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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第八章:咆哮響くガルムス大陸
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第百三話:金の獅子、紅の猫

 大会三日目、二回戦の試合はグリオネールもシェリーも俺も全員が勝利を収め、準決勝に進出していた。

 三人とも一回戦の相手と同等かそれ以下の相手であり、難なく撃破しての二回戦突破だ。

 二回戦の終了から一日のインターバルを挟んで五日目の準決勝、その第一カードはグリオネールとシェリーの試合となる。

 一回戦のシェリーの試合から三大会ぶりの出場という事で未知数だった実力が知れ、準決勝ではこの二人の試合が事実上の決勝だと行き交う人々が噂しているのをよく耳にする。

 俺にとっては失礼極まりない話ではあるが、幾らグリオネールの推薦とは言え、唯一の人族の出場者と言う事もあり、なかなか認めて貰えないのは致し方無い話だろう。

 況してや一、二回戦共にお世辞にも俺にとっては強敵とは言えない相手と言う事もあり、実力の底をまだ見せてはいない。

 基礎的な身体能力で言えば獣人族や一部の魔族の方が高いと言うこの世界における常識とまだ見えない地力の程から、人々からすれば「運良く弱い相手と当たって準決勝まで残った幸運な余所者」と言うのが率直な因子なんだろさ

 俺の相手はと言うと、前回大会の優勝者であるアルム・アルマーニ、鎧鼠人種の獣人でその名の通り、体の大部分が鱗甲と言う鱗状の堅い甲殻で覆われている種族だ。

 俺もシェリーも一回戦より余裕を持って相手を撃破した為、一回戦で受けたダメージもすっかり無く、万全の状態で準決勝を迎えていた。


 時刻は間もなく陽の六刻、準決勝の第一試合目が始まろうとしており、闘技場の外から既に場内の歓声が聞こえてくる程だ。

 暫く前から既に闘技場内外には人でごった返しており、裏口からですら入場に手間取る程にこの準決勝以降は盛り上がるらしい。


 ーーー


 『さぁさぁ皆さん、お待たせしましたっ!これより大闘技大会の準決勝、第一試合を始めまっす!準決勝からは審判はティリス先輩と交代となりまして、私ラヘアが実況を務めさせて頂きまっす!』


 観客席へ入ると実況を行う兎人種の獣人、ラヘアの元気な声が聞こえてくる。そしてゆっくりと東側のゲートが開き始めた。


 『東ゲートから入場してくるのは我らがガルム帝国の皇子、グリオネール・ルス・ガルマリア十二世!一回戦、二回戦と相手を終始圧倒、難なくこの準決勝まで勝ち上がっておりまっす!』


 グリオネールが観衆の黄色い声に両腕を大きく広げ、煌びやかな金の装飾が施された真っ赤なマントを投げ捨てる。

 美しい黄金の毛並みを輝かせながら筋骨隆々の上半身を露わにすると、再び歓声と拍手が降り注ぐ。

 歓声と拍手が止みかけたその時、グリオネールが入場してきた側とは逆の門が開く。

 

 『対する西ゲートよりやってくるのは紅焔の爪術士、シェリス・キャトリニア選手!一回戦こそ鷲人種のヴァーミエリ選手に苦戦しましたが二回戦はあっさりと勝負を決めて皇子の前に立ち塞がりまっす!』


 体格の差は歴然、グリオネールはシェリーよりふた回りも三回りも大きく、傍から見ても大人と子供程の体格差があるのがわかる。

 二人の表情にも明らかな違いがある。シェリーは強敵を前に真剣そのものと言わんばかりの表情でグリオネールを睨んでいるが、グリオネールはと言うと、如何にも楽しみでしょうがないとでも言っているかのように牙を剥き出して凶悪な笑顔を覗かせていた。

