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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第九章:波乱続きの航路
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第百二十四話:半魚人達の指揮官

 いの一番に指揮者半魚人(サハギンリーダー)率いる近衛半魚人(サハギンガード)に突っ込んでいったのはレオだった。

 進路上に群がる半魚人(サハギン)達を蹴散らしながら一直線に敵指揮官へと突っ込むと、勢いそのままに小さく跳躍し、鍛えられた右足を突き出し飛び蹴りを放つ。


 「おおっ!?」


 近衛半魚人は指揮者半魚人をかばう様に割って入ると、レオの飛び蹴りを両腕の甲殻でがっちりと受け止めた。

 他の半魚人であればまず受け止める事など出来ない飛び蹴りだが流石は上位個体と言った所か、あるいは防御に特化した為か、近衛半魚人は吹き飛ぶどころか踏み止まり、レオの飛び蹴りを完全に防ぎきっていた。


 「チッ、硬ェ甲殻だ…、近衛(ガード)の名前は伊達じゃ無ェってか!」

 「下がってレオ!」

 「…!」


 フォルクの声がかかり、レオが後ろに飛び退くと三本の矢が近衛半魚人へと飛んでいく。

 レオの飛び蹴りを受け止めた近衛半魚人達は風を切りながら飛んできた矢に反応し切れずに頭と肩、胸に矢を受けるが頭と胸の致命傷となり得る部位に当たった矢は、硬い鱗に弾かれてそのまま床へと落ちていた。


 「成る程、急所への攻撃は硬い鱗で防がれてしまう訳ですか…だったら…!」


 レオの後に付けていたアリーシャが両の手に持った剣を構えて近衛半魚人に踊りかかる。

 彼女の目にも留まらぬ速さで繰り出す剣戟は瞬く間に近衛半魚人の急所とならない肩や二の腕、脚を斬り刻み、硬い鱗を叩き割って青い血を滲ませていた。

 それでも近衛半魚人は倒れず、盾のような腕の甲殻でアリーシャを叩き潰そうと振り上げた腕を振り下ろす。


 「…そこです!」


 腕が振り下ろされる瞬間、アリーシャは身を翻して攻撃を躱すと、がら空きとなった首に白刃を当てがい一気に振り抜いた。

 青い血が宙に舞うと、首の落ちた近衛半魚人の身体が力無く膝をつき、ゆっくりと倒れこむ。


 「首が弱点の様ですね」

 「なるほど、なぁっ…!」


 アリーシャが近衛半魚人の首を落とした瞬間を見たレオはそう言って別の近衛半魚人に組みかかる。

 取っ組み合いとなり、力比べの様に両手でがっちりと組み合うが、その勝敗は直ぐに付く。

 

 「力じゃあ…負け、ねェよッ!」

 「ギ…ギシャッ…!」


 力を込めた事でレオの両腕の筋肉は膨張し、元々太い腕は更に一回り程太くなる。

 

