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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第八章:咆哮響くガルムス大陸
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第百二十二話:皇帝の叱咤激励

 『…そう構えるな』


 ティグリオンが手を下げると俺達を取り囲む兵士達は構えを解いた。


 「どういう事だ…?」

 「わかりません、ですが敵意は無くなりましたわね」

 「油断はしない事ね、何か狙いがあるのかも」

 「クローディア様にしてはまともな意見ですね。私も同感です。油断はなさらない様に」

 「あはは、アリーシャさんもそこまで言わなくていいだろうに。…でも本当にどういうつもりだろうね」

 「少しでも妙な動きがあれば私は躊躇いませんから…!」

 『どういうつもりだ、親父…!?』


 兵士達は既に全員戦闘の構えを解いてはいるが俺達は未だにティグリオンの意図が読めず、構えを解かないでいた。


 『ふむ、これでは些か警戒心を煽るか…』


 ティグリオンが呟き手を叩くと、今度は兵士達は後退し、民家や塀の影へと隠れていく。


 「戦闘の意思はない、そう見るべきか…?」

 「…どうやらそうみたいだね。皇帝の彼一人で僕達をどうにか出来るとは思えないし」

 「だとすればそれこそどういうつもりなのかしら。彼らからしたら私達は皇子誘拐の大犯罪者よ?」


 俺達は皇帝の意図が読めず、武器を収める事も出来ずにティグリオンを睨んだまま膠着していた。

 するとグリオネールは構えを解いて一歩踏み出すと声をあげた。


 『親父、わざわざ自分から何しに来た!俺はセオドア達と行く!何と言われようと止まる気は無ェぞ!邪魔するってんなら押し通る!もう決めたんだ!』

 『…そうか』


 グリオネールの叫びを聞いたティグリオンは小さく応えるとそれに続ける。


 『もうよい。そう決めたのであれば好きにするがいい。…だがどうやってこの荒れる海を越えるつもりだ? この船を奪うにせよその共にいる者達に船を操る術を持つ者がいるのか?』

 『…ぐっ、それは…』


 ティグリオンはグリオネールの旅を止める事に興味を失っているのか、概ね容認する意向らしい。

 しかし、この土砂降りの雨で時化た海、これを越えられる技術を持つ者がいるのかという問いを持ち出して来るとグリオネールは言葉を詰まらせてしまう。

 勿論俺達にも航海術を持つ者はおらず、俺達としても痛い部分を突かれてしまっていた。


 『…その様子では居らぬ様だな。セオドア・ホワイトロック、其方はそんな状況で我が息子を連れ出すつもりだったとでも言うのか?』

 『…ああ、そうでもなければグリオネールは貴方から離れる事は出来ないと思ったからだ』


 ティグリオンは俺達に海を渡る術が無いと知ると俺に問いかける。

 俺はその問いに対し、その時の思いをそのまま伝える事にした。


 『…このたわけがァ!』

 『…!?』


 俺の返答を聞いたティグリオンは突如怒りを露わに物凄い剣幕で怒鳴りつけてきた。


 『浅い、浅いのだ!ここまで逃げ果せた事については余も認めよう、だがこの先いつまでも成り行きに任せての浅薄な考えではいずれまたこの様な事態を再び招く事になろうぞ!それではこの先儘ならぬ。其方、間も無く十五になるのであろう? 今までは誰かしらが陰から日向から手を差し伸べていたのだろうが今後はそうは行かぬ。確かに人とは異なる厳しい人生を歩んで来たとは言え、今の其方があるのは多くの人の助けあればこそと思え!決して其方自身の力だけでここまで来られたものと思うで無いぞ!』


 ティグリオンの怒声を聞いているとただ単に俺の浅はかさや軽薄な行動に対しての純粋な怒りをぶつけているのではなく、これから成人を迎えるにあたりの心構えを説いている様に聞こえた。

 どうやらティグリオンは俺達を捕らえに来た、そういうつもりでは無いらしい。

 

