゃない? 甲板側は力仕事になりそうよ」

 「じゃあ俺とアンリ、レオ、アリーシャは甲板を手伝おう」

 「了解ですわ」

 「仰せのままに」

 「おっしゃ、ちゃっちゃと終わらせちまおう!」


 俺達は二手に分かれて甲板上に残った半魚人の処理、船内の巡回へと向かった。

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