 膂力のみで近衛半魚人を組み伏せたレオは手を離すと直ぐに片膝をついた近衛半魚人の背後に回る。


 「よっと!」

 「ギシャ…ギ」


 両手で背後から近衛半魚人の頭を掴んだレオは力任せに頭を捻る。

 曲がってはいけない角度まで首を捻られた近衛半魚人はそのまま勢いよく甲板に伏せてしまった。


 「はっ!やっ!…くっ、たぁっ!」

 「ギッ!ギァッ!シャアッ!…ギギッ…!」


 近衛半魚人は人間で言う所の重装兵だ。

 アンリと近衛半魚人は似たタイプ同士故に、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

 「なかなか隙を見せませんわね…!」


 地に足をつけた状態で適度な距離を保った状態では重装兵はなかなか崩せない事はアンリ自身が一番よくわかっている。

 攻撃を受け流し、隙を作らせた所を攻めるのが重装兵の戦い方だ。故に大きな動きを見せたり、大きく崩された方が負ける。

 アンリはそれを知りながら、身体を大きく引いて大槍で渾身の突きを近衛半魚人の足元に放つ。

 当然近衛半魚人はそれを難なく防いで槍の穂先を甲板にはたき落とすが、アンリはそれが狙いだった。


 「かかりましたわね、ハァッ!」


 アンリが大槍に魔素を注ぐと、大槍に埋め込まれた魔石が翠色に輝き始めた。

 アンリの大槍は風属性の魔術が放てる魔導器であり、魔素が注がれ翠色の光を纏った大槍の先端から風の魔術が放たれる。

 槍の穂先から放たれた突風が地面から吹き上がり、近衛半魚人は防御する術もなく上空へと浮かされるが、既に二人の仲間がやられた事を見ていた為、咄嗟に首を両腕の甲殻で隠していた。


 「残念ながら私が止めを刺すつもりは無くてよ」

 「こっちからは丸見えさ!貫通射(ペネトレーター)!」


 先程、既に倒された近衛半魚人に矢を放った後、フォルクは空歩法(エアステップ)でメインマスト上へと素早く移動していた。

 アンリに気を取られていた近衛半魚人は自らの背後、上にいたフォルクの放った矢を頸に受け、そのまま甲板へと叩き付けられていた。


 「取り巻きはあと四体ね…」

 「クローディアさん、クリス、援護頼む、一気に決めるぞ!」

 「任せて下さい兄様!」

 「セオ、あいつらを誘導してひと塊りに集めて頂戴!」


 残りの近衛半魚人を倒すべく、俺はクリスとクローディアに援護を頼んで一気に距離を詰める。

 四体の近衛半魚人の攻撃を捌きながら、牽制を掛け、クローディアに言われた通りに全員がひと塊りになる様に誘導する。


 「さすがセオね…、行くわよ!麻痺毒の風(パラライズウィンド)ッ!」


 クローディアが魔術を放つと黄金の風が近衛半魚人達を包んで吹き荒れる。

 