 『おい親父!セオドアにわざわざ説教するために船まで使って先回りしに来たのかァ!? 俺を連れ戻しに来たんじゃねェのか!』

 『違うわこの阿呆め!…おっと、話が逸れたな、話を戻そう。余が此処に来たのは其方を捕らえる為でも愚息を連れ戻しに来た訳でも無い。此度は其方が余に啖呵を切って宮殿を抜け出した後、其方を試していたのだ。此処まで逃げ果せたなら良し、と言う事でな』


 ティグリオンはグリオネールの文句を一喝して断じると、この追走劇の真相について話し始めた。

 

 『勿論報告について逐一ドニから届いておったぞ。どうやら愚息には一切手を出させず、尚且つ誰一人として兵を殺しはしなかったとな。甘さはあるが、ただ形振り構わず逃げていたのでは無いらしい、そこについては評価すべきであろう、どうあれ其方達は試練を切り抜けた。認めよう、我が愚息を連れて行く事を』


 どうやらティグリオンは俺達を試すつもりでいたらしい。それを聞いた俺は跪き、最敬礼を以って彼に謝意を示す。


 『…陛下、先ずは今までの全ての無礼を詫びさせていただきます』

 『よい、余も試す様な事をして済まなかった。我が愚息を頼んだぞ』

 『はっ』


 ティグリオンは謝意を返しながら手をかざし、"なおれ"と促し、グリオネールを任せると頼んできた。

 俺は頭を下げながら返事を返して、さらに続ける。


 『陛下、幾つかお聞きしてもよろしいでしょうか』

 『申してみよ』

 『あの謁見、殿下の事を話してからは全て演技だったのでしょうか?』


 あの時、グリオネールの友人としてティグリオンの物言いは聞き捨てられないものだった。

 その点について俺は先ずティグリオンに真意を問わずにはいられなかった。


 『ふむ、半分は本意、半分は演技とでも言っておこうか。言葉としては本意であるが、其方とそこの愚息の真意がどれほどのものか量るつもりでいた。其方は直ぐに本気であるとわかったがな、この愚息については其方に焚き付けられて漸く口にしおったわ。国外を見て回りたいと考えておることは余も把握はしていたがな、それまでは絶対に余の前では口には出さずその意思がどれ程のものか量りかねていたのだ。その点については其方が愚息の言葉を引き出してくれた事には感謝せねばなるまいよ』


 ティグリオンは一切を口にするとグリオネールを一瞥し嘆息する。ここまでから察するにティグリオンはいわば自分の前でなかなか素直にならないグリオネールに手を焼いていた、そういうふうに受け取れる。

 ティグリオンの真意について納得がいったところで今度は今後の旅について尋ねる事にした。


 『勿体無いお言葉。ところで先程尋ねられました次の目的地の件ですが、我々は次に大魔大陸はルミネシア魔導連邦を目指すつもりではありますが、現在連絡船が使えないとの事、故に渡航手段について何か手段が…』

 『この船を使うがよい』

 『へ?』


 ティグリオンはこちらが大魔大陸への渡航手段を尋ねるより早く船の使用を許可した為、素っ頓狂な声を上げてしまった。


 『えぇと…ですからこの雨季のガルムス大陸を出るにあたりその術を…』

 『帝国の船乗りを乗せてある。片道にはなるが問題は無かろう? 既に必要な食料や物資は積んである。心置きなく行くがいい』


 俺はあまりの急な話に動揺してしまうが気を取り直して質問を重ねると、更に質問を終える前に答えられてしまった。しかも何もかも用意され、至れり尽くせりと言った状態だ。


 『少なからず余はドニの追撃を逃れた其方の実力は買っておる。其方と共に旅をしておる仲間達も含めてな。其方自身、我が愚息をも正面から退けたのだ。そうでなければ次期皇帝となる者を預けはせんよ。若き故に過ちも犯そう、だがそれは追い追い其方自身が気付き正せばよい。そもそも其方程苛烈な経歴を持つ若者もそうはいまい。であれば、其方の若さ故の過ちなど同世代の者と比べればそう多くはなかろう、我が愚息と共に学んで行くがよい。其方の旅に幸多からん事を祈っている』


