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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第八章:咆哮響くガルムス大陸
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第百十三話:閉会

 半刻程眠っていたのだろうか、目が覚めると控え室の石造りの天井が目に映る。

 グリオネールに担がれている途中で俺は疲れから眠ってしまっていた様で、肩部分が破損した鎧を脱がされた状態で木製のベンチの上に寝かされていたらしい。

 身体を起こそうとすると突如、上から獅子面が視界を塞ぎ、思わず吹き出してしまう。


 『ブフッ!…ゲッホゲホ…ゲッホ…!』

 『アハハ、ほら言ったろ皇子、アンタの面おっかないからいきなり目の前に来たらびっくりするってさ!』

 『全く…二人ともくだらん児戯を…フフッ』

 『ガッハハハ!漸く起きやがったなセオドア!』


 グリオネールの悪戯でむせてしまい激しく咳こむ。

 起き上がってみるとシェリーとアルムの姿もそこにあった。


 『ノアール、セオドアが起きた。運営に伝えてこい』

 『御意』


 グリオネールがそう言うと部屋の陰からノアールの短い返事が返ってくる。

 

 『ぼちぼち閉会式だ準備しろ、チャンピオン』

 『優勝者がいなきゃ始まらないからね、アンタ待ちだよ』

 『私を負かした以上、しっかりして貰わねば困るのだがね』


 閉会式に出る表彰者の面々に口々に促され、ベンチから立ち上がる。すると全身が軋む様に痛み出し、立ち上がりかけたベンチに再び腰をかけてしまう。

 するとシェリーが腕を取り、自身の肩にかけさせると俺の身体を引き上げてくれた。


 『全くなんてザマだい。ほらしっかりしな!』


 肩を貸してくれたシェリーに尻を叩かれ、漸く自身の二本の足で少しよろけながらも立ち上がる。

 

 『痛た…、ありがとうございますシェリーさん』

 『それとさっきアンタの妹と桃髪の連れが来てこれを渡してったよ、そんな肩の砕けた鎧じゃ不恰好だし羽織っときな』


 立ち上がるのを手伝ってくれたシェリーに礼を言うと、彼女はクリスとアンリから渡されたと言って俺の紅いマントを渡してきた。

 側に置いてあった鎧を身につけ、シェリーから受け取ったマントを鎧の砕けた肩部分を覆う様に羽織る。

 そしてその足でゆっくりと闘技場入り口の門へと移動し、門の前でしばらく待っているとその奥から楽器の音が聞こえ出した。そしてそれと同時にゆっくりと門が開かれる。

 門の先の通路には鎧を着た兵士達が左右に整列し、彼らの武器の象徴とも言える爪を模した儀礼用の鉤爪を両手に構え、腕を交差させて直立している。

 仰々しいまでの演出に神妙な面持ちで三人を連れて通路を抜けると先程まで戦っていた闘技場に真紅の絨毯が敷かれている。その左右にはやはり兵士が直立しているが先程の兵士とは明らかに違う装備であり、装飾も黄金で施されている。

 こちらは近衛兵達の様でその中にはノアールの姿もあった。


 真紅の絨毯を辿り、その終着点である特設された玉座を前に立ち止まると楽器の演奏が止まる。

 玉座には黄金の笏丈を手にした現ガルム皇帝ティグリオンが鎮座し、その側には豪奢な装飾を施された衣に身を包む后である獅子人種の女性とその対には皇女レオナが立っていた。更にその前、俺たちのすぐ脇には儀礼用の衣を纏う亀人種の老人がいる。立ち位置からするに皇帝の側近、あるいはそれに準ずる重臣だろう。


 ティグリオンが笏丈を掲げ、その柄で床を突くと隣にいるグリオネール、后、レオナ、老人が膝をつき首を垂れる。それに倣い俺も、シェリーとアルムも膝をつき首を垂れた。勿論、整列していた近衛兵も同様だ。


 『これより、本闘技大会の表彰式を執り行う!』


 ティグリオンが立ち上がり、開式を告げると共に観客席を埋め尽くす観客から割れんばかりの拍手が巻き起こる。


 『面をあげよ』


 ティグリオンの言葉で俺たち四名と玉座の周りの人間が顔をあげる。


 『それでは陛下、これより先は私めが式の進行を務めさせて頂きますからして…』

 『うむ、ドニ、頼む』

 

 亀人種の老人が立ち上がり、式の進行を引き継ぐことを告げると、羊皮紙を懐から取り出し、顔を寄せていた。


 『えーそれでは…陛下に取って代わり、私、ガルム帝国宰相を務めておりますこのドニ・タートレットが式の進行を務めますからして…』


 ドニはそう告げると正面、左右にそれぞれ礼をする。


 『それではまずは惜しくも準決勝で敗れてしまった二名の表彰となりますからして…、シェリス・キャトリニア、アルム・アルマーニの両名は前へ…』

 『はっ!』


 シェリーとアルムは立ち上がると一歩前に歩み、再び膝をつき首を垂れる。

 アルムはともかく、シェリーもこう言った式での作法は弁えているらしい。

 