 二人の様子を伺い、準備完了と判断したティリスは大きく息を吸い込む。


 『それでは…試合ッ、開始ッ…ひゃあっ!?』


 元気よく大きな声で試合開始を告げた瞬間にティリスが尻餅をつく。

 試合開始の合図と同時に両者は踏み込んでいたのだ。

 二人の間にいたティリスは咄嗟に尻餅をついた事で事なきを得るとすぐに二人から離れていた。

 目にも留まらぬ速さで爪と爪とがぶつかり合い、闘技場内の至る場所で火花を散らせていた。

 六合、七合、離れては踏み込み、攻撃を躱して、受け止めては反撃し、お互いにギリギリの攻防を続けており、攻撃がぶつかる度に観客席がどよめく。

 しかし、やはりパワーで勝るグリオネールがジリジリとシェリーを壁際へと詰め始め、尚も攻防を続ける内に遂に西ゲートの門の前へとシェリーは追いやられていた。


 『さぁお互い互角の攻防を続けておりましたがここはパワーで勝るグリオネール皇子に軍配か、シェリス選手は壁際へと追いやられてしまった!絶体絶命っ!』

 『ハッハ、流石S級冒険者だ!そう簡単にゃ攻撃が届かねェな!だが…もう後がねェぞ、さぁどうする!』


 剥き出しの闘争心を露わにグリオネールが笑うと、シェリーは構えを解いて手首が痺れたとでも言うようにぷらぷらと振り、そして静かに口を歪ませた。


 『やれやれ、獅子人種相手にまともに打ち合うのは流石に無理があるねぇ…、確かに後はないけど来るってんなら受けない訳にもいかないだろう?』

 『覚悟アリってとこか、じゃア遠慮なくいかせて貰うぜェ…!』


 グリオネールは大きな右手から伸びた爪を振りかぶると、そのまま力任せに薙ぎ払う。

 爪を振り抜いたグリオネールには手応えが無かったらしく、先程まで正面に立っていたシェリーを見失い辺りを見回していた。


 『どこ見てんだい皇子サマ、アタシはこっちさ』


 グリオネールは声の聞こえる方に視線を移すと、そこにはシェリーが屈んで死角へと潜り込んでいた。

 グリオネールは大振りになった一瞬の隙を突かれ、懐への侵入を許してしまう。

 大きく爪を振り抜いた所為で未だにシェリーの次の行動に対する備えが間に合っておらず、振り抜いた腕と逆側の腕にシェリーは取り付いていた。


 『ハッ!』

 『ヌオゥッ!?』


 シェリーがグリオネールの腕を引っ張ると、体勢を崩す事に成功する。

 そしてグリオネールがつんのめる勢いを利用してまさに一本背負いの形で地面へと叩きつけた。


 『グォッ…!』

 『な、なんとグリオネール皇子の身体が宙を舞いました!シェリス選手、倍はあろうグリオネール皇子を投げました!これにはグリオネール皇子もまだ理解が追いついていない模様!大の字になったまま目を丸くしております!』


 グリオネールは漸く我に返り、大の字になったまま頭の先に立つシェリーに目を向けた。


 『パワーに関しちゃ皇子サマ、アンタの勝ちなんだろうけどスピードとテクニックはアタシのが上みたいだね。と言ってもこんなの効いた内にゃ入らないだろうけどね。立ちなよ』


 シェリーは左手を腰に当てたまま右手を伸ばして"来い"とばかりに指を振る。するとグリオネールはそのままニヤリと口を歪ませ、上体だけで飛び起きて再び爪を構える。


 『ハッ!面白くなって来やがった!アンタのテクニックとやら、正面からパワーで叩き潰すのみよォ!』


 グリオネールは雄叫びを上げて先程の様に両手の爪を力任せに振り回してシェリーに襲いかかるが彼女は構えもせずに足捌きと上体のコントロールのみでグリオネールの攻撃を悉く躱し続けていた。


 『皇子激昂!シェリス選手の挑発に乗り、両手の爪を振り回していますが全て躱されていまっす!当たればと思うとゾッとするような剛腕を振り回すグリオネール皇子ですが、シェリス選手を捉えられません!』


 鮮やかな体捌きでグリオネールの攻撃を躱しては、僅かな隙を狙って真紅の爪でグリオネールを攻撃するシェリー。

 なかなか捉えられず悶々としているグリオネールは更に攻撃が大振りになり、シェリーに大きな隙を与えてしまう。

 突き出した右手が空を切ると、シェリーの鉤爪が脇腹に突き刺さり、血が流れる。


 『グゥッ…、…ヌゥアッ!』

 『!?』


 脇腹を突かれながらもグリオネールは踏み止まり、あろう事か両腕を広げ全身に力を込めてマッスルポーズを取ると、その肉圧によって突き刺さった鉤爪を跳ね除けた。

 グリオネールの常識はずれの筋肉の鎧に弾かれたシェリーは垂れた冷や汗を拭い驚きを隠せずにいた。


 『オイオイ…なんて馬鹿力だい』

 『フン…どうやらこのままじゃ勝てそうに無いみてェだな。認めるよ、間違い無く今の俺のパワーとスピードじゃ、アンタのスピードとテクニックには届かねェ。いくら強烈な攻撃でも当たらなきゃ意味無ェもんな。…フンッ!』


 グリオネールが全身の筋肉を脈動させると、脇腹の傷から血が一瞬噴き出し、あっという間に血が止まる。恐るべき筋力と回復力だ。

 

 『だがな、まだ俺も本当の力を見せちゃいねェ。まぁその点においちゃアンタも同じ事が言えるんだろうけどな。そうだろ?』


 シェリーがグリオネールの問いに静かに頷く。


 『ハッハ…、流石に外に出て鍛えてきた冒険者だけはある…いい、実にいいねェ』


 グリオネールはニヤりと笑い、首から下げていたネックレスを引きちぎると手の中でそれを握り込んだ。


 『じゃあこっからは正真正銘、全力だ。制御は出来ても加減は出来ん。もし殺しちまっても恨まんでくれよ』


 グリオネールの握った手から眩い光が溢れ出す。

 グリオネールがその手に握り込んだ物は恐らく魔光珠だろう。

 手から発生した眩い光がグリオネールの身体を包み闘技場全体を照らしだす。強い光にシェリーは勿論、観客席にいる全員が手で目を覆い、グリオネールに現れた変化を見ていた。


 『さぁ…ついに来ました!グリオネール皇子の、いや、ガルマリア家の切り札と言っても過言ではありません!皇子が手にした物は王家に伝わる秘宝、"真魔光珠"!我々獣人族の力を十二分に発揮させると言う宝玉です!』


 光に包まれたグリオネールが姿を変え始める。

 たてがみが伸び、鎧の様な筋肉も凝縮されたのか人獣化以前と比べてしなやかな身体つきへと姿を変える。獣人族の武器と言える爪と牙についても更に鋭さを増しており、鋭い光を放っている。

 そして人獣化したことで全身から放たれる威圧感が観客席にまで届いていた。


 『ふうう…、さて…アンタも魔光珠を使わないのかい? 死にたく無けりゃ…使っとくのをおすすめしとくぜ?』


 大きく姿を変えたグリオネールにシェリーは冷や汗を流す。結界の外である観客席にさえ明らかに感じる程の威圧感だ。目前にしているシェリーは尚更その威圧感を間近に感じている。その重圧は相当なものであることは想像に難くない。

 グリオネールの提案にシェリーは小さく頷くと胸元から魔光珠を取り出した。

 魔光珠を握り締め、シェリーも人獣化を果たす。

 シェリーの方は見た目には大きく変わらず、手足の毛がやや長くなり、自前の爪と牙が伸びた程度であり、体格はほぼそのままと言った所だ。

 

 人獣化した二人はいきなり動こうとはしない。

 グリオネールは肩を交互に回しながら首を鳴らしており、シェリーは小さく跳躍を繰り返しながら体の変化を慣らしているといった様子だ。


 『さァて、ボチボチいくかね』


 グリオネールは小さくこぼすと結界の外にまで分かる程の気を周囲に放つ。それは殺気とも闘気とも言える様な気であり、彼の純然たる闘争心がさも滲み出ているかの様で、その気を発するとグリオネールが

構えるよりも早く、シェリーは全身の毛を逆立てて身構えていた。


 『…んじゃァ行くが、一発で終わってくれンなよ?』


 グリオネールがそう呟いた瞬間、彼の足元から爆発でも起きたかの様な砂煙が発生する。

 それと同時にグリオネールがその場所からシェリー目掛けて一直線に飛び込んでいた。

 一瞬消えた様に見えたが、人獣化によって更に強靭な脚力を得た事によって高速の移動が可能になったのだろう。砂煙も恐らく蹴り出した脚によるものだと考えられる。


 『貰ったぜェッ…!』

 『やっば…!』


 凄じい推進力によるグリオネールの加速にシェリーは面食らう。

 シェリーはグリオネールの速度に反応が遅れてしまい、跳躍して攻撃を躱そうとするが、グリオネールの剛腕は無慈悲にもシェリーの腹を容易く貫いていた。

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