 「ギ…キ…!」

 「…!ギシャアッ!」


 どうやら近衛半魚人は麻痺毒に対して若干の耐性を持っているらしく、全員直撃していたものの四体の内二体には効果が無かった様だ。


 「効いてない奴もいるけど…ハッ!」


 二体の近衛半魚人の攻撃を躱しながら、瞬時に麻痺毒で動きを止めた個体の首を刎ねる。


 「兄様、当たらないでくださいね!雷球(スパークショット)ッ!」


 クリスが背後から電気を帯びた気泡を放つ。

 俺は声がかかると同時に横へと飛び込むと、クリスから放たれた電気泡は健在である近衛半魚人に命中する。


 「ガガガギギギギギギギギギ…ッ!」


 電気泡は近衛半魚人に命中すると体内へ入り込み、激しく放電し始めた。

 雷球を受けた近衛半魚人は内部から激しい電撃を受け、痙攣しながら蹌踉めくと、すぐ隣の個体へともたれかかる。


 「ギッ…!? ギギギガガギギッ、ギギギガガギゴッ!?」


 健在だった個体は仲間にもたれかかられた事で感電し、図らずも巻き込まれてしまう形となった。

 雷球の放電が止まると、二体の近衛半魚人は黒煙を吐きながら甲板に倒れこむ。

 僅かに痙攣し動いていたのを確認した俺は二体の首を落とし、確実に絶命させる。

 首を斬り落とした後、周囲には魚を焼いた後の芳しい香りが漂っていた。


 「片やヴェルダン、片やミディアムって所か」

 「なるほど、最初からこうしてれば丁度いい焼き加減になったんですね」

 「あんたら兄妹ときたら…」


 電熱で綺麗に調理(グリル)された近衛半魚人を見て、俺とクリスはつい食欲がそそられ口を過ごしてしまっていた。

 クローディアはと言うと俺たちを見て呆れ果ててしまっていた様だ。


 「さて、冗談はさておき…」

 「ああ、後はアイツだ」


 俺とレオがそう言いながら身構えると仲間達も視線を最後に残った指揮者半魚人に向ける。


 「ギジャッ!?」


 いとも容易く取り巻きをやられ、攻撃の矛先が自らに向いた事を悟った指揮者半魚人は後退りするように身動ぐ。

 指揮者半魚人は一瞬視線を逸らすと、海に飛び込もうと背中を見せる。


 「逃げる気だっ!」

 「野郎っ…!」


 逃げ出す指揮者半魚人を俺とレオは追おうとするが僅かに追い付きそうには無い。しかし、俺達の横を短槍と手斧が通り過ぎる。

 短槍が指揮者半魚人の脇腹を掠め足止めすると、今度は通り過ぎた手斧がブーメランのように弧を描いて戻り、指揮者半魚人の足元に突き刺さった。


 『ここまで暴れといてそれじゃあ締まらんゲロ』

 『コイツは今後の為にもここで仕留めるべきですケロ、逃すわけにはいきませんケロ』


 ブルックとゼネルの投げた武器が指揮者半魚人の足を止め、レオの手が届く。

 レオは指揮者半魚人の腕を掴み上げると、そのまま力任せに引っ張り、一本背負いの形で甲板へと叩き付けた。


 「ギッジャアアアァァァァッ!」


 レオの攻撃を受けた事で床に叩き付けられた指揮者半魚人は直ぐに飛び起きると、目を見開いて耳を劈く程の雄叫びをあげる。

 取り巻きをやられ一瞬逃げようとした為、臆病な性格なのかと思えば自らが手傷を負った事で怒りが爆発した様だ。


 「兄様、気をつけて!手足に魔力を感じます!」


 雄叫びを上げた瞬間、指揮者半魚人の手足を水が漂い始める。

 水属性の自己強化系の魔術ではあるのだろうが、その効果の詳細はわからず、すぐ近くにいたレオは警戒の為、後ろに飛び退き距離を取った。

 だが俺とフォルクは自らも似た様な魔術を使う為、何と無くその効果を想像していた。


 「ねえセオ、あの魔術…」

 「ああ、多分似てるけど…腕の周りにも水が漂っているのが気掛かりだな…」


 俺とフォルクが似て非なる指揮者半魚人の魔術を憂慮しているとレオが早速攻撃を仕掛ける。


 「待てレオッ!相手の出方を伺った方がっ…」

 「どっちにしろやってみなきゃわかんねェだろ!それにあんな腰抜けならたかが知れてる!俺は行くぜッ!」


 レオが走り込み、指揮者半魚人に距離を詰めて研がれた爪を振り下ろすが、指揮者半魚人は後ろに飛び退いてそれを回避した。


 「だったら着地を狙やいいッ!」


 美しい弧を描いて後方に逃げる指揮者半魚人を追ってレオは更に突っ込むが、指揮者半魚人の纏った自己強化魔術がその力を見せる。


 「オオォォ…、っ何ィ!?」