 そう言ってティグリオンは船を降り手を二つ叩くと豪華な金細工の施された鞍のついた疾走馬(スプリントホース)を兵士が引いてくる。


 『ではさらばだ。再度になるが愚息を、グリオネールを頼んだぞ』


 ティグリオンは俺の肩に手を置き、兵士の引いてきた疾走馬に颯爽と飛び乗ると、港からあっという間に去っていった。


 「獣人語でしたので聞き取れはしませんでしたが、ガルム皇帝に認められたものと捉えてもいいのでしょうか」

 「ああ、そうらしい。船も乗組員も貸してくれるそうだ」

 「じゃあ旅は続けられるのね。アトラシアからドルマニアン、そしてガルムス…、次はついにグリモルテ大魔大陸ね」

 「僕とクローディアにとっては里帰りと言うべきかな。…と言っても次の目的地はルミネシアみたいだから本当の里帰りはもう少し先だけどね」

 「ルミネシアと言えば魔術の先進国ですわね」

 「ええ、魔術士としてはいつか行ってみたいと思っていましたので今から楽しみです」

 

 俺達は兎にも角にもこの騒動が解決し、各々安堵したり、次の目的地へ思いを馳せていた。

 ただ一人、グリオネールを除いて。


 『…ったく、悪いな、俺の為に迷惑かけちまってよ』

 『何言ってんだ、これからお互い迷惑かけ合うことになるし今更さ』

 『へっ、そりゃそうか!…じゃ、まぁ行ってくるぜ、親父…』


 俺とグリオネールは拳を付き合わせ、改めて仲間として行動を共にすることを確かめ合うと、グリオネールはティグリオンが走り去った先を見つめていた。


 『ゲロゲロ、アンタらがセオドアさん!陛下から話は聞いとりますんで早く乗り込んでくださいやー。いつまでもそんな雨の中じゃ風邪ひいちまいますゲロー!』

 『わかりましたー!すぐ行きます!』


 船の中からカエルの獣人の乗組員が顔を出し、船へと乗り込む様に促してくる。

 確かに彼の言う通りこのままでは身体を冷やして風邪をひいてしまいそうだ。

 荷物を急いで纏めると全員急いで船の中へと乗り込んだ。


 ーーー


 船に乗り込むなり先程のカエルの獣人に先ず各々個室へと案内され、雨に濡れた身体や服を乾かす様に言われ、準備が済み次第食堂へと集まる様に伝えられる。

 俺も部屋に案内されてすぐに水浸しとなった服を脱ぎ捨てて、髪や身体を拭き上げて乾いた服に袖を通す。

 そして言われた通りに食堂へと到着すると船員達がズラリと立ち並んで待っていた。

 他の仲間達はまだ到着しておらず、俺が一番乗りらしい。俺以外は全員髪が長い為、それで手間取っているのだろう。


 暫くして最初にフォルクがやってくる。それから直ぐに女性陣が続々とやってくると、最後に少し遅れてグリオネールがやってきた。グリオネールの場合はたてがみのせいでどうしても髪を拭き上げるのに時間がかかってしまう様だ。


 全員が揃い食堂の椅子に着くと、立ち並んでいた船乗りの内、先程のカエルの獣人ともう一人の同種族の獣人が前に出てくる。


 『ゲロ、全員揃いやしたね。まぁ皇子はご存知かと思いやすが、先ずは皆さんに我々の自己紹介を。あっしが船長を務める蛙人種(わじんしゅ)のブルック・ハイルトッド、隣が副船長で同じく蛙人種のゼネル・ハイルトッドと申しやす。我々乗組員が大魔大陸までの船旅をお世話させていただきやすのでどうぞお見知り置きをゲロ』


 船長と副船長のブルックとゼネルが一礼をすると、それに続いて他の乗組員達も礼をする。

 ブルックはずんぐりとした体格で皮膚は苔の様な深い緑色、対してゼネルはやや小柄でスマートながら、皮膚は淡い茶色、どちらも少し湿ったような艶があり、蛙人種ならではと言った皮膚を持つ。

