表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第八章:咆哮響くガルムス大陸
128/295

第百十六話:友達として

 自信に満ち溢れ、豪放磊落を絵に描いたようなグリオネールの姿は最早無い。

 昨日の夜、宴会を賑やかしていたのはただの強がりだったのか、今や見る影もなく跪いているばかりのグリオネールを俺は見ていられなかった。


 『本当に…それでいいのかよ…』


 思わず呟いた言葉にグリオネール以外の全員の注目を集める。彼だけは跪いたまま俯き、微動だにしない。


 『グリオネール!"お前"はそれでいいのかよ!』


 見る影もない彼を見て、俺は立ち上がり怒鳴るように叫ぶ。


 『…仕方ねェよ、俺は皇帝に…親父に実力を示せなかったンだ。甘んじて受け入れるしか…』

 『違うっ!皇子としてのお前の言葉じゃないっ!"お前自身の心"はどう言ってるんだ!? 本心はどうなんだ!』


 自分の気持ちを抑え込み、諦観したグリオネールの絞り出すような声を遮って俺は彼の本心を尋ねるとグリオネールは俺の方を向いて口を開く。


 『そりゃあ俺だって夢を捨てたかねェに決まってるだろ!でも皇帝にこう言われりゃそうするしかねェじゃねェか!』

 『…出会ってからたった数日しか経ってないにも関わらずああやって酒を酌み交わして自分の夢を話してたお前はどこに行ったんだよ…。違うだろ!"そう"じゃないだろ!』


 グリオネールの諦めから来る怒声に怒声で返すと謁見の間は静まり返る。


 『…アンタもアンタだ、皇帝だかなんだか知らないけど息子だろ? 自分の子供を何だと思ってる!グリオネールはアンタの"道具"か? 自分の息子の夢を、やろうとしてる事を後押ししてやるのが親ってモンじゃないのか?』

 『ぶ、無礼者っ!陛下を指差しアンタとは…一介の冒険者風情が無礼な口の聞き方だけでは飽き足らず、陛下のご意向に口を出すなど…!』


 ティグリオンの態度と諦めきったグリオネールの姿を見て怒りがこみ上げてきた俺はティグリオンを指差して声を張る。

 ティグリオン自身は黙ったままこちらを睨みつけていたが、横で聞いていたドニは聞き捨てならないと言った様子で肩を震わせていた。


 『ああそうさ、俺はアトラシアからの使者でもなけりゃ、ガルム帝国の国民でもない。強いて言うならグリオネールの友達ってだけだ。友達が夢を諦めなきゃいけなくなって困ってるのに手を差し伸べない友達がいるかよ!』


 旅から旅の根無し草である俺には立場など無い。だからこそ俺はドニに対し真正面から反論を突きつける。

 詭弁ではあるがグリオネールを思えばこそ、ここで引き下がる訳にはいかない。


 『セオドア、俺は…どうしたらいい…?』

 『お前次第だ。本当に自分がしたい事があるんなら今こそ自分の意志を示すべきなんじゃないか? 俺の口から言えるのはここまでだ』


 グリオネールが弱々しく俺に意見を求めてくるが、ここから先は彼が決めなければいけない事だ。俺はそう断じてグリオネールの自己決定に委ねた。


 『殿下、こんな子供の煽りに乗ってはいけませぬからして…、どうか賢明な判断を…』

 『これはグリオネールの意志だ!黙ってろ!』

 『ひっ…!』


 自身がどちらの意志を選択するべきか迷っているグリオネールに寄り付き、揺さぶろうするドニを怒鳴

り散らすと、彼は驚いて首を甲羅の中へと引っ込めた。

 

 『…俺は…、…俺は…』

 『…で、殿下っ!なりませぬ、なりませぬからして…!』


 言葉を絞り出そうとするグリオネールの言葉に全員が息を呑んだ。

 最後の意思決定、それは他ならぬグリオネール本人の口から告げられる。


 『俺は…やっぱり夢を諦めたくはねェッ!陛下、…いや親父っ!俺はこの目で世界を見て回りてェ!親父とは違う目線で世界を見て、親父が変えようとしてるこの国をしっかり引き継ぎてェんだ!だから俺は…この国を出て行きてェッ!』


 グリオネールの力強い声が謁見の間に響く。

 彼は意思を示した。あとはティグリオン、あるいはドニがどう出るかだ。

 少なくともそうすんなりと許すとは思えない。本当にグリオネールが言葉通りに宮殿を、国を出る覚悟ならば俺も、否、俺達も行動に出る必要がある。


 『どうだセオドア、俺は…意思を示したぞ』

 『ああ、よく言った。意思を示した以上、あとは行動に出るだけ、だけど…これから先はもう引き返せない、戻るんなら今だけだ』

 『…あんだけ人を焚きつけといて何言ってんだ、覚悟ならもう出来上がっちまってらァ』

 『じゃあ、後はそこの二人の返答待ちだな』


 グリオネールの宣言にティグリオンは眉ひとつ動かしてはいない。流石に皇帝らしく堂々とした態度で俺達と対峙している。

 一方のドニはと言うと、ティグリオンとは逆に実に取り乱した様子で顎を震わせている。本気でグリオネールが国を出る意思を示すとは微塵も思っていなかったのか時折ティグリオンの顔色を伺う様に目線を向けている。


 『…お、おのれ、殿下を拐かしおって…!近衛兵っ!この者は帝国を脅かす扇動者であるからして、即刻この場でひっ捕らえよっ!』


 部屋の左右にいた近衛兵達はドニの命令に従い立ち上がると、瞬く間に俺とグリオネールを取り囲んだ。


 『まぁ…こうなるよな』

 『で、どうする、剣も持って来てないンだろ? 突破するんなら俺が蹴散らすか?』


 グリオネールが指を鳴らしながら握り拳を作ってみせるが、俺は制止する為にそっと彼の前に手をかざし彼の提案を断った。


 『必要ないさ、それにお前が兵士に手を出したらそれこそ反逆者だろ?』

 『わかンねェな…こうやって皇帝である親父に反発してるんだ、もう立派な反逆者だろうよ』

 『いや、まだ親子喧嘩の範疇だよ。グリオネールは俺に誑かされて家出をするだけだ。…さそ俺は皇子を騙して攫った大罪人だけどな。…後で仲間達にも話とかないと…うわっと!』


 グリオネールと軽口の様なやりとりをしていると近衛兵の拳が目の前を通り過ぎる。

 近衛兵達のターゲットは当然俺だ。彼らはじりじりとにじり寄り少しずつ俺達を囲む輪を狭めてくる。


 『グリオネール、近衛兵達って強いのか?』

 『ここにいンのは精鋭中の精鋭だ。…でも俺よりは強くねェ』

 

 やりとりの合間に俺は両手に魔力を練っていた。

 剣は無くても魔術が使えるなら対抗はできるし、徒手での戦闘も多少心得はある。もしグリオネールと変わらぬ実力の相手なら厳しいだろうが、彼が自分より弱いと断言した時点で既に脅威とはなり得ないと判断した。


 『なら問題ないさ、グリオネール、伏せろっ!"放雷網(ライトニングウェブ)"ッ!』

 『…うおっと!』

 『ぐおおっ!』

 『あばばばば…』

 『ぎゃああああ!』


 グリオネールが俺の声に反応して姿勢を低くすると同時に両手に溜めた魔素を解放し、周囲に電撃の網を瞬時に展開する。

 電撃の網は近衛兵達が身につける金属の鎧を目掛け、波打ちながら広がると一瞬の内に全員を感電させて跪かせた。


 『今だッ!すぐには立てない、走るぞグリオネール!』

 『応ッ!』


 謁見の間の扉を蹴破ると部屋の外の兵士達は突然の出来事に驚き目を丸くしている。


 『ええい、精鋭が揃いも揃って何をしておる!皆、その子供は殿下を攫おうとしておるからして…今すぐ捕らえるのだ!』


 ドニは謁見の間から大声で部屋の外にいる兵士達に指示を飛ばしているが、兵士達は未だに状況が飲み込めておらず固まったままだ。


 『と…止まれっ!』

 『遅いッ!』

 『ぐわっ!』


 痛烈な回し蹴りで固まっていた二人の兵士を文字通り蹴散らし、ホールを挟んで対面、一階の入り口の通路を見据えた。

 先程のドニの声に気付いたのか兵士達が次々と左右の通路から姿を現し、左右にある下階への階段と万一逃げられた時を見越しているのか真正面の出入り口を塞ぎ始めていた。


 『やべェぞセオドア、あっという間にもう塞がれちまった!』

 『グリオネール、正面以外に出口はっ!?』

 『他に二つあるが多分どっちももう手を打たれてる筈だ、突破するか!?』

 『いや、流石に数が多過ぎる、まずは目の前、登ってくる兵士達からどうにかしないと…!』


 辺りを見回すがどちらを見てもその先には兵士がいる。そして最後に目に留まったのは上階の通路だった。


 『グリオネール、ホールの中央まで跳べるか?』

 『ああ、問題ねェが…どうすんだ?』

 『こうするのさ、"土壁(アースウォール)"ッ!行こうッ!』


 ホールの中央、石造りの床が迫り上がって俺達はその石柱に飛び移ると今度は三階の通路へと飛び移り、通路へと逃げ込んだ。

 前から兵士達が来る気配は無いが、俺達を追う兵士達はどうやら俺が作った石柱をよじ登り始めており追跡を継続している。


 『正面から来る気配は無いけどこのままじゃ遅かれ早かれ挟み討ちになるか袋小路に追い詰められるな…』

 『どうにか外に出られりゃいいンだが…待てよ、三階って事は確か…』


 グリオネールが足を止め、並んでいる部屋の扉の一つをこじ開ける。その中では静かに本を読む獅子人種の淑女が座っていた。

 彼女は読んでいた本を閉じ小脇に抱えて立ち上がり、グリオネールがこじ開けた扉を見て溜息をついた。


 『全く…、いつも言っているけれど、扉は壊すものじゃなくてよ。グリオネール』

 『おお…悪ィ姉上殿、でも今回はちっと訳ありなンだ!』

 

 グリオネールが飛び込んだこの部屋はレオナの私室らしい。

 グリオネールは部屋中を見回し、窓を見つけるとそこに突っ込もうと走り始めるが、窓の前にはレオナの羽扇が開かれており、部屋から飛び出そうとするグリオネールは足を止めた。

 

 『何でェ姉上殿、こっちは急いでンだよ』

 『まぁお待ちなさいな貴方達。グリオネール、貴方、セオドア様と旅に出るのでしょう?』

 『話しちゃいねぇ筈だが…知ってたのか?』


 聡明なレオナはこれまでの経緯を話す迄もなく状況を既にある程度理解している様だ。


 『先程貴方がお父様に呼ばれて少ししてからこの騒ぎ、それに加えてセオドア様が一緒とあればだいたい予想がつきそうなものだけれど…。グリオネール、これを持っていきなさいな』

 

 状況の理解に至るまでの手掛りを言い、肩を落としながらこちらに近づいてくると彼女は小さな装飾の入った箱をグリオネールに手渡した。


 『なんだこりゃ…コイツは義歯か…?』


 グリオネールがレオナから渡された箱を開けるとそこにはやや古ぼけ、鈍色に輝く金属のマウスピースの様な物が出てきた。見たままには人族の口には合わず、また犬歯に当たる部分だけ丁寧に磨かれており、大きな銀色の牙が埋められていた。


 『これは初代ガルム皇帝、ウルフェン・ルード・ガルマリアが戦闘に使っていた義歯。今は当時彼が使っていた暗黒銀(ダークミスリル)の牙は無くて代わりに銀の牙が埋められているけれど、きっと貴方の助けになる筈。持っていきなさいな』


 レオナからの説明を聞いたグリオネールは手に取った義歯を口の中へ放り込む。

 すぐにフィットしたのか、噛み合わせはバッチリの様だ。


 『ありがとよ姉上殿、そンじゃ行ってくる!』

 『留守は任せていなさいな。それとセオドア様、不肖の弟ですが宜しくお願い致します』

 『ええ、いつになるかはわかりませんが、いつかグリオネール皇子と一緒に帰ってきます。レオナ皇女、いろいろとお世話になりました』


 グリオネールは颯爽と窓から飛び降りる。

 俺も彼の後を追って窓から飛び降りようとする直前、レオナに足を止められ耳打ちされる。


 『セオドア様のお連れの方々には先に遣いを走らせて街の外へ逃げる様に伝えております』

 『何から何まですみません。ではレオナ皇女、またいつか』


 彼女はこうした事態を想定していたのか、早くから既に手を回していた様だ。

 レオナ皇女の気遣いと協力に感謝しつつ、最後に別れの挨拶を告げると彼女は小さく手を振っていた。


 ーーー


 宮殿の三階の窓から外へと飛び出した俺達はお互い無事に着地して宮殿の庭、低木の陰に隠れている。

 追手を撒いてからまだ時間がそれ程経っておらず、兵士達はまだ宮殿の中を探しているのか思ったよりも警備は薄く、俺達を探す兵士達の数も疎らだ。


 『出るんなら今の内…』

 『だな。宮殿の三つの入り口に兵士を割きすぎたンだろ』


 既に門は見えており、見える限りで三人の兵士が哨戒にあたっている。

 宮殿内からは俺達を探している兵士達の怒号とも取れる叫び声がしきりに飛び交っており、その場にはそれ以上の兵士が潜んでいる様にも見えない。


 『どうする? …いや、どうすりゃいい?』

 『どうもしなくていい。グリオネール、走る準備をしてここで待っててくれ。あとは合図する』


 そう言ってグリオネールが小さく頷くのを確認すると中腰に立ち上がり、それぞれ異なる魔力を左右の手に練りながら低木の陰に沿って哨戒する兵士へと近づく。

 哨戒している馬人種の兵士の二人は退屈なのか雑談を始めている。それとは別にもう一人の犬人種の兵士は雑談に夢中になっている二人を他所にこの門を抜けるであろう俺達を直立不動で待ち構えていた。


 「さて…三人には気付かないまま眠ってて貰おうか、"絶対零度(アブソリュートゼロ)"ッ!」


 地面から伸びる氷が音も無く直立不動の犬人種の兵士に忍び寄り、背後から足を掴む。

 兵士がそれに気付き、大声を上げようと頭を上げて息を吸い込むが時既に遅く、頭を上向きにしたまま氷像となり佇んでいた。

 勿論殺すためではない為、意識を失わせる程度に威力を落としており、傍目からは殆ど凍っている様には見えない。強いて言えば彼の足元を僅かに氷の塊が接触しているだけだ。

 雑談している二人が氷像となっている兵士に振り向き声をかけるが反応は無く、不審に思い近づいていく。

 突如立ったまま反応が無くなった兵士に不思議がり、二人が体に触れた。


 「"凪の領域(カームフィールド)"」


 氷像となった兵士に二人が触れる瞬間、氷像の周囲の空気を無くす。

 二人は慌てて叫ぼうとするが空気の無い空間は僅かな音も通さない。

 突然の原因不明の窒息に抗おうと二人は藻搔いていたが伸ばした腕もただ虚しく空を切り、静かに昏倒した。

 三人が意識を失ったのを確認し、グリオネールが隠れている茂みに向け、手招きして合図を送る。

 合図を確認したグリオネールは茂みから飛び出すと一直線に門の外を目指し、その間俺は新手がいないか周囲を警戒していた。

 周囲の確認を済ませグリオネールを追って門を出るとすぐにグリオネールが立ち止まっているのに気付く。

 そしてその周囲には多数の兵士が行く手を阻んでいた。


 『やはり宮殿の外へ逃れておりましたか。あれだけの兵で探していても直ぐに見つからない事からして、門の外に兵を伏せていて正解でしたな、ホッホッ…』

 

 先回りされて伏せられていた兵士と共に現れたのは宰相のドニだ。

 鈍重そうな見た目とは裏腹に頭は切れるらしい。


 『さぁ宮殿へお戻り下され。そしてそこな少年には少しばかりキツい灸を据える必要がありますからして…』

 『チッ…こうなったら…!』

 『やめろグリオネール!俺はお前を罪人にしたくない!』


 追い詰められたグリオネールが実力行使に出ようと牙を剥き出しにしてたてがみを逆立たせるが、そこに追いついた俺がグリオネールの前に手を挟み遮る。


 『また邪魔をするつもりですかな、とは言え…何度も邪魔をされる訳にはいきませんでな』


 ドニは手に持った杖で地面を突くと、俺達の周囲の足元に方陣が浮かび上がる。

 浮かび上がった方陣が淡い光を放つと抵抗する為に練り始めていた魔力が上手く形成出来ず、魔術の発動が出来ない事に気付いた。どうやら魔術封じの結界を発動されたらしい。


 『ウム、ウム。さすがはハルモネシス皇国の結界、効果は覿面(てきめん)であるからして。さて、剣も魔術も無く、体術だけでこの兵の数を捌き切れますかな?』

 『くっ…!』


 ただの兵士なら上手くやれば隙を見つけて逃れる事も出来たかも知れない。しかしドニが連れている兵士には一般の兵士に加え、先程雷の魔術で痺れさせた近衛の精鋭兵達もいる。グリオネールは自分よりは強くないとは言っていたがそれと同時に精鋭と認めている程だ。小手先のその場凌ぎが通用しない事を体が感じている。

 まさに絶体絶命、背後からも遂に他の兵士達の雑踏が聞こえ、いよいよ俺達は進退極まってしまっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