 空中で指揮者半魚人は身を翻すと、空中を蹴り反転し、腕の鰭でレオに斬りかかる。

 まるで水中を泳いでいるかの様な急ターンにレオは驚き、間一髪飛び退いた事で事無きを得た。


 「っぶねェ…って、どわァッ!」


 斬撃を回避し、安心したのも束の間、再び指揮者半魚人は反転すると幾重にも並んだ無数の不揃いの牙を立ててレオに攻勢をかける。


 「言わんこっちゃない!フォルクッ!」

 「ああ!」


 劣勢になったレオを援護する様にフォルクに言うと、既に矢を番えていたフォルクが指揮者半魚人に向けて矢を放つ。

 しかし、こちらを見ていた指揮者半魚人は矢に向けて手をかざすと、腕の周りを漂っていた水が盾の形状を形作り、矢の勢いを落とすとそのままはたき落としてしまう。


 「盾にもなるのか!? レオ、直ぐ助ける、耐えろ!」

 「…言われなくてもわかってら!うおおっ!」


 指揮者半魚人はレオの喉笛に迫っており、それをレオは跳ね除けようと必死に腕で支えていた。

 俺は背中の騎士剣を抜き、レオに喰らい付こうとする指揮者半魚人の背中に剣を振り上げたまま迫っていた。

 すると、指揮者半魚人はレオに噛み付こうとするのをやめてこちらを振り向くと、振り下ろされる剣に向けて腕を伸ばしてくる。素手で刃に掴みかかる積もりの様だ。


 「そのまま叩き斬ってやるっ!」


 振り下ろした騎士剣が指揮者半魚人の手に触れる寸前、再び腕に纏っている水が動き出すと、瞬時に蟹の鋏の様な形状に変形する。

 そして鈍い音と同時に騎士剣は水の鋏によって受け止められてしまった。


 「硬い…!本物の蟹の鋏みたいだ…!」

 「ギギッ…!」


 指揮者半魚人は俺の騎士剣を受け止めると鋏に力を込めて挟み込む。

 どうやら武器破壊を狙っている様だが、暗黒銀(ダークミスリル)製の騎士剣は非常に頑丈であり、折れるどころか曲がる気配も無い。


 「なろォッ!」


 拘束を解かれたレオが指揮者半魚人の脇腹を蹴り飛ばす。

 レオに蹴り飛ばされた指揮者半魚人は寸前で水の鋏を解除し派手に吹き飛ぶが、体勢が崩れた訳では無く甲板の端で踏み止まっていた。


 「あの野郎…蹴りが当たる前に後ろに飛びやがったな。当たったには当たったが手応えがまるで無ェ」

 「ああ、リーダーの名は伊達じゃないってわけだ」


 指揮者半魚人の体躯はレオよりも一回り大きい。

 だが俺たちは一度手合わせした事でもう一回り大きな存在だということを感じていた。

 それが半魚人の上位個体だからとしてのものなのか、この個体そのものから発せられる威圧感からなのかは判らない。

 はっきりしているのはこの魔物が強敵と呼ぶべき魔物だということだ。


 「あの両手足の水が厄介だな。一人一人仕掛けてちゃ全部防がれちまわァな」

 「ああ、さっき盾や鋏みたいになった事も考えると攻防一体の具現化型の補助魔術ってところだろう。ただ属性があるなら弱点も必ずある筈だ」


 指揮者半魚人は大きく跳躍して俺とレオの前に着地すると、背中と腕にある大きな鰭を目一杯広げ、大きく息を吸い込む。


 「ギャジャアアアァァァァーッ!」

 「ギシャッ!」

 「ギシャアッ!

 「ギシャッギシャッ!」


 威嚇というには余りに大きな声で指揮者半魚人が鳴くと船を取り囲んでいた半魚人達が一斉に水面から船へと飛び出してくる。


 「まだこんなにいやがったかっ!」

 「このままじゃ本当にキリが無いな…、こいつらを片付けながら指揮者半魚人を倒すしか…」

 『ちょっと待つゲロォッ!』

 「ギシャッ…!」

 「ギッ…!」


 新たに現れた半魚人達の数体が一度に倒れる。

 倒れたのは全体のほんの少しでまだまだ敵の数は多いが戦っているのは俺達だけでは無い。


 『我々の事もお忘れ無くケロ』

 『指揮者半魚人達はセオドアさん達に任せるゲロ!絶対に半魚人達には邪魔をさせるなゲロォッ!』

 『『ウオオー!』』


 甲板を埋め尽くさんとする半魚人達の群れをブルックやゼネル、船員達が押し退けると、甲板上の中央にぽっかりと開けた空間が出来上がる。

 そこに立っているのは指揮者半魚人と俺達だけ、今まさに洋上の決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

 

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