 『シェリス・キャトリニア、並びにアルム・アルマーニ両名!貴公らは本闘技大会において十二分に己の力を示した。よってその健闘を称え、単牙勲章を授ける!今後とも精進せよ』

 『はっ!ありがたき幸せに存じます』

 『身に余る光栄にございます』


 近衛兵が二つの勲章を持ってくると、ティグリオン自ら二人の肩にその勲章をつける。

 二人に与えられた勲章は決して大きなものではないが、歴としたガルム帝国の国章が刻まれたものである。

 ガルム帝国の国章は盾を咥えた獅子を表しており、この単牙勲章は盾を咥えた獅子の牙の一つに真紅の宝石を埋め込んだもので、小さいながらもその存在は実に威風漂う輝きを放っている。


 『両名、下がれ』

 『はっ』


 ドニの指示に従いシェリーとアルムは再び元の位置で跪く。


 『次は準優勝者、ガルム帝国皇子、グリオネール・ルス・ガルマリア殿下、前へお願いしますからして』

 『はっ!』


 今度はグリオネールが一歩前に出て跪く。

 

 『よもや真魔光珠を使ったお前を生身で打ち破る人族がおろうとはな。上には上がいる、という事か…』

 『…陛下』

 『う、うむ、グリオネール・ルス・ガルマリア、貴公は本闘技大会において実力を十二分に発揮し、準優勝という誉れ高き結果を残した。その栄誉を称え、ここに双牙勲章を授ける!』

 『はっ!これに驕らず今後も次代のガルム帝国を担う者として精進を続けます』


 グリオネールの肩にも二人と同様、ティグリオン自らの手で勲章がつけられる。

 彼がつけた双牙勲章はアルムとシェリーに与えられた単牙勲章と意匠はほぼ同じ、宝石を埋め込まれた牙が二つになり、全体的に一回りほど大きな勲章だ。

 

 『グリオネール殿下、お下がりくださいませ』


 グリオネールへの勲章の授与が済むのを見届けたドニが彼にそう言うと、グリオネールは堂々と立ち上がり元の位置に戻って再び跪く。


 『では最後に優勝者、セオドア・ホワイトロック、前へ』

 『はっ!』


 ドニに名前を告げられ声を張って返事をし、立ち上がる。

 衆人環視の中、力強く足を踏み出して皇帝ティグリオンと視線を交わすと片膝をついて首を垂れる。


 『面をあげよ、セオドア・ホワイトロック』


 ティグリオンの言葉に従い顔を上げると、ティグリオンは少し高い位置である玉座の前から降りており、目の前へと歩み寄ってきていた。


 『人族に真魔光珠を持つ獅子人種を斃す者などいまいと思っていたが、よもや其方の様なまだ成人もしておらぬ若き剣士が為すとは…、改めて世界の広さを痛感させられる。其方の剣技、それを支える数々の魔術、最早感服という他あるまい。セオドア・ホワイトロックよ、まこと大儀であった!その栄誉を称え、大牙勲章、並びに覇者の証、"陽月の額冠"を授ける!… アレオリア』

 

 ティグリオンは賛辞の言葉を述べると后アレオリアの名を呼んだ。

 彼女は静かに頷くと玉座の陰から勲章と額冠の載ったトレイを持ち、一切の音を立てずにティグリオンの側にやってくる。

 ティグリオンは勲章を手に取ると俺の羽織っている真紅のマントの襟に付ける。

 大牙勲章は先の勲章とは意匠が大きく異なっており、星型の外輪部と中央の円盤部を組み合わせた形で円盤の中央にはガルム帝国の国章が彫られ、獅子の二本の牙と目の部分に宝石が埋めこまれている。また、星型の外輪部の頂点にも白色の玉石が埋め込まれている。

 一際目立つ勲章を付けられると次にティグリオンは額冠を手に取り、ゆっくりと頭に載せる。

 こちらは宝石の類は一切付けられてはいないが金銀の糸で紡がれた額冠は煌びやかな輝きを湛え、金属の様な強靭さを持ちながらも、絹のように柔らかく、全く重さを感じさせない。

 さらに額冠が頭に載ると体の中から勇気がふつふつと溢れ、それと同時に気持ちが安らぐ感覚を覚える。

 

