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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第八章:咆哮響くガルムス大陸
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第八章断章C:兄姉からの手紙

 セオドア達が故郷のカルマン村を出てから二年半、ホワイトロック家にある冒険者が訪れた。


 「西アトラシアのカルマン村…ここがホワイトロック家で合ってるよな…?」


 季節は秋、この冒険者はカルマン村に入ってから農作業に勤しんでいるのが女子供、老人ばかりである事に気付く。勿論女性も初老を迎えたかと言う見た目であり、若い男女はいない。

 冒険者は廃れた農村と鼻で笑いつつも、依頼の為に道を尋ねながらドルマニアンからの長い旅路の終着点へと辿り着いた。


 「すいませーん!ホワイトロックさんはこちらで合ってますかー!」


 冒険者は農村には不釣り合いな大きな邸宅の扉を叩きながら大声を上げて誰かいないかと尋ねる。すると扉の内側から女性の声が聞こえてきた。


 「…はい、合ってますが…現在旦那様も奥様も不在でして…、どう言った御用向きでしょうか」

 「ああ、すんません。俺はドルマニアンのギルドから手紙を届ける様に依頼されたモンで、セオドアとクリスティンってぇ冒険者の兄妹から手紙を預かってましてね」


 中から聞こえた声に冒険者が答えると覗き窓が開く。

 冒険者の男はセオドア達からの手紙を取り出すと、手紙にある二人の署名部分を覗き窓へと向けた。

 

 「…確かに、セオドア様とクリスティン様の筆跡ですね」


 女性は二人の署名を確認すると、錠を外して扉を開く。

 冒険者の男を出迎えたのはホワイトロック家に仕える三姉妹の侍女の長姉、ポーラだった。奥には次姉のカーシャ、末妹のエスティーが家事を続けているのが見える。


 「わざわざドルマニアンから御足労ありがとうございます。我々が受け取りのサインをしたい所ですが、生憎我々は留守を預かっている身でして、セオドア様、クリスティン様からの手紙となれば我々が勝手にサインを、と言う訳には参りません。恐らく旦那様方のお帰りは夕刻を過ぎると思われるのですが、もしお急ぎでなければ中でお待ち頂いてもよろしいでしょうか?」

 「じゃ…じゃあお言葉に甘えて…」


 男はポーラの勧めに対してデレデレとした締まりの無い声と表情で返事を返すとホワイトロック家の邸宅へと足を踏み入れた。

 それもその筈でこの三姉妹の侍女は皆容姿に優れており、特に男との応対をしていた長姉のポーラはと言うと、恵まれた豊饒な体付きで男の視線はポーラの目では無く、尻や胸へと釘付けとなっていた。

 

 男は椅子に座らされて待っている間、家事に従事する三姉妹を目で追っていた。

 ポーラは優雅な佇まいで、カーシャはきびきびと家事をこなしているが、末妹のエスティーはと言うと二人の姉に負けない様に張り切って家事に取り組んではいるが、時折勢い余って躓く姿に男は顔を綻ばせている。

 暫くの間、男がそうして待ち、漸く夕刻を迎えると入ってきた邸宅の玄関の扉が開かれた。


 「「お帰りなさいませ、旦那様、奥様、シグルド坊ちゃん」」


 この邸宅の主人(あるじ)達が外出から戻ってくると次姉のカーシャと末妹のエスティーの二人が元気に出迎えの挨拶を口にする。

 旦那様と呼ばれていた男、アルフレッド・ホワイトロックが身につけていた鎧には魔物達の青い血液が僅かに付着していた。


 「お帰りなさいませ旦那様、既に入浴と食事の支度は済んでおりますが…その前に先程彼方のドルマニアンから来られました冒険者様よりセオドア様とクリスティン様の文を預かりまして…」


 ポーラの紹介にあった男はアルフレッドに目を向けられるとぎこちない素振りで立ち上がり一礼する。


 「ほぉ、君が息子と娘の手紙を。ドルマニアンからわざわざ済まない、私はアルフレッド・ホワイトロック、このカルマン村の自警団の長を務めているしがない田舎騎士だ。こっちは妻のセリーヌ、息子のシグルド」

 「あ、えっと…俺は…じゃなくて自分はドルマニアン諸島はドルムで冒険者をやってる…やってます、ラインって言います」


 アルフレッドの自己紹介にラインがぎこちない言葉遣いで自己紹介を返すとセリーヌとシグルドもラインに対して礼をする。

 礼を返されてアルフレッドは籠手をつけたままの手を差し出すが、アルフレッドは自らの手の状態に気付く。


 「おっと、流石にこんな籠手をつけたままで握手と言うわけにはいかないな」


 籠手には魔物を屠った事がはっきり分かる程に青い血液に塗れており、アルフレッドは籠手を外して改めて手を差し出すとラインも差し出された手を握り返した。

 ラインが握り返した手は騎士の名に恥じぬ手で、手の平には長年剣を振るい続けた末にできた分厚いタコがあるのがわかる。この手を握るだけでもラインはアルフレッドが相当な剣の使い手である事を悟っていた。

 