 他の船員達にも数人蛙人種の乗組員はいるが、ここにいる乗組員は別に全て蛙人種だけという訳ではない様だ。とは言え亀人種や海狸種の様な泳ぎの得意な種族ばかりで構成されている。

 船長及び副船長の簡単な自己紹介が終わると今度は副船長からの船内での注意事項の説明だ。

 その前に俺とクリスは獣人語がわからない仲間達に彼らの言葉を訳して伝えていた。


 『よろしいですケロ? 後程案内をさせて頂きますが、船内については操舵室、船長室、船員室、物資庫については船員同伴、又は許可を受けて入室下さいケロ。また陛下の船室については如何なる場合においても入室されぬようお願い致しますケロ。それ以外は自由にご利用して頂く様陛下から言付かっております故、どうぞごゆっくりとルミネシア魔導連邦までの船旅をお楽しみくださいませケロ』

 『ゲロゲロ、もう一つ、物資についちゃあ必要なモンは一通り揃ってやすが補給の儘ならねぇ船旅ですんで、必要なモンがある時ゃ必ず言うようにお願いしやすゲロ。じゃあゼネル、あっしらァ航海計画を立てる為に船長室に戻るんで皆さんに船の案内を頼むゲロ。じゃあ皆さんまた後程ゲロ』

 『アイアイ船長。じゃあ皆さんは私が船内を案内致しますのでもうしばらくお付き合い下さいケロ』

 

 船長のブルックは副船長他の船員達の一部を率いて食堂を後にする。

 

 『ケロケロ、先ずこの船は三つの階層に別れておりますケロ。先ず甲板、操舵室、船長室のある上層、今我々がいる食堂と物資庫、それと皆さんが使われております客室と陛下の船室が中層になっておりますケロ。そして下層は乗組員達の船室となっておりますケロ。さて入室に制限のある物資庫が私の直ぐ後ろにありますので先ずは見てみますケロ?』

 『ええ、お願いします。俺達も必要な物資がどれだけあるかは知っておきたいので』

 『アイアイケロ、ではこちらへどうぞケロ』


 副船長のゼネルは直ぐ後ろの両開きの扉を開く。

 中には衣服や大量の水樽、食料が所狭しと置いてある。また、奥の樽の中には船員の武器なども大量に置いてあった。


 「あっセオ、ちょっとお願いがあるんだけどあの樽に矢がいっぱい入ってるんだ。途中で切れちゃってから補充出来なくて、もしよかったら分けてもらいたいんだけど聞いてもらってもいいかな?」


 フォルクはドニの追跡を躱す際に矢を使い切っていた。プラットンでは店に寄る暇も無く、逃亡中はずっと矢が無く戦えない状態が続いていたのだ。

 俺はゼネルにそういった事情を話すと快諾してくれた。


 『ケロケロなるほど、フォルクハルト様は弓闘士でしたか。ええ勿論陛下から伺っておりますケロ。我々は弓を使える者がおりませんので後程船室に樽ごとお持ちしますケロ』


 ゼネルの言葉をそのままフォルクに伝えるとフォルクは胸を撫で下ろしていた。


 「ふう、よかった。プラットンで補充できなかったからこのまま大魔大陸までお荷物になる所だったよ。弓が使えなきゃ僕なんて戦力になれないからね」


 フォルクは謙遜を交えながら自嘲していた。

 しかし実際の所、彼は短剣の扱いも充分に秀でており、彼がその気になればその辺の剣士程度であれば彼に一太刀も浴びせられる事も出来ずに翻弄され、首を掻き斬られてしまうだろう。

 実際に相手に斬りつけるのは好まず、彼曰く斬りつけた時の手応えを感じてしまうのが嫌だ、とのことだ。

 とりあえずの必要な物資が揃っている事を確認した俺達は各々体を休める為に自分の部屋へと戻って行った。

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