 勲章と額冠の授与が済むと場内から拍手が巻き起こった。


 『この大会で優勝できた事、心より誇りに思います。どの選手も個性的で苦戦も強いられましたが…そのお陰で自身の実力を十二分に発揮出来たのではないかと思います』


 場内からの賞賛の拍手にコメントを返す様にティグリオンに言葉を述べると拍手の音はさらに大きくなり観客席が湧く。


 『…ゴホン。では最後に其方の願いを聞かせて貰えるか? この国で出来る範囲でではあるが可能な限り叶えよう』

 『…では…そうですね、ここでは不要な混乱が起こる事になりそうですので後日改めて宮殿を訪ね、謁見の上で話させていただきたいのですが、お許し頂けるでしょうか?』


 咳払いをしたティグリオンが叶えたい望みについて尋ねてきたが、俺は敢えてこの場での明言は避ける事にした。

 国家が転覆するような大それた願いではないが、少なからず国家を揺るがす可能性はある願いだ。

 ここまで人が集まった場所で不要な混乱を起こす事は望む所ではない。


 『あいわかった。ならば後日遣いの者を寄越す故、その時に聞かせて貰おう。では改めて、素晴らしい戦い、大儀であった。セオドア・ホワイトロック、下がってよい』

 『はっ』


 立ち上がって一礼を返し、一歩下がって他の三人と並び、再び膝をつく。


 『ではこれにて表彰式を終わらせていただきますからして、選手四名は退場願いますからして』


 ドニの表彰式終了の宣言及び、退場の指示に従って俺達四人は立ち上がるとティグリオンに一礼し、楽器の演奏と観客席からの割れんばかりの拍手に送られながら真紅の絨毯を辿る。


 闘技場を後にして控え室に戻ると、シェリーがどっかとベンチに腰をかけた。


 『ハァ、やっぱり皇帝陛下の前は緊張していけないね、全く』

 『こういった時以外は我々の様な一戦士や冒険者には縁遠いからな、無理からぬ事だろう』

 『一人を除いて、ですけどね』


 俺に合わせる様にアルムとシェリーの視線がグリオネールに向く。しかしグリオネールは屈託無く笑い声を上げてみせた。


 『ハッハ、俺もお前達と変わらねェよ、幾ら皇子とは言え相手は皇帝だ。面と向かって話す機会なんてそうは無ェし、顔すら合わせない日だってあるくれェだ。…ところでセオドア、わざわざ勿体つけてたけどよ、お前の願いってなァ一体何なんだ? そろそろ教えてくれてもいいだろ? なァ、別に喋ったりはしねェからぼちぼち教えちゃくれねェか?』


 グリオネールが明言を避けた俺の願いについて訪ねてくるが、俺は首を横に振る。


 『いいえ、ダメです。宮殿で皇帝陛下に話すまでは教えませんよ』

 『チッ、勿体つけやがって…まァいいや、どうせその時にわかるってンなら楽しみにしとくか』


 グリオネールは苦虫を噛み潰したような顔で一旦納得したらしい。

 そして俺達が暫く他愛もない雑談をしていると控え室の入り口からノックの音が聞こえてくる。

 そして入り口の扉が開かれると二人の兵士が入ってくる。二人の兵士はそれぞれ手に合計三つの小さな革袋を手にしていた。


 『セオドア選手にアルム選手、それにシェリス選手ですね? こちら大会の賞金となります、お受け取りください。金額が金額ですので必ず確認を、それと受け取り済みである事の署名をお願い致します』


 俺達はそれぞれ兵士から革袋を受け取り中身を確認すると羊皮紙に受け取り確認の署名を簡単に済ませた。


 『はい、確かに…。他に何かありますか?無ければ解散となりますが…』


 二人の兵士は俺達の署名を確認すると事務的にではあるが質問を受け付ける。

 アルムとシェリーの二人は「特に何も無い」、と首を横に振るが、俺は彼らに尋ねるべき事があった為、小さく手を挙げていた。


 『選手達に解放されている宿はいつまで解放されているんでしょうか』

 『三日後の陽八刻までとなっています。以降は一般利用となり宿泊費がかかるようになりますのでお気をつけください』

 『わかりました。それと…皇帝陛下にお伝え願いたいんですが、二日後の陽七刻に出頭します、と』

 『我々では直接お伝えすることは出来ませんが…わかりました、ただしそれより前の期日を伝えられるかもしれません。その場合はその期日を守る様にして下さい』


 幾つかのやりとりを終えると、兵士達は選手控え室を後にする。

 暫くの間控え室で休憩していると会場の方から拍手の音が響いてくるのがわかる。どうやら閉会式が終わったのだろう。


 『さて、私はそろそろ出るとするが、君達はどうするね?』

 『アタシもそろそろ帰るよ、貰うもんは貰ったしね』


 アルムとシェリーがベンチから立ち上がると同時に、選手控え室の入り口からノックが聞こえる、それと同時に扉の向こうから声が聞こえてきた。


 「兄様ー!いますかー?」


 クリスの声が俺を呼ぶ。俺もゆっくりと立ち上がり、二人に苦笑いを見せる。


 『こっちも迎えが来たみたいですし、僕も宿に引き返しますかね』


 三人で選手控え室を出るとそこにはクリスをはじめ、俺の仲間が揃って迎えに来ていた。

 全員で闘技場を後にすると、アルムはまだ宿に残っているそうだが、シェリーは既に宿を引き払って実家であるシェスカの酒場へと帰るそうだ。

 もし明日、ティグリオンからの遣いが来なければ夕刻にシェスカの酒場に集まる約束をし、俺達はそれぞれの宿へと引き返した。

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