 「さてライン君だったね、今日はもう遅いしここでゆっくりして行くといい。ポーラ、お客人をもてなす準備はできているね?」

 「はい、滞り無く」


 ポーラはラインが手紙を持って来た時点で一人分多く食事の準備等をしておく様に妹達に伝えていた。


 「ならば、先に入浴を済ませて貰おうか。その間に私達はセオ達の手紙を読んで待つとしよう。ポーラ、彼を浴室へ案内してあげてくれ」

 「かしこまりました、ではライン様、こちらへ」

 「えっあっ、ちょっ…」


 ラインがポーラに浴室へと導かれると、アルフレッドは椅子に腰掛ける。

 そしてラインが持ってきた子供達の手紙を手に取り感慨深そうに眺めていた。


 「あれから一年と…おっと、二年半が経ったか。ん、手紙以外にも何か入っているみたいだが…」

 「もう、あなたったら…。それはそうと二人とも元気にしてるかしら」

 「…? 父上、早く開けてください!」

 「わかったわかった、そう急かなくても手紙は逃げやしないぞシグ」


 手紙の封を切り、アルフレッドは中身を取り出す。

 そこには兄妹二人それぞれの手紙と一片の鮮やかな真紅の鱗片が入っていた。


 「…どれどれ」


 ーーー


 父さん、母さんへ


 俺たちが旅に出てからもう一年以上が経ちました。

 シグルドやカルマン村の皆は元気ですか?

 俺たちはと言うと先日、ドルマニアン諸島の火山で赤龍を討伐し、これからガルムス大陸に向かう所でこの手紙が届く頃にはガルムス大陸に着いている頃だと思います。

 赤龍の討伐の時はどうにか討伐に参加した仲間達が全員無事ではあったものの、俺を含めて全員ボロボロになってしまい、改めて自分がまだまだ未熟である事を痛感させられます。

 そう言えば俺達も今年で成人です。まだ暫くカルマン村に戻って来るつもりはありませんが、どうか体に気をつけて。いつか旅から帰って来た時は家族五人とアリーシャも含めてみんなで祝いましょう。


 追伸:手紙と一緒に討伐した赤龍の鱗の欠片を入れてます。シグルドに見せてやってください。


 ーーー


 セオドアの手紙を読み切ったアルフレッドは同封されていた鱗片を手に取って眺めていた。


 「まだ若い赤龍だが…あの歳で赤龍を討つとはね、我が子供ながら誇らしくもあるがそれと同時に末恐ろしく感じるよ」

 「親としては自分を超えてくれるのは最上の親孝行じゃない。私なんか魔術の腕は自警団にいる間に二人とも追い抜いていっちゃったわよ?」


 夫婦は自分の子供達の小さな頃を思い出しながら笑みを浮かべる。

 シグルドはと言うと、アルフレッドが持っていた真紅の鱗片を渡してもらうと、魔物の図鑑で見た強大な魔物を討ち倒した兄達に憧れて輝かせた瞳を鱗に映していた。


 「こっちはクリスの手紙ね…」


 ーーー


 お父様、お母様へ


 最初に村に出てからもう二年以上が経ちました。

 初めは兄様とたった二人の旅で不安もありましたが、色んな人達が私達に力を貸してくれて、なんとかここまで無事に来れました。

 今ではアリーシャを始め、お父様達も以前見た痩身の槍重騎士、半長耳種(ハーフエルフ)の弓使い、淫魔種(サキュバス)の闇魔術士の六人で旅を続けています。

 お母様が私にくれた魔導教本に記してあった大魔術も習得し、先の赤龍討伐では役に立ちました。

 まだまだ未熟な魔術士ですが、ガスターさんを超えるような魔術士を目指していきたいと思っています。

 シグルドとカルマン村の皆さんには私達は元気に旅を続けていると伝えてください。それともしエルダの街のヴァレンティンさん達が来た時はありがとうございました、と。

 また手紙を送ります。お父様もお母様も、体には気をつけて。それでは。


 ーーー


 「旅、か…。あなたは旅をしてた事はあるの?」


 クリスからの手紙を読み終えたセリーヌはアルフレッドに尋ねた。


 「十二で家を叩き出されて騎士見習いになってから訓練と言う形で王国領を歩いて回った事はあるが、旅って言う様なものじゃないな。そういう意味では俺だって二人が羨ましいよ」

 「ふふ、私は家柄が家柄だから二人の事は純粋に羨ましいわ。さて、そろそろラインさんが戻ってくるかしら、食事の準備をしなきゃ」


 二人はそれぞれ手に持った手紙をシグルドに渡すと、アルフレッドは着替えるために自室へ、セリーヌは侍女達と食事の準備を進めるために台所へと向かった。

 シグルドはと言うと、椅子に座って二人から渡された手紙を穴が空くほど読み返していた。


 「やっぱり兄上も姉上もすごいや!いつか僕も…!」


 今年で六歳になるシグルドは旅先で活躍する兄達に思いを馳せ、小さな鱗の欠片を握りしめると、自分もいつか兄達の様に強くなりたいと決意を新たにした